銀白色の鱗屑の正体は「速すぎる表皮」―乾癬の本態・病理・治療を一気に整理
第100回医師国家試験 B問題 第11問
国試問題にチャレンジ
乾癬について正しいのはどれか。
- a.糸状菌感染症である。
- b.真皮に好中球が集積する。
- c.表皮角化細胞の分裂能が低下する。
- d.PUVA療法が用いられる。
- e.副腎皮質ステロイド内服が第一選択である。
対話形式の解説
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医学生まとめ
乾癬は感染症ではなく、IL-23/Th17軸を中心とした免疫反応を背景に表皮角化細胞が過剰に増殖する慢性の炎症性角化症で、表皮のターンオーバーが数日程度にまで短縮します。病理では錯角化、顆粒層の減少、表皮突起の規則的な延長、真皮乳頭の血管拡張と真皮のリンパ球浸潤がみられ、好中球は真皮ではなく表皮内(角層内のMunro微小膿瘍、表皮上層のKogoj海綿状膿疱)に集まります。治療はステロイド外用薬・活性型ビタミンD3外用薬が基本で、効果不十分ならPUVA療法やナローバンドUVBなどの光線療法、内服療法、生物学的製剤へと段階的に進めます。ステロイド内服は反跳現象や膿疱化を招くため原則として用いない点は、臨床で特に重要です。病態・病理・治療を一本の線でつなげて理解することが、乾癬の診療と関連する全身合併症への目配りの土台になります。
解答・解説
正解はdです
乾癬(尋常性乾癬)の本態、病理組織、治療を問う問題である。
疾患の概要
乾癬は、表皮角化細胞が過剰に増殖して角化が異常になる慢性の炎症性角化症である。感染症ではなく、他人にうつることもない。 発症には次のような要因が関わる。 ・遺伝的素因 ・環境因子: 外傷(Köbner現象)、感染、薬剤、肥満、喫煙など ・免疫異常: 樹状細胞が産生するIL-23と、Th17細胞が産生するIL-17を中心とした免疫反応(IL-23/Th17軸)が中心的な役割を果たすと考えられている
臨床像
境界明瞭な紅斑の上に銀白色の厚い鱗屑(りんせつ)を伴う局面が、次のような部位に好発する。 ・機械的刺激を受けやすい部位: 肘頭、膝蓋、腰臀部 ・頭部 鱗屑を剥がすと点状出血がみられる(Auspitz現象)。
病理組織
・錯角化(角層に核が残る) ・表皮突起の規則的な延長 ・顆粒層の減少〜消失 ・真皮乳頭の毛細血管の拡張・蛇行 ・真皮上層のリンパ球(T細胞)を主体とした浸潤 ・角層内の好中球の集簇(Munro微小膿瘍)
治療
治療は段階的に強めていく。 ・外用療法が基本: 副腎皮質ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、両者の配合剤 ・広範囲・中等症以上: 光線療法(PUVA療法、ナローバンドUVB療法)、内服療法(レチノイド、シクロスポリン、メトトレキサート、アプレミラストなど) ・既存治療で効果不十分な場合: 生物学的製剤 この知識から、光線療法の一つであるPUVA療法を挙げたdが正しいと判断できる。
選択肢考察
- ×a. 糸状菌感染症である。
乾癬は炎症性角化症であり、病原微生物による感染症ではない。したがって糸状菌(皮膚糸状菌: 白癬菌など)の感染症でもない。 鱗屑を伴う紅斑という見た目は体部白癬と紛らわしいことがあるため、鑑別として鱗屑のKOH直接鏡検で菌要素の有無を確認することは重要である。 なお、溶連菌による扁桃炎などの感染が、滴状乾癬の発症や乾癬の増悪のきっかけとなることはある。しかし、これは誘因であって、乾癬そのものが感染症であるわけではない。
- ×b. 真皮に好中球が集積する。
乾癬で好中球が集まるのは、真皮ではなく表皮内である。次の2つが特徴的な病理所見である。 ・Munro微小膿瘍: 角層内(錯角化層)に好中球が集まったもの ・Kogoj海綿状膿疱: 表皮上層に好中球が集まったもの 一方、真皮では次の所見がみられる。 ・真皮乳頭層の毛細血管の拡張・蛇行 ・その周囲のリンパ球(主にT細胞)を主体とした炎症細胞浸潤 なお、真皮に好中球が密に浸潤する代表的な疾患はSweet病(急性熱性好中球性皮膚症)や壊疽性膿皮症である。乾癬との区別に役立つ。
- ×c. 表皮角化細胞の分裂能が低下する。
乾癬では、表皮角化細胞の分裂能は低下ではなく亢進する。 表皮のターンオーバー時間とは、基底層で生まれた角化細胞が上方へ移動し、角層となって剥がれ落ちるまでの時間である。正常では数週間(おおむね4〜6週間)かかるが、乾癬では数日程度にまで著しく短縮する。 細胞が十分に成熟しないまま角層に達するため、次のような変化が起こる。 ・核が残った角層(錯角化)となる ・顆粒層が減少する ・表皮突起が延長して表皮が肥厚する ・厚い鱗屑が形成される この角化細胞の増殖亢進は、IL-17やIL-22などのサイトカインによって促されると考えられている。
- ○d. PUVA療法が用いられる。
PUVA療法(psoralen + ultraviolet A)は、光感作物質であるソラレン誘導体(メトキサレンなど)を内服・外用・入浴などで投与し、その後に長波長紫外線(UVA)を照射する光化学療法である。 ソラレンはDNAと結合し、UVAによって活性化されると、次のような作用で乾癬の皮疹を改善する。 ・角化細胞の過剰な増殖を抑える ・皮膚に浸潤したT細胞などの免疫細胞の働きを抑える 外用療法で十分な効果が得られない症例や、皮疹が広範囲にわたる症例で用いられる。長期的には、光老化や皮膚癌のリスク、内服時の悪心や眼への影響(照射後の遮光が必要)に注意が必要である。 現在の光線療法では、ソラレンを必要とせず治療効果の高いナローバンドUVB療法(311nm付近の中波長紫外線)が広く用いられている。PUVA療法も乾癬の有効な治療法として用いられる。
- ×e. 副腎皮質ステロイド内服が第一選択である。
乾癬の治療の第一選択は外用療法である。具体的には、副腎皮質ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、あるいは両者の配合剤を用いる。 副腎皮質ステロイドの内服(全身投与)は、乾癬では原則として避けるべき治療である。理由は次のとおりである。 ・一時的に皮疹が改善しても治癒は得られない ・減量・中止時に反跳現象を起こし、投与前より悪化しやすい ・膿疱性乾癬(汎発性膿疱性乾癬)や乾癬性紅皮症を誘発するおそれがある ・長期投与による感染症、糖尿病、骨粗鬆症などの全身性副作用が問題となる 本選択肢は禁忌肢に準じる誤りとして理解しておくべきである。
乾癬の病型
・尋常性乾癬: 最も多い(約9割)。境界明瞭で銀白色の鱗屑を伴う紅斑局面が、肘頭・膝蓋・頭部・腰臀部に好発する ・滴状乾癬: 小児・若年者に多い。溶連菌感染後に小型の皮疹が多発する ・乾癬性関節炎: 末梢関節炎、DIP関節炎、付着部炎、指趾炎、脊椎炎などを伴う。爪病変(点状陥凹、爪甲剥離)を伴う例に多い ・乾癬性紅皮症: 全身の皮膚の大部分が潮紅する ・膿疱性乾癬(汎発型): 発熱とともに無菌性膿疱が多発する。重症例は指定難病である
特徴的な臨床所見
・Auspitz現象: 鱗屑を剥がすと点状出血が生じる ・Köbner現象: 外傷や掻破などの刺激を受けた部位に新たな皮疹が生じる ・蝋片現象: 鱗屑をこすると、蝋を削ったように白く剥がれる ・爪病変: 点状陥凹、油滴状変色、爪甲剥離
病理組織
錯角化、顆粒層の減少、表皮突起の規則的な延長、真皮乳頭の毛細血管の拡張・蛇行、真皮乳頭上部の表皮の菲薄化、真皮上層のリンパ球浸潤、Munro微小膿瘍(角層内の好中球)、Kogoj海綿状膿疱(表皮上層の好中球)
治療の段階
・外用療法: ステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、配合剤 ・光線療法: ナローバンドUVB、PUVA、エキシマライト ・内服療法: エトレチナート(レチノイド。催奇形性があり、中止後も一定期間の避妊が必要)、シクロスポリン、メトトレキサート、アプレミラスト(PDE4阻害薬)など ・生物学的製剤: TNF-α阻害薬、IL-17阻害薬、IL-23阻害薬など。既存の全身療法で効果不十分な中等症〜重症例に用いる ※副腎皮質ステロイドの全身投与は、反跳現象や膿疱化の誘発のおそれがあるため、原則として用いない。
合併症
肥満、メタボリックシンドローム、糖尿病、脂質異常症、心血管疾患などとの関連が知られている。
POINT
・乾癬は感染症ではなく、IL-23/Th17軸が関与する慢性の炎症性角化症である。 ・表皮角化細胞の増殖が亢進し、ターンオーバー時間が著しく短縮する。 ・病理組織では、錯角化、表皮突起の延長、顆粒層の減少、真皮乳頭の血管拡張、真皮のリンパ球浸潤がみられる。好中球は表皮内に集まる(Munro微小膿瘍は角層内、Kogoj海綿状膿疱は表皮上層)。 ・治療の基本はステロイド外用薬と活性型ビタミンD3外用薬である。光線療法(PUVA、ナローバンドUVB)、内服療法、生物学的製剤を段階的に用いる。 ・ステロイドの内服は反跳現象や膿疱化を招くため、原則として用いない。
