小脳に潜む血管のもつれ―小児の失調で「腫瘍」と決めつけないために
第100回医師国家試験 A問題 第46問
国試問題にチャレンジ
6歳の女児。1週前から頭痛と嘔吐とが出現し,歩行時ふらつくようになってきたため来院した。右上下肢に運動失調を認める。頭部単純MRIのT1強調像(A)と右椎骨動脈造影側面像(B)とを示す。 診断はどれか。

- a.髄芽腫
- b.星細胞腫
- c.脳動脈瘤
- d.もやもや病
- e.脳動静脈奇形
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
小脳半球の病変では同側の上下肢に運動失調が現れるため、右上下肢の失調からは右小脳半球の病変が推定されます。単純T1強調像で高信号を示す血腫は亜急性期の出血を示し、その周囲に集まるflow voidと、脳血管造影での異常血管塊(nidus)および静脈の早期描出は脳動静脈奇形に特徴的な所見です。小児の後頭蓋窩病変では髄芽腫(虫部・体幹失調)や毛様細胞性星細胞腫(半球・嚢胞と壁在結節)などの腫瘍を考えがちですが、AVMは小児の脳内出血の重要な原因であり、もやもや病や脳動脈瘤とも画像で区別できます。治療は摘出術、定位放射線治療、塞栓術を組み合わせ、後頭蓋窩出血では脳幹圧迫や水頭症による急変に注意が必要です。症状から部位を、画像から病変の性質を決める二段階の読み方は、神経画像診断全般の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
6歳の女児に、1週間前からの頭痛・嘔吐という頭蓋内圧亢進を思わせる症状と、歩行時のふらつきが出現している。診察では右上下肢の運動失調を認める。小脳半球の障害では同じ側の上下肢に失調が現れる(小脳は同側支配)ため、病変は右小脳半球にあると推定できる。
画像の読み取り
頭部単純MRI T1強調像(A)は後頭蓋窩を含む水平断で、画像の向かって左側(患者の右側)の小脳半球に高信号域がある。T1強調像で高信号を示す出血は、ヘモグロビンがメトヘモグロビンに変化した亜急性期の血腫の特徴であり、1週間前の発症という経過と合う。血腫の周囲には、黒く抜けた点状・線状の構造(flow void)が集まっている。flow voidは速い血流のためにMRIで信号が得られない現象で、異常に拡張した血管が存在することを示す。また側脳室下角が拡大しており、後頭蓋窩の占拠性病変による髄液の通過障害(閉塞性水頭症)が示唆される。 右椎骨動脈造影の側面像(B)では、椎骨脳底動脈系から栄養される後頭蓋窩(小脳)の領域に、細い異常血管がもつれ合った塊(nidus、ナイダス)が描出されている。動脈相で塊が濃く造影され、そこから静脈が早期に描出されるのが動静脈短絡の特徴である。
診断へのプロセス
小児の小脳症状と頭蓋内圧亢進症状をみると、まず髄芽腫や毛様細胞性星細胞腫などの後頭蓋窩腫瘍を考える。しかし本例では、MRIでflow voidを伴う血腫があり、脳血管造影で腫瘍濃染ではなくnidusそのものが描出されている。動脈と静脈が毛細血管を介さず異常血管塊で直接つながっていることを示す所見であり、右小脳半球の脳動静脈奇形(AVM)からの出血と診断できる。小児の脳内出血の原因としてAVMは最も頻度の高いものの一つである。
選択肢考察
- ×a. 髄芽腫
誤り。髄芽腫は小児に多い悪性度の高い胎児性腫瘍で、主に小脳虫部(正中)に生じる。第四脳室を圧迫して閉塞性水頭症を起こし、体幹失調(歩行・座位の不安定)が目立つのが典型である。単純T1強調像では低〜等信号の充実性腫瘤として描出され、腫瘍内に大量の出血を起こさない限り高信号にはならない。また腫瘍の中に集簇したflow voidや、血管造影での異常血管塊(nidus)はみられない。本例は病変が右小脳半球にあり、画像所見も血管奇形に一致する。
- ×b. 星細胞腫
誤り。小児の小脳星細胞腫(多くは毛様細胞性星細胞腫)は小脳半球に好発し、同側の上下肢の失調をきたす点は本例と共通する。しかし画像では、嚢胞とそれに付着する壁在結節という形をとることが多く、単純T1強調像で嚢胞部分は低信号である。脳血管造影で腫瘍の染まり(腫瘍濃染)がはっきり出ることはまれで、本例のようなnidusや早期に描出される導出静脈はみられない。
- ×c. 脳動脈瘤
誤り。脳動脈瘤は動脈壁が袋状にふくらんだもので、血管造影では動脈の分岐部などから突出する単一の嚢状の造影像として描出される。破裂すると主にくも膜下出血をきたす。本例の造影像は動脈瘤の嚢ではなく、多数の異常血管が絡み合った塊(nidus)であり、動脈瘤の像ではない。なお小児の脳動脈瘤自体がまれである。
- ×d. もやもや病
誤り。もやもや病(ウィリス動脈輪閉塞症)は、両側の内頸動脈終末部から前・中大脳動脈の起始部にかけて進行性の狭窄・閉塞が起こり、脳底部に細い側副血行路(もやもや血管)が網状に発達する疾患である。小児では啼泣や過呼吸を誘因とする一過性脳虚血発作で発症することが多い。MRIでは基底核部に側副血行路によるflow voidがみられることがあるが、診断には内頸動脈系の狭窄・閉塞が必要である。本例は椎骨動脈造影で後頭蓋窩にnidusを認めており、もやもや病の所見とは異なる。
- ○e. 脳動静脈奇形
正解。脳動静脈奇形(AVM)は、流入動脈と導出静脈が毛細血管を介さず異常血管の塊(nidus)で直接つながる先天性の血管奇形である。本例では、MRIで右小脳半球に亜急性期血腫(T1強調像で高信号)とその周囲に集まるflow void(拡張した異常血管)を認め、右椎骨動脈造影で後頭蓋窩にnidusが描出されている。右上下肢の運動失調は右小脳半球の出血で説明でき、頭痛・嘔吐は血腫による圧迫や閉塞性水頭症(側脳室下角の拡大)による頭蓋内圧亢進と考えられる。以上から右小脳のAVMからの出血と診断する。後頭蓋窩の出血は脳幹圧迫や水頭症の進行で急変しうるため、速やかな治療方針の決定が必要である。
脳動静脈奇形(AVM)の概要
・胎生期の血管形成の異常により、動脈と静脈が毛細血管床を介さずにnidusで短絡する。流入動脈(feeder)、nidus、導出静脈(drainer)の3要素からなる。 ・20〜40歳代の若年成人に多いが、小児の脳内出血(外傷を除く)の原因としても重要で、小児では出血で発症する例が多い。 ・主な発症様式は、脳内出血(しばしば脳室内出血やくも膜下出血を伴う)、てんかん発作、頭痛である。短絡により周囲の脳から血液が奪われる盗血現象(steal phenomenon)で神経症状を呈することもある。
画像所見
・MRI:nidusや拡張した流入動脈・導出静脈がflow void(T1・T2強調像で黒く抜ける点状・蛇行状の構造)として描出される。 ・CT:出血があれば高吸収域。石灰化を伴うこともある。造影CTで蛇行する血管が描出される。 ・脳血管造影:確定診断と治療方針決定の標準検査。動脈相でnidusが描出され、導出静脈が早期に描出される(early venous filling)。
出血の時期とMRI信号
・T1強調像で血腫が高信号になるのは、ヘモグロビンがメトヘモグロビンに変わる亜急性期(おおよそ発症数日〜数週)である。急性期(デオキシヘモグロビン)のT1強調像では等〜軽度低信号となる。
治療
・外科的摘出、定位放射線治療(ガンマナイフなど)、血管内治療(塞栓術)を単独あるいは組み合わせて行う。手術リスクの評価にはSpetzler-Martin分類(nidusの大きさ、周囲脳の機能的重要性、導出静脈が深部静脈系か否か)が用いられる。 ・小脳出血で意識障害の進行や水頭症、脳幹圧迫がある場合は、血腫除去や脳室ドレナージを緊急で考慮する。
小児の後頭蓋窩病変の鑑別
・髄芽腫:小脳虫部、第四脳室を占拠、体幹失調・水頭症、髄腔内播種。 ・毛様細胞性星細胞腫:小脳半球、嚢胞+壁在結節、予後良好。 ・上衣腫:第四脳室底から発生し、ルシュカ孔・マジャンディ孔から進展。 ・AVM・海綿状血管腫:出血で急性〜亜急性に発症。
POINT
・小脳半球の病変では同側の上下肢に運動失調が出る。 ・MRIのflow voidの集簇と、血管造影で描出される異常血管塊(nidus)・早期静脈描出は脳動静脈奇形を示す。 ・T1強調像で高信号の血腫は亜急性期(メトヘモグロビン)の出血である。 ・小児の脳内出血の原因としてAVMは重要である。 ・もやもや病は内頸動脈終末部の狭窄と側副血行路、脳動脈瘤は単一の嚢状突出で区別する。
