夜明けの激痛は時間との勝負―精巣捻転症を「6時間」で救え
第100回医師国家試験 A問題 第45問
国試問題にチャレンジ
10歳の男児。左陰囊部の痛みを主訴に来院した。早朝に左鼠径部の痛みで目を覚ました。左精巣は腫大し陰囊の上部に位置している。自発痛と圧痛とがともに強い。超音波ドプラ検査では左精索の血流を確認することができない。 治療として適切なのはどれか。
- a.抗菌薬の投与
- b.抗凝固薬の投与
- c.左精巣の冷湿布
- d.左精巣の牽引
- e.緊急手術
対話形式の解説
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ドクターまとめ
思春期前後の男児が睡眠中や早朝に突然の陰嚢痛で発症し、精巣の挙上とドプラ検査での血流消失を認めれば精巣捻転症を考えます。原因は精索のねじれによる機械的な血流遮断であり、抗菌薬や抗凝固薬、冷湿布、牽引ではねじれを解除できず、治療の原則は緊急手術による捻転解除と精巣固定、さらに反対側の予防的固定です。発症から6時間以内の血流再開が精巣温存の目安とされ、捻転が否定できなければ試験的に手術を優先します。血流が増加する急性精巣上体炎や、blue dot signを示す精巣付属器捻転症との鑑別を押さえることが重要です。男児の腹痛・鼠径部痛では陰嚢の診察を怠らないことが、見逃しを防ぐ第一歩になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・10歳男児で、思春期前後という精巣捻転症の好発年齢にあたる。 ・早朝、睡眠中に突然の痛みで目を覚ました。痛みは左鼠径部に感じている(精巣の痛みは鼠径部や下腹部に放散しやすい)。 ・左精巣は腫大し、陰嚢の上部に挙上している。 ・自発痛・圧痛とも強い。 ・超音波ドプラ検査で左精索の血流が確認できない。
診断への道筋
小児〜思春期の急性陰嚢症(陰嚢の急な痛みと腫れ)では、精巣捻転症、精巣付属器捻転症、急性精巣上体炎、鼠径ヘルニア嵌頓などを鑑別する。本例は、睡眠中の突然発症、精巣の挙上(精索がねじれて短縮するため)、強い疼痛に加え、ドプラ検査で精索・精巣への血流が途絶していることから、左精巣捻転症と診断できる。精巣上体炎であれば炎症のため血流はむしろ増加し、発症も比較的緩やかで発熱や膿尿を伴うことが多い。
設問の考え方
精巣捻転症は精索がねじれて精巣への血流が遮断される状態で、放置すれば精巣が虚血により壊死する。発症から6時間以内に血流を回復できれば多くの精巣を救えるが、時間の経過とともに温存率は急速に低下し、24時間を超えると多くが壊死に陥る。したがって、診断がついた時点、あるいは強く疑われる時点で、時間を置かずに緊急手術を行うことが治療の原則である。手術では捻転を解除して血流の回復を確認し、精巣を陰嚢内に固定する。
選択肢考察
- ×a. 抗菌薬の投与
抗菌薬は、細菌感染による急性精巣上体炎や精巣炎の治療である。精巣上体炎は発熱や膿尿を伴うことが多く、ドプラ検査では炎症により血流が増加する。本例は血流が途絶しており、感染症ではなく血流障害(精巣捻転症)が病態の本質である。抗菌薬では捻転は解除されず、投与して経過をみている間に精巣が壊死してしまう。
- ×b. 抗凝固薬の投与
血流の途絶という点から血栓症を連想させる選択肢だが、精巣捻転症の虚血は精索が機械的にねじれて動静脈が圧迫・閉塞されることによるものであり、血栓が原因ではない。抗凝固薬ではねじれは解除されず、血流は回復しない。
- ×c. 左精巣の冷湿布
冷湿布は疼痛や腫脹を和らげる対症療法にすぎず、原因である捻転を解除できない。精巣捻転症は時間との勝負であり、冷湿布で経過をみることは手術を遅らせ、精巣壊死を招く。
- ×d. 左精巣の牽引
精巣が上部に挙上しているのは精索がねじれて短くなった結果であり、下方へ引っ張っても捻転は解除されない。用手的に整復する場合は牽引ではなく、ねじれと逆方向に精巣を回転させる(多くは内側から外側へ、本を開くように回す)手技を行う。ただし用手整復は手術までの一時的な処置であり、成功しても再捻転予防のための手術的固定が必要となる。
- ○e. 緊急手術
精巣捻転症では一刻も早く血流を再開させることが精巣温存の鍵であり、緊急の陰嚢切開による手術が治療の原則である。手術では捻転を解除して精巣の色調や血流の回復を確認し、温存可能と判断すれば精巣を陰嚢壁に固定する(精巣固定術)。壊死していれば精巣摘除を行う。捻転しやすい解剖学的素因(bell clapper変形)は両側性のことが多いため、反対側の精巣も予防的に固定する。診断に迷う場合でも、捻転が否定できなければ試験的に手術を行うのが原則である。
精巣捻転症の概要
・精索が軸方向にねじれ、精巣への血流が途絶する疾患。好発年齢は新生児期と思春期(12〜18歳ごろ)の二峰性で、思春期が最も多い。 ・思春期のものは多くが鞘膜内捻転で、精巣が鞘膜内で水平位に吊られ回転しやすい解剖学的素因(bell clapper変形)が関与する。新生児では鞘膜ごとねじれる鞘膜外捻転が多い。 ・睡眠中や早朝、運動中などに突然発症することが多く、悪心・嘔吐を伴うこともある。痛みが下腹部や鼠径部に放散するため、腹痛として受診することもあり注意が必要である。
身体所見と検査
・精巣の挙上、精巣の横位(水平位) ・精巣挙筋反射(大腿内側をこすると同側の精巣が挙上する反射)の消失 ・Prehn徴候陰性:精巣を持ち上げても痛みが軽減しない(精巣上体炎では軽減することがあるが、鑑別能は高くない) ・超音波ドプラ検査:精巣内・精索の血流低下〜消失。精索のねじれ像(whirlpool sign)がみられることもある。
急性陰嚢症の鑑別
・精巣捻転症:突然発症、精巣挙上、挙筋反射消失、血流消失 → 緊急手術 ・精巣付属器捻転症:精巣上極付近に限局した圧痛、陰嚢皮膚から透見される青い点(blue dot sign)、精巣の血流は保たれる → 多くは保存的治療 ・急性精巣上体炎:比較的緩やかな発症、発熱・膿尿、血流増加 → 抗菌薬 ・鼠径ヘルニア嵌頓:鼠径部から陰嚢の膨隆、腸閉塞症状 → 整復または手術
時間と精巣温存率
発症から6時間以内に解除できれば大部分の精巣が温存できるが、12時間を過ぎると温存率は大きく下がり、24時間を超えると多くは温存困難となる。
POINT
・思春期男子の突然の陰嚢痛(早朝・睡眠中発症)+精巣挙上+ドプラで血流消失 → 精巣捻転症。 ・発症6時間以内の血流再開が精巣温存の目安。診断または強い疑いの時点で緊急手術(捻転解除+精巣固定、反対側も予防的に固定)。 ・疑わしければ検査にこだわらず手術を優先する。 ・精巣上体炎は血流増加・発熱・膿尿で、治療は抗菌薬。精巣付属器捻転症はblue dot signで、血流は保たれる。 ・用手整復は内側から外側へ回転させるが、あくまで一時的処置で、後に手術的固定が必要。
