StudyMed医師国家試験

右心横隔膜角の「水風船」―場所と中身で見抜く心膜囊腫

第100回医師国家試験 A問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第100回 A問題 第17問

75歳の女性。人間ドックでの胸部エックス線写真で異常を指摘され来院した。身長154cm,体重52kg。体温36.1℃。呼吸数12/分。脈拍64/分,整。血圧140/70mmHg。心音と呼吸音とに異常はない。胸部エックス線写真(A)と胸部造影CT(B)とを示す。 最も考えられるのはどれか。

第100回 A問題 第17問の問題画像
  1. a.胸腺腫
  2. b.心膜囊腫
  3. c.悪性リンパ腫
  4. d.サルコイドーシス
  5. e.食道裂孔ヘルニア

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、健診の胸部エックス線写真で偶然見つかった縦隔の腫瘤を鑑別する問題だ。縦隔腫瘤を考えるときの軸は2つ。「縦隔のどの区画にあるか」と「中身が充実性か囊胞性か」。この2点を画像から読み取っていこう。
医学生医学生
症状がまったくなくて、バイタルも落ち着いていますね。悪性のものよりは、ゆっくりした良性の病変を考えたくなります。
ドクタードクター
その感覚は大事だね。ただ、症状がないから良性とは言い切れないので、最後は画像で裏付ける。まず胸部エックス線写真では、右の心陰影に重なって、右下方の心臓と横隔膜が接するあたりに、辺縁のなめらかな腫瘤影が張り出している。場所としてはどこだと思う?
医学生医学生
心臓に接していて下のほうなので、前縦隔の下部か、心臓の後ろなら後縦隔もありえますか。
ドクタードクター
いい迷い方だ。正面像だけでは前後がわからないから、そこでCTが活きる。造影CTでは、心臓の右前方に接して、辺縁平滑で内部が均一な低吸収の腫瘤がある。造影剤で白く染まる心腔や大血管と比べてずっと暗く、水に近い吸収値で造影効果もない。壁は薄く、周囲への浸潤もない。
医学生医学生
造影されなくて水に近いということは、充実性の腫瘍ではなく、液体のたまった囊胞ということですね。
ドクタードクター
その通り。つまり「心臓の右前方、右心横隔膜角にある薄壁の囊胞」。この組み合わせで真っ先に挙がるのが心膜囊腫なんだ。胎生期に心膜腔ができる過程で一部が分離して生じる先天性の囊胞で、中には透明な漿液が入っている。大部分が心横隔膜角に発生し、特に右側に多い。
医学生医学生
先天性なのに75歳で見つかるんですか。
ドクタードクター
多くは無症状のまま経過するから、中年以降に健診のエックス線写真で偶然見つかることが多いんだ。今回の経過はまさに典型だね。では他の選択肢も確認しよう。胸腺腫はどうかな。
医学生医学生
前縦隔腫瘍で一番多いと呼吸器内科の講義で習いました。前縦隔という点では合いそうですが…。
ドクタードクター
前縦隔ではあるけれど、胸腺があるのは大血管の前方、つまり前縦隔の上部だ。CTでは筋肉くらいの吸収値の充実性腫瘤で、造影で増強される。囊胞変性を伴うこともあるけれど、心臓の右前下方で全体が水のように均一、という像とは合わない。重症筋無力症や赤芽球癆といった合併症の記載もないね。
医学生医学生
悪性リンパ腫も前縦隔に出ますよね。CBTの過去問で「4つのT」として覚えました。
ドクタードクター
胸腺腫、奇形腫、甲状腺腫、そしてterrible lymphomaだね。縦隔の悪性リンパ腫は前縦隔から中縦隔に多く、腫れたリンパ節が融合した充実性の腫瘤として見え、造影で染まる。発熱や寝汗、体重減少といったB症状や表在リンパ節腫脹を伴うこともある。囊胞性で全身症状もない今回とは合わないんだ。
医学生医学生
サルコイドーシスなら両側肺門リンパ節腫脹が典型なので、片側の囊胞が一つだけ、というのは説明できないですね。
ドクタードクター
そう。BHLは左右対称の充実性のリンパ節腫大で、肺野の粒状影などを伴うこともある。最後に食道裂孔ヘルニアはどう考える?
医学生医学生
高齢女性に多いので一瞬引っかかりましたが、胃が上がってくるなら心臓の後ろで、中にガスが見えるはずですね。
ドクタードクター
完璧だ。食道裂孔ヘルニアは後縦隔の下部、心臓の後方にあって、エックス線では鏡面像、CTでは胃のガスや内容物、胃壁が見える。今回は心臓の前方で、中身は均一な液体だから違う。
医学生医学生
部位で前上縦隔の胸腺腫と後縦隔の食道裂孔ヘルニアを外して、性状で充実性のリンパ腫やサルコイドーシスを外す、という二段構えですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。発展として、縦隔の囊胞性病変の好発部位もセットで覚えておこう。心膜囊腫は心横隔膜角、気管支原性囊胞は気管分岐部周囲の中縦隔、食道囊胞は後縦隔、胸腺囊胞は前上縦隔だ。心膜囊腫はMRIでT1強調像低信号、T2強調像高信号と、水の信号を示すのも確認に役立つ。
医学生医学生
見つかったら手術で取るんでしょうか。
ドクタードクター
無症状なら経過観察でよいことが多い。大きくなって胸痛や呼吸困難、咳などの圧迫症状が出た場合や、診断がはっきりしない場合には、穿刺吸引や胸腔鏡下切除を検討する。囊胞に見えても壁の肥厚や充実部分があれば別の疾患を考え直す、という慎重さも臨床では忘れないでほしい。

まとめ

縦隔腫瘤は「部位(前・中・後縦隔)」と「性状(充実性か囊胞性か)」の2軸で鑑別を絞り込みます。右心横隔膜角に位置し、CTで水に近い均一な低吸収を示して造影されない薄壁の囊胞が、無症状のまま健診で偶然見つかった場合は心膜囊腫が最も考えられます。胸腺腫は前上縦隔の造影される充実性腫瘤、悪性リンパ腫は前〜中縦隔の充実性腫瘤でB症状を伴うことがあり、サルコイドーシスは両側肺門リンパ節腫脹、食道裂孔ヘルニアは心臓後方のガスを含む病変である点で区別できます。心膜囊腫は無症状なら経過観察が基本で、圧迫症状や診断困難例では穿刺吸引や胸腔鏡下切除を考えます。区画ごとの好発病変と囊胞性病変の分布を押さえておくことは、健診で見つかる縦隔異常影を落ち着いて評価する力につながります。

解答・解説

正解はbです

所見の整理

・75歳女性、無症状で、人間ドックの胸部エックス線写真で偶然に異常を指摘された。 ・バイタルサインは安定しており、発熱もない。心音・呼吸音に異常はない。 ・胸部エックス線写真(A):右の心陰影に重なり、右下方(右心横隔膜角の付近)で右第2弓の外側に張り出す、辺縁が平滑な腫瘤影がある。肺野に浸潤影はなく、両側肺門リンパ節腫脹もはっきりしない。 ・胸部造影CT(B):心臓の右前方に接して、辺縁が平滑で内部が均一な低吸収の腫瘤がある。造影剤で濃く染まる心腔や大血管と比べて明らかに低く、造影効果を示さない液体(水)に近い吸収値であり、囊胞性病変と判断できる。壁は薄く、周囲への浸潤はない。

診断のプロセス

縦隔腫瘤は「どの区画にあるか」と「内部が充実性か囊胞性か」の2点で鑑別を絞り込む。 ・部位:本例の病変は前縦隔の下部で、心臓の右前方、右心横隔膜角に位置する。 ・性状:水に近い均一な低吸収で造影されず、薄い壁をもつ囊胞である。 右心横隔膜角に発生する、無症状で偶然見つかる薄壁の単房性囊胞という組み合わせは、心膜囊腫に典型的である。前縦隔の上部に好発する胸腺腫や、充実性腫瘤・リンパ節腫大を示す悪性リンパ腫、サルコイドーシスとは部位・性状が合わない。食道裂孔ヘルニアは後縦隔下部の病変で、内部に消化管のガスや内容物を含む点も異なる。 以上から、最も考えられるのは心膜囊腫である。

選択肢考察

  1. ×a.  胸腺腫

    胸腺腫は前縦隔腫瘍の中で最も頻度が高いが、胸腺のある前縦隔の上部(大血管の前方)に好発する。CTでは筋肉と同程度の吸収値をもつ充実性の腫瘤で、造影で増強される。囊胞変性を伴うこともあるが、本例のように心臓の右前下方にあって全体が水に近い均一な低吸収を示す像とは合わない。重症筋無力症や赤芽球癆などの合併症の記載もない。

  2. ○b.  心膜囊腫

    心膜囊腫は、胎生期に心膜腔ができる過程で一部が分離して生じる先天性の囊胞で、内部に透明な漿液を含む。大部分が心横隔膜角に発生し、特に右側に多い。多くは無症状で、健診の胸部エックス線写真で心陰影に接する辺縁平滑な腫瘤影として偶然発見される。CTでは水に近い均一な低吸収で造影されない薄壁の囊胞として描出される。本例は部位(右心横隔膜角、心臓の前方に接する)、性状(囊胞性、造影効果なし)、臨床経過(無症状、偶然発見)のいずれもこれに合致する。

  3. ×c.  悪性リンパ腫

    縦隔の悪性リンパ腫は前縦隔や中縦隔に多く、腫大したリンパ節が融合した充実性の腫瘤としてみられる。造影で増強され、発熱・寝汗・体重減少(B症状)や表在リンパ節腫脹を伴うことがある。本例は水に近い吸収値の囊胞性病変で、全身症状もなく、合わない。

  4. ×d.  サルコイドーシス

    サルコイドーシスは原因不明の類上皮細胞肉芽腫が多臓器にできる疾患で、胸部の典型像は両側肺門リンパ節腫脹(BHL)である。腫大したリンパ節は充実性で、肺門部に左右対称にみられ、肺野の粒状影や網状影を伴うこともある。本例のように片側の心横隔膜角に囊胞性の腫瘤が単発する像は、サルコイドーシスでは説明できない。

  5. ×e.  食道裂孔ヘルニア

    食道裂孔ヘルニアは、胃の一部が横隔膜の食道裂孔を通って胸腔内に脱出する病態で、高齢女性に多い。病変は心臓の後方(後縦隔の下部)に位置し、胸部エックス線写真では心陰影に重なる鏡面像(ニボー)、CTでは内部に胃のガスや内容物、胃壁がみられる。本例の病変は心臓の前方にあり、内部は均一な液体の吸収値で、ガスを含まないため合わない。

縦隔の区画と好発病変

・前縦隔:胸腺腫、胸腺癌、胚細胞腫瘍(奇形腫など)、胸腔内甲状腺腫(前上縦隔)、悪性リンパ腫、心膜囊腫(前下縦隔の心横隔膜角) ・中縦隔:悪性リンパ腫、リンパ節転移、サルコイドーシスのリンパ節腫大、気管支原性囊胞 ・後縦隔:神経原性腫瘍(神経鞘腫、神経線維腫など)、食道腫瘍、食道囊胞、食道裂孔ヘルニア 前縦隔腫瘍の鑑別として「4つのT」(thymoma:胸腺腫、teratoma:奇形腫、thyroid:甲状腺腫、terrible lymphoma:悪性リンパ腫)という覚え方がある。

縦隔の囊胞性病変

・心膜囊腫:心横隔膜角(右に多い)。薄壁・単房性。 ・気管支原性囊胞:気管分岐部の周囲(中縦隔)に多い。 ・食道囊胞(食道重複囊胞):食道に接して後縦隔にみられる。 ・胸腺囊胞:前縦隔の上部にみられる。

心膜囊腫

・先天性の良性病変で、内容は透明な漿液である。多くは中年以降に偶然発見される。 ・約70%が右心横隔膜角、約20%が左心横隔膜角に発生するとされる。 ・胸部エックス線写真では心横隔膜角に辺縁平滑な半円形の腫瘤影を示す。CTでは水に近い吸収値(0〜20 HU程度)で造影されず、MRIではT1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示す。 ・無症状であれば経過観察でよい。大きくなって胸痛・呼吸困難・咳嗽など周囲の圧迫症状を起こした場合や、診断が確定しない場合は、穿刺吸引や胸腔鏡下切除を考える。

POINT

・縦隔腫瘤は「部位(前・中・後縦隔)」と「性状(充実性か囊胞性か)」で鑑別する。 ・心横隔膜角(特に右)の、水に近い均一な低吸収で薄い壁の囊胞は心膜囊腫を考える。 ・心膜囊腫は無症状で、健診の胸部エックス線写真で偶然発見されることが多い。 ・胸腺腫は前上縦隔の充実性腫瘤、悪性リンパ腫は前〜中縦隔の充実性腫瘤、サルコイドーシスは両側肺門リンパ節腫脹(BHL)、食道裂孔ヘルニアは心臓の後方でガスを含む。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。