2回の帝王切開と前置胎盤―「剥がれない胎盤」を出産前に見抜く
第99回医師国家試験 H問題 第3問
国試問題にチャレンジ
30歳の2回経産婦。分娩は2回とも児頭骨盤不均衡〈CPD〉のため帝王切開を受けた。妊娠30週3日で少量の性器出血があり,近医から紹介され入院した。内診所見では子宮口未開大。超音波断層検査では胎児の推定体重は1,500gである。入院直後の胎児心拍数陣痛図(A)とMRI(B)とを示す。 考えられるのはどれか。

- a.切迫早産
- b.常位胎盤早期剝離
- c.癒着胎盤
- d.胎児発育不全
- e.胎児低酸素血症
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
妊娠中期〜後期の腹痛を伴わない少量の性器出血は前置胎盤の警告出血を考え、画像で胎盤が内子宮口を覆っていれば診断できます。前置胎盤と既往帝王切開はいずれも癒着胎盤の最大の危険因子で、帝王切開瘢痕部では脱落膜が形成されにくく絨毛が筋層へ入り込むため、両者が重なる場合は癒着胎盤を強く疑います。陣痛や子宮口開大がなければ切迫早産、腹痛・板状硬・胎児機能不全がなければ常位胎盤早期剝離は考えにくく、胎児心拍数陣痛図が良好で推定体重が週数相当なら胎児低酸素血症や胎児発育不全も否定的です。癒着胎盤は胎盤剥離時の大量出血から帝王切開時子宮摘出を要することが多く、輸血や多科連携を含む術前の準備が母体の救命に直結します。また前置胎盤が疑われるときは内診指診を避けることも臨床の基本として押さえておきましょう。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・30歳の2回経産婦で、過去2回の分娩はいずれも帝王切開(既往帝王切開2回)。子宮下部に2か所の手術瘢痕をもつことになる。 ・妊娠30週3日に少量の性器出血があったが、腹痛や子宮の張りの訴えはない。 ・内診で子宮口は開大していない。 ・推定児体重1,500gは妊娠30週としてほぼ標準的であり、胎児の発育に問題はない。
画像所見
・胎児心拍数陣痛図(A): 基線は150bpm前後で正常範囲、基線細変動も保たれ、一過性頻脈がみられ、一過性徐脈はない。子宮収縮曲線はほぼ平坦で、規則的な陣痛はない。胎児の状態は良好(reassuring)と判断できる。 ・MRI(B、骨盤部の矢状断像): 胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口を覆うように位置しており、前置胎盤の所見である。
診断の考え方
妊娠中期〜後期に腹痛を伴わない少量の出血(警告出血)があり、画像で胎盤が内子宮口を覆っていることから、まず前置胎盤と診断できる。そのうえで本例が既往帝王切開2回であることが重要である。帝王切開の瘢痕がある子宮下部では、子宮内膜の脱落膜(胎盤と筋層の間に形成される層)が十分に形成されず、そこに付着した胎盤の絨毛が筋層へ直接入り込みやすい。その結果、分娩後も胎盤が剥がれない癒着胎盤となる。前置胎盤と既往帝王切開はいずれも癒着胎盤の最大の危険因子であり、両者が重なる本例では癒着胎盤を強く疑う必要がある。 選択肢には前置胎盤そのものがないため、本例の背景(前置胎盤+既往帝王切開2回)と画像から考えられる病態として癒着胎盤を選ぶ。一方、陣痛・子宮口開大がない、胎児心拍数に異常がない、推定体重が週数相当である、という所見から他の選択肢は否定できる。
選択肢考察
- ×a. 切迫早産
考えにくい。切迫早産は妊娠22週以降37週未満で、規則的な子宮収縮があり、子宮口の開大や頸管の短縮・展退がみられて早産の危険が高い状態をいう。本例では胎児心拍数陣痛図の子宮収縮曲線がほぼ平坦で規則的な陣痛がなく、内診でも子宮口は開大していない。性器出血の原因は前置胎盤による警告出血で説明できる。
- ×b. 常位胎盤早期剝離
考えにくい。常位胎盤早期剝離は、正常な位置(子宮体部)に付着した胎盤が胎児娩出前に剥がれるもので、突然の腹痛、子宮の圧痛、板状硬と呼ばれる子宮の硬直、外出血量に見合わない母体のショック症状などを呈する。胎盤からの酸素供給が減るため、胎児心拍数陣痛図では遅発一過性徐脈や基線細変動の減少などの胎児機能不全の所見が現れ、さざ波様の頻回な子宮収縮もみられる。本例は腹痛がなく、胎児心拍数も正常で、MRIでは胎盤が子宮下部にある前置胎盤であり、合致しない。
- ○c. 癒着胎盤
最も考えられる。癒着胎盤は、脱落膜の形成不全により胎盤絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入し、分娩後に胎盤が自然に剥がれなくなる状態である。最大の危険因子は前置胎盤と既往帝王切開で、前置胎盤の場合は既往帝王切開の回数が増えるほど癒着胎盤の頻度が高くなり、2回以上では数十%に達するとされる。本例は画像で前置胎盤を認め、既往帝王切開が2回あるため、癒着胎盤(前置癒着胎盤)を強く疑う。MRIや超音波で胎盤と筋層の境界の不明瞭化、筋層の菲薄化、胎盤内の異常な血管などがあれば疑いが強まるが、最終的な確定は分娩時の所見や病理診断による。癒着胎盤は胎盤を剥がそうとすると大量出血を起こすため、術前の診断と、輸血・子宮摘出を見込んだ準備が重要である。
- ×d. 胎児発育不全
考えにくい。妊娠30週の胎児体重の平均はおおむね1,500g前後であり、推定体重1,500gは週数相当である。胎児発育不全(FGR)とはいえない。
- ×e. 胎児低酸素血症
考えにくい。胎児が低酸素状態にあると、胎児心拍数陣痛図に基線細変動の減少・消失、遅発一過性徐脈、高度の変動一過性徐脈、遷延一過性徐脈、サイナソイダルパターン(重症の胎児貧血などでみられる正弦波様の波形)などが現れる。本例は基線が正常範囲で基線細変動が保たれ、一過性頻脈があり一過性徐脈はないため、胎児の状態は良好(reassuring)であり、低酸素血症は否定的である。
前置胎盤
・定義: 胎盤が子宮下部に付着し、内子宮口の一部または全部を覆う状態。覆う程度により全前置胎盤、部分前置胎盤、辺縁前置胎盤に分けられる。内子宮口を覆わないが近くにあるものは低置胎盤と呼ぶ。 ・危険因子: 既往帝王切開、子宮手術歴(流産手術など)、多産、高年妊娠、喫煙、多胎など。 ・症状: 妊娠中期〜後期に、腹痛を伴わない性器出血(警告出血)を起こす。子宮下部が伸展する際に胎盤が一部剥がれるためである。 ・診断: 経腟超音波検査が基本で、MRIは癒着胎盤の評価などに用いる。前置胎盤が疑われる場合、内診指診は大出血を誘発するおそれがあるため避ける。 ・分娩: 帝王切開による。
癒着胎盤
・機序: 脱落膜の形成不全により、胎盤絨毛が子宮筋層に直接付着・侵入する。 ・侵入の深さによる分類: 楔入胎盤(筋層表面に付着)、嵌入胎盤(筋層内に侵入)、穿通胎盤(筋層を貫いて漿膜や膀胱など周囲臓器に及ぶ)。現在はまとめて癒着胎盤スペクトラムとも呼ばれる。 ・危険因子: 前置胎盤、既往帝王切開(特に両者の合併)、子宮内膜掻爬などの子宮手術歴、高年妊娠、多産。 ・画像所見: 胎盤後面の低エコー域(クリアスペース)の消失、胎盤内の多数の血流腔(胎盤ラクナ)、筋層の菲薄化、膀胱壁との境界の不整、MRIのT2強調像での胎盤内の低信号帯などがあるが、確定診断は分娩時所見・病理による。 ・管理: 胎盤剥離を試みると大量出血を起こすため、多くは帝王切開に続けて子宮摘出を行う(帝王切開時子宮摘出術)。輸血の準備、泌尿器科との連携、血管内バルーンによる血流遮断などの対策を行う。
妊娠後半の性器出血の鑑別
・前置胎盤: 無痛性の出血、子宮は軟らかい。 ・常位胎盤早期剝離: 腹痛、子宮の板状硬、胎児機能不全、DIC(播種性血管内凝固)の合併。 ・切迫早産: 規則的な子宮収縮、子宮口開大、少量の出血(産徴)。
POINT
・腹痛を伴わない妊娠中期〜後期の性器出血(警告出血)は前置胎盤を考える。 ・前置胎盤+既往帝王切開は癒着胎盤の最大の危険因子であり、帝王切開の回数が多いほど頻度が上がる。 ・癒着胎盤は大量出血の原因となり、帝王切開時子宮摘出を要することが多い。術前の予測と準備が重要。 ・前置胎盤が疑われるときは内診指診を避ける。 ・常位胎盤早期剝離は腹痛・板状硬・胎児機能不全が特徴で、前置胎盤とは対照的である。
