視野に光る歯車、そして拍動する痛み―閃輝暗点から片頭痛治療を選ぶ
第99回医師国家試験 H問題 第5問
国試問題にチャレンジ
32歳の女性。20歳ころから年に数回,側頭部に拍動性頭痛があった。今朝,突然左半分の視野にキラキラ光る歯車様のものが出現して15分持続し消失した。その後10分程して側頭部を中心に拍動性の激しい頭痛が出現し来院した。身体所見では神経学的に異常は認めない。頭部単純CTに異常はない。 適切な治療薬はどれか。
- a.抗けいれん薬
- b.筋弛緩薬
- c.抗血小板薬
- d.トリプタン薬
- e.副腎皮質ステロイド薬
対話形式の解説
ドクター
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ドクターまとめ
片側視野にキラキラ・ギザギザした光が現れて5〜60分で消え、その後に拍動性頭痛が続けば前兆のある片頭痛と診断でき、若年からの反復歴や神経所見・CTの正常は二次性頭痛を否定的にします。中等度〜重度の片頭痛発作の急性期治療はトリプタン(5-HT1B/1D受容体作動薬)で、血管収縮と三叉神経からのCGRP放出抑制により効果を発揮し、頭痛が出てから早めに使うのが原則です。虚血性心疾患・脳血管障害・コントロール不良の高血圧では禁忌であり、軽症ならアセトアミノフェンやNSAIDsも選択肢になります。バルプロ酸などの予防薬は発作が多い場合に用い、筋弛緩薬は緊張型頭痛、ステロイドは巨細胞性動脈炎やTolosa-Hunt症候群、カルバマゼピンは三叉神経痛と対応させて整理しましょう。急性期治療と予防療法を区別し、薬剤の使用過多による頭痛にも配慮する視点は、日常診療で頭痛患者を診る際の土台となります。
解答・解説
正解はdです
所見の整理
・32歳女性。20歳ころから年に数回、側頭部の拍動性頭痛を繰り返している(若年発症の反復性頭痛)。 ・今朝、左半分の視野に「キラキラ光る歯車様のもの」が出現し、15分続いて消えた。これは閃輝暗点(せんきあんてん)と呼ばれる典型的な視覚性前兆である。 ・前兆が消えて約10分後に、側頭部中心の激しい拍動性頭痛が始まった。 ・神経学的異常なし、頭部単純CTも正常。
診断へのプロセス
国際頭痛分類第3版(ICHD-3)では、前兆のある片頭痛の前兆は「5分以上かけて徐々に進展し、各症状は5〜60分持続し、完全に可逆的」で、前兆の最中または60分以内に頭痛が続くことが特徴とされる。本例は15分で消失する片側視野の陽性視覚症状(光・ギザギザ模様)の後に拍動性頭痛が出現しており、この基準によく合う。若年からの反復歴、神経所見やCTに異常がないことも、脳出血・くも膜下出血・脳腫瘍などの二次性頭痛を否定的にする。以上から「前兆のある片頭痛(古典的片頭痛)」の発作と診断できる。
設問の考え方
問われているのは「今起きている激しい片頭痛発作」に対する治療薬である。片頭痛の治療は、発作時に使う急性期治療薬と、発作が多い患者に毎日使う予防薬に分けて考える。中等度〜重度の発作の急性期治療の中心はトリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)である。本例は発作頻度が年に数回と少ないため、予防薬の適応にはならない。
選択肢考察
- ×a. 抗けいれん薬
抗けいれん薬(抗てんかん薬)のうちバルプロ酸は、片頭痛の「予防薬」として用いられる(トピラマートも予防効果が示されている)。しかし予防薬は発作頻度が月に2回以上ある、あるいは生活への支障が大きい場合などに考慮するもので、年に数回しか発作のない本例では適応とならない。また、今起きている発作を頓挫させる効果はない。なお、抗けいれん薬のカルバマゼピンは三叉神経痛の第一選択薬として知られる。
- ×b. 筋弛緩薬
筋弛緩薬(チザニジンなど)は、頭頸部の筋緊張が関与するとされる緊張型頭痛で補助的に用いられることがある。緊張型頭痛は両側性・圧迫感や締めつけ感・軽度〜中等度で、体を動かしても悪化せず前兆もない。本例は前兆を伴う片側性の拍動性頭痛であり、緊張型頭痛の像とは異なる。片頭痛は日常動作で増悪する点も鑑別に役立つ。
- ×c. 抗血小板薬
抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)は、非心原性脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の再発予防に用いられる。閃輝暗点は一過性の視覚症状という点でTIAと紛らわしいが、TIAの視覚症状は視野が欠ける陰性症状が主体で、光やギザギザ模様が見えて広がっていく陽性症状とは異なる。本例は若年で、前兆後に典型的な拍動性頭痛が続いており、脳虚血を考える根拠はない。なお、アスピリンを鎮痛目的で高用量使うことは軽症の片頭痛発作に対して行われるが、これは抗血小板作用を狙った使い方ではない。
- ○d. トリプタン薬
トリプタン(スマトリプタン、ゾルミトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ナラトリプタンなど)はセロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬で、片頭痛発作に特異的な急性期治療薬である。5-HT1B受容体刺激で発作中に拡張した硬膜・頭蓋内の血管を収縮させ、5-HT1D受容体刺激で三叉神経終末からのCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)などの神経ペプチドの放出を抑えて神経原性炎症を鎮め、さらに三叉神経系の痛みの伝達を抑える。中等度〜重度の発作に有効で、頭痛が始まってから早めに使うほど効果が高い。前兆の最中に使っても効果が乏しいとされるため、頭痛が出てから使う。本例は前兆に続いて激しい頭痛が起きた段階であり、トリプタンの適応である。血管収縮作用があるため、虚血性心疾患、脳血管障害、コントロール不良の高血圧のある患者には禁忌である点も押さえておく。
- ×e. 副腎皮質ステロイド薬
副腎皮質ステロイド薬は、Tolosa-Hunt症候群(有痛性眼筋麻痺:海綿静脈洞付近の肉芽腫性炎症により眼窩周囲痛と眼球運動障害をきたす)や巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)など、炎症が原因の頭痛で用いられる。通常の片頭痛発作の標準的な治療薬ではない。72時間以上続く片頭痛発作(片頭痛発作重積)などで補助的に使われることはあるが、本例のような通常の発作での第一選択にはならない。
片頭痛の概要
・若年〜中年の女性に多く、家族歴を持つことが多い。 ・典型例は片側性で拍動性、中等度〜重度の頭痛で、日常動作(階段昇降など)で悪化する。悪心・嘔吐、光過敏、音過敏を伴う。持続は4〜72時間(未治療または治療が無効の場合)。 ・前兆のない片頭痛と前兆のある片頭痛に分類される。前兆は視覚性が最も多く、閃輝暗点(ジグザグの光る模様が視野の中心付近から周辺へ広がっていく)が典型的である。感覚性前兆(片側のしびれ)や言語性前兆もある。 ・前兆の機序としては、大脳皮質(視覚前兆では後頭葉)を広がっていく皮質拡延性抑制(cortical spreading depression)が考えられている。頭痛そのものには三叉神経血管系の活性化と、CGRPなどによる血管拡張・神経原性炎症が関わる。 ・誘因:ストレスやストレスからの解放(週末の頭痛)、睡眠不足や寝すぎ、月経、空腹、アルコール(特に赤ワイン)、人混み・光・においなど。
急性期治療
・軽度〜中等度:アセトアミノフェン、NSAIDs(アスピリン、イブプロフェン、ナプロキセンなど)。 ・中等度〜重度、またはNSAIDsが効かない場合:トリプタン(経口、点鼻、皮下注など)。 ・悪心・嘔吐にはメトクロプラミド、ドンペリドンなどの制吐薬を併用する。 ・新しい薬として、5-HT1F受容体作動薬のラスミジタン(血管収縮作用が乏しい)が使えるようになった。 ・かつてはエルゴタミン製剤も使われたが、現在はトリプタンが中心である。 ・急性期治療薬を月に10日以上(NSAIDs単独では15日以上)使い続けると、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)になることがあり注意が必要である。
予防療法
・発作が月に2回以上、または月に6日以上ある場合や、急性期治療だけでは生活に支障が残る場合に考慮する。 ・主な薬:バルプロ酸、トピラマート(抗てんかん薬)、プロプラノロール(β遮断薬)、ロメリジン(Ca拮抗薬)、アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)など。 ・近年、抗CGRP抗体(ガルカネズマブ、フレマネズマブ)や抗CGRP受容体抗体(エレヌマブ)などの注射製剤も予防に用いられる。 ・バルプロ酸は催奇形性があるため、妊娠の可能性がある女性では慎重に扱う。
一次性頭痛の比較
・片頭痛:片側性・拍動性、動作で悪化、悪心・光過敏・音過敏、前兆を伴うことがある。 ・緊張型頭痛:両側性・締めつけ感、軽度〜中等度、動作で悪化しない。 ・群発頭痛:20〜40歳代の男性に多い。片側の眼の奥のえぐられるような激痛が15〜180分続き、同じ側の流涙・結膜充血・鼻汁・鼻閉・縮瞳などの自律神経症状を伴う。発作時には純酸素吸入やスマトリプタン皮下注を用いる。
POINT
・閃輝暗点(片側視野のキラキラ・ギザギザした光)が5〜60分で消え、その後に拍動性頭痛が続けば、前兆のある片頭痛である。 ・中等度〜重度の片頭痛発作の急性期治療はトリプタン(5-HT1B/1D受容体作動薬)。軽症ならアセトアミノフェンやNSAIDs。 ・トリプタンは頭痛が出てから早めに使う。虚血性心疾患・脳血管障害・コントロール不良の高血圧には禁忌。 ・予防薬(バルプロ酸、プロプラノロール、ロメリジン、抗CGRP抗体など)は発作が多い場合に使う。年数回の発作では不要。 ・カルバマゼピン=三叉神経痛、ステロイド=Tolosa-Hunt症候群・巨細胞性動脈炎、純酸素吸入=群発頭痛、と対応させて覚える。
