暗い部屋でじっと耐える頭痛―「動くとつらい」が語る片頭痛の素顔
第120回医師国家試験 D問題 第68問
国試問題にチャレンジ
31歳の女性。頭痛を主訴に来院した。高校生の時から時折,光過敏を伴う拍動性頭痛を呈するようになった。頭痛の性状は変わらないものの徐々に頭痛の程度が強まり,出産後にはさらに頻度が増えたため来院した。最近は週に2~3回の頻度で,前兆はない。一回の頭痛が生じると夜寝るまでは続くが,翌日まで続くことはない。頭痛は日常生活に支障が出るほどに強く,頭痛時は動いているとつらいのでなるべく暗い場所でじっとして過ごしている。頭痛が生じている間は,食欲がなく,嘔吐することもある。既往歴に特記すべきことはない。受診時は,無症状である。頰部痛や膿性鼻汁を認めず,神経診察に異常を認めない。 考えられる疾患はどれか。
- a.片頭痛
- b.群発頭痛
- c.緊張型頭痛
- d.くも膜下出血
- e.慢性副鼻腔炎
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
拍動性で中等度以上の頭痛が数時間~半日続き、体を動かすと悪化して暗所での安静を好み、悪心・嘔吐や光過敏を伴う場合は、前兆のない片頭痛を考えます。長年同じ性状の発作をくり返し、間欠期に症状も神経学的異常もなければ、くも膜下出血や副鼻腔炎などの二次性頭痛より一次性頭痛が疑われます。緊張型頭痛は両側性の締め付け感で日常動作で悪化せず、群発頭痛は男性に多い眼窩部の激痛に自律神経症状を伴い、発作中に動き回るという違いが鑑別の手がかりです。片頭痛はエストロゲン変動の影響を受けやすく、急性期にはNSAIDsやトリプタン、発作が多ければ予防療法を用い、頓挫薬の使いすぎによる頭痛にも注意します。頻度の高い頭痛を正しく分類できることは、患者の生活の質を守り、危険な頭痛を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はaです
所見の整理
・31歳女性。高校生の頃から10年以上にわたり、発作的に頭痛を繰り返している(若年発症・反復性)。 ・頭痛は拍動性で、光過敏(光をまぶしく不快に感じる)を伴う。 ・前兆(閃輝暗点などの視覚症状)はない。 ・1回の発作は夜眠るまで続き、翌日には持ち越さない(数時間~半日程度の持続)。 ・日常生活に支障が出る強さで、体を動かすと悪化するため、暗い所でじっとしている(中等度~重度、日常動作で増悪)。 ・発作中は食欲がなく、嘔吐することもある(悪心・嘔吐の随伴)。 ・出産後に頻度が増え、最近は週2~3回。 ・発作間欠期は無症状で、神経診察に異常がない。頰部痛・膿性鼻汁はない。
診断へのプロセス
頭痛診療ではまず、命に関わる二次性頭痛(くも膜下出血、髄膜炎、脳腫瘍など)を除外する。本例は10年以上同じ性状の頭痛を繰り返し、間欠期には症状も神経学的異常もなく、副鼻腔炎を示す所見もないため、二次性頭痛は考えにくく、一次性頭痛を考える。 一次性頭痛の主な3つ(片頭痛・緊張型頭痛・群発頭痛)を比べると、本例は「拍動性」「中等度以上」「日常動作で悪化し安静を好む」「悪心・嘔吐」「光過敏」という片頭痛の特徴をそろえている。国際頭痛分類第3版(ICHD-3)の「前兆のない片頭痛」の基準(4~72時間続く発作で、片側性・拍動性・中等度以上・日常動作による増悪のうち2項目以上、さらに悪心・嘔吐または光過敏と音過敏の両方のうち1項目以上を満たし、5回以上繰り返す)にも当てはまる。片側性かどうかは記載がないが、基準上は必須ではない。 以上から前兆のない片頭痛と診断できる。出産後の頻度増加も、女性ホルモンの変動や睡眠不足など産後の生活変化が誘因となりうることと矛盾しない。
選択肢考察
- ○a. 片頭痛
拍動性で日常生活に支障をきたす強さの頭痛が数時間続き、体動で悪化するため暗所で安静にしている。悪心・嘔吐や光過敏を伴い、若年から10年以上繰り返している。前兆はなく、ICHD-3の前兆のない片頭痛の診断基準(持続4~72時間、痛みの性状4項目のうち2項目以上、随伴症状1項目以上、発作5回以上)を満たす。発作間欠期に異常所見がない点も一次性頭痛として矛盾しない。
- ×b. 群発頭痛
群発頭痛は若年~中年の男性に多い。一側の眼窩部から側頭部に、えぐられるような激しい痛みが15~180分続き、同じ側に流涙・結膜充血・鼻汁・鼻閉・眼瞼下垂などの自律神経症状を伴う。発作は1~2か月程度の群発期に集中し、1日に何度も起こりやすい。発作中は落ち着かずに歩き回ることが多い。本例は女性で、発作が夜まで続き、自律神経症状の記載もなく、暗所でじっとしているので合わない。
- ×c. 緊張型頭痛
緊張型頭痛は両側性で、締め付けられる・圧迫されるような非拍動性の痛みである。強さは軽度~中等度で、歩行や階段昇降などの日常動作では悪化しない。反復性のものでは悪心・嘔吐を伴わず、光過敏と音過敏も伴うとしてもどちらか一方だけである。本例は拍動性で、体動で悪化し、嘔吐を伴うので該当しない。
- ×d. くも膜下出血
くも膜下出血は、主に脳動脈瘤の破裂による二次性頭痛である。突然発症し、「今までで最悪」と表現される激しい頭痛が典型で、意識障害や項部硬直を伴うこともある。10年以上同じ性状の頭痛を繰り返し、間欠期に無症状という本例の経過とは合わない。ただし、くも膜下出血でも嘔吐や光過敏が起こりうるため、片頭痛の既往がある人で「いつもと違う」突然の頭痛が出た場合は、くも膜下出血を見逃さないよう注意が必要である。
- ×e. 慢性副鼻腔炎
副鼻腔炎による頭痛は、前額部・頰部・眼の周りなど顔面の痛みや重い感じとして現れることが多く、鼻閉や膿性鼻汁、後鼻漏を伴う。本例には頰部痛も膿性鼻汁もなく、頭痛は発作性で間欠期は無症状であるため考えにくい。
一次性頭痛3疾患の比較
・片頭痛:女性に多い(男性の約3~4倍)。片側性が多いが両側性もある。拍動性、中等度~重度。持続4~72時間。日常動作で悪化し、暗く静かな所での安静を好む。悪心・嘔吐、光過敏・音過敏を伴う。約2~3割に前兆(閃輝暗点など。通常5~60分で消え、その後に頭痛が始まる)がある。 ・緊張型頭痛:最も頻度が高い。両側性、締め付け感・圧迫感、軽度~中等度。日常動作で悪化しない。反復性では悪心・嘔吐を伴わない。 ・群発頭痛:男性に多い。一側の眼窩部周囲の激痛が15~180分続く。同側の自律神経症状(流涙、結膜充血、鼻汁、縮瞳・眼瞼下垂など)を伴う。群発期に毎日のように起こり、夜間に多い。飲酒が誘因となる。発作中は落ち着かず動き回る。
片頭痛の誘因
月経、睡眠不足や寝すぎ、ストレスとその解放(休日に起こる頭痛)、空腹、天候の変化、人混み・光・音・におい、アルコール(特に赤ワイン)などがある。女性では月経周期に伴うエストロゲンの低下と関係が深く、妊娠中(特に中期以降)は軽くなることが多い。産後はエストロゲンが急に下がり、授乳や育児による睡眠不足も加わるため、再発・悪化しやすい。
片頭痛の治療
・急性期治療(頓挫薬):軽症ではアセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、中等度以上ではトリプタン(セロトニン5-HT1B/1D受容体作動薬)を使う。トリプタンは血管を収縮させるため、虚血性心疾患・脳血管障害・コントロール不良の高血圧などがある人や、片麻痺性片頭痛などでは使用できない。血管収縮作用のない5-HT1F受容体作動薬(ラスミジタン)もある。制吐薬(メトクロプラミドなど)を併用することもある。 ・予防療法:発作が月に数回以上ある、または急性期治療だけでは日常生活の支障が大きい場合に検討する。ロメリジン(Ca拮抗薬)、プロプラノロール(β遮断薬)、バルプロ酸(抗てんかん薬)、アミトリプチリン(三環系抗うつ薬)などが用いられる。近年は、片頭痛の発症に関わるCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やその受容体に対するモノクローナル抗体(皮下注射)が登場し、従来の予防薬が効かない例にも効果がある。 ・注意:頓挫薬を月に10~15日以上使い続けると、薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛)を起こすことがある。本例のように週2~3回の頻度であれば、予防療法を検討する段階である。
二次性頭痛を疑う危険信号(red flags)
突然の発症、今までで最悪の痛み、いつもと違う性状、だんだん悪化する経過、50歳以降に初めて起こった頭痛、発熱・項部硬直、神経脱落症状、意識障害、がんや免疫不全の既往などがあれば、画像検査や髄液検査などで二次性頭痛を調べる。
POINT
・拍動性、中等度以上、日常動作で悪化(暗所での安静を好む)、悪心・嘔吐、光過敏・音過敏、持続4~72時間 → 片頭痛。 ・片側性・拍動性は片頭痛の診断に必須ではない(4項目のうち2項目以上でよい)。 ・前兆のない片頭痛が最も多い。前兆は閃輝暗点が代表で、5~60分続く。 ・群発頭痛は男性、眼窩部の激痛、15~180分、自律神経症状、落ち着かず動き回る。 ・緊張型頭痛は両側性の締め付け感で、日常動作で悪化せず、悪心・嘔吐を伴わない。 ・長年同じ性状の頭痛が続き、間欠期の神経診察が正常であれば、まず一次性頭痛を考える。
