開腹歴のない高齢者の腸閉塞―拡張した大腸が指し示す「次の一手」
第99回医師国家試験 H問題 第13問
国試問題にチャレンジ
66歳の男性。朝から腹痛が出現したため来院した。開腹歴はない。2日前から排便・排ガスがない。来院時の腹部エックス線単純写真を示す。 次に行うべき検査はどれか。

- a.胃内視鏡
- b.小腸造影
- c.腹部大動脈造影
- d.腰椎MRI
- e.大腸内視鏡
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
排便・排ガスの停止と腹痛に、腸管の拡張と鏡面像がそろえば腸閉塞と判断でき、拡張腸管が腹部辺縁に枠状に分布しハウストラを伴えば大腸の閉塞を考えます。開腹歴がなく癒着性が考えにくい高齢者の大腸閉塞では、まず大腸癌を疑い、閉塞部位を直接観察して生検できる大腸内視鏡で精査します。閉塞下では経口腸管洗浄剤は穿孔の危険があるため用いず、浣腸程度の前処置と最小限の送気で行い、バリウムの経口投与も避けます。内視鏡下のイレウス管や大腸ステントによる減圧は、待機的な根治手術へつなぐ橋渡しにもなります。画像で閉塞部位を推定し、年齢や開腹歴などの背景から原因を絞り込む考え方は、腹痛診療の基本です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・66歳の男性、朝からの腹痛 ・2日前から排便・排ガスが止まっている ・開腹手術の既往がない ・腹部エックス線単純写真:上行結腸・横行結腸・下行結腸といった大腸が拡張し、腸管内のガスと液体の境界である鏡面像(ニボー、air-fluid level)を認める
診断へのプロセス
排便・排ガスの停止、腹痛、腸管の拡張と鏡面像がそろっており、腸閉塞(イレウス)と判断できる。拡張が大腸に及び、下行結腸まで追えることから、閉塞部位はそれより肛門側(S状結腸〜直腸付近)にあると推定される。 次に閉塞の原因を考える。成人の機械的な腸閉塞の原因として最も多いのは開腹手術後の癒着であるが、本例には開腹歴がないので癒着性は考えにくい。そのほかの主な原因は腫瘍、ヘルニアの嵌頓、腸重積、S状結腸軸捻転などである。高齢者で、開腹歴がなく、大腸の拡張を伴う閉塞では、大腸癌による閉塞性イレウスをまず疑うべきである。
設問の考え方
疑われるのは左側結腸〜直腸の閉塞性病変であり、その部位の確認と原因の診断(腫瘍の有無、生検による組織診断)が必要である。大腸内腔を直接観察して生検まで行えるのは大腸内視鏡である。実臨床ではまず腹部CTで閉塞部位や穿孔・虚血の有無を評価することが多いが、本問の選択肢のなかで閉塞部位の精査に直結する検査は大腸内視鏡である。閉塞がある状態で経口の腸管洗浄剤を飲ませると腸管内圧が上昇して穿孔の危険があるため、前処置は浣腸程度にとどめ、送気も最小限にして慎重に行う。
選択肢考察
- ×a. 胃内視鏡
胃内視鏡(上部消化管内視鏡)は食道・胃・十二指腸を観察する検査である。本例は大腸が拡張しており、閉塞部位は下行結腸より肛門側にあると考えられる。上部消化管の病変を示唆する所見(吐血・心窩部痛・胃の拡張など)もなく、閉塞部位の検索には役立たない。
- ×b. 小腸造影
小腸造影は小腸の狭窄や腫瘍などを評価する検査である。本例で閉塞しているのは大腸と考えられ、小腸造影では病変に到達できない。さらに、閉塞がある状態で硫酸バリウムを経口投与すると、閉塞部の口側でバリウムが停滞・固化して閉塞を悪化させたり、穿孔時に重篤なバリウム腹膜炎を起こしたりする危険があるため、腸閉塞が疑われる場合にバリウムの経口投与は避ける。
- ×c. 腹部大動脈造影
腹部大動脈造影(血管造影)は、上腸間膜動脈閉塞症などの腸管虚血や動脈瘤、消化管出血の出血源の検索などに用いられる。腸間膜の血流障害では症状の強さに比べて身体所見が乏しい激しい腹痛が特徴であり、単純写真で大腸の拡張と鏡面像を認め、開腹歴のない高齢者に起きた本例の閉塞性イレウスの原因検索としては適さない。
- ×d. 腰椎MRI
腰椎MRIは腰椎椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症、脊椎腫瘍(がんの骨転移など)の評価に用いる。腰椎疾患で排便・排ガスが止まり、大腸が拡張して鏡面像を形成することは考えにくく、本例の閉塞原因の検索には役立たない。
- ○e. 大腸内視鏡
開腹歴のない高齢者で、大腸が拡張し下行結腸より肛門側の閉塞が疑われる。原因として最も考えるべきは大腸癌であり、大腸内視鏡で閉塞部位を直接確認し、腫瘍があれば生検で組織診断ができる。さらに、内視鏡下に経肛門的イレウス管や大腸ステントを留置して減圧し、緊急手術を避けて待機的な根治手術につなげることもできる。閉塞下では経口腸管洗浄剤による前処置は禁忌で、浣腸程度の前処置と最小限の送気で慎重に行う。
腸閉塞(イレウス)の分類
現在のわが国の診療ガイドラインでは、腸管の物理的な閉塞を「腸閉塞」、腸管の運動麻痺による通過障害を「イレウス(麻痺性)」と区別して呼ぶことが推奨されている。以前は両者をまとめてイレウスと呼び、機械的イレウスと機能的イレウスに分けていた。 ・機械的(腸閉塞) 単純性(閉塞性):血流障害を伴わない。原因は術後癒着、腫瘍(大腸癌など)、異物、宿便など 複雑性(絞扼性):血流障害を伴い、緊急手術の適応。原因は索状物による絞扼、ヘルニア嵌頓、腸軸捻転、腸重積など ・機能的(イレウス) 麻痺性:腹膜炎、開腹術後、電解質異常(低カリウム血症)、薬剤など 痙攣性:鉛中毒などでまれ
原因の年齢・背景による整理
・開腹歴あり:癒着性腸閉塞が最多 ・開腹歴なし・中高年:大腸癌による閉塞性腸閉塞、鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアの嵌頓を考える ・高齢者・寝たきり・便秘:S状結腸軸捻転(単純写真でコーヒー豆様の拡張像) ・乳幼児:腸重積
単純写真での閉塞部位の推定
・小腸閉塞:拡張腸管が腹部中央に多く、ケルクリングひだ(輪状ひだ)が腸管の全周を横切る。大腸ガスは乏しい ・大腸閉塞:拡張腸管が腹部の辺縁(枠状)に分布し、ハウストラ(結腸膨起)がみられる。回盲弁が機能していると小腸へ逆流せず、盲腸が著しく拡張して穿孔の危険が高まる(盲腸径がおよそ9〜12 cmを超えると要注意とされる)
大腸癌による閉塞への対応
緊急の減圧として、経肛門的イレウス管や大腸ステントの留置、あるいは人工肛門造設を行い、全身状態を整えてから根治手術を行う(bridge to surgery)。穿孔や腸管虚血が疑われる場合は緊急手術となる。
POINT
・排便・排ガスの停止+腹痛+腸管拡張と鏡面像 → 腸閉塞 ・大腸の拡張(腹部辺縁の枠状分布、ハウストラ)→ 大腸の閉塞を考える ・開腹歴のない高齢者の大腸閉塞 → まず大腸癌を疑い、大腸内視鏡で確認・生検 ・閉塞下では経口腸管洗浄剤を用いない(穿孔の危険) ・腸閉塞が疑われる場合、バリウムの経口投与は避ける ・開腹歴ありなら癒着性、高齢・寝たきり・便秘ならS状結腸軸捻転も鑑別
