利尿薬で立てなくなった男性―「反射正常の近位筋脱力」が指し示す低カリウム血症
第99回医師国家試験 F問題 第20問
国試問題にチャレンジ
65歳の男性。2週前から徐々に全身倦怠感と四肢脱力とが出現し,起立が困難になったので来院した。1か月前から心不全による両下肢の浮腫に対してループ利尿薬が処方され,毎日服用していた。意識は清明で,四肢近位筋優位の筋力低下を認めるが,感覚と深部(腱)反射とは正常である。甲状腺機能検査に異常を認めない。 異常が予測されるのはどれか。2つ選べ。
- a.血清電解質
- b.血清クレアチンキナーゼ
- c.脳脊髄液
- d.頭部造影CT
- e.頸部単純MRI
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
感覚障害や腱反射の異常を伴わない近位筋優位の脱力は、中枢神経や末梢神経ではなく筋そのものの障害(ミオパチー)を示唆します。ループ利尿薬はNa-K-2Cl共輸送体を阻害し、集合管でのK分泌増加を通じて低カリウム血症をきたすため、血清電解質の異常と、筋細胞の壊死・横紋筋融解によるCK上昇が予想されます。脳脊髄液、頭部CT、頸部MRIはそれぞれGuillain-Barré症候群、頭蓋内病変、頸髄病変を評価する検査で、本例の所見とは合いません。甲状腺機能正常の記載は甲状腺中毒性周期性四肢麻痺の除外を意味し、K喪失性と細胞内移行性の低カリウム血症を区別する視点が重要です。利尿薬投与中の電解質・心電図モニタリングは日常診療の基本であり、病変部位の推定と薬剤歴を結びつける思考は神経症状の評価全般に役立ちます。
解答・解説
正解はa, bです
所見の整理
・65歳男性。2週間の経過で徐々に進行する全身倦怠感と四肢脱力があり、起立困難に至った。 ・1か月前から心不全の浮腫に対してループ利尿薬(フロセミドなど)を毎日内服している。 ・意識清明。筋力低下は四肢近位筋(肩・上腕・腰・大腿など体幹に近い筋)優位で、感覚障害はなく、深部腱反射も正常である。 ・甲状腺機能は正常である。
病変部位の推定
筋力低下をみたら、どのレベル(中枢神経・脊髄・末梢神経・神経筋接合部・筋)の障害かを考える。 ・脳や脊髄の病変(上位運動ニューロン障害)なら、腱反射亢進や病的反射、脊髄病変では感覚障害のレベルや膀胱直腸障害を伴うことが多い。 ・Guillain-Barré症候群などの末梢神経障害では、腱反射の低下・消失が特徴で、遠位筋優位の脱力やしびれ感を伴いやすい。 ・本例は感覚正常、反射正常、近位筋優位の脱力であり、筋そのものの障害(ミオパチー)が最も考えやすい。
原因の推定
ループ利尿薬は、ヘンレ係蹄の太い上行脚にあるNa+-K+-2Cl-共輸送体を阻害し、強力なナトリウム利尿をもたらす。その結果、集合管へ届くNa+と尿量が増え、さらに体液量減少によって活性化したアルドステロンの作用も加わって、集合管でのK+分泌が増加し、低カリウム血症をきたす。また、H+の排泄も増えて代謝性アルカローシスを伴いやすい。低カリウム血症では骨格筋の静止膜電位が過分極して興奮しにくくなり、脱力が生じる。高度になると筋細胞が壊れて横紋筋融解をきたし、クレアチンキナーゼ(CK)が上昇する。 甲状腺機能が正常なので、甲状腺中毒性周期性四肢麻痺は否定的である。以上から、ループ利尿薬による低カリウム血症性ミオパチーと考えられ、異常が予想される検査は血清電解質と血清CKである。
選択肢考察
- ○a. 血清電解質
ループ利尿薬の長期連日投与により、尿中へのK+喪失が増えて低カリウム血症(血清K 3.5mEq/L未満)をきたす。一般に血清Kが2.5mEq/L前後を下回ると明らかな筋力低下が現れ、さらに低下すると呼吸筋麻痺や重篤な不整脈の危険がある。ほかに、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症、低クロール血症(代謝性アルカローシスを伴う)も起こりうる。特に低マグネシウム血症は腎からのK+喪失を助長し、Kを補充しても低カリウム血症が改善しにくくなるため、あわせて確認する。心不全患者でジギタリスを併用している場合、低カリウム血症はジギタリス中毒を誘発しやすい点にも注意が必要である。
- ○b. 血清クレアチンキナーゼ
カリウムは運動時に筋から放出されて局所の血管を拡張させる働きをもつ。低カリウム血症ではこの働きが損なわれて筋が虚血に陥りやすく、また筋細胞のエネルギー代謝も障害されるため、筋細胞が壊死する(低カリウム血症性ミオパチー、高度なら横紋筋融解症)。その結果、筋細胞内の酵素であるCKが血中に逸脱して上昇する。近位筋優位の筋力低下という本例の所見は、筋自体の障害を示唆しており、CK上昇が予想される。横紋筋融解ではミオグロビン尿による急性腎障害にも注意する。
- ×c. 脳脊髄液
脳脊髄液検査は、Guillain-Barré症候群(蛋白細胞解離:細胞数は正常で蛋白のみ増加)、髄膜炎、脳炎、多発性硬化症などの診断に用いる。Guillain-Barré症候群では腱反射の低下・消失が特徴であり、しびれ感などの感覚症状を伴うことも多いが、本例は腱反射・感覚とも正常で臨床像が合わない。低カリウム血症による筋障害では髄液に異常は生じない。
- ×d. 頭部造影CT
頭部造影CTは脳腫瘍、脳膿瘍、脳血管障害などの頭蓋内病変の評価に用いる。脳病変による脱力なら、片麻痺のような偏りのある分布、腱反射亢進、病的反射、意識障害や脳神経症状などを伴うことが多い。本例は意識清明で、左右対称の近位筋優位の脱力、腱反射正常であり、中枢神経病変は考えにくく、異常は予想されない。
- ×e. 頸部単純MRI
頸部MRIは頸椎症性脊髄症、頸髄腫瘍、椎間板ヘルニアなどの頸髄病変の評価に用いる。頸髄が障害されると、四肢の脱力に加えて障害レベル以下の感覚障害、下肢の腱反射亢進・病的反射、膀胱直腸障害などを伴うのが一般的である。本例は感覚・腱反射とも正常であり、頸髄病変は考えにくく、異常は予想されない。
低カリウム血症の主な原因
・摂取不足:飢餓、神経性やせ症など ・細胞内への移行:インスリン投与、β2刺激薬、アルカローシス、甲状腺中毒性周期性四肢麻痺・家族性低カリウム性周期性四肢麻痺 ・腎からの喪失:ループ利尿薬・サイアザイド系利尿薬、原発性アルドステロン症、Cushing症候群、甘草(グリチルリチン)による偽性アルドステロン症、Bartter症候群・Gitelman症候群、尿細管性アシドーシス、低マグネシウム血症 ・腎外からの喪失:嘔吐、下痢、下剤乱用
低カリウム血症の症状
・骨格筋:脱力(近位筋優位、下肢から始まることが多い)、重症例では呼吸筋麻痺、横紋筋融解 ・平滑筋:腸管運動低下による便秘・麻痺性イレウス ・心臓:心電図でT波平低化、U波出現、ST低下。期外収縮から心室頻拍・心室細動などの致死的不整脈 ・腎臓:尿濃縮力低下による多尿(腎性尿崩症様)
治療
原因薬の減量・中止や、カリウム保持性利尿薬(スピロノラクトンなど、心不全では予後改善効果もある)への変更・併用を検討し、塩化カリウムの経口補充を行う。静脈内投与を行う場合は、濃度・投与速度の上限を守り、急速静注は心停止の危険があるため禁忌である。
周期性四肢麻痺との関係
周期性四肢麻痺は、発作性に弛緩性麻痺を繰り返す疾患群で、甲状腺中毒症に伴うもの(アジア人の若年男性に多い)や遺伝性のものがある。これらはKの細胞内移行によるもので体内総K量は減っていないが、利尿薬によるものは体外へのK喪失で起こる点が異なる。本問で甲状腺機能正常と記載されているのは、甲状腺中毒性周期性四肢麻痺を除外する意図である。
POINT
・ループ利尿薬の副作用:低カリウム血症、代謝性アルカローシス、低ナトリウム血症、低マグネシウム血症、高尿酸血症、耳毒性など。 ・低カリウム血症 → 近位筋優位の脱力、CK上昇(横紋筋融解)、T波平低化・U波、麻痺性イレウス、多尿。 ・感覚正常・腱反射正常の近位筋優位脱力 → 筋疾患(ミオパチー)を考える。 ・腱反射低下+感覚症状 → Guillain-Barré症候群など末梢神経障害。腱反射亢進・病的反射 → 中枢性病変。 ・甲状腺機能正常の記載は甲状腺中毒性周期性四肢麻痺の除外を意味する。
