授乳後すぐ泣く3か月児―「母乳をやめない」母乳不足への正しい処方箋
第99回医師国家試験 F問題 第12問
国試問題にチャレンジ
3か月の乳児。体重増加不良を主訴に来院した。出生体重3,050g。母乳栄養。授乳後1~2時間で泣き,1回の授乳時間は20分以上であるという。嘔吐と下痢とはみられない。身長62cm,体重5,050g。体温37.2℃。呼吸数32/分。心拍数120/分,整。顔貌は正常。胸部に異常所見を認めない。腹部は平坦で,右肋骨弓下に肝を2cm触知する。 適切な対応はどれか。
- a.人工乳に変える。
- b.人工乳を追加する。
- c.糖水を追加する。
- d.離乳食を始める。
- e.精神安定薬を与える。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
乳児の体重増加は生後3か月まで1日約25〜30gが目安で、3〜4か月で出生体重の約2倍になります。授乳間隔が短い、1回の授乳時間が長い、体重増加が少ないといった所見がそろい、嘔吐・下痢や器質的疾患を示す所見がなければ、母乳不足による摂取量不足を考えます。対応は母乳を中止せず、不足分を人工乳で補う混合栄養が原則で、糖水は栄養として不十分、離乳食は5〜6か月ごろから、精神安定薬は適応がありません。乳児では肝を肋骨弓下に1〜2cm触れるのは正常範囲であることも押さえておきましょう。成長曲線で経過を追いながら、母乳の利点を生かして栄養を補う考え方は、乳児健診や育児相談の現場で直接役立つ基本です。
解答・解説
正解はbです
所見の整理
3か月の乳児が体重増加不良で受診した。出生体重3,050g、完全母乳栄養で、現在の体重は5,050gである。授乳後1〜2時間で泣き出し、1回の授乳に20分以上かかる。嘔吐・下痢はない。身長62cm、体温・呼吸数・心拍数は月齢相応の範囲で、顔貌や胸部に異常はなく、肝を右肋骨弓下に2cm触れる。
体重増加の評価
生後3か月までの乳児の体重増加は1日あたりおよそ25〜30gが目安で、3か月で2,000〜2,700g程度増え、3〜4か月で出生体重の約2倍になる。本例は約90日で2,000g、1日あたり約22gの増加にとどまり、目安をやや下回る。身長62cmは月齢相応であり、身長の伸びに比べて体重の増え方が不十分な状態といえる。
原因の推定
・授乳後1〜2時間で泣く(空腹で泣くまでの間隔が短い) ・1回の授乳に20分以上かかる(通常は左右合わせて10〜15分程度で大部分を飲み終える) という2点は、母乳の出る量が足りず、乳児がなかなか満足できないことを示しており、母乳不足の典型的なサインである。一方、嘔吐・下痢がないので消化管からの喪失や吸収障害は考えにくい。顔貌の異常(染色体異常など)、心雑音・呼吸促迫(先天性心疾患など)もなく、肝を肋骨弓下に1〜2cm触れるのは乳児では正常範囲であるため、器質的疾患を示す所見は乏しい。以上から、体重増加不良の原因は母乳分泌不足による摂取量不足と考えられる。
設問の考え方
母乳には感染防御因子や母子関係の形成など多くの利点があるため、母乳不足のときは母乳をやめるのではなく、母乳を続けながら足りない分を人工乳(育児用ミルク)で補う混合栄養とするのが原則である。
選択肢考察
- ×a. 人工乳に変える。
母乳の量が足りないだけであれば、母乳を中止する必要はない。母乳には分泌型IgA・ラクトフェリンなどの感染防御因子が含まれ、消化吸収がよく、母子の愛着形成にも役立つ。また、吸われる刺激がなくなると母乳分泌はさらに減ってしまう。母乳は続けたまま、不足分を補うのが適切である。
- ○b. 人工乳を追加する。
母乳を与えたうえで、足りない分を人工乳(育児用ミルク)で補う混合栄養とする。人工乳はたんぱく質・脂質・糖質・ミネラル・ビタミンを乳児に必要な割合で含んでおり、摂取エネルギーの不足を確実に補える。母乳を先に吸わせることで乳頭刺激が保たれ、母乳分泌の維持にもつながる。追加後は体重の増え方を経過観察し、改善しなければ器質的疾患の検索を進める。
- ×c. 糖水を追加する。
糖水は糖質だけで、成長に必要なたんぱく質・脂質・ミネラル・ビタミンを含まないため、体重増加不良の改善にはつながらない。かつては新生児の最初の授乳前に吸啜・嚥下の状態を確かめる目的や、便秘傾向の乳児に糖水を与えることがあったが、現在は一般的に推奨されておらず、本例の栄養不足への対応としても意味がない。
- ×d. 離乳食を始める。
離乳食は、首のすわりがしっかりし、支えると座れる、食べ物に興味を示す、スプーンを口に入れても舌で押し出すことが少なくなる、といった発達がみられる生後5〜6か月ごろに始めるのが目安である。3か月児は消化機能や摂食機能が未熟で、口から出た食物をうまく処理できないため、離乳食の開始は早すぎる。また離乳初期の食事量は少なく、栄養不足の補充にもならない。
- ×e. 精神安定薬を与える。
授乳後すぐに泣くのは空腹のためであり、情緒の問題ではない。精神安定薬(鎮静薬)で泣き止ませても栄養不足は解決せず、乳児では呼吸抑制や哺乳力低下などの危険もある。適応はない。
乳児の体重増加の目安
・生後0〜3か月: 1日あたり約25〜30g ・生後3〜6か月: 1日あたり約15〜20g ・生後6〜12か月: 1日あたり約10g前後 ・体重は3〜4か月で出生時の約2倍、1歳で約3倍となる。 ・身長は出生時約50cmで、1歳で約75cm(約1.5倍)となる。 評価には乳幼児身体発育曲線(成長曲線)に記入し、パーセンタイル曲線に沿って増えているかを見るのが基本である。
母乳不足を疑うサイン
・体重増加が少ない ・授乳間隔が短い(1〜2時間で泣く) ・1回の授乳時間が長い(30分以上吸い続けても離さない、など) ・授乳後も満足せず泣く、よく眠らない ・排尿回数や便の量が少ない
母乳栄養の利点
感染防御因子(分泌型IgA、ラクトフェリン、リゾチームなど)を含む、消化吸収がよい、アレルギーを起こしにくい、母子の愛着形成を促す、子宮復古を促す(オキシトシン分泌)など。注意点として、ビタミンKが少ないため新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症の予防にビタミンK2シロップを投与する。
乳児の体重増加不良の鑑別
・摂取不足: 母乳不足、哺乳技術の問題、口唇口蓋裂など ・喪失の増加: 嘔吐(肥厚性幽門狭窄症、胃食道逆流など)、下痢・吸収不良 ・消費の増加・利用障害: 先天性心疾患、慢性呼吸器疾患、甲状腺機能亢進症、慢性感染症、代謝異常症 ・その他: 染色体異常、ネグレクトなどの不適切な養育 身体所見に異常がなく、哺乳状況から摂取不足が明らかであれば、まず栄養の補充を行って体重の反応をみる。
離乳の開始
生後5〜6か月ごろ、首のすわりがしっかりし、支えると座れる、食物に興味を示す、哺乳反射が弱まってスプーンを押し出さなくなる、などの発達を目安に始める。
POINT
・生後0〜3か月の体重増加の目安は1日約25〜30g、3〜4か月で出生体重の約2倍。 ・授乳間隔が短い、1回の授乳時間が長い、体重増加不良は母乳不足のサイン。 ・母乳不足では母乳を続けながら人工乳を追加する(混合栄養)。人工乳への全面切り替えは不要。 ・糖水は栄養として不十分、離乳食は5〜6か月ごろから、精神安定薬は適応なし。 ・乳児では肝を肋骨弓下に1〜2cm触れるのは正常範囲。
