出口をふさがれた悪露―帝王切開後の産褥熱は「感染」と「収縮」の両面から攻める
第99回医師国家試験 F問題 第11問
国試問題にチャレンジ
28歳の褥婦。帝王切開で分娩後,悪露の分泌量は少なく,38.0℃ の発熱を認めたため産褥6日目に診察した。子宮底長は臍高。経腟超音波検査で子宮腔内に広範なエコーフリースペースを認める。頸管を拡張したところ,悪臭のある褐色の悪露を多量に排出した。 適切な処置はどれか。2つ選べ。
- a.授乳停止
- b.温罨法
- c.抗菌薬投与
- d.子宮収縮促進薬投与
- e.抗凝固薬投与
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
産褥期に悪露が少ないのに子宮底が高く、悪臭のある悪露と発熱を伴う場合は、悪露滞留を伴う子宮復古不全に子宮内感染が加わった産褥熱を考えます。帝王切開は頸管が十分に開大しないため悪露滞留を起こしやすく、産褥熱の最大の危険因子です。治療は頸管拡張などで排出路を確保したうえで、嫌気性菌を含む広域抗菌薬と、メチルエルゴメトリンやオキシトシンなどの子宮収縮促進薬を併用します。授乳はオキシトシン分泌を介して子宮復古を助けるので続けさせ、子宮収縮には温罨法ではなく冷罨法を用い、抗凝固薬は抗菌薬に反応しない骨盤内血栓性静脈炎など血栓症を合併した場合に限ります。子宮復古と悪露の正常経過を押さえておくことが、産褥期の異常を早期に見抜く土台になります。
解答・解説
正解はc, dです
所見の整理
28歳の褥婦で、帝王切開で分娩している。産褥6日目に次の所見がある。 ・悪露(分娩後に子宮から排出される血液・脱落膜・分泌物)の量が少ない ・38.0℃の発熱 ・子宮底が臍の高さにある ・経腟超音波で子宮腔内に広い無エコー域(液体の貯留)がある ・頸管を広げると、悪臭のある褐色の悪露が多量に出てきた
診断へのプロセス
正常な産褥経過では、子宮底は分娩直後に臍下2〜3横指、翌日ごろに臍の高さ前後となった後は日ごとに下がり、産褥6日目ごろには恥骨結合の上数横指まで下降する。産褥2週ごろには腹壁の上から触れなくなる。本例は6日目でも臍高にあり、子宮復古不全(産褥子宮の収縮・縮小が遅れた状態)である。 また、悪露の排出が少ないのに子宮内に液体がたまっており、頸管を拡張したら多量の悪露が出てきたことから、悪露が子宮内に滞留していた(悪露滞留)ことがわかる。帝王切開では頸管が十分に開大しないまま分娩が終わるため、頸管が狭く悪露の出口がふさがりやすい。滞留した悪露は細菌の格好の培地となり、悪臭のある悪露と発熱は子宮内感染(産褥子宮内膜炎)を示している。 すなわち本例は、悪露滞留を伴う子宮復古不全に子宮内感染が加わった産褥熱と診断できる。
設問の考え方
治療の柱は、(1) 原因となっている感染を抑えること、(2) 子宮を収縮させて悪露の排出と子宮復古を促すこと、の2つである。頸管拡張で悪露の排出経路を確保したうえで、抗菌薬と子宮収縮促進薬を投与する。授乳の継続や、下腹部を冷やすことも子宮収縮を助ける。
選択肢考察
- ×a. 授乳停止
乳頭が吸われる刺激で下垂体後葉からオキシトシンが分泌され、子宮筋が収縮して子宮復古が進む(授乳中に下腹部が痛む後陣痛はこのためである)。子宮復古不全がある本例では、授乳はむしろ積極的に続けさせるべきである。抗菌薬も、授乳中に使用できる薬剤(ペニシリン系・セフェム系など)を選べばよく、授乳を止める理由にはならない。
- ×b. 温罨法
温罨法は温めた湿布やカイロなどで局所を温め、血管を広げて血流を増やす看護上の処置である。子宮を温めると平滑筋が弛緩し、子宮収縮を妨げる方向に働くうえ、炎症部位の充血を強めうるため適切ではない。子宮収縮を促す目的では、逆に下腹部を冷やす冷罨法が用いられる。
- ○c. 抗菌薬投与
悪臭のある悪露と38℃の発熱から、子宮内感染(産褥子宮内膜炎)が起きていると考えられる。産褥の子宮内感染は腟の常在菌による複数菌感染が多く、大腸菌などのグラム陰性桿菌、B群溶血性レンサ球菌などのレンサ球菌、Bacteroidesなどの嫌気性菌が関わる。したがって嫌気性菌も含めて幅広くカバーする抗菌薬を投与する。治療が遅れると骨盤腹膜炎、敗血症、DICへと進展しうるので、速やかな治療が必要である。
- ○d. 子宮収縮促進薬投与
子宮底が産褥6日目になっても臍高にあり、子宮復古不全がある。子宮収縮促進薬(麦角アルカロイドのメチルエルゴメトリンやオキシトシンなど)で子宮を収縮させると、たまった悪露が排出されて感染巣が減り、子宮復古も進む。悪露の排出を促すことは感染の治療にも直結する。
- ×e. 抗凝固薬投与
抗凝固薬(ヘパリンなど)は、産褥期の深部静脈血栓症・肺血栓塞栓症や、抗菌薬で解熱しない骨盤内血栓性静脈炎などで使われる。本例には下肢の腫脹や胸部症状など血栓症を示す所見はなく、敗血症からDIC(播種性血管内凝固)を併発した状況でもないため、抗凝固薬は必要ない。産褥早期は出血の危険もあり、根拠なく投与すべきではない。
産褥熱
分娩後24時間以降、産褥10日以内に38℃以上の発熱が2日以上続くものを指し、主に性器(子宮・付属器など)の感染によって起こる。代表は産褥子宮内膜炎で、進展すると子宮筋層炎、付属器炎、骨盤腹膜炎、骨盤内血栓性静脈炎、敗血症となる。 ・危険因子: 帝王切開(最大の危険因子)、前期破水・長時間の破水、分娩遷延、頻回の内診、胎盤用手剥離、卵膜・胎盤の遺残、悪露滞留など ・症状: 発熱、下腹部痛、子宮の圧痛、悪臭のある悪露 ・治療: 広域抗菌薬(嫌気性菌もカバー)、子宮収縮促進薬、遺残物があれば除去 ・抗菌薬で解熱しない場合は、膿瘍や骨盤内血栓性静脈炎を考え、後者では抗凝固療法を行う。
子宮復古と悪露
・子宮底の高さの目安: 分娩直後は臍下2〜3横指、分娩後12時間〜翌日ごろに臍高前後まで上がり、その後1日に約1横指ずつ下がって産褥2週ごろに腹壁上から触れなくなる。子宮が妊娠前の大きさに戻るまで約6週間かかる。 ・悪露の変化: 赤色悪露(産褥3〜4日ごろまで)→褐色悪露(〜約1週)→黄色悪露(2〜3週)→白色悪露(4〜6週で消失) ・子宮復古不全の原因: 卵膜・胎盤の遺残、悪露滞留、子宮内感染、子宮筋腫、多胎・羊水過多による子宮の過伸展、授乳しないこと、膀胱や直腸の充満など ・子宮復古を促す方法: 授乳(オキシトシン分泌)、冷罨法、早期離床、排尿・排便の管理、子宮収縮促進薬
悪露滞留
頸管の狭さや屈曲、凝血塊などによって悪露が子宮腔内にたまる状態で、帝王切開後に起こりやすい。悪露の量が急に減り、発熱・子宮の増大と圧痛を伴えば疑う。頸管拡張などで排出路を確保する。
POINT
・産褥期に悪露が少ない+子宮底が高い+悪臭のある悪露+発熱は、悪露滞留を伴う子宮復古不全と子宮内感染(産褥熱)を考える。 ・治療は抗菌薬(嫌気性菌を含む広域)と子宮収縮促進薬(メチルエルゴメトリン、オキシトシン)。 ・授乳はオキシトシン分泌を介して子宮復古を促すので続けさせる。 ・子宮収縮を促すのは冷罨法で、温罨法は行わない。 ・抗凝固薬は血栓症(抗菌薬に反応しない骨盤内血栓性静脈炎など)を合併した場合に限って使う。
