開口障害、悪臭、冷たい膿―感染症の「決めゼリフ」を正しく結びつける
第99回医師国家試験 E問題 第73問
国試問題にチャレンジ
組合せで誤っているのはどれか。
- a.緑膿菌 ―― 筋膜の広範壊死
- b.破傷風菌 ―― 開口障害
- c.ガス壊疽菌 ―― 悪臭
- d.結核菌 ―― 冷膿瘍
- e.梅毒スピロヘータ ―― 関節破壊
対話形式の解説
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医学生まとめ
筋膜に沿って急速に広がる広範な壊死は壊死性筋膜炎の所見であり、代表的な起因菌はA群β溶血性レンサ球菌で、熱傷創感染や人工呼吸器関連肺炎などの日和見感染が典型の緑膿菌とは結びつきません。破傷風菌は神経毒素テタノスパスミンにより開口障害から全身の筋強直を、ガス壊疽菌(主にウェルシュ菌)は筋壊死とガス産生、腐敗臭を起こします。結核は急性炎症所見に乏しい冷膿瘍を作り、脊椎カリエスではPottの三徴が知られ、梅毒は晩期の脊髄癆による神経病性関節症(シャルコー関節)で関節破壊を生じます。壊死性筋膜炎では皮膚所見に不釣り合いな激痛が重要な警告サインで、早期デブリドマンと抗菌薬投与が救命の鍵です。病原体ごとに「どの組織をどう傷つけるか」を理解しておくことで、キーワード問題だけでなく、救急や外科の現場での迅速な判断にもつながります。
解答・解説
正解はaです
本問は、代表的な細菌(スピロヘータを含む)感染症と、その疾患を特徴づける臨床所見(キーワード)の対応を問う問題である。「誤っているのはどれか」という形式なので、病原体と所見の対応が成り立たないものを一つ選ぶ。 考え方としては、それぞれの病原体について「どの臓器・組織を侵し、どんな病態を起こすか」を思い浮かべるとよい。 ・破傷風菌は神経毒素(テタノスパスミン)によって筋の強直を起こす。 ・ガス壊疽菌(主にウェルシュ菌などのクロストリジウム属)は嫌気性菌で、組織内にガスを作り、腐敗臭を伴う。 ・結核菌は乾酪壊死を伴う慢性肉芽腫性炎症を起こし、発赤や熱感に乏しい膿瘍(冷膿瘍)を作る。 ・梅毒トレポネーマは晩期に神経梅毒(脊髄癆)を起こし、痛覚・深部感覚の障害を背景とした神経病性関節症(シャルコー関節)による関節破壊を生じうる。 一方、筋膜に沿って急速に広がる広範な壊死、すなわち壊死性筋膜炎の代表的な起因菌はA群β溶血性レンサ球菌(化膿レンサ球菌)であり、緑膿菌の典型的なキーワードではない。したがって誤っている組合せは a である。
選択肢考察
- ○a. 緑膿菌 ―― 筋膜の広範壊死
誤った組合せであり、これが正解となる。筋膜の広範な壊死は壊死性筋膜炎の所見であり、その代表的な起因菌はA群β溶血性レンサ球菌である。単独菌による型(Ⅱ型)の多くはA群β溶連菌で、黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)が加わることもある。また嫌気性菌と腸内細菌科細菌などが混合感染する多菌型(Ⅰ型)や、海水・魚介類に関連するビブリオ・バルニフィカスによる型も知られる。緑膿菌は健常者には病原性の弱い日和見感染菌で、熱傷創感染、人工呼吸器関連肺炎、カテーテル関連尿路感染、角膜炎などが典型である。免疫不全者で軟部組織感染を起こすことはあるが、「筋膜の広範壊死」を代表的なキーワードとする菌ではない。
- ×b. 破傷風菌 ―― 開口障害
正しい組合せである。破傷風菌(Clostridium tetani)は土壌中に芽胞として存在し、創傷から侵入して嫌気的条件下で増殖し、神経毒素テタノスパスミンを産生する。この毒素は脊髄などで抑制性ニューロンからの神経伝達物質(GABA、グリシン)の放出を妨げるため、筋の持続的な強直が生じる。初発症状として咬筋の強直による開口障害(牙関緊急)が最も多く、続いて表情筋の強直による痙笑、項部硬直、全身の強直性痙攣、後弓反張へと進行する。
- ×c. ガス壊疽菌 ―― 悪臭
正しい組合せである。ガス壊疽は主にウェルシュ菌(Clostridium perfringens)などのクロストリジウム属による筋壊死(クロストリジウム性筋壊死)である。α毒素などの外毒素によって筋肉が急速に壊死し、嫌気的代謝によってガスが産生されるため、皮下の握雪感(捻髪音)やX線での軟部組織内ガス像を認める。創からは甘い腐敗臭を伴う滲出液が出る。嫌気性菌による感染症では一般に膿が悪臭を放つことが多い。
- ×d. 結核菌 ―― 冷膿瘍
正しい組合せである。結核による膿瘍は、一般の化膿菌による膿瘍と異なり、発赤・熱感・疼痛といった急性炎症所見に乏しいため冷膿瘍と呼ばれる。内容は乾酪壊死物質である。代表例は脊椎カリエス(結核性脊椎炎)で、椎体破壊による亀背(後弯変形)、冷膿瘍(腸腰筋に沿って流れ下る流注膿瘍を含む)、脊髄圧迫による麻痺はPottの三徴として知られる。皮膚結核やリンパ節結核でも冷膿瘍を形成する。
- ×e. 梅毒スピロヘータ ―― 関節破壊
正しい組合せである。梅毒の病原体は梅毒トレポネーマ(Treponema pallidum)である。晩期の神経梅毒である脊髄癆では、後索障害により深部感覚や痛覚が低下するため、関節に過大な負荷がかかっても防御が働かず、膝関節などが高度に破壊・変形する神経病性関節症(シャルコー関節)を生じる。痛みが比較的軽いわりに関節破壊が強いのが特徴である。このほか、第2期梅毒で関節炎を伴うことや、第3期のゴム腫が骨・関節を侵すこともある。
壊死性筋膜炎
皮下組織から浅筋膜に沿って急速に拡大する壊死性軟部組織感染症である。皮膚所見に比べて疼痛が強い、紫斑・水疱・血疱の出現、皮膚の知覚低下、急速な進行とショック・多臓器不全が特徴である。糖尿病、肝硬変、免疫抑制状態などが危険因子となる。A群β溶連菌による劇症例はレンサ球菌性毒素性ショック症候群(いわゆる劇症型溶連菌感染症)を合併しうる。治療は早期の外科的デブリドマンが最重要で、広域抗菌薬(溶連菌が疑われればペニシリン系に毒素産生抑制目的でクリンダマイシンを併用)を投与する。
ガス壊疽と破傷風(いずれもクロストリジウム属)
両者とも土壌中の芽胞形成性偏性嫌気性グラム陽性桿菌による創傷感染である。ガス壊疽は局所の筋壊死とガス産生・悪臭が主体で、治療はデブリドマン、ペニシリン系抗菌薬、高気圧酸素療法。破傷風は局所所見に乏しく、神経毒素による全身の筋強直が主体で、治療は抗破傷風ヒト免疫グロブリン、創処置、鎮静と筋弛緩、呼吸管理である。予防には破傷風トキソイドが有効である。
神経病性関節症(シャルコー関節)の原因
脊髄癆(梅毒)、糖尿病性神経障害(足関節・足部に多い)、脊髄空洞症(肩・肘など上肢に多い)などが代表的である。
緑膿菌
ブドウ糖非発酵のグラム陰性桿菌で、水回りなど湿潤環境に広く存在する。多くの抗菌薬に自然耐性を示し、院内感染・日和見感染の重要な原因菌である。緑色色素(ピオシアニン)を産生する。
POINT
・筋膜の広範壊死(壊死性筋膜炎)=A群β溶連菌が代表。緑膿菌は日和見感染菌(熱傷、人工呼吸器関連肺炎、カテーテル関連感染など) ・破傷風:テタノスパスミン→開口障害(牙関緊急)で始まり、痙笑、後弓反張へ ・ガス壊疽:ウェルシュ菌、筋壊死、ガス産生(握雪感)、悪臭 ・結核:冷膿瘍、脊椎カリエスのPottの三徴(亀背・冷膿瘍・脊髄麻痺) ・梅毒:脊髄癆によるシャルコー関節(痛みが軽いのに関節破壊が高度)
