「結核かどうか」ではなく「うつすかどうか」―隔離を決めるのは喀痰塗抹
第99回医師国家試験 E問題 第74問
国試問題にチャレンジ
結核病棟への隔離を必要とするのはどれか。
- a.ツベルクリン反応陽性
- b.喀痰の結核菌塗抹陽性
- c.骨髄の結核菌培養陽性
- d.胸膜生検で乾酪性肉芽腫
- e.気管支鏡で結核菌のPCR法陽性
対話形式の解説
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ドクターまとめ
結核は飛沫核による空気感染であり、結核病棟(陰圧室)への隔離の要否は「結核と診断できるか」ではなく「気道から菌を排出して他人にうつすか」で判断します。感染性を最もよく反映するのは喀痰の抗酸菌塗抹検査で、顕微鏡で見えるほどの大量排菌を示す塗抹陽性は入院・隔離の対象となります。ツベルクリン反応やIGRAは感染の指標にすぎず、骨髄培養や胸膜生検の乾酪性肉芽腫は肺外病変の証明、気管支鏡検体のPCR陽性は少量菌や死菌でも陽性となるため、いずれも単独では隔離の根拠になりません。なお塗抹陽性でもPCRで非結核性抗酸菌と判明すれば隔離は不要であり、痰が出せなければ胃液や誘発喀痰で代用します。検査ごとに「感染」「発病」「排菌」のどれを示すかを区別する視点は、院内感染対策と適切な患者対応の基本になります。
解答・解説
正解はbです
結核は結核菌を含む飛沫核(直径5μm以下程度の微小な粒子)を吸い込むことでうつる空気感染症である。したがって、患者を結核病棟(陰圧管理された病室)へ隔離すべきかどうかは、「結核に罹っているか」ではなく「気道から結核菌を周囲の空気中へ排出しているか(排菌しているか)」、つまり他人への感染性があるかどうかで判断する。 感染性の有無と強さを最もよく反映するのが喀痰の抗酸菌塗抹検査である。顕微鏡で直接菌が見えるほど大量の菌が喀痰中にあることを意味し、咳とともに周囲へ菌をまき散らしている可能性が高い。わが国の感染症法に基づく入院勧告も、肺結核(気道の結核を含む)で喀痰塗抹陽性の患者が基本的な対象とされている。 これに対し、ツベルクリン反応は感染(または BCG 接種)の既往を示すだけであり、骨髄、胸膜など肺外の検体で結核の証拠が得られても、それだけでは気道からの排菌を意味しない。気管支鏡検体のPCR陽性も、菌量が少ない場合や死菌を検出している場合があり、単独では隔離の根拠として弱い。以上から、隔離を必要とするのは喀痰の結核菌塗抹陽性である。
選択肢考察
- ×a. ツベルクリン反応陽性
隔離の根拠にならない。ツベルクリン反応は結核菌の抗原(精製ツベルクリン、PPD)に対する遅延型過敏反応(Ⅳ型アレルギー)をみる検査で、陽性は過去の結核菌感染またはBCG接種による免疫の存在を示すにすぎない。わが国ではBCG接種が広く行われているため陽性者は多く、非結核性抗酸菌への曝露でも陽性となることがある。発病しているか、まして排菌しているかは判断できない。なお、BCGの影響を受けずに結核感染を評価する検査としてインターフェロンγ遊離試験(IGRA)があるが、これも潜在性感染と活動性結核を区別できず、隔離の判断には用いない。
- ○b. 喀痰の結核菌塗抹陽性
隔離を必要とする。喀痰の塗抹検査(チール・ネールゼン染色や蛍光染色)で抗酸菌が見えるのは、喀痰1mLあたりおよそ数千〜1万個以上の菌が存在する場合とされ、咳嗽によって大量の菌が空気中に放出されている、すなわち感染性が高い状態を示す。したがって陰圧室を備えた結核病棟への入院・隔離の対象となる。喀痰が出せない場合は、夜間に飲み込んだ痰を回収する胃液検査や誘発喀痰で代用し、胃液塗抹陽性も喀痰陽性に準じて扱う。なお塗抹検査では結核菌と非結核性抗酸菌(NTM)を区別できないため、同時に核酸増幅法(PCR法など)で菌種を確認し、NTMと判明すれば人から人への感染はないため隔離は解除される。
- ×c. 骨髄の結核菌培養陽性
これだけでは隔離の根拠にならない。骨髄から結核菌が培養されるのは、菌が血流に乗って全身に広がった状態(粟粒結核などの播種性結核)を示唆し、重症の活動性結核であることは確かである。しかし骨髄中の菌が空気中へ出ることはなく、他人への感染性の判断には喀痰(気道由来検体)の検査が必要である。実際には粟粒結核では肺病変を伴うことが多いため喀痰検査を行い、排菌が確認されれば隔離となる。
- ×d. 胸膜生検で乾酪性肉芽腫
これだけでは隔離の根拠にならない。乾酪壊死を伴う類上皮細胞肉芽腫は結核に特徴的な病理所見であり、胸膜生検でこれを認めれば結核性胸膜炎と診断できる。しかし結核性胸膜炎は胸膜腔の病変であり、胸水の菌量も少なく、肺実質に空洞などの病変がなく喀痰塗抹が陰性であれば空気中への排菌はない。隔離の要否は喀痰検査の結果で判断する。
- ×e. 気管支鏡で結核菌のPCR法陽性
これだけでは隔離の根拠にならない。PCR法などの核酸増幅法は感度が高く、ごく少量の菌でも検出でき、結核菌と非結核性抗酸菌の鑑別にも有用である。しかし、塗抹が陰性でPCRのみ陽性の場合は菌量がきわめて少ないことを意味し、また核酸を検出するため死菌でも陽性となる。さらに気管支鏡検体は気道の奥から直接採取したものであり、咳で周囲に出ている菌量を反映する喀痰とは意味が異なる。したがってPCR陽性は結核の診断には役立つが、単独では感染性が高いとはいえず、隔離の必要性は喀痰塗抹の結果や臨床症状と合わせて判断する。
結核の感染経路と感染性
結核は空気感染(飛沫核感染)であり、感染源となるのは主に肺結核・喉頭結核など気道に病変がある患者である。感染性は喀痰中の菌量に比例し、塗抹陽性(特に空洞のある例や咳の強い例)で最も高い。肺外結核(胸膜炎、リンパ節結核、骨関節結核、腎結核など)は、肺病変を伴わない限り通常は感染源にならない。
喀痰塗抹検査の結果の表し方
現在は(−)、(±)、(1+)、(2+)、(3+)の記載法が用いられる。かつてはガフキー号数(0〜10号)で菌量を表していた。塗抹は迅速だが感度が低く、培養は感度が高いが結果まで数週間を要する(液体培養でも陽性判定まで1〜数週)。
入院・隔離と解除の考え方
感染症法では結核は二類感染症で、喀痰塗抹陽性の肺結核患者などに入院勧告が行われる。塗抹陰性でも、培養や核酸増幅法が陽性で咳などの症状があり感染のおそれが高いと判断される場合は対象となりうる。退院(隔離解除)は、適切な治療を2週間以上続けて咳などの症状が改善し、異なる日の喀痰検査(塗抹または培養)で連続して陰性となることなどを基準に判断される。
結核の検査の位置づけ
・感染の有無:ツベルクリン反応、IGRA(クォンティフェロン、T-SPOT) ・発病の診断:画像、喀痰・胃液・気管支鏡検体などの塗抹・培養・核酸増幅法、病理(乾酪性肉芽腫) ・感染性(排菌)の評価:喀痰塗抹が中心 ・薬剤感受性:培養菌を用いた感受性検査
POINT
・結核の隔離の判断基準は「排菌の有無(感染性)」であり、「結核かどうか」ではない ・排菌の評価は喀痰塗抹検査。喀痰塗抹陽性=感染性が高い→結核病棟(陰圧室)へ ・喀痰が出せなければ胃液や誘発喀痰で代用する ・塗抹陽性でもPCRで非結核性抗酸菌と判明すれば隔離不要(ヒト−ヒト感染なし) ・ツベルクリン反応・IGRAは感染の指標で、発病・排菌は判断できない ・肺外結核(骨髄、胸膜など)の菌証明は隔離の根拠にならない
