足先から這い上がる麻痺―「上行性」が指し示すGuillain-Barré症候群
第99回医師国家試験 E問題 第52問
国試問題にチャレンジ
上行性の両下肢運動麻痺をきたすのはどれか。
- a.Reye症候群
- b.多発性硬化症
- c.急性小脳失調症
- d.Guillain-Barré症候群
- e.亜急性硬化性全脳炎〈SSPE〉
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
両下肢の遠位から始まり、左右対称に体幹・上肢・脳神経領域へと急速に広がる上行性の弛緩性麻痺は、Guillain-Barré症候群の典型像です。先行感染後に末梢神経への自己免疫反応が起こり、腱反射は低下〜消失し、髄液の蛋白細胞解離や神経伝導検査の異常が診断を支え、治療は免疫グロブリン大量静注療法または血漿浄化療法が中心となります。Reye症候群は急性脳症と肝の脂肪変性、多発性硬化症は中枢神経の脱髄による痙性麻痺、急性小脳失調症は筋力の保たれた失調、亜急性硬化性全脳炎は麻疹後の進行性脳炎で、いずれも中枢神経疾患として上行性麻痺の経過はとりません。臨床では呼吸筋麻痺と自律神経障害への備えが重要です。麻痺の広がり方と腱反射から末梢性か中枢性かを見分ける視点は、神経疾患の鑑別全般の基礎になります。
解答・解説
正解はdです
「上行性の両下肢運動麻痺」とは、両側の下肢(多くは足先)から始まった筋力低下が、日の単位で体幹・上肢・脳神経領域へと下から上へ広がっていく麻痺をいう。左右対称に、四肢の遠位から進行するこのパターンは、末梢神経が全身で同時多発的に障害される急性の多発ニューロパチー、とりわけGuillain-Barré症候群の典型像である。
考え方
末梢神経障害では、軸索が長い神経ほど障害を受けやすいため、最も長い神経が支配する足先から症状が出やすい。さらにGuillain-Barré症候群では神経根から末梢神経まで広範に炎症が及ぶため、麻痺は両側対称性に急速に上行し、重症例では呼吸筋麻痺に至る。 一方、選択肢のほかの疾患はいずれも中枢神経(脳・脊髄・小脳)の疾患である。中枢神経疾患では、病変の部位に応じて片麻痺・対麻痺・失調・意識障害・知能低下などが現れるが、「足先から順に上へ進む対称性の麻痺」という経過はとらない。 したがって、各疾患が末梢神経疾患か中枢神経疾患か、また中枢神経疾患ならどのような症候が中心になるかを整理すれば、正解を導ける。
選択肢考察
- ×a. Reye症候群
Reye症候群は、主に小児がインフルエンザや水痘などのウイルス感染後に発症する急性脳症で、肝臓の脂肪変性(小滴性脂肪沈着)を伴う。アスピリン(サリチル酸系薬)の服用との関連が知られている。症状は嘔吐に続く意識障害・痙攣・脳浮腫による頭蓋内圧亢進であり、検査では血清トランスアミナーゼ(AST・ALT)上昇、高アンモニア血症、低血糖、プロトロンビン時間延長を示す一方、黄疸は目立たず、髄液に炎症所見はない。病態の中心はミトコンドリア機能障害による脳症であり、上行性の運動麻痺はきたさない。
- ×b. 多発性硬化症
多発性硬化症(MS)は、中枢神経(大脳白質、脳幹、小脳、脊髄、視神経)に脱髄病変が時間的・空間的に多発し、再発と寛解を繰り返す自己免疫性の疾患である。視力障害(視神経炎)、複視、感覚障害、片麻痺や対麻痺、Lhermitte徴候、有痛性強直性痙攣、Uhthoff現象などを呈する。脊髄病変で下肢の運動麻痺が起こることはあるが、それは病変部位に対応した中枢性の麻痺(痙性麻痺・腱反射亢進)であり、足先から順に上行して進行するパターンではない。
- ×c. 急性小脳失調症
急性小脳失調症は、主に幼児が水痘などのウイルス感染後1~3週間ほどで急性に小脳性運動失調を発症する疾患で、感染後の免疫学的機序が考えられている。症状は体幹失調による歩行障害(酩酊様のふらつき)、四肢の協調運動障害、眼振、断綴性言語などであり、筋力自体は保たれるため運動麻痺はきたさない。多くは数週~数か月で自然に回復し、予後は良好である。
- ○d. Guillain-Barré症候群
Guillain-Barré症候群(GBS)は、先行感染(Campylobacter jejuniによる下痢、サイトメガロウイルスやEBウイルスなどによる上気道炎)の1~3週間後に、末梢神経の髄鞘あるいは軸索に対する自己免疫反応が起こる急性炎症性の多発ニューロパチーである。運動神経が主に障害され、両下肢の遠位部から始まる左右対称性の弛緩性麻痺が上行性に進行し、上肢、顔面(両側顔面神経麻痺)、球麻痺、さらに呼吸筋麻痺に至ることがある。腱反射は低下~消失し、感覚障害は軽度である。症状のピークは発症から4週以内で、その後は多くが回復に向かう。まさに設問の「上行性の両下肢運動麻痺」の典型例である。
- ×e. 亜急性硬化性全脳炎〈SSPE〉
亜急性硬化性全脳炎(SSPE)は、麻疹ウイルスの変異株が中枢神経に持続感染して起こる遅発性ウイルス感染症である。多くは2歳未満で麻疹に罹患した小児が、平均して数年(約7年)後に発症する。性格変化・行動異常・学業成績低下で始まり、ミオクローヌス(周期的な不随意運動)、知能低下が進み、最終的に昏睡・除脳硬直に至って数年で死亡することが多い。脳波で周期性同期性放電(PSD)、髄液・血清の麻疹抗体価の著明な上昇がみられる。病変は大脳全体に及ぶ中枢神経疾患であり、上行性の運動麻痺はきたさない。
Guillain-Barré症候群の要点
・先行感染:約2/3の症例で発症の1~3週間前に感染症状がある。Campylobacter jejuni(下痢)、サイトメガロウイルス、EBウイルス、マイコプラズマなど。 ・病型:脱髄型(急性炎症性脱髄性多発根ニューロパチー、AIDP)と軸索型(急性運動性軸索型ニューロパチー、AMAN)。C. jejuni感染後は軸索型が多く、抗GM1抗体などの抗ガングリオシド抗体が陽性となりやすい。 ・亜型:Fisher症候群(外眼筋麻痺・運動失調・腱反射消失の3徴、抗GQ1b抗体陽性)。 ・症状:両下肢遠位から始まる対称性弛緩性麻痺が上行、腱反射低下~消失、両側顔面神経麻痺、球麻痺、呼吸筋麻痺、自律神経障害(不整脈、血圧変動)。感覚障害は軽度。 ・検査:髄液の蛋白細胞解離(蛋白は上昇するが細胞数は正常。発症1週以降に明瞭になる)、神経伝導検査で伝導速度低下・伝導ブロック(脱髄型)や複合筋活動電位の低下(軸索型)。 ・治療:免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)または血漿浄化療法。副腎皮質ステロイドの単独投与は有効性が示されていない。呼吸筋麻痺に備え、肺活量のモニタリングと必要時の人工呼吸管理を行う。 ・予後:多くは数か月で回復するが、一部に後遺症や死亡例がある。
上行性麻痺をきたしうる他の病態(参考)
ダニ麻痺(tick paralysis)、低カリウム血症性周期性四肢麻痺などでも下肢から上肢へ広がる麻痺がみられることがあるが、国家試験で「上行性麻痺」といえばまずGuillain-Barré症候群を想起する。
中枢性麻痺と末梢性麻痺の違い
・中枢性(上位運動ニューロン障害):痙性麻痺、腱反射亢進、Babinski徴候陽性。多発性硬化症の脊髄病変など。 ・末梢性(下位運動ニューロン障害):弛緩性麻痺、腱反射低下~消失、筋萎縮。Guillain-Barré症候群など。
POINT
・上行性(下肢遠位→上肢→脳神経→呼吸筋)で対称性の弛緩性運動麻痺 → Guillain-Barré症候群。 ・GBSの特徴:先行感染(C. jejuniなど)、腱反射消失、感覚障害は軽度、髄液の蛋白細胞解離、治療はIVIgまたは血漿浄化療法。 ・Reye症候群:アスピリン関連、急性脳症+肝の脂肪変性、高アンモニア血症。 ・多発性硬化症:中枢神経の時間的・空間的多発性の脱髄。 ・急性小脳失調症:ウイルス感染後の小児の小脳失調、筋力は保たれ予後良好。 ・SSPE:麻疹後数年で発症、ミオクローヌス、知能低下、脳波でPSD。
