硬いのは幹だけ、亀頭は柔らかい―持続勃起症を解剖から読み解く
第99回医師国家試験 E問題 第50問
国試問題にチャレンジ
持続勃起症で誤っているのはどれか。
- a.原因は白血病が多い。
- b.疼痛を伴うことが多い。
- c.排尿困難を伴うことが多い。
- d.勃起不全になることが多い。
- e.陰茎,尿道海綿体吻合術が有効である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
持続勃起症は性的刺激と無関係に4時間以上続く勃起で、大部分は静脈還流が障害される虚血性(低流量型)であり、海綿体内の低酸素・アシドーシスによる強い疼痛を伴う泌尿器科的緊急疾患です。代表的な原因として白血病などの血液疾患が挙げられ、薬剤性や特発性も少なくありません。病変は陰茎海綿体に限られ、尿道海綿体と亀頭は侵されないため、排尿障害は通常みられず、「陰茎幹は硬いのに亀頭は柔らかい」という所見になります。治療は脱血・洗浄とα1刺激薬の海綿体内注入が先で、無効なら健常な尿道海綿体や亀頭へ血液を逃がすシャント手術を行いますが、虚血が長引くと海綿体が線維化して勃起不全が残りやすくなります。解剖を理解すると症状・診察所見・治療が一本の線でつながり、早期受診と迅速な処置の重要性も納得できます。
解答・解説
正解はcです
持続勃起症(priapism)は、性的刺激や性的欲求と無関係に、4時間以上にわたって勃起が続く状態をいう。本問は「誤っているもの」を選ぶ問題であり、持続勃起症の原因・症状・予後・治療に関する基本事項を問うている。
病型の整理
持続勃起症は大きく2つに分けられる。 ・虚血性(低流量型、静脈閉塞型):陰茎海綿体からの静脈還流が障害され、海綿体内に血液がうっ滞する。海綿体内は低酸素・高二酸化炭素・アシドーシスとなり、強い疼痛を伴う。持続勃起症の大部分を占め、緊急の処置を要する。 ・非虚血性(高流量型、動脈性):会陰部や陰茎の外傷などで海綿体動脈と海綿体の間に動脈-海綿体瘻が形成され、動脈血が過剰に流入する。海綿体内の血液は酸素化されており、疼痛は軽いか欠如する。
考え方のポイント
勃起に関与するのは主に左右一対の陰茎海綿体であり、尿道を取り囲む尿道海綿体と亀頭は通常この病態に巻き込まれない。そのため典型的な持続勃起症では、陰茎海綿体は硬く腫大しているのに亀頭は柔らかいままであり、尿道は圧迫されず排尿は保たれる。この解剖学的特徴を理解していれば、「排尿困難を伴うことが多い」という記述が誤りであると判断できる。 また、尿道海綿体が病変から免れていることは、陰茎海綿体の血液を尿道海綿体(あるいは亀頭)へ逃がすシャント手術が成り立つ根拠にもなっている。
選択肢考察
- ×a. 原因は白血病が多い。
記述は正しい(本問では誤りの選択肢を選ぶため、正解ではない)。白血病(特に白血球数が著しく増加した慢性骨髄性白血病など)では、増加した白血球によって血液の粘稠度が上がり、海綿体内の静脈還流が妨げられて虚血性の持続勃起症を起こす。鎌状赤血球症も同様に、変形した赤血球が海綿体内の血流を停滞させる代表的な原因で、特に小児の持続勃起症で重要である。国家試験では、器質的な原因として血液疾患(白血病・鎌状赤血球症)が多いことを押さえておく。なお実際の臨床では、特発性のものや、薬剤性(勃起不全治療のための海綿体内注射、抗精神病薬、α遮断薬など)もかなりの割合を占める。
- ×b. 疼痛を伴うことが多い。
記述は正しい。持続勃起症の大部分を占める虚血性(低流量型)では、海綿体内に停滞した血液が低酸素・アシドーシスに陥り、組織虚血による強い疼痛を生じる。性的快感は伴わない。なお、外傷後にみられる非虚血性(高流量型)では疼痛は軽いか欠如することが多いが、頻度は低い。
- ○c. 排尿困難を伴うことが多い。
記述が誤りであり、本問の正解である。持続勃起症で異常な勃起を起こすのは陰茎海綿体であり、尿道を包む尿道海綿体と亀頭は通常侵されず柔らかいまま保たれる。したがって尿道が圧迫されることはなく、排尿は多くの場合正常である。診察で「陰茎幹は硬いのに亀頭は柔らかい」という所見が得られるのもこのためである。
- ×d. 勃起不全になることが多い。
記述は正しい。虚血性の持続勃起症が長時間続くと、海綿体平滑筋が虚血によって壊死し、やがて線維化する。一般に24時間を超えると不可逆的な障害が生じやすく、治療後も後遺症として勃起不全(ED)が残ることが多い。発症から治療開始までの時間が機能予後を大きく左右するため、泌尿器科的緊急疾患として扱われる。
- ×e. 陰茎,尿道海綿体吻合術が有効である。
記述は正しい。虚血性持続勃起症では、まず陰茎海綿体の穿刺・脱血と生理食塩水による洗浄、α1刺激薬(フェニレフリンなど)の海綿体内注入が行われる。これらの保存的治療が無効な場合には、陰茎海綿体と尿道海綿体(または亀頭)の間に交通路を作るシャント手術を行い、うっ滞した血液を病変のない尿道海綿体側へ流出させる。陰茎海綿体-尿道海綿体吻合術(Quackels法など)や、亀頭経由のシャント(Winter法など)が代表的である。なお非虚血性(高流量型)では、選択的動脈塞栓術が選択される。
持続勃起症の定義
性的刺激や性欲と無関係に4時間以上持続する勃起。泌尿器科的救急疾患である。
病型と特徴
・虚血性(低流量型):頻度が高い。静脈還流障害による海綿体内の血液うっ滞。強い疼痛あり。海綿体血液ガスでは低酸素(PO2低値)、高二酸化炭素(PCO2高値)、アシドーシス(pH低値)を示し、暗赤色の血液が得られる。 ・非虚血性(高流量型):会陰部打撲などの外傷後に生じる動脈-海綿体瘻が原因。疼痛は乏しく、海綿体血液は動脈血に近い鮮紅色。勃起は完全でないことが多い。緊急性は虚血性より低い。
主な原因
・血液疾患:白血病、鎌状赤血球症(小児で重要)など ・薬剤:勃起不全治療の海綿体内注射(プロスタグランジンE1など)、抗精神病薬、抗うつ薬(トラゾドンなど)、α遮断薬 ・神経疾患:脊髄損傷など ・悪性腫瘍の陰茎浸潤 ・外傷(非虚血性の原因) ・特発性
診断
問診(持続時間、疼痛、外傷歴、薬剤歴、血液疾患の有無)、陰茎の視診・触診(陰茎海綿体は硬く、亀頭・尿道海綿体は柔らかい)、海綿体血液ガス分析、カラードプラ超音波検査で病型を判別する。血液疾患の検索のため血算も行う。
治療
・虚血性:海綿体穿刺による脱血・洗浄 → α1刺激薬(フェニレフリン)の海綿体内注入 → 無効ならシャント手術(陰茎海綿体-尿道海綿体吻合、陰茎海綿体-亀頭シャントなど)。原因疾患(白血病など)の治療も並行する。 ・非虚血性:経過観察や選択的動脈塞栓術。
予後
虚血時間が長いほど海綿体の線維化が進み、勃起不全が高率に残る。
POINT
・持続勃起症は性的刺激と無関係に4時間以上続く、疼痛を伴う勃起で、泌尿器科的緊急疾患である。 ・病変は陰茎海綿体に限られ、尿道海綿体・亀頭は侵されない → 排尿障害は通常みられない。 ・代表的な原因は白血病・鎌状赤血球症などの血液疾患、薬剤(海綿体内注射など)。 ・大部分は虚血性(低流量型)で疼痛が強く、放置すると海綿体の線維化により勃起不全が残る。 ・治療は脱血・洗浄とα1刺激薬注入、無効ならシャント手術(陰茎海綿体-尿道海綿体吻合など)。
