胎児か新生児か、一卵性か二卵性か―産科キーワードの「取り違え」を見抜く
第99回医師国家試験 E問題 第3問
国試問題にチャレンジ
組合せで誤っているのはどれか。2つ選べ。
- a.HELLP症候群 ―― 血清ALT高値
- b.Rh不適合妊娠 ―― 胎児水腫
- c.二卵性双胎 ―― 一絨毛膜性
- d.新生児仮死 ―― BPS〈biophysical profile score〉
- e.早産予知 ―― 頸管長
対話形式の解説
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ドクターまとめ
HELLP症候群は溶血・肝酵素上昇・血小板減少を3主徴とし、ALT高値はその定義に含まれます。Rh不適合妊娠では抗D抗体による胎児溶血から重症貧血を経て免疫性胎児水腫に至り、早産予知には経腟超音波による頸管長短縮(25mm未満が目安)が用いられます。一方、二卵性双胎は別々の受精卵に由来するため必ず二絨毛膜二羊膜であり、一絨毛膜性双胎は一卵性に限られます。またBPSは出生前の胎児の健常性評価法で、新生児仮死の評価にはApgarスコアを用います。評価対象が胎児か新生児か、膜性が卵性とどう関係するかという「仕組み」から理解しておくことが、周産期管理の判断と取り違えの防止につながります。
解答・解説
正解はc, dです
妊娠・周産期の代表的な病態や検査と、それに結びつくキーワードの対応を問う問題である。「誤っている組合せ」を2つ選ぶ形式なので、各組合せについて「その病態・検査の本質的な特徴として正しいか」を一つずつ判定していく。 判定の軸は次のとおりである。 ・HELLP症候群は名称そのものが3主徴(溶血・肝酵素上昇・血小板減少)の頭文字であり、肝逸脱酵素の上昇は定義に含まれる。 ・Rh不適合妊娠は母体の抗D抗体による胎児溶血で、重症例は免疫性胎児水腫に至る。 ・双胎の膜性は卵性と関連し、二卵性双胎は受精卵が別々であるため必ず二絨毛膜二羊膜となる。 ・BPS(biophysical profile score)は「出生前の胎児」の状態を評価する方法であり、「出生後の新生児」の仮死の評価にはApgarスコアを用いる。評価対象の時期(胎児か新生児か)を取り違えないことが鍵である。 ・経腟超音波での子宮頸管長の短縮は早産リスクの予測指標として確立している。 したがって、二卵性双胎と一絨毛膜性を結んだ組合せ、新生児仮死とBPSを結んだ組合せの2つが誤りとなる。
選択肢考察
- ×a. HELLP症候群 ―― 血清ALT高値
正しい組合せである。HELLP症候群はHemolysis(溶血)、Elevated Liver enzymes(肝酵素上昇)、Low Platelets(血小板減少)を3主徴とする妊娠・産褥期の病態で、妊娠高血圧症候群に合併することが多い。肝類洞の微小血管障害により肝細胞が傷害され、AST・ALT・LDHが上昇する。溶血を反映してLDH高値、間接ビリルビン上昇、ハプトグロビン低下、破砕赤血球の出現もみられる。臨床的には心窩部痛・右季肋部痛や悪心・嘔吐で発症することが多く、胃腸炎などと誤認されやすい点に注意が必要である。
- ×b. Rh不適合妊娠 ―― 胎児水腫
正しい組合せである。Rh(D)陰性の母体がRh(D)陽性胎児の赤血球に感作されると、IgG型の抗D抗体が産生され、胎盤を通過して胎児赤血球を破壊する(胎児・新生児溶血性疾患)。高度の溶血により胎児は重症貧血となり、髄外造血による肝腫大と肝機能低下(低アルブミン血症)、高拍出性心不全を来して、皮下浮腫・胸水・腹水・心嚢液貯留などの全身浮腫、すなわち免疫性胎児水腫に至る。胎児貧血の評価には中大脳動脈最高血流速度(MCA-PSV)の上昇が用いられ、重症例では胎児輸血が行われる。予防として、感作前の母体に妊娠28週前後と分娩後72時間以内に抗Dヒト免疫グロブリンを投与する。
- ○c. 二卵性双胎 ―― 一絨毛膜性
誤った組合せであり、正解の一つである。二卵性双胎は2個の卵子がそれぞれ別の精子と受精して生じるため、2つの胚はそれぞれ独立した絨毛膜と羊膜を形成し、必ず二絨毛膜二羊膜(DD)双胎となる。2つの胎盤が近接して一見1枚に癒合して見えることはあるが、膜性は二絨毛膜性である。一方、一卵性双胎は1つの受精卵が分割するため、分割時期によって膜性が変わる。受精後おおむね3日以内の分割では二絨毛膜二羊膜、4〜8日では一絨毛膜二羊膜(MD)、8〜13日では一絨毛膜一羊膜(MM)、それ以降では結合双胎となる。したがって一絨毛膜性双胎は一卵性に限られる。
- ○d. 新生児仮死 ―― BPS〈biophysical profile score〉
誤った組合せであり、正解の一つである。BPSは出生前の胎児の健常性(well-being)を評価する方法で、ノンストレステスト(NST)による胎児心拍数の反応性と、超音波検査で観察する胎児呼吸様運動・胎動・筋緊張(トーヌス)・羊水量の計5項目を、各2点または0点で採点する(満点10点)。低得点であれば胎児機能不全(NRFS)が疑われ、娩出の時期や方法の判断材料となる。これに対し、新生児仮死は出生直後の新生児の呼吸・循環不全の状態であり、その評価にはApgarスコア(心拍数、呼吸、筋緊張、反射、皮膚色の5項目、各0〜2点、生後1分と5分で評価)を用いる。一般に1分値7点以上が正常、4〜6点が軽症仮死、3点以下が重症仮死とされ、5分値は神経学的予後との関連が強い。BPSは対象が胎児であり、新生児仮死の評価法ではない。
- ×e. 早産予知 ―― 頸管長
正しい組合せである。経腟超音波で測定する子宮頸管長は早産予知の代表的な指標で、妊娠中期(おおむね妊娠24週前後)に頸管長が短いほど早産のリスクが高くなる。一般に25mm未満を頸管長短縮とみなし、早産ハイリスクとして管理を強化する。内子宮口が漏斗状に開大する所見(funneling)もリスク因子である。このほか、腟分泌物中の癌胎児性フィブロネクチンや顆粒球エラスターゼ(絨毛膜羊膜炎の指標)も早産予知に用いられる。頸管長短縮例では黄体ホルモン(プロゲステロン)腟剤投与や頸管縫縮術が検討される。
胎児評価と新生児評価の区別
・出生前(胎児)の評価: ノンストレステスト(NST)、コントラクションストレステスト(CST)、BPS、ドプラ血流計測(臍帯動脈、中大脳動脈など)、胎児心拍数陣痛図(CTG) ・出生後(新生児)の評価: Apgarスコア、臍帯動脈血ガス分析(pH、base excessなど)
BPSの5項目(各2点・満点10点)
1. NST(反応型なら2点) 2. 胎児呼吸様運動 3. 胎動(体幹・四肢の運動) 4. 筋緊張(四肢の屈曲・伸展) 5. 羊水量(羊水ポケットの深さ) NSTを省いた超音波4項目のみで評価したり、NSTと羊水量のみで評価する簡易法(modified BPS)もある。
Apgarスコアの5項目(各0〜2点・満点10点)
心拍数(Heart rate)、呼吸(Respiration)、筋緊張(Muscle tone)、反射(刺激に対する反応)、皮膚色(Color)
双胎の膜性診断
膜性は妊娠初期(妊娠10週前後まで)の超音波検査で判定するのが最も確実である。二絨毛膜性では隔膜の付着部に絨毛組織が入り込むλ(ラムダ)サイン、一絨毛膜二羊膜ではT字状のTサインがみられる。一絨毛膜双胎は胎盤内の血管吻合を介して双胎間輸血症候群(TTTS)などを生じうるため、二絨毛膜双胎より厳重な管理を要する。
HELLP症候群の要点
妊娠高血圧症候群に合併することが多いが、高血圧が軽度または認めない例もある。治療の基本は母体の全身状態の安定化と妊娠の終結(娩出)であり、播種性血管内凝固(DIC)、常位胎盤早期剝離、肝被膜下血腫・肝破裂、子癇などの重篤な合併症に注意する。
POINT
・HELLP症候群 = 溶血+肝酵素上昇(AST・ALT・LDH)+血小板減少 ・Rh不適合妊娠 → 抗D抗体による胎児溶血 → 胎児貧血 → 免疫性胎児水腫 ・二卵性双胎は必ず二絨毛膜二羊膜。一絨毛膜性双胎は一卵性のみ ・BPSは胎児の評価法、新生児仮死の評価はApgarスコア ・早産予知: 経腟超音波で頸管長短縮(25mm未満が目安)、funneling、癌胎児性フィブロネクチン
