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めまいに耳鳴が重なったら―「蝸牛症状」で見抜くMénière病

第99回医師国家試験 D問題 第75問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第75問

めまい発作に耳鳴を伴うのはどれか。

  1. a.前庭神経炎
  2. b.Ménière病
  3. c.良性発作性頭位めまい症
  4. d.Wallenberg症候群
  5. e.Parkinson病

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、めまいを起こす疾患のうち、耳鳴を伴うものを選ぶ問題だ。めまいの鑑別で大きな手がかりになるのが、耳鳴・難聴・耳閉感といった「蝸牛症状」を伴うかどうか。まずは内耳の構造から考えてみよう。内耳はどんな部品でできていたかな。
医学生医学生
聴覚を担う蝸牛と、平衡覚を担う前庭と三半規管です。生理学の講義で、膜迷路の中は内リンパで満たされていると習いました。
ドクタードクター
その通り。大事なのは、蝸牛と前庭が内リンパで満たされた一続きの膜迷路としてつながっていることだ。だから膜迷路全体に及ぶ病変なら、めまいと蝸牛症状が同時に出る。逆に前庭だけ、あるいは聴覚路を含まない場所の病変なら、めまいだけになる。
医学生医学生
ということは、内リンパがたまるMénière病なら、両方に症状が出るということですね。
ドクタードクター
正解。Ménière病は内リンパ水腫が病態で、水腫が蝸牛と前庭の両方に及ぶ。数十分から数時間続く回転性めまい発作に、耳鳴・難聴・耳閉感が同時に伴い、それを繰り返すのが典型像だ。発作と連動して蝸牛症状が悪くなったり良くなったりする点が診断の要点になる。
医学生医学生
耳鼻科の実習で、Ménière病の患者さんのオージオグラムが低音だけ落ちていたのを覚えています。
ドクタードクター
いい観察だね。初期は低音障害型の感音難聴が中心で、発作を繰り返すうちに難聴が進行・固定していくことが多い。では、ほかの選択肢も見ていこう。前庭神経炎はどうかな。
医学生医学生
突然の激しい回転性めまいで、何日も続くんですよね。神経の炎症なら、聴神経全体がやられて難聴も出そうな気がしますが。
ドクタードクター
そこは間違えやすいところ。第VIII脳神経のうち、障害されるのは平衡覚を伝える前庭神経で、聴覚を伝える蝸牛神経は侵されない。だから蝸牛症状は伴わない。上気道感染が先行することが多く、めまいは通常一回きりで反復しない点もMénière病と違う。カロリックテストで患側の半規管麻痺がみられる。
医学生医学生
良性発作性頭位めまい症は、寝返りや起き上がりでめまいが起きる疾患ですね。
ドクタードクター
そう、めまい疾患の中で最も多い。剥がれた耳石が半規管に入り込むなどして、頭の位置を変えたときに1分以内の短い回転性めまいが起こる。病変は半規管に限られるから、耳鳴や難聴は伴わない。Dix-Hallpike法で眼振を誘発して診断し、Epley法などの耳石置換法で治療するんだ。
医学生医学生
Wallenberg症候群は脳梗塞なので、中枢性のめまいですよね。
ドクタードクター
その通り。椎骨動脈や後下小脳動脈の閉塞による延髄外側の梗塞で、前庭神経核の障害でめまい・眼振が出る。ほかに嚥下障害・嗄声、病側顔面と対側半身の温痛覚障害、Horner症候群、小脳性運動失調などを伴う。ただし聴覚路は通常障害されないので、耳鳴・難聴は伴わないのが原則だ。
医学生医学生
神経内科の実習で、交代性感覚障害の診察を指導医に見せてもらいました。脳卒中なら難聴は出ないと覚えればいいですか。
ドクタードクター
そこは少し注意が必要だね。前下小脳動脈領域の梗塞では、内耳を栄養する動脈の血流も途絶えて難聴を伴うことがある。「難聴があるから末梢性で安心」とは決めつけないことが大切だ。構音障害や複視、運動失調など、他の神経症状がないかを必ず確認しよう。
医学生医学生
Parkinson病もふらつきますが、内耳とは関係ないですよね。
ドクタードクター
そう。姿勢反射障害による転倒しやすさや、自律神経障害による起立性低血圧での立ちくらみはあるけれど、内耳は障害されないので、回転性めまい発作や耳鳴は起こらない。「ふらつき」と「回転性めまい」を区別する視点も持っておこう。
医学生医学生
蝸牛症状があるかどうかと、めまいを繰り返すかどうかの2つで整理すると分かりやすいですね。
ドクタードクター
その整理がいいね。発展として、蝸牛症状を伴うめまいにはMénière病以外にも、めまいを伴う突発性難聴、外リンパ瘻、聴神経腫瘍、内耳炎などがある。突発性難聴は通常反復せず、外リンパ瘻はいきみや鼻かみ、気圧変化が誘因になる。Ménière病の治療は、ストレスや睡眠不足を避ける生活指導と、イソソルビドなどの浸透圧利尿薬が中心で、難治例では中耳加圧治療や内リンパ嚢開放術が検討される。

まとめ

めまいの鑑別では、耳鳴・難聴・耳閉感といった蝸牛症状を伴うかどうかが重要な手がかりになります。蝸牛と前庭は一続きの膜迷路なので、内リンパ水腫を病態とするMénière病では、めまい発作に蝸牛症状が同時に伴い、それを反復するのが典型で、初期には低音障害型感音難聴がみられます。前庭神経炎や良性発作性頭位めまい症は前庭系に限局した障害のため蝸牛症状を伴わず、延髄外側の梗塞であるWallenberg症候群も通常は難聴を伴いません。ただし前下小脳動脈領域の梗塞では難聴を伴うことがあり、難聴の有無だけで中枢性を否定しない注意が必要です。「蝸牛症状の有無」と「反復性・持続時間・誘因」を組み合わせる考え方は、外来や救急でのめまい診療の基本となります。

解答・解説

正解はbです

めまいを訴える疾患を鑑別するときには、めまいに「蝸牛症状」が伴うかどうかが重要な手がかりになる。蝸牛症状とは、内耳のうち聴覚を担う蝸牛やその神経路の障害によって生じる症状であり、耳鳴・難聴・耳閉感(耳が詰まった感じ)が代表である。 内耳は、聴覚をつかさどる蝸牛と、平衡覚をつかさどる前庭(耳石器と三半規管)とから成り、両者は内リンパ液で満たされた一続きの膜迷路としてつながっている。したがって膜迷路全体に及ぶ病変(内リンパ水腫など)では、めまい(前庭症状)と耳鳴・難聴(蝸牛症状)が同時に現れる。一方、病変が前庭系だけに限られる疾患(前庭神経炎、良性発作性頭位めまい症)や、聴覚路を含まない中枢病変(延髄外側の梗塞など)では、めまいはあっても蝸牛症状は伴わない。 本問の選択肢のうち、めまい発作に耳鳴・難聴・耳閉感を伴い、しかもそれを反復するのが典型像である疾患は Ménière病である。「めまい+蝸牛症状の反復」と「めまいのみ」とを区別できるかが問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  前庭神経炎

    前庭神経炎は、前庭神経(第VIII脳神経のうち平衡覚を伝える枝)の炎症によって、突然の激しい回転性めまいが起こり、数日間持続する疾患である。上気道感染が先行することが多く、ウイルス感染の関与が考えられている。障害は前庭神経に限られ、聴覚を伝える蝸牛神経は侵されないため、耳鳴・難聴などの蝸牛症状は伴わない。めまいは通常一回きりで、Ménière病のように反復しない点も異なる。温度眼振検査(カロリックテスト)で患側の半規管麻痺(CP)がみられる。

  2. ○b.  Ménière病

    Ménière病は、内耳の膜迷路に内リンパ液が過剰にたまる内リンパ水腫を病態とする疾患である。水腫は蝸牛と前庭の両方に及ぶため、数十分から数時間続く回転性めまい発作に、耳鳴・難聴・耳閉感といった蝸牛症状が同時に伴い、これを繰り返す。難聴は初期には低音域の感音難聴が中心で、発作を反復するうちに進行・固定していくことが多い。発作と連動して蝸牛症状が増悪・軽快することが診断上の要点であり、本問の「めまい発作に耳鳴を伴う」に合致する。

  3. ×c.  良性発作性頭位めまい症

    良性発作性頭位めまい症(BPPV: benign paroxysmal positional vertigo)は、耳石器から剥がれた耳石の破片が半規管内に入り込む(または半規管のクプラに付着する)ことで、寝返りや起き上がりなど特定の頭位変換時に数十秒~1分以内の短い回転性めまいが起こる疾患である。めまい疾患の中で最も頻度が高い。病変は前庭系の半規管に限局しており、蝸牛は障害されないので耳鳴・難聴は伴わない。頭位・頭位変換眼振検査(Dix-Hallpike法など)で特徴的な眼振が誘発され、耳石置換法(Epley法など)で治療する。

  4. ×d.  Wallenberg症候群

    Wallenberg症候群(延髄外側症候群)は、椎骨動脈や後下小脳動脈(PICA)の閉塞による延髄外側の梗塞である。前庭神経核の障害によりめまい・悪心・嘔吐・眼振が起こり、ほかに疑核の障害による嚥下障害・嗄声(舌咽・迷走神経の障害)、病側顔面と対側体幹・上下肢の温痛覚障害(交代性感覚障害)、病側のHorner症候群、病側の小脳性運動失調などを呈する。一方、聴覚路(蝸牛神経核)は通常障害されないため、耳鳴・難聴は伴わないのが原則である。なお、前下小脳動脈(AICA)領域の梗塞では内耳動脈の血流障害により難聴を伴うことがあり、脳卒中によるめまいで難聴を伴う場合はこちらを考える。

  5. ×e.  Parkinson病

    Parkinson病は、中脳黒質のドパミン神経細胞の変性による神経変性疾患で、静止時振戦・筋強剛・無動・姿勢反射障害を主症状とする。姿勢反射障害による転倒しやすさや、自律神経障害に伴う起立性低血圧による立ちくらみはみられるが、内耳(前庭・蝸牛)は障害されないため、回転性のめまい発作や、それに伴う耳鳴・難聴は起こらない。

めまいの分類と蝸牛症状

めまいは障害部位により、末梢性(内耳・前庭神経)と中枢性(脳幹・小脳)に大別される。末梢性めまいのうち、蝸牛症状を伴うか否かで次のように整理できる。 ・蝸牛症状を伴う:Ménière病(反復性)、めまいを伴う突発性難聴(通常は一回きり)、外リンパ瘻(いきみ・鼻かみ・気圧変化などが誘因)、聴神経腫瘍(進行性の一側難聴・耳鳴が主で、めまいは軽いことが多い)、内耳炎 ・蝸牛症状を伴わない:良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎

各疾患のめまいの特徴

・良性発作性頭位めまい症:頭位変換で誘発、持続は1分以内、反復する ・Ménière病:誘因なく起こることが多い、数十分~数時間、反復し蝸牛症状を伴う ・前庭神経炎:突然発症、数日間持続、通常一回のみ、蝸牛症状なし ・突発性難聴:突然の一側性感音難聴、約3割程度にめまいを伴う、通常反復しない

中枢性めまいの注意点

中枢性めまいでは、構音障害・嚥下障害・複視・四肢の運動失調・感覚障害など他の神経症状を伴うことが多い。多くは蝸牛症状を伴わないが、前下小脳動脈(AICA)領域の梗塞では内耳の血流障害により難聴・耳鳴を伴うことがあり、「難聴があるから末梢性」と決めつけない注意も必要である。

Ménière病の検査・治療

純音聴力検査で低音障害型感音難聴、グリセロールテストやフロセミドテスト、蝸電図などで内リンパ水腫を推定する。治療は生活指導(ストレス・睡眠不足の回避)、浸透圧利尿薬(イソソルビド)などの薬物治療が中心で、難治例では中耳加圧治療や手術(内リンパ嚢開放術など)が考慮される。

POINT

・耳鳴・難聴・耳閉感を「蝸牛症状」と呼ぶ。 ・めまい発作に蝸牛症状を伴い、反復する代表疾患は Ménière病(内リンパ水腫)である。 ・良性発作性頭位めまい症と前庭神経炎は、前庭系に限局した障害のため蝸牛症状を伴わない。 ・Wallenberg症候群(PICA・椎骨動脈領域)は通常難聴を伴わない。難聴を伴う脳梗塞ではAICA領域を考える。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。