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臍のまわりが痛むのはなぜ?―発生学で読み解く回腸の内臓痛

第99回医師国家試験 D問題 第63問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第63問

腹部の図を示す。 回腸の攣縮による痛みを感じる部位はどれか。

第99回 D問題 第63問の問題画像
  1. a.①
  2. b.②
  3. c.③
  4. d.④
  5. e.⑤

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腸がけいれん性に強く収縮したときの痛みが、お腹のどこに感じられるかを問う問題だ。カギは「内臓痛」という痛みの性質と、その臓器が発生学的にどこから来たか、の2点だよ。まず図の位置を確認しておこう。正面から見た図なので、向かって左が患者の右側になる。上から心窩部、左右の側腹部、臍部、下腹部が示されているね。
医学生医学生
回腸は右下腹部にあるので、右寄りのどこかで痛むのかなと思ったんですが、選択肢に右下腹部はないですね。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。臓器がある場所と、内臓痛を感じる場所は必ずしも一致しない。腹痛は大きく内臓痛・体性痛・関連痛に分けられるけど、腸の攣縮や伸展で起こるのは内臓痛だ。内臓痛は交感神経に伴走する求心性線維で伝わり、臓器の神経支配は左右両側性で密度も低い。だから鈍くて場所がはっきりせず、お腹の真ん中、つまり正中線上に感じられることが多いんだ。
医学生医学生
生理学の講義で、内臓の痛覚は局在がはっきりしないと習いました。だから左右の側腹部は外れる、ということですね。
ドクタードクター
その通り。では正中のどの高さか。ここで発生学が効いてくる。消化管は前腸・中腸・後腸に分かれていて、それぞれ入る脊髄分節が違う。前腸由来の胃や十二指腸近位部、肝・胆道、膵の痛みは心窩部。中腸由来の小腸や虫垂、上行結腸、横行結腸の口側約3分の2は臍周囲。後腸由来の横行結腸の残りからS状結腸、直腸上部は下腹部、という対応だ。
医学生医学生
回腸は中腸由来なので、臍周囲になるんですね。
ドクタードクター
正解。中腸からの痛覚線維はおもにTh10前後の脊髄分節に入り、Th10の皮膚分節はちょうど臍の高さに相当する。だから回腸の攣縮痛は臍周囲の漠然とした痛みとして自覚されるんだ。
医学生医学生
心窩部が痛むのはどんな場合でしたっけ。
ドクタードクター
前腸由来の臓器の痛みだね。胆石発作、胃・十二指腸潰瘍、急性膵炎の初期などが心窩部痛として現れやすい。回腸とは由来が違うから当てはまらない。
医学生医学生
下腹部の正中は後腸由来の大腸ですね。膀胱や子宮も下腹部に痛みが出ると産婦人科の実習で聞きました。
ドクタードクター
よく覚えているね。S状結腸や直腸上部、それに膀胱や子宮・付属器などの骨盤内臓器の痛みが下腹部に出やすい。左右の側腹部の痛みは、上行結腸・下行結腸、腎・尿管など、その場所にある臓器の病変や、炎症が壁側腹膜に及んだ体性痛として出ることが多いんだ。
医学生医学生
内臓痛は正中で高さは発生学的由来、側方に偏った限局痛は体性痛を考える、という整理でいいですか。
ドクタードクター
いい整理だ。体性痛は壁側腹膜などに分布する脊髄神経を介するから、鋭く持続的で病変部にはっきり局在し、体動で増強する。圧痛や筋性防御、反跳痛といった腹膜刺激症状も伴うね。一方、内臓痛は波のように強弱をくり返す疝痛になりやすく、悪心・嘔吐や冷汗などの自律神経症状を伴いやすい。
医学生医学生
虫垂炎で痛みが移動するのも、この違いで説明できるんですよね。CBTの勉強で丸暗記していました。
ドクタードクター
まさにそれが一番の好例だ。虫垂も中腸由来だから、初期は心窩部から臍周囲の漠然とした内臓痛で始まる。炎症が周囲の壁側腹膜に及ぶと体性痛になって、右下腹部のマックバーニー点付近に限局してくる。丸暗記ではなく、仕組みとして理解しておくと応用が利くよ。
医学生医学生
腸閉塞の初期に臍のまわりが周期的に痛むのも同じ仕組みでしょうか。
ドクタードクター
その通り。小腸の閉塞では初期に間欠的な臍周囲の疝痛がみられる。ただ、痛みが持続性に変わったり、腹膜刺激症状が出てきたりしたら、絞扼による虚血や穿孔で腹膜に炎症が及んでいる可能性を考えなければいけない。痛みの「性質の変化」は緊急手術を考える重要なサインなんだ。関連痛も押さえておこう。胆嚢疾患での右肩痛、心筋梗塞での左肩・左腕痛、尿管結石での鼠径部への放散痛などは、内臓と同じ脊髄分節の皮膚に痛みが投影されたものだ。
医学生医学生
皮膚分節はTh4が乳頭、Th10が臍、L1が鼠径部と覚えておけば、痛みの場所から臓器をある程度推測できますね。
ドクタードクター
そういうこと。問診で「どこが、どんなふうに痛むか」を丁寧に聞くだけで、かなり鑑別を絞り込めるよ。

まとめ

腸管の攣縮や伸展による痛みは内臓痛であり、自律神経に伴走する求心性線維を介して伝わるため、鈍く局在不明瞭で腹部正中に感じられます。痛む高さは臓器の発生学的由来で決まり、前腸由来は心窩部、中腸由来は臍周囲、後腸由来は下腹部が目安です。回腸は中腸由来で、その痛覚はTh10前後の脊髄分節に入るため、攣縮痛は臍周囲に感じられます。炎症が壁側腹膜に及ぶと、病変部に限局した鋭い体性痛に変わり、虫垂炎での臍周囲から右下腹部への痛みの移動はその典型です。内臓痛・体性痛・関連痛の違いを理解しておくことは、腹痛診療で病変臓器や重症度を推定する基本になります。

解答・解説

正解はcです

本問は、腸管の攣縮(けいれん性の強い収縮)によって生じる「内臓痛」が、腹壁のどこに感じられるかを問う一般問題である。

図の読み方

図は患者の腹部を正面から見たもので、①は心窩部(みぞおち)、②は患者の右側腹部、③は臍部(臍周囲)、④は患者の左側腹部、⑤は下腹部(恥骨上部)に位置する。正面図なので、図の向かって左が患者の右側である点に注意する。

内臓痛の性質

腹痛は、発生の仕組みから内臓痛・体性痛・関連痛に分けられる。内臓痛は、管腔臓器の伸展・攣縮や被膜の急な伸展などが、臓器に分布する自律神経(交感神経)に伴走する求心性線維を介して伝わる痛みである。臓器からの神経支配は左右両側性で、分布密度も低いため、痛みは局在がはっきりしない鈍い痛み・差し込むような痛みとなり、腹部の正中線上で自覚されることが多い。悪心・嘔吐・冷汗などの自律神経症状を伴いやすい。

痛みを感じる高さを決めるもの

内臓痛がどの高さの正中部に感じられるかは、その臓器が発生学的に前腸・中腸・後腸のどれに由来するか(すなわち、どの脊髄分節に入力するか)でおおよそ決まる。 ・前腸由来(胃、十二指腸近位部、肝・胆道、膵):心窩部 ・中腸由来(十二指腸遠位部〜空腸・回腸、虫垂、上行結腸、横行結腸の口側約2/3):臍周囲 ・後腸由来(横行結腸の肛門側約1/3〜下行結腸、S状結腸、直腸上部):下腹部 回腸は中腸由来であり、その攣縮による内臓痛は臍周囲(主にTh10の皮膚分節の高さ)に感じられる。したがって③が該当する。

選択肢考察

  1. ×a.  ①

    ①は心窩部である。この部位に内臓痛として感じられるのは、前腸由来の臓器(胃、十二指腸近位部、肝臓・胆道、膵臓)の痛みである。胆石発作や胃・十二指腸潰瘍、急性膵炎の初期などが心窩部痛として現れる。回腸は中腸由来であり、心窩部の痛みとはならない。

  2. ×b.  ②

    ②は患者の右側腹部である。この部位の痛みは、上行結腸や右腎・右尿管など、その場所に位置する臓器の病変や、炎症が壁側腹膜に及んだ際の体性痛として生じることが多い。回腸の攣縮による内臓痛は左右両側性の神経支配を受けるため、側方に偏らず正中の臍周囲に感じられるので、②は該当しない。

  3. ○c.  ③

    ③は臍部(臍周囲)である。回腸は空腸とともに中腸から発生し、その求心性の痛覚線維は内臓神経(小内臓神経)を経ておもにTh10前後の脊髄分節に入る。Th10の皮膚分節は臍の高さに相当するため、回腸の攣縮による内臓痛は臍周囲の漠然とした痛みとして自覚される。腸閉塞(イレウス)の初期にみられる間欠的な臍周囲の疝痛や、虫垂炎初期の臍周囲痛も同じ仕組みによる。

  4. ×d.  ④

    ④は患者の左側腹部である。この部位の痛みは、下行結腸や左腎・左尿管など局所にある臓器の病変や、その周囲の壁側腹膜への炎症波及による体性痛として生じることが多い。回腸の内臓痛は正中の臍周囲で感じられるため、④は該当しない。

  5. ×e.  ⑤

    ⑤は下腹部(恥骨上部)である。この部位に内臓痛として感じられるのは、後腸由来の臓器(横行結腸遠位部〜下行結腸、S状結腸、直腸上部)や、膀胱、子宮・付属器などの骨盤内臓器の痛みである。回腸は中腸由来であり、下腹部の正中ではなく、より高い臍周囲で痛みを感じる。

腹部の9分画

左右の鎖骨中線を延長した2本の縦線と、肋骨弓下縁を結ぶ線・左右の上前腸骨棘(または腸骨稜)を結ぶ線の2本の横線で腹部を9つに分ける。上段は右季肋部・心窩部(上腹部)・左季肋部、中段は右側腹部・臍部・左側腹部、下段は右腸骨部(右鼠径部)・下腹部(恥骨上部)・左腸骨部(左鼠径部)である。本問の①〜⑤はこのうちの心窩部、右側腹部、臍部、左側腹部、下腹部に相当する。

腹痛の3つの型

・内臓痛:臓器の伸展、攣縮、虚血、被膜の伸展などで生じる。交感神経に伴走する求心性線維(C線維が主体)を介して伝わる。鈍く局在不明瞭で正中に感じられ、周期的に強弱をくり返す疝痛となることがある。悪心・嘔吐、冷汗、顔面蒼白などを伴いやすい。 ・体性痛:炎症などが壁側腹膜や腸間膜、横隔膜に及んだときに、脊髄神経(体性神経)を介して生じる。鋭く持続的で、病変のある部位にはっきり局在する。体動で増強し、圧痛、筋性防御、反跳痛(ブルンベルグ徴候)などの腹膜刺激症状を伴う。 ・関連痛:内臓からの求心性線維と同じ脊髄分節に入る皮膚の領域に、痛みが投影されて感じられるもの。例として、胆嚢疾患での右肩・右肩甲部痛、横隔膜刺激による肩痛、心筋梗塞での左肩・左腕痛、尿管結石での鼠径部・陰部への放散痛などがある。

虫垂炎の痛みの移動

虫垂は中腸由来のため、初期には内臓痛として心窩部〜臍周囲の漠然とした痛みで始まる。炎症が虫垂周囲の壁側腹膜に及ぶと体性痛となり、右下腹部(マックバーニー点付近)に限局した痛みへ移る。内臓痛と体性痛の違いを理解するのに好適な例である。

主な皮膚分節の目安

・Th4:乳頭の高さ ・Th6〜7:剣状突起(心窩部)の高さ ・Th10:臍の高さ ・L1:鼠径部の高さ

POINT

・内臓痛は局在が乏しく、腹部の正中線上に感じられる鈍い痛みである。 ・痛む高さは発生学的由来で決まる:前腸→心窩部、中腸→臍周囲、後腸→下腹部。 ・小腸(空腸・回腸)は中腸由来であり、その攣縮痛は臍周囲(Th10)に感じる。 ・腹膜に炎症が及ぶと体性痛となり、病変部位に限局した鋭い痛みになる(虫垂炎での心窩部・臍周囲から右下腹部への痛みの移動)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。