過換気でCO2が下がる理由と「左右シャント」の落とし穴―呼吸生理5つの基本を総点検
第99回医師国家試験 D問題 第42問
国試問題にチャレンジ
正しいのはどれか。2つ選べ。
- a.動脈血二酸化炭素分圧は過換気で低下する。
- b.機能的残気量は安静呼気位の肺内ガス量である。
- c.肺サーファクタントは肺胞Ⅰ型細胞が産生する。
- d.静肺コンプライアンスは肺の抵抗を示す指標である。
- e.肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉は左右シャントで開大する。
対話形式の解説
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医学生まとめ
PaCO2は肺胞換気量に反比例するため、過換気で低下し低換気で上昇します。機能的残気量は安静呼気位の肺内ガス量(予備呼気量+残気量)で、残気量を含むためスパイロメトリー単独では測定できません。サーファクタントは肺胞II型細胞が産生し、コンプライアンスは肺の膨らみやすさを表す指標であって気道抵抗とは別概念です。A-aDO2は換気血流比不均等・拡散障害・右→左シャントで開大し、左→右シャントや肺胞低換気では開大しません。これらの定義を正確に押さえておくことが、血液ガスの解釈や低酸素血症の原因検索を行う臨床推論の土台になります。
解答・解説
正解はa, bです
問われているテーマ
呼吸生理の基本事項として、(1) 換気と動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)の関係、(2) 肺気量分画の定義、(3) 肺サーファクタントの産生細胞、(4) コンプライアンスと抵抗の区別、(5) 肺胞気-動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)が開大する病態、を横断的に確認する問題である。
考え方
・PaCO2は肺胞換気量に反比例する(PaCO2 ≒ 0.863 × VCO2 / VA、VCO2はCO2産生量、VAは肺胞換気量)。換気が増えれば低下し、減れば上昇する。 ・肺気量分画は「どの呼吸位置で区切るか」を意識して覚える。安静呼気位(安静時に息を吐き終えた位置)で肺に残っているガス量が機能的残気量である。 ・肺胞上皮はガス交換を担う扁平なI型細胞と、サーファクタントを分泌する立方状のII型細胞からなる。 ・コンプライアンスは「膨らみやすさ(圧変化あたりの容量変化)」、抵抗は「気道の空気の通りにくさ」であり、別の概念である。 ・A-aDO2は肺でのガス交換の効率を表す指標で、静脈血が酸素化されずに動脈側へ流入する状態(右→左シャント)で開大する。左→右シャントでは動脈血に静脈血が混ざらないため、A-aDO2は開大しない。 以上より、正しいのはaとbである。
選択肢考察
- ○a. 動脈血二酸化炭素分圧は過換気で低下する。
CO2は拡散能が高く、PaCO2はほぼ肺胞気のCO2分圧と等しい。PaCO2は肺胞換気量に反比例するため、CO2産生量が一定なら、肺胞換気量が増える(過換気)ほどCO2が体外へ多く排出され、PaCO2は低下する(基準値は35〜45Torr)。臨床的には過換気症候群、代謝性アシドーシスへの呼吸性代償(Kussmaul呼吸)などでPaCO2低下と呼吸性アルカローシスがみられる。逆に低換気(肺胞低換気)ではPaCO2が上昇する。
- ○b. 機能的残気量は安静呼気位の肺内ガス量である。
機能的残気量(functional residual capacity〈FRC〉)は、安静呼気位において肺内に残っているガス量であり、予備呼気量(ERV)と残気量(RV)の和に等しい。安静呼気位は、肺が縮もうとする力と胸郭が広がろうとする力がつり合う位置である。FRCには残気量が含まれるためスパイロメトリーだけでは測定できず、ガス希釈法(ヘリウム閉鎖回路法、窒素洗い出し法)や体プレチスモグラフ法で測定する。COPDなど閉塞性障害ではFRCが増加し、間質性肺炎など拘束性障害では減少する。
- ×c. 肺サーファクタントは肺胞Ⅰ型細胞が産生する。
肺サーファクタント(肺表面活性物質)を産生・分泌するのは肺胞II型上皮細胞であり、I型細胞ではない。I型細胞は肺胞表面の大部分を覆う薄い扁平な細胞で、ガス交換の場を形成する。II型細胞は細胞内の層板小体にサーファクタントを蓄え、肺胞腔へ分泌する。サーファクタントの主成分はリン脂質(ジパルミトイルホスファチジルコリンなど)とサーファクタント蛋白で、肺胞の表面張力を下げて呼気時の肺胞虚脱を防ぐ。II型細胞はI型細胞が障害されたときにI型細胞へ分化して上皮を修復する前駆細胞の役割ももつ。産生が不十分な早産児では新生児呼吸窮迫症候群(RDS)が起こる。
- ×d. 静肺コンプライアンスは肺の抵抗を示す指標である。
静肺コンプライアンス(Cst)は、気流のない状態での肺の膨らみやすさ(伸展性)を表す指標で、単位圧変化あたりの肺容量変化(ΔV/ΔP)で表される。肺の弾性(縮もうとする力、エラスタンス)の逆数にあたり、抵抗を示す指標ではない。気道の空気の通りにくさを表すのは気道抵抗である。肺線維症・間質性肺炎では肺が硬くなりコンプライアンスは低下し、肺気腫では弾性線維の破壊により上昇する。
- ×e. 肺胞気-動脈血酸素分圧較差〈A-aDO2〉は左右シャントで開大する。
A-aDO2は、肺胞気酸素分圧(PAO2)と動脈血酸素分圧(PaO2)の差であり、肺のガス交換障害の程度を示す。室内気吸入下では PAO2 ≒ 150 − PaCO2/0.8 で近似でき、健常若年者のA-aDO2は10Torr以下程度である(加齢で増大する)。A-aDO2が開大するのは、換気血流比不均等、拡散障害、右→左シャント(肺動静脈瘻、無気肺の領域を流れる血流、Eisenmenger化した心疾患など)である。左→右シャント(心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症など)では、酸素化された動脈血が肺循環へ戻るだけで、酸素化されていない静脈血が体循環の動脈側へ混ざることはないため、A-aDO2は開大しない。「右左シャント」であれば正しい記述となる。なお、純粋な肺胞低換気(薬物による呼吸抑制など)ではPaO2は低下してもA-aDO2は正常に保たれる点も鑑別に重要である。
肺気量分画
・1回換気量(TV): 安静時1回の呼吸で出入りする量 ・予備吸気量(IRV): 安静吸気位からさらに吸える量 ・予備呼気量(ERV): 安静呼気位からさらに吐ける量 ・残気量(RV): 最大呼気後も肺に残る量 ・機能的残気量(FRC)= ERV + RV(安静呼気位の肺内ガス量) ・肺活量(VC)= IRV + TV + ERV ・全肺気量(TLC)= VC + RV ・最大吸気量(IC)= TV + IRV RVを含むFRC・TLCはスパイロメトリー単独では測定できない。
低酸素血症の5つの機序とA-aDO2
・肺胞低換気: A-aDO2正常、PaCO2上昇 ・吸入酸素分圧の低下(高地など): A-aDO2正常 ・換気血流比不均等: A-aDO2開大、酸素投与で改善しやすい ・拡散障害: A-aDO2開大、特に運動時に顕在化 ・右→左シャント: A-aDO2開大、酸素投与でも改善しにくい
肺胞上皮細胞
・I型細胞: 扁平、肺胞表面の大部分を覆いガス交換を担う ・II型細胞: 立方状、サーファクタントを産生、I型細胞の前駆細胞
POINT
・PaCO2は肺胞換気量に反比例し、過換気で低下、低換気で上昇する。 ・機能的残気量は安静呼気位の肺内ガス量(= 予備呼気量 + 残気量)。 ・サーファクタントは肺胞II型細胞が産生する。 ・コンプライアンスは肺の膨らみやすさ、抵抗とは別概念。肺線維症で低下、肺気腫で上昇。 ・A-aDO2は右→左シャント、換気血流比不均等、拡散障害で開大する。左→右シャントや肺胞低換気では開大しない。
