StudyMed医師国家試験

大動脈を上流からたどる旅―冠動脈から腸骨動脈まで、左右非対称を見抜く血管解剖

第99回医師国家試験 D問題 第43問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第43問

正しいのはどれか。3つ選べ。

  1. a.右冠動脈はValsalva洞の右前方から起始する。
  2. b.右鎖骨下動脈は胸部大動脈から分枝する。
  3. c.左鎖骨下動脈は総頸動脈から分枝する。
  4. d.左内胸動脈は左鎖骨下動脈から分枝する。
  5. e.総腸骨動脈は外腸骨動脈と内腸骨動脈とに分岐する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は心臓と大血管の基本解剖の問題だ。コツは、大動脈を根元から順にたどって「どの血管がどこから出るか」を一本の流れとして整理すること。特に左右で分岐の仕方が違う点に注目してほしい。まずは大動脈の根元、Valsalva洞から始めよう。
医学生医学生
大動脈弁のすぐ上にある3つのふくらみですよね。解剖実習で心臓を開いたとき、冠動脈の入口を探すのに苦労しました。
ドクタードクター
そう、大動脈洞とも呼ぶ。右前方の洞から右冠動脈、左後方の洞から左冠動脈が出て、残る右後方の洞からは冠動脈が出ないので無冠尖洞と呼ばれる。だから右冠動脈が右前方から起始する、という記述は正しい。
医学生医学生
右冠動脈は房室間溝を右回りに走るんでしたね。循環器内科の実習で、下壁梗塞では右冠動脈を疑えと言われました。
ドクタードクター
いいつながりだ。右冠動脈は洞結節枝や房室結節枝を出すことが多いから、閉塞すると下壁梗塞に加えて房室ブロックなどの徐脈性不整脈が起こりやすい。次は大動脈弓の分枝。3本を右から言えるかな。
医学生医学生
腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈です。だから右鎖骨下動脈が胸部大動脈から出るというのは違う気がします。
ドクタードクター
正解。右鎖骨下動脈は腕頭動脈が右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれてできる枝で、下行大動脈から直接は出ない。ただし先天異常として、右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として出て、食道の後ろを通って右へ向かうことがある。嚥下障害の原因になりうるけれど、あくまで正常解剖ではないよ。
医学生医学生
では左鎖骨下動脈が総頸動脈から出る、というのも誤りですね。右の腕頭動脈のイメージに引っ張られると間違えそうです。
ドクタードクター
まさにそのひっかけだね。右側には腕頭動脈という共通の幹があるけれど、左側にはない。左総頸動脈と左鎖骨下動脈はそれぞれ大動脈弓から独立して出る。この左右の非対称性が今回の問題の核心なんだ。
医学生医学生
左内胸動脈は鎖骨下動脈の枝だったと思います。CABGで使う血管ですよね。
ドクタードクター
その通り。内胸動脈は左右とも鎖骨下動脈の第1部の下面から出て、胸骨の外側縁の裏を下行する。同じあたりの上面から出て上に向かうのが椎骨動脈。上に椎骨、下に内胸と覚えると整理しやすい。
医学生医学生
心臓血管外科の見学で、左内胸動脈を左前下行枝につなぐ手術を見ました。なぜ静脈グラフトよりよく使われるんですか。
ドクタードクター
内胸動脈は動脈硬化を起こしにくく、長期開存率が高いからだ。左内胸動脈を左前下行枝へ吻合する組み合わせは、バイパス術の中でも長期成績が最も良いとされている。最後に下半身側、総腸骨動脈を見てみよう。
医学生医学生
腹部大動脈が第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれて、それぞれが外腸骨動脈と内腸骨動脈に分かれる、で正しいですね。
ドクタードクター
正しい。外腸骨動脈は鼠径靱帯の下をくぐって大腿動脈になり下肢へ、内腸骨動脈は膀胱・子宮・直腸などの骨盤内臓器や殿部を栄養する。というわけで、正しいのは右冠動脈の起始、左内胸動脈の起始、総腸骨動脈の分岐の3つだ。
医学生医学生
大動脈を上から順に追っていけば、どれも迷わず判断できますね。
ドクタードクター
そうだね。臨床とのつながりも押さえておこう。鎖骨下動脈盗血症候群は、椎骨動脈が分かれるより手前で鎖骨下動脈が狭窄すると、腕を使ったときに椎骨動脈の血流が逆流して上肢へ流れ、めまいなどが出る病態で、左側に多い。左鎖骨下動脈が大動脈弓から直接出る構造と関係して覚えておくといい。それから腹部大動脈瘤は腎動脈より下に好発し、総腸骨動脈まで及ぶこともある。
医学生医学生
解剖の知識が、そのまま症状や手術の理解につながるんですね。

まとめ

大動脈基部のValsalva洞では、右前方から右冠動脈、左後方から左冠動脈が起始し、右後方は無冠尖洞です。大動脈弓からは腕頭動脈・左総頸動脈・左鎖骨下動脈の3本が出て、右鎖骨下動脈と右総頸動脈は腕頭動脈から分かれるという左右非対称性が重要です。内胸動脈は鎖骨下動脈の下面から、椎骨動脈は上面から分枝し、左内胸動脈は冠動脈バイパス術の代表的なグラフトとして用いられます。腹部大動脈は第4腰椎の高さで総腸骨動脈に分かれ、さらに下肢へ向かう外腸骨動脈と骨盤内臓器を栄養する内腸骨動脈に分岐します。大動脈を上流から一本の流れとしてたどる整理は、鎖骨下動脈盗血症候群や冠動脈疾患、動脈瘤などの臨床病態を理解するうえでの基礎になります。

解答・解説

正解はa, d, eです

心臓と大血管の基本的な解剖を問う一般問題である。大動脈の走行を順に追い、どの血管がどこから枝分かれするかを整理しておけば解ける。

大動脈の走行と主な分枝

1) 大動脈基部(大動脈弁のすぐ上): 大動脈壁が外側へふくらんだ3つのくぼみ(Valsalva洞、大動脈洞)があり、右前方の洞から右冠動脈、左後方の洞から左冠動脈が起始する。残る1つ(右後方)からは冠動脈が出ないため無冠尖洞と呼ばれる。 2) 大動脈弓: 右から順に腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈の3本が直接分枝する。腕頭動脈はその後、右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。つまり鎖骨下動脈と総頸動脈の起始は左右で非対称である。 3) 鎖骨下動脈の枝: 椎骨動脈(上方へ)、内胸動脈(下方へ、胸骨の裏側を下行)、甲状頸動脈、肋頸動脈など。 4) 胸部大動脈(下行大動脈)→横隔膜を貫いて腹部大動脈 → 第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分岐 → それぞれ外腸骨動脈(下肢へ)と内腸骨動脈(骨盤内臓器・殿部へ)に分かれる。 この流れに各選択肢を当てはめると、正しいのは右冠動脈の起始(a)、左内胸動脈の起始(d)、総腸骨動脈の分岐(e)である。b・cはいずれも左右の非対称性を取り違えた記述である。

選択肢考察

  1. ○a.  右冠動脈はValsalva洞の右前方から起始する。

    大動脈弁の直上には3つのValsalva洞がある。右冠動脈は右前方に位置する洞(右冠尖洞)から起始し、右房と右室の間の冠状溝(房室間溝)を右回りに走行する。一方、左冠動脈は左後方の洞(左冠尖洞)から起始し、すぐに左前下行枝と回旋枝に分かれる。右後方の洞からは冠動脈が出ず、無冠尖洞と呼ばれる。

  2. ×b.  右鎖骨下動脈は胸部大動脈から分枝する。

    右鎖骨下動脈は大動脈弓から出る腕頭動脈の枝であり、腕頭動脈が右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分岐する。胸部大動脈(下行大動脈)から直接出るものではない。なお、先天異常として右鎖骨下動脈が大動脈弓の最後の枝として左鎖骨下動脈より遠位から起始し、食道の背側を通って右へ向かう例(右鎖骨下動脈起始異常、aberrant right subclavian artery)があり、嚥下障害の原因となりうるが、これは正常解剖ではない。

  3. ×c.  左鎖骨下動脈は総頸動脈から分枝する。

    左鎖骨下動脈は大動脈弓から直接分枝する(大動脈弓の3本の枝のうち最も左・最も遠位のもの)。左総頸動脈もまた大動脈弓から独立して起始しており、左鎖骨下動脈が総頸動脈の枝になることはない。右側では腕頭動脈という共通幹があるが、左側にはそれがない点が左右の違いである。

  4. ○d.  左内胸動脈は左鎖骨下動脈から分枝する。

    内胸動脈(内胸動脈=internal thoracic artery、旧称internal mammary artery)は左右とも鎖骨下動脈の第1部(前斜角筋より内側の部分)の下面から分枝し、胸骨外側縁の裏側を下行して肋間動脈前枝などを出す。同じ部位の上面からは椎骨動脈が出る。左内胸動脈は動脈硬化を起こしにくく長期開存率が高いため、冠動脈バイパス術で左前下行枝へのグラフトとして最もよく用いられる。

  5. ○e.  総腸骨動脈は外腸骨動脈と内腸骨動脈とに分岐する。

    腹部大動脈はおおむね第4腰椎の高さで左右の総腸骨動脈に分かれ、各総腸骨動脈は仙腸関節の前方付近で外腸骨動脈と内腸骨動脈に分岐する。外腸骨動脈は鼠径靱帯の下をくぐって大腿動脈となり下肢を栄養する。内腸骨動脈は骨盤内に入り、膀胱・子宮・直腸などの骨盤内臓器、殿部、会陰部を栄養する。

大動脈弓の分枝(正常)

近位から順に、腕頭動脈 → 左総頸動脈 → 左鎖骨下動脈。腕頭動脈は右胸鎖関節の背側で右総頸動脈と右鎖骨下動脈に分かれる。

鎖骨下動脈の主な枝

椎骨動脈(上方へ向かい、第6頸椎以上の横突孔を通って頭蓋内で脳底動脈を形成)、内胸動脈(下方へ)、甲状頸動脈、肋頸動脈、肩甲背動脈。鎖骨下動脈は第1肋骨外側縁を越えると腋窩動脈、さらに上腕動脈へと名前を変える。

冠動脈の概要

右冠動脈: 右房・右室、多くの例で洞結節枝・房室結節枝を出し、左室下壁の一部も栄養する。そのため右冠動脈の閉塞では下壁梗塞や徐脈性不整脈(房室ブロックなど)を生じやすい。 左冠動脈: 主幹部(左主幹部)から左前下行枝(前壁・心室中隔前2/3)と左回旋枝(側壁・後壁)に分かれる。

臨床との関連

・鎖骨下動脈盗血症候群: 椎骨動脈分岐より近位の鎖骨下動脈が狭窄・閉塞すると、患側上肢を動かしたときに椎骨動脈の血流が逆流して上肢へ流れ、めまいなどの椎骨脳底動脈循環不全症状が出る。左側に多い。 ・冠動脈バイパス術: 左内胸動脈‐左前下行枝吻合は長期成績が最も良い組み合わせとされる。 ・腹部大動脈瘤は腎動脈分岐部より下(腎動脈下)に好発し、総腸骨動脈に及ぶこともある。

POINT

・Valsalva洞: 右前方→右冠動脈、左後方→左冠動脈、右後方→無冠尖洞 ・大動脈弓の3分枝: 腕頭動脈、左総頸動脈、左鎖骨下動脈(左は大動脈弓から直接、右は腕頭動脈経由) ・内胸動脈と椎骨動脈は鎖骨下動脈の枝(内胸動脈は下方、椎骨動脈は上方) ・総腸骨動脈 → 外腸骨動脈(下肢)と内腸骨動脈(骨盤内臓器)

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。