人工関節の最大の敵は「菌」―化膿性関節炎の後にTHAをためらう理由
第99回医師国家試験 D問題 第111問
国試問題にチャレンジ
人工股関節全置換術の適応でないのはどれか。
- a.外傷後の関節症
- b.一次性変形性股関節症
- c.化膿性関節炎後の関節症
- d.大腿骨頭壊死後の関節症
- e.関節リウマチによる関節症
対話形式の解説
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ドクターまとめ
人工股関節全置換術(THA)は寛骨臼と大腿骨頭の両方を人工物に置き換える手術で、強い疼痛や歩行障害を伴う末期股関節症が適応となり、一次性・二次性変形性股関節症、大腿骨頭壊死症の進行例、関節リウマチ、外傷後の関節症など原因疾患を広く問いません。一方、活動性の感染や感染が否定できない状態は絶対的禁忌であり、化膿性関節炎後の関節症は細菌が残存している可能性があるため適応外とされます。人工物には細菌がバイオフィルムを形成しやすく、いったん感染すると抗菌薬や免疫が届きにくく、インプラント抜去が必要になることが多いためです。感染の鎮静化が確認された例などでは二期的に人工関節が行われることもありますが、感染制御が前提である点は変わりません。「壊れ具合で適応を考え、感染で禁忌を判断する」という視点は、人工関節をはじめ体内に人工物を入れる医療全般に通じる基本です。
解答・解説
正解はcです
人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)は、傷んだ股関節の寛骨臼(骨盤側の受け皿)と大腿骨頭(大腿骨側の球)の両方を人工物(インプラント)に置き換える手術である。関節の破壊・変形が進み、強い疼痛や歩行障害などで日常生活が大きく損なわれ、保存療法や関節温存手術(骨切り術など)では改善が見込めない場合に適応となる。原因疾患は問わず、一次性・二次性の変形性股関節症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、外傷後の関節症などが広く対象となる。 一方、THAの最も重要な禁忌が感染である。人工物の表面には細菌がバイオフィルム(細菌が産生する粘液状の膜)を形成して付着しやすく、いったん感染すると抗菌薬や生体の免疫が届きにくくなり、治療が極めて困難になる。そのため、関節やその周囲に活動性の感染がある、あるいは感染が残存している可能性がある状態では、人工物を挿入してはならない。 本問では、選択肢のうち感染と直結する「化膿性関節炎後の関節症」が適応外として選ばれる。人工関節の手術を考えるときは、「関節がどれだけ壊れているか」と同時に「感染がないか」を必ず確認するという考え方が問われている。
選択肢考察
- ×a. 外傷後の関節症
適応となる。寛骨臼骨折、大腿骨頭骨折、股関節脱臼などの外傷によって関節面の不整や軟骨損傷が生じると、その後に二次性の変形性股関節症が進行する。疼痛・可動域制限が強く日常生活に支障をきたす場合はTHAの適応である。
- ×b. 一次性変形性股関節症
適応となる。一次性(原発性)変形性股関節症は、明らかな基礎疾患がなく、加齢などを背景に関節軟骨が摩耗・変性して生じるものである。関節裂隙の狭小化・消失、骨棘形成、骨硬化、骨囊胞などを伴う末期関節症となり、保存療法で症状が改善しなければTHAの適応となる。なお日本では、臼蓋形成不全(寛骨臼の被覆が浅い状態)に続発する二次性の変形性股関節症の方が多い。
- ○c. 化膿性関節炎後の関節症
適応とならない。化膿性関節炎(細菌感染による関節炎)の後の関節症では、関節内や周囲の骨に細菌が残存している可能性がある。人工物は細菌がバイオフィルムを形成して定着しやすい異物であり、感染が残っている部位に挿入すると人工関節周囲感染を起こし、感染の悪化・遷延や再手術(インプラント抜去)を招く。したがって、感染が否定できない状態でのTHAを含む人工物の挿入は禁忌である。関節症の原因として感染が関与するため、他の選択肢とは異なり適応から外れる。
- ×d. 大腿骨頭壊死後の関節症
適応となる。大腿骨頭壊死症(ステロイド大量投与やアルコール多飲などに関連して大腿骨頭への血流が途絶え、骨が壊死する疾患)では、壊死部が圧潰して骨頭が変形し、進行すると寛骨臼側も傷んで二次性の変形性関節症となる。この段階では関節温存手術(骨切り術など)の適応を外れ、THAの良い適応となる(寛骨臼側が保たれていれば人工骨頭置換術が選ばれることもある)。
- ×e. 関節リウマチによる関節症
適応となる。関節リウマチでは滑膜炎が持続して軟骨・骨が破壊され、股関節にも関節裂隙の消失や骨頭の変形、寛骨臼の内方突出(臼底突出)などが生じる。薬物療法で炎症を抑えても関節破壊が進んで疼痛や歩行障害が強い場合は、THAの適応となる。ただし、免疫抑制薬や生物学的製剤、副腎皮質ステロイドの使用により術後感染のリスクが高まるため、周術期の管理に注意が必要である。
人工股関節全置換術(THA)
寛骨臼側にカップ(金属シェル+ポリエチレンなどのライナー)、大腿骨側にステムと骨頭(金属またはセラミック)を設置する。骨セメントで固定するセメント固定と、骨とインプラント表面の結合(骨の内部成長)に期待するセメントレス固定がある。除痛効果が高く、歩行能力の改善が期待できる。
主な適応
・変形性股関節症(一次性、臼蓋形成不全などに続発する二次性)の末期例 ・大腿骨頭壊死症の進行例(骨頭圧潰・関節症変化を伴うもの) ・関節リウマチなどの炎症性関節疾患による関節破壊 ・外傷後の関節症 ・高齢者の大腿骨頸部骨折の一部(人工骨頭置換術が選ばれることも多い)
禁忌・慎重な判断が必要な状態
・活動性の感染(関節局所、全身の感染症、皮膚の感染巣など): 絶対的禁忌 ・神経病性関節症(シャルコー関節): 関節の保護感覚が失われ、脱臼・破綻を起こしやすい ・全身状態が手術に耐えられない場合 ・高度の骨粗鬆症や骨欠損(固定性不良のリスク)
主な合併症
人工関節周囲感染、脱臼、深部静脈血栓症・肺塞栓症、インプラントのゆるみ、ポリエチレン摩耗粉による骨溶解、周囲骨折など。特に感染は治療が難しく、インプラント抜去を要することが多い。
化膿性股関節炎の後遺症と人工関節
化膿性関節炎後で感染の可能性が残る間は人工物の挿入は行わない。実臨床では、感染の鎮静化が長期間確認された例や、病巣を十分に掃除して抗菌薬含有スペーサーなどで感染を制御したうえで二期的に人工関節を挿入する例もあるが、いずれにしても「感染が制御されていること」が前提である。
POINT
・THAは疼痛・機能障害の強い末期股関節症に適応され、原因疾患(一次性・二次性変形性股関節症、骨頭壊死、関節リウマチ、外傷後)は広く対象となる ・活動性感染または感染が否定できない状態は人工関節の絶対的禁忌 ・理由: 人工物にはバイオフィルムが形成されやすく、感染すると難治でインプラント抜去が必要になりやすい ・日本の変形性股関節症は臼蓋形成不全に続発する二次性が多い
