StudyMed医師国家試験

人工関節の最大の敵は「菌」―化膿性関節炎の後にTHAをためらう理由

第99回医師国家試験 D問題 第111問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第111問

人工股関節全置換術の適応でないのはどれか。

  1. a.外傷後の関節症
  2. b.一次性変形性股関節症
  3. c.化膿性関節炎後の関節症
  4. d.大腿骨頭壊死後の関節症
  5. e.関節リウマチによる関節症

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は人工股関節全置換術、いわゆるTHAの適応を問う問題だ。考え方の軸は2つ。「関節がどれだけ壊れているか」と「感染がないか」。まずTHAがどんな手術か説明できるかな。
医学生医学生
整形外科の講義で習いました。股関節の寛骨臼と大腿骨頭の両方を人工物に置き換える手術ですよね。大腿骨頭だけを置き換えるのは人工骨頭置換術でした。
ドクタードクター
その区別は大事だね。THAは寛骨臼側にカップ、大腿骨側にステムと骨頭を入れる。関節の破壊が進んで強い痛みや歩行障害があり、保存療法や骨切り術などの関節温存手術では改善が見込めないときに選ばれる。ここで質問。THAの適応は、関節症の原因によって大きく変わると思う?
医学生医学生
原因ごとに細かく適応が決まっているイメージがあります。リウマチなどは骨が弱いのでやりにくいとか。
ドクタードクター
実はTHAは原因疾患を広く問わない手術なんだ。末期の関節症で生活が損なわれていれば、原因が何であれ基本的には対象になる。まず一次性変形性股関節症。明らかな基礎疾患がなく、加齢などを背景に軟骨が摩耗して、関節裂隙の狭小化や骨棘、骨硬化、骨嚢胞が進んだものだ。保存療法で改善しなければ適応になる。
医学生医学生
日本では臼蓋形成不全からくる二次性の方が多い、と国試の勉強で覚えました。
ドクタードクター
その通り。二次性ももちろん適応だ。外傷後の関節症も同じで、寛骨臼骨折や股関節脱臼のあとに関節面が不整になって二次性の関節症が進めば、THAの対象になる。
医学生医学生
大腿骨頭壊死はどうでしょう。ステロイドやアルコールが原因になる病気ですよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。骨頭への血流が途絶えて壊死し、壊死部が圧潰して骨頭が変形する。進行して寛骨臼側も傷むと二次性の関節症になり、ここまで来ると骨切り術の適応から外れて、THAのよい適応になるんだ。寛骨臼が保たれていれば人工骨頭置換術を選ぶこともある。
医学生医学生
関節リウマチも、さっきの心配とは違って適応になるんですね。
ドクタードクター
そう。滑膜炎で軟骨や骨が壊れ、関節裂隙の消失や骨頭の変形、臼底突出が起こる。薬で炎症を抑えても破壊が進んで痛みが強ければTHAの適応だ。ただし免疫抑制薬や生物学的製剤、ステロイドを使っていると術後感染のリスクが上がるので、周術期の管理には気を配る必要がある。
医学生医学生
となると、残る化膿性関節炎後の関節症が適応外ですね。でも関節が壊れているのは同じなのに、なぜダメなんでしょう。
ドクタードクター
そこが本問の核心だ。化膿性関節炎のあとは、関節内や周囲の骨に細菌が残っている可能性がある。人工物の表面には細菌がバイオフィルムという粘液状の膜をつくって張り付きやすく、そうなると抗菌薬も免疫細胞も届きにくい。感染が残る場所に人工物を入れると人工関節周囲感染を起こし、治療が非常に難しくなって、多くはインプラントを抜去する再手術が必要になる。
医学生医学生
微生物学の実習でバイオフィルムの話を聞きましたが、カテーテル感染だけじゃなく人工関節でも問題になるんですね。
ドクタードクター
まさに同じ理屈だよ。だから活動性の感染、あるいは感染が否定できない状態は人工関節の絶対的禁忌とされている。関節局所だけでなく、全身の感染症や皮膚の感染巣があっても手術は延期するんだ。
医学生医学生
では、化膿性関節炎を一度でも起こした人は、一生THAを受けられないんでしょうか。
ドクタードクター
いい疑問だね。実臨床では、感染の鎮静化が長期間確認された例や、病巣を十分に掻爬して抗菌薬入りのスペーサーで感染を制御したうえで、二期的に人工関節を入れることもある。ただ、どの場合も「感染が制御されていること」が大前提。この問題は、その原則を問うていると考えよう。
医学生医学生
整形外科の実習で、手術前に虫歯や足の水虫までチェックしていたのは、そういう理由だったんですね。
ドクタードクター
その通り。最後に臨床の注意点をまとめておこう。THAのほかの禁忌・慎重例としては、関節の保護感覚が失われる神経病性関節症、つまりシャルコー関節や、手術に耐えられない全身状態、高度の骨粗鬆症や骨欠損がある。術後合併症は人工関節周囲感染のほか、脱臼、深部静脈血栓症・肺塞栓症、インプラントのゆるみ、ポリエチレン摩耗粉による骨溶解などだ。特に深部静脈血栓症は予防が欠かせない。
医学生医学生
適応は「壊れ具合」で広く考えて、禁忌は「感染」を真っ先に確認する、という順番で覚えます。
ドクタードクター
それでいい。人工物を体に入れる手術ではいつでも、感染がないことの確認が出発点になる、と覚えておこう。

まとめ

人工股関節全置換術(THA)は寛骨臼と大腿骨頭の両方を人工物に置き換える手術で、強い疼痛や歩行障害を伴う末期股関節症が適応となり、一次性・二次性変形性股関節症、大腿骨頭壊死症の進行例、関節リウマチ、外傷後の関節症など原因疾患を広く問いません。一方、活動性の感染や感染が否定できない状態は絶対的禁忌であり、化膿性関節炎後の関節症は細菌が残存している可能性があるため適応外とされます。人工物には細菌がバイオフィルムを形成しやすく、いったん感染すると抗菌薬や免疫が届きにくく、インプラント抜去が必要になることが多いためです。感染の鎮静化が確認された例などでは二期的に人工関節が行われることもありますが、感染制御が前提である点は変わりません。「壊れ具合で適応を考え、感染で禁忌を判断する」という視点は、人工関節をはじめ体内に人工物を入れる医療全般に通じる基本です。

解答・解説

正解はcです

人工股関節全置換術(total hip arthroplasty:THA)は、傷んだ股関節の寛骨臼(骨盤側の受け皿)と大腿骨頭(大腿骨側の球)の両方を人工物(インプラント)に置き換える手術である。関節の破壊・変形が進み、強い疼痛や歩行障害などで日常生活が大きく損なわれ、保存療法や関節温存手術(骨切り術など)では改善が見込めない場合に適応となる。原因疾患は問わず、一次性・二次性の変形性股関節症、大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、外傷後の関節症などが広く対象となる。 一方、THAの最も重要な禁忌が感染である。人工物の表面には細菌がバイオフィルム(細菌が産生する粘液状の膜)を形成して付着しやすく、いったん感染すると抗菌薬や生体の免疫が届きにくくなり、治療が極めて困難になる。そのため、関節やその周囲に活動性の感染がある、あるいは感染が残存している可能性がある状態では、人工物を挿入してはならない。 本問では、選択肢のうち感染と直結する「化膿性関節炎後の関節症」が適応外として選ばれる。人工関節の手術を考えるときは、「関節がどれだけ壊れているか」と同時に「感染がないか」を必ず確認するという考え方が問われている。

選択肢考察

  1. ×a.  外傷後の関節症

    適応となる。寛骨臼骨折、大腿骨頭骨折、股関節脱臼などの外傷によって関節面の不整や軟骨損傷が生じると、その後に二次性の変形性股関節症が進行する。疼痛・可動域制限が強く日常生活に支障をきたす場合はTHAの適応である。

  2. ×b.  一次性変形性股関節症

    適応となる。一次性(原発性)変形性股関節症は、明らかな基礎疾患がなく、加齢などを背景に関節軟骨が摩耗・変性して生じるものである。関節裂隙の狭小化・消失、骨棘形成、骨硬化、骨囊胞などを伴う末期関節症となり、保存療法で症状が改善しなければTHAの適応となる。なお日本では、臼蓋形成不全(寛骨臼の被覆が浅い状態)に続発する二次性の変形性股関節症の方が多い。

  3. ○c.  化膿性関節炎後の関節症

    適応とならない。化膿性関節炎(細菌感染による関節炎)の後の関節症では、関節内や周囲の骨に細菌が残存している可能性がある。人工物は細菌がバイオフィルムを形成して定着しやすい異物であり、感染が残っている部位に挿入すると人工関節周囲感染を起こし、感染の悪化・遷延や再手術(インプラント抜去)を招く。したがって、感染が否定できない状態でのTHAを含む人工物の挿入は禁忌である。関節症の原因として感染が関与するため、他の選択肢とは異なり適応から外れる。

  4. ×d.  大腿骨頭壊死後の関節症

    適応となる。大腿骨頭壊死症(ステロイド大量投与やアルコール多飲などに関連して大腿骨頭への血流が途絶え、骨が壊死する疾患)では、壊死部が圧潰して骨頭が変形し、進行すると寛骨臼側も傷んで二次性の変形性関節症となる。この段階では関節温存手術(骨切り術など)の適応を外れ、THAの良い適応となる(寛骨臼側が保たれていれば人工骨頭置換術が選ばれることもある)。

  5. ×e.  関節リウマチによる関節症

    適応となる。関節リウマチでは滑膜炎が持続して軟骨・骨が破壊され、股関節にも関節裂隙の消失や骨頭の変形、寛骨臼の内方突出(臼底突出)などが生じる。薬物療法で炎症を抑えても関節破壊が進んで疼痛や歩行障害が強い場合は、THAの適応となる。ただし、免疫抑制薬や生物学的製剤、副腎皮質ステロイドの使用により術後感染のリスクが高まるため、周術期の管理に注意が必要である。

人工股関節全置換術(THA)

寛骨臼側にカップ(金属シェル+ポリエチレンなどのライナー)、大腿骨側にステムと骨頭(金属またはセラミック)を設置する。骨セメントで固定するセメント固定と、骨とインプラント表面の結合(骨の内部成長)に期待するセメントレス固定がある。除痛効果が高く、歩行能力の改善が期待できる。

主な適応

・変形性股関節症(一次性、臼蓋形成不全などに続発する二次性)の末期例 ・大腿骨頭壊死症の進行例(骨頭圧潰・関節症変化を伴うもの) ・関節リウマチなどの炎症性関節疾患による関節破壊 ・外傷後の関節症 ・高齢者の大腿骨頸部骨折の一部(人工骨頭置換術が選ばれることも多い)

禁忌・慎重な判断が必要な状態

・活動性の感染(関節局所、全身の感染症、皮膚の感染巣など): 絶対的禁忌 ・神経病性関節症(シャルコー関節): 関節の保護感覚が失われ、脱臼・破綻を起こしやすい ・全身状態が手術に耐えられない場合 ・高度の骨粗鬆症や骨欠損(固定性不良のリスク)

主な合併症

人工関節周囲感染、脱臼、深部静脈血栓症・肺塞栓症、インプラントのゆるみ、ポリエチレン摩耗粉による骨溶解、周囲骨折など。特に感染は治療が難しく、インプラント抜去を要することが多い。

化膿性股関節炎の後遺症と人工関節

化膿性関節炎後で感染の可能性が残る間は人工物の挿入は行わない。実臨床では、感染の鎮静化が長期間確認された例や、病巣を十分に掃除して抗菌薬含有スペーサーなどで感染を制御したうえで二期的に人工関節を挿入する例もあるが、いずれにしても「感染が制御されていること」が前提である。

POINT

・THAは疼痛・機能障害の強い末期股関節症に適応され、原因疾患(一次性・二次性変形性股関節症、骨頭壊死、関節リウマチ、外傷後)は広く対象となる ・活動性感染または感染が否定できない状態は人工関節の絶対的禁忌 ・理由: 人工物にはバイオフィルムが形成されやすく、感染すると難治でインプラント抜去が必要になりやすい ・日本の変形性股関節症は臼蓋形成不全に続発する二次性が多い

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。