StudyMed医師国家試験

尿に漏れ出す小さな蛋白―尿中β2-ミクログロブリンが映す近位尿細管のSOS

第99回医師国家試験 D問題 第101問

国試問題にチャレンジ

第99回 D問題 第101問

近位尿細管の機能障害の指標はどれか。

  1. a.クレアチニンクリアランス
  2. b.濃縮試験〈Fishberg試験〉
  3. c.パラアミノ馬尿酸〈PAH〉クリアランス
  4. d.イヌリンクリアランス
  5. e.尿中β2-ミクログロブリン

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は腎機能検査の問題だ。腎機能とひとことで言っても、腎血流、糸球体、近位尿細管、遠位尿細管・集合管と、ネフロンの部位ごとに役割が違う。それぞれの検査が「どこを見ているか」で整理できるかが勝負だよ。
医学生医学生
腎生理の講義でクリアランスの式をたくさん習いましたが、正直どれが何を見ているのか混ざってしまっています。
ドクタードクター
じゃあ基本から確認しよう。クリアランスは「尿中濃度×尿量÷血漿濃度」で、1分間にその物質が完全に取り除かれた血漿量に相当する。ポイントは、その物質が糸球体で濾過されたあと、尿細管で再吸収されるか、分泌されるかで意味が変わることだ。
医学生医学生
イヌリンは濾過されるだけで、再吸収も分泌もされないんでしたよね。だからGFRそのもの、と覚えました。
ドクタードクター
その通り。イヌリンクリアランスはGFR測定のゴールドスタンダードで、糸球体機能の指標だ。ただ点滴と採血・採尿が必要で手間がかかるから、日常診療ではクレアチニンクリアランスやeGFRで代用することが多い。
医学生医学生
クレアチニンは近位尿細管からも少し分泌されると聞いたので、近位尿細管の指標にもなるのかと思ってしまいました。
ドクタードクター
よく知っているね。でも、その分泌はGFRをやや過大評価させる「誤差」の原因として扱われるもので、測っているのはあくまで糸球体の濾過能だ。腎機能が落ちるほど分泌の割合が増えて、過大評価の程度が大きくなる点も覚えておこう。では、パラアミノ馬尿酸のクリアランスはどうかな。
医学生医学生
PAHも近位尿細管で盛んに分泌されるので、今度こそ近位尿細管の指標でしょうか。
ドクタードクター
そこが引っかけどころなんだ。PAHは濾過と分泌で、腎臓を1回通るだけで血漿からほぼ完全に除去される。だからPAHクリアランスは腎臓を流れた血漿量、つまり有効腎血漿流量の指標として使われる。高濃度負荷での最大分泌量は近位尿細管の分泌能を反映するけれど、クリアランスそのものは腎血流の指標と整理しておこう。
医学生医学生
なるほど、分泌される場所と、検査が何を表すかは別なんですね。Fishberg試験は水分制限をして尿比重を見る検査でしたっけ。
ドクタードクター
そう。尿を濃縮できるのは、ヘンレループが髄質に浸透圧勾配をつくり、バソプレシンの作用で集合管が水を再吸収するからだ。だから濃縮試験は遠位ネフロン、つまりヘンレループから集合管の機能を見る検査になる。脱水の危険があるので、今は実施される機会が少ないけどね。
医学生医学生
残るのが尿中β2-ミクログロブリンですね。CBTの勉強のときに「尿細管マーカー」とだけ暗記していました。
ドクタードクター
暗記で終わらせずに理由まで押さえよう。β2-ミクログロブリンはHLAクラスI分子の軽鎖で、分子量約1万2千の小さな蛋白だ。糸球体では自由に濾過されるけれど、その99%以上が近位尿細管上皮にエンドサイトーシスで取り込まれて分解される。だから健常者の尿にはほとんど出てこない。
医学生医学生
近位尿細管が壊れると取り込めなくなって、尿にそのまま漏れ出てくる、ということですね。だから正解は尿中β2-ミクログロブリンなんですね。
ドクタードクター
正解。これを尿細管性蛋白尿と呼ぶ。ここで大事な注意点がひとつある。血中β2-ミクログロブリンは、GFRが下がると排泄されずにたまって上昇するから、こちらは糸球体機能の指標になるんだ。
医学生医学生
同じ物質でも「尿中」か「血中」かで見ている部位が逆になるんですね。問題文の一語まで読まないと危ないです。
ドクタードクター
まさにそこ。発展として、尿中β2-ミクログロブリンが上がる病態も押さえておこう。カドミウム中毒によるイタイイタイ病、Fanconi症候群、アミノグリコシド系抗菌薬やシスプラチンによる薬剤性腎障害、間質性腎炎などが代表だ。
医学生医学生
腎臓内科の実習で、シスプラチン投与中の患者さんの尿検査を毎回チェックしていたのはそのためだったんですね。
ドクタードクター
そうだね。臨床ではもうひとつ注意がある。β2-ミクログロブリンは酸性尿で分解されやすく、低めに出てしまうことがある。だから酸性尿でも安定なα1-ミクログロブリンを併用することも多い。さらに尿中NAGは尿細管上皮のライソソーム酵素で、再吸収障害というより細胞そのものの障害を反映するマーカーだ。
医学生医学生
近位尿細管全体がやられると、Fanconi症候群として糖やアミノ酸、リンも漏れるんでしたよね。
ドクタードクター
その通り。腎性糖尿、汎アミノ酸尿、低リン血症による骨軟化症、低尿酸血症、近位尿細管性アシドーシス、そして低分子蛋白尿が揃う。原因として多発性骨髄腫の軽鎖やWilson病、薬剤も挙がる。検査を部位ごとに整理しておけば、こうした病態の理解にもそのままつながるよ。

まとめ

腎機能検査は、ネフロンのどの部位を評価しているかで整理すると理解しやすくなります。PAHクリアランスは有効腎血漿流量、イヌリンクリアランスとクレアチニンクリアランスは糸球体濾過量、Fishberg濃縮試験はヘンレループから集合管にかけての濃縮能を反映します。β2-ミクログロブリンは糸球体で濾過されたのちほぼすべてが近位尿細管で再吸収されるため、尿中β2-ミクログロブリンの増加は近位尿細管障害の鋭敏な指標となり、カドミウム中毒やFanconi症候群、薬剤性腎障害などで上昇します。一方、血中β2-ミクログロブリンの上昇はGFR低下を意味するため、「尿中」か「血中」かの区別が重要です。酸性尿で分解されやすい点を補うα1-ミクログロブリンや、細胞障害を反映するNAGとあわせて理解しておくと、臨床での尿細管障害の評価に役立ちます。

解答・解説

正解はeです

腎機能検査は「どの部位を見ているか」で整理する

腎臓はネフロン(糸球体+尿細管)の各部位がそれぞれ異なる働きをもつため、腎機能検査も評価対象の部位ごとに分けて理解するとよい。 ・腎血流:パラアミノ馬尿酸(PAH)クリアランス(有効腎血漿流量) ・糸球体:イヌリンクリアランス、クレアチニンクリアランス、血清クレアチニン、シスタチンC、血中β2-ミクログロブリン(糸球体濾過量) ・近位尿細管:尿中β2-ミクログロブリン、尿中α1-ミクログロブリン、尿中NAG(N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ)、腎性糖尿、汎アミノ酸尿、リン・尿酸の再吸収率、PSP(フェノールスルホンフタレイン)排泄試験 ・遠位尿細管・集合管:尿濃縮試験(Fishberg試験)、尿希釈試験、塩化アンモニウム負荷試験(酸排泄能)

近位尿細管機能の指標となる理由

β2-ミクログロブリン(分子量約11,800)のような低分子蛋白は糸球体で自由に濾過されるが、その大部分(99%以上)は近位尿細管上皮にエンドサイトーシスで取り込まれて再吸収・分解される。このため健常者では尿中にほとんど排泄されない。近位尿細管が障害されると再吸収ができなくなり、尿中β2-ミクログロブリンが著増する(尿細管性蛋白尿)。したがって尿中β2-ミクログロブリンは近位尿細管障害の鋭敏な指標となる。 一方、血中β2-ミクログロブリンは糸球体濾過量が低下すると排泄されずに上昇するため、糸球体機能の指標となる。「尿中」か「血中」かで意味が異なる点に注意が必要である。

選択肢考察

  1. ×a.  クレアチニンクリアランス

    クレアチニンは筋肉で産生され、糸球体で濾過されたあと尿細管でほとんど再吸収されない物質であるため、そのクリアランス(通常24時間蓄尿で測定)は糸球体濾過量(GFR)の近似値として用いられる。ただし近位尿細管からわずかに分泌されるため、真のGFRよりやや高めに出る(特に腎機能が低下するほど分泌の割合が増え、過大評価の程度が大きくなる)。評価の対象は糸球体の濾過機能であり、近位尿細管の再吸収機能の指標ではない。

  2. ×b.  濃縮試験〈Fishberg試験〉

    Fishberg濃縮試験は、前日から水分摂取を制限したうえで翌朝の尿を採取し、尿比重や尿浸透圧がどこまで上がるかを調べる検査である。尿の濃縮は、ヘンレループによる髄質の浸透圧勾配形成と、抗利尿ホルモン(バソプレシン)の作用による集合管での水再吸収によって成り立つ。したがって遠位ネフロン(ヘンレループ〜集合管)の機能の指標であり、近位尿細管機能の指標ではない。正常では尿比重1.025以上(尿浸透圧850 mOsm/kg程度以上)まで濃縮される。脱水の危険があるため現在は実施される機会が少ない。

  3. ×c.  パラアミノ馬尿酸〈PAH〉クリアランス

    PAHは糸球体で濾過されるうえに近位尿細管から盛んに分泌されるため、低い血中濃度では1回腎臓を通過するだけで血漿からほぼ完全(約90%)に除去される。このためPAHクリアランスは有効腎血漿流量(ERPF)の指標として用いられ、ヘマトクリット値で補正すれば腎血流量も求められる。PAHの分泌自体は近位尿細管で行われ、高濃度負荷時の最大分泌量(TmPAH)は近位尿細管の分泌能を反映するが、PAHクリアランスそのものは腎血漿流量の指標として扱われ、近位尿細管障害の指標とはされない。

  4. ×d.  イヌリンクリアランス

    イヌリンは植物由来の多糖類で、糸球体で自由に濾過され、尿細管で再吸収も分泌もされず、体内で代謝もされない。そのため濾過された量がそのまま尿中に出てくる、すなわちイヌリンクリアランスはGFRそのものに等しく、GFR測定のゴールドスタンダードである。糸球体機能の指標であり、近位尿細管機能の指標ではない。点滴静注と採血・採尿を要するため、日常診療では推算GFR(eGFR)やクレアチニンクリアランスで代用されることが多い。

  5. ○e.  尿中β2-ミクログロブリン

    β2-ミクログロブリンはHLAクラスI分子の軽鎖として全身の有核細胞表面に存在する低分子蛋白(分子量約11,800)で、血中に遊離したものは糸球体で自由に濾過され、その大部分が近位尿細管で再吸収・異化される。近位尿細管が障害されると再吸収されずに尿中へ大量に排泄されるため、尿中β2-ミクログロブリンの増加は近位尿細管障害を示す。カドミウム中毒(イタイイタイ病)、Fanconi症候群、アミノグリコシド系抗菌薬やシスプラチンなどによる薬剤性腎障害、間質性腎炎などで上昇し、早期の尿細管障害の検出に用いられる。なお、β2-ミクログロブリンは酸性尿(pH 6未満程度)で分解されやすく低値に出ることがあるため、同じく低分子蛋白で安定なα1-ミクログロブリンも併用される。

クリアランスの基本

ある物質のクリアランス(C)=尿中濃度(U)×尿量(V)÷血漿濃度(P)。1分間にその物質が完全に除去された血漿量に相当する。 ・糸球体で濾過され、再吸収も分泌もされない物質(イヌリン)→ C=GFR(正常約100〜120 mL/分) ・濾過に加えて分泌され、ほぼ完全に除去される物質(PAH)→ C≒有効腎血漿流量(正常約500〜700 mL/分) ・濾過率(FF)=GFR÷腎血漿流量(正常約0.2)

近位尿細管の働きと障害時の所見

近位尿細管は濾過されたNa・水の約2/3、ブドウ糖・アミノ酸のほぼ全量、重炭酸イオンの大部分、リン、尿酸、低分子蛋白を再吸収する。これが全般的に障害された状態がFanconi症候群で、腎性糖尿、汎アミノ酸尿、低リン血症(くる病・骨軟化症)、低尿酸血症、近位尿細管性アシドーシス(2型RTA)、低分子蛋白尿をきたす。原因には多発性骨髄腫(軽鎖)、Wilson病、シスチン症、カドミウム中毒、薬剤(イホスファミド、テノホビル、期限切れテトラサイクリンなど)がある。

尿細管障害マーカーの整理

・尿中β2-ミクログロブリン、α1-ミクログロブリン:再吸収障害を反映(低分子蛋白尿) ・尿中NAG:尿細管上皮細胞のライソソーム酵素で、細胞の障害・破壊を反映 ・尿中L-FABP、NGAL:急性腎障害の早期マーカーとして用いられる

POINT

・尿中β2-ミクログロブリン上昇=近位尿細管障害(再吸収障害)。血中β2-ミクログロブリン上昇=GFR低下。 ・近位尿細管の指標:尿中β2-MG、α1-MG、NAG、PSP排泄試験、腎性糖尿、アミノ酸尿。 ・糸球体(GFR)の指標:イヌリンクリアランス(ゴールドスタンダード)、クレアチニンクリアランス。 ・腎血漿流量の指標:PAHクリアランス。 ・遠位尿細管・集合管の指標:Fishberg濃縮試験、塩化アンモニウム負荷試験。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。