StudyMed医師国家試験

告知の衝撃は「心」に、せん妄は「脳」に―がん告知後の反応を見分ける

第99回医師国家試験 B問題 第47問

国試問題にチャレンジ

第99回 B問題 第47問

がんの告知を受けた患者の反応としてみられないのはどれか。

  1. a.不安
  2. b.せん妄
  3. c.抑うつ
  4. d.食思〈欲〉不振
  5. e.睡眠障害

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、がんの告知を受けた患者さんにどんな反応が起こるかを問う問題だ。着眼点は一つ、「心理的なストレスへの反応として説明できるかどうか」。選択肢を、心の反応と身体(脳)の異常に分けて考えてみよう。
医学生医学生
全部、がん患者さんでよく見る症状に思えて、正直どれも起こりそうに感じます。
ドクタードクター
その感覚は自然だよ。実際、どれも「がん患者さん」には起こりうる。でも問われているのは「告知への反応」かどうかなんだ。まず、告知後の心の動きの典型的な経過から整理しよう。告知直後から数日は衝撃を受けて頭が真っ白になり、「何かの間違いだ」と否認したり絶望したりする。次の1〜2週ほどは不安や抑うつ気分が強まり、眠れない、食欲がない、集中できないといった症状が出る。そして2週ほど経つと、多くの人は情報を受け止めて新しい状況に適応していく。
医学生医学生
臨床実習で腫瘍内科を回ったとき、告知の翌週に「夜眠れない」「ご飯が喉を通らない」と話す患者さんがいました。まさに第2相ですね。
ドクタードクター
そうだね。不安は告知直後から現れやすく、病気の進行や治療、家族や仕事の将来への心配として出てくる。動悸や発汗、落ち着きのなさといった身体症状の形をとることもある。抑うつは気分の落ち込み、興味の喪失、絶望感などで、告知後の心理反応の中心だ。
医学生医学生
睡眠障害と食思不振は、不安や抑うつに伴って出てくるという理解でいいですか。
ドクタードクター
その通り。寝つけない、夜中に何度も目が覚める、朝早く目が覚めるといった不眠や、食欲の低下は、ストレス反応として非常によくみられる。ただ、がん患者さんの食思不振は腫瘍そのものや化学療法でも起こるから、原因を区別する視点は持っておきたい。
医学生医学生
となると、残るのはせん妄です。でも、せん妄もがん病棟で本当によく見かけました。
ドクタードクター
そこがこの問題の落とし穴なんだ。せん妄は、軽度から中等度の意識障害を土台に、注意障害や見当識障害、幻覚、興奮が加わった状態。急に始まり、1日の中で症状が変動して、夕方から夜に悪化しやすい。
医学生医学生
精神医学の講義で「せん妄は意識障害、認知症は意識清明」と繰り返し教わりました。
ドクタードクター
いい復習だね。そしてせん妄の原因は身体の側にある。高カルシウム血症などの電解質異常、低酸素血症、感染症、脳転移、脱水、さらにオピオイドやベンゾジアゼピン系薬などの薬剤が脳の機能を乱して起こる。だから進行がんや終末期の患者さんには高頻度でみられるけれど、告知という心理的な衝撃だけで生じるものではないんだ。
医学生医学生
つまり「がん患者に多い」と「告知への反応」は別物で、せん妄は告知への反応としてはみられない、ということですね。
ドクタードクター
その通り、正解はせん妄だ。ここで臨床の注意点も押さえておこう。告知後の不安や抑うつは多くが2週間ほどで和らぐけれど、長引いて生活に大きな支障が出る場合は、適応障害やうつ病への移行を考える。適応障害はがん患者さんに最も多い精神疾患で、うつ病では自殺の危険にも注意が必要だ。
医学生医学生
「告知のショックだから仕方ない」と見過ごしてはいけないんですね。
ドクタードクター
そう。逆に、入院中のがん患者さんが急に落ち着かなくなったとき、「告知で落ち込んでいるのだろう」と心理的な問題として片付けるのも危険だ。せん妄なら、原因となる身体の異常や薬剤を探して取り除くことが治療の基本になる。必要に応じて抗精神病薬を使うこともある。
医学生医学生
キューブラー・ロスの5段階も関係しますか。CBTの勉強で否認、怒り、取り引き、抑うつ、受容と覚えました。
ドクタードクター
関連する知識として大事だね。ただし本来は、死が近いことを知った患者さんの心理を示したモデルで、必ず順番どおりに進むわけではない。段階を行き来したり重なったりするし、受容に至らない人も少なくない。それから、告知そのものの伝え方としてはSPIKESが知られている。場を整え、患者さんの認識や希望を確認し、情報を伝え、感情に対応し、今後の方針をまとめる。OSCEの医療面接でも、悪い知らせの伝え方は意識しておくといいよ。
医学生医学生
告知の仕方から、その後の心の経過、そして身体の異常による症状の見極めまで、つながっているんですね。
ドクタードクター
その通り。告知は一度きりのイベントではなく、その後の継続的な支援までが医療者の役割なんだ。

まとめ

がんの告知後には、衝撃・否認の時期を経て、1〜2週ほど不安や抑うつが強まり、不眠や食思不振を伴うことが多く、その後おおむね2週以降に適応へ向かいます。不安・抑うつ・睡眠障害・食思不振は、いずれも心理的ストレスへの反応として説明できます。一方、せん妄は意識障害を土台とする状態で、電解質異常・低酸素血症・感染症・脳転移・薬剤などの身体的要因で生じるため、告知への心理反応ではありません。告知後の症状が長引く場合は適応障害やうつ病を、急な意識の変動がある場合はせん妄と身体的原因を考えるという視点が、がん患者を心身両面から支える臨床の土台になります。

解答・解説

正解はbです

がんの診断を告げられることは、患者にとって強い心理的ストレスとなる。告知の後の心の動きは、おおむね次のような経過をたどることが知られている。 ・第1相(告知直後〜数日):衝撃を受けて頭が真っ白になり、「何かの間違いだ」と否認したり、絶望を感じたりする。 ・第2相(およそ1〜2週):不安や抑うつ気分が強まり、眠れない、食欲がない、集中できないなどの症状が出て、日常生活に支障が出ることもある。 ・第3相(およそ2週以降):病状や治療の情報を受け止め、新しい状況に適応していく。 多くの患者は2週間ほどで適応に向かうが、一部の患者は適応障害やうつ病に移行する。 本問では、選択肢の症状が「告知という心理的ストレスへの反応」として起こるかどうかを考える。不安・抑うつ・食思不振・睡眠障害は、いずれもストレスへの心理的な反応として説明できる。一方、せん妄は意識障害を土台とする状態で、身体の異常(脳の機能障害)が原因で起こる。心理的な衝撃だけで生じるものではないため、告知への反応としてはみられない。

選択肢考察

  1. ×a.  不安

    告知直後から、病気の進行、治療、死、家族や仕事の将来などに対して強い不安が生じる。不安は告知後の最も一般的な反応の一つで、抑うつ気分に先立って、あるいは抑うつ気分と並んで現れやすい。動悸や発汗、落ち着きのなさなど、身体の症状として現れることもある。

  2. ○b.  せん妄

    せん妄は、軽度から中等度の意識障害(意識の混濁)に、注意の障害、見当識障害、幻覚、興奮などが加わった状態である。急に起こり、1日の中で症状が変動する(夕方から夜に悪化しやすい)のが特徴である。原因は身体の側にあり、電解質異常(高カルシウム血症など)、低酸素血症、感染症、脳転移、オピオイドやベンゾジアゼピン系薬などの薬剤、脱水などが脳の機能を乱すことで起こる。進行がんや終末期の患者には高い頻度でみられるが、がん告知という心理的ストレスへの反応として起こる症状ではない。

  3. ×c.  抑うつ

    告知後には、気分の落ち込み、興味の喪失、絶望感、自責感などの抑うつ症状がよくみられ、告知後の心理反応の中心となる症状である。キューブラー・ロスの5段階の一つにも「抑うつ」が含まれる。多くは時間の経過とともに和らぐが、長引いて日常生活に大きな支障が出る場合は、適応障害やうつ病として精神科的な治療が必要になる。

  4. ×d.  食思〈欲〉不振

    不安や抑うつに伴って食欲が落ちることはよくある。食思不振は告知後のどの時期にも起こりうる症状である。がんの患者では、腫瘍そのものや治療(化学療法など)による食思不振と区別する必要があるが、心理的な反応としての食思不振も十分に起こりうる。

  5. ×e.  睡眠障害

    不安や抑うつに伴って、寝つきが悪くなる(入眠障害)、夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)、朝早く目が覚めてしまう(早朝覚醒)などの不眠がよく起こる。睡眠障害は、告知後の心理的ストレスへの反応として代表的な症状の一つである。

キューブラー・ロスの死の受容の5段階

精神科医キューブラー・ロスは、著書『死ぬ瞬間』で、死が近いことを知った患者の心理が次の段階をたどることを示した。 1. 否認:「そんなはずはない」と事実を受け入れない。 2. 怒り:「なぜ自分が」と周囲に怒りを向ける。 3. 取り引き:神や医療者に「〜するから助けてほしい」と延命を願う。 4. 抑うつ:喪失を実感して深い悲しみに沈む。 5. 受容:死を運命として静かに受け入れる。 この5段階は必ず順番どおりに進むわけではなく、段階を行き来したり、いくつかの段階が重なったりする。実際の臨床では、受容に至らない患者も少なくない。

がん患者の精神症状

・適応障害:がん患者に最も多い精神疾患で、ストレスによる不安や抑うつが通常より強く、生活に支障をきたす状態である。 ・うつ病:がん患者の数%〜十数%にみられる。自殺の危険にも注意が必要である。 ・せん妄:入院中の進行がん患者に多く、終末期にはさらに高い頻度でみられる。原因となる身体の異常を探して取り除くことが治療の基本で、必要に応じて抗精神病薬を使う。

悪い知らせの伝え方

告知の方法として、SPIKES(場の設定、患者の認識の確認、情報提供への希望の確認、知識の提供、感情への対応、今後の方針のまとめ)などが知られている。告知後は、患者の心理反応の経過を理解して継続的に支援することが重要である。

POINT

・がん告知後の心理反応には、不安・抑うつ・不眠・食思不振などがある。 ・告知後の反応は、衝撃・否認 → 不安・抑うつ(約1〜2週) → 適応(約2週以降)と経過することが多い。長引くときは適応障害やうつ病を疑う。 ・せん妄は意識障害を土台とする状態で、身体の異常や薬剤が原因となる。心理的ストレスへの反応ではない。 ・キューブラー・ロスの5段階は、否認 → 怒り → 取り引き → 抑うつ → 受容である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。