その水はどこにある?―「胸腔の中か、肺の中か」で決まる胸腔ドレナージの適応
第99回医師国家試験 B問題 第42問
国試問題にチャレンジ
胸腔ドレナージの適応でないのはどれか。
- a.膿胸
- b.気胸
- c.血胸
- d.乳び胸
- e.肺水腫
対話形式の解説
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ドクターまとめ
胸腔ドレナージは、胸腔(壁側胸膜と臓側胸膜のあいだ)に溜まった空気や液体を排出して肺を再膨張させる処置であり、気胸・血胸・膿胸・乳び胸などが適応となります。一方、肺水腫は水分が肺の間質や肺胞という実質内に貯留する病態で、胸腔内に排出すべきものがないため適応になりません。肺水腫の治療は、心原性なら酸素投与・NPPV・利尿薬・血管拡張薬、非心原性ならPEEPを用いた呼吸管理と原因治療が中心です。また、膿胸での抗菌薬併用、血胸での排液量による開胸止血の判断、乳び胸での脂肪制限、気胸ドレナージ後の再膨張性肺水腫など、各病態に固有の注意点もあります。「異常が胸腔内にあるか肺内にあるか」という解剖学的な視点は、処置の適応を考えるうえでの基本となる考え方です。
解答・解説
正解はeです
胸腔ドレナージとは、胸壁から胸腔(壁側胸膜と臓側胸膜の間の空間)へチューブを挿入し、そこに溜まった空気や液体を体外へ排出する処置である。胸腔に空気や液体が貯留すると肺が外から圧迫されて膨らめなくなり、呼吸困難や低酸素血症を来す。ドレナージで貯留物を除けば肺は再膨張し、呼吸状態が改善する。 したがって、適応を判断するときの考え方は単純で、「異常が胸腔内(肺の外)にあるか、肺の内部にあるか」を見分ければよい。膿胸(膿)、気胸(空気)、血胸(血液)、乳び胸(リンパ液)はいずれも胸腔内に何かが溜まる病態であり、ドレナージの対象となる。一方、肺水腫は肺の間質や肺胞の中に水分が増える病態で、胸腔内に排出すべきものはない。そのため胸腔ドレーンを入れても病態は改善せず、適応とならない。
選択肢考察
- ×a. 膿胸
適応である。膿胸は胸腔内に膿が溜まった状態で、肺炎に続いて起こることが多い(肺炎随伴性胸水が感染・化膿したもの)。急性膿胸の治療の基本は、胸腔ドレナージで膿を排出することと抗菌薬の投与の二本柱である。膿は粘稠で隔壁(フィブリンによる仕切り)を作りやすいため、排出が不十分なときは胸腔内への線維素溶解薬の注入や、胸腔鏡下の掻爬・剥皮術が行われる。慢性化して肺が厚い被膜に覆われると、開窓術や肺剥皮術が必要になることもある。
- ×b. 気胸
適応である。気胸は胸腔内に空気が入り込み肺が虚脱した状態である。軽度(虚脱が軽い)で症状が乏しければ安静・経過観察でよいが、中等度以上の虚脱や呼吸困難がある場合は胸腔ドレナージで脱気し、肺を再膨張させる。緊張性気胸は胸腔内圧の上昇で縦隔が偏位し静脈還流が障害されるショック状態であり、直ちに穿刺脱気やドレナージを行う必要がある。なお、長時間虚脱していた肺を強い陰圧で急激に膨らませると、再膨張性肺水腫を起こすことがある。そのため最初は水封(ウォーターシール)や弱い陰圧で徐々に脱気するのが原則である。
- ×c. 血胸
適応である。血胸は胸腔内に血液が貯留した状態で、胸部外傷(肋骨骨折による肋間動脈損傷など)が代表的な原因である。胸腔ドレナージにより血液を排出して肺を再膨張させると同時に、排液量から出血の程度を評価できる。ドレーン挿入直後に多量の血液(目安として約1,000〜1,500 mL以上)が出る場合や、その後も1時間あたり約200 mL以上の出血が数時間続く場合には、ドレナージだけでは不十分と判断し、開胸などによる止血術を検討する。胸腔内に凝血塊が残ると、感染して膿胸になったり、線維化して肺の膨張を妨げたりするため、十分な排出が重要である。
- ×d. 乳び胸
適応である。乳び胸は胸管(腸から吸収された脂肪を含むリンパ液を運ぶ太いリンパ管)が損傷や腫瘍(悪性リンパ腫など)によって破綻し、白く濁った乳び(脂肪を含むリンパ液)が胸腔内に溜まった状態である。胸水中のトリグリセリド高値(おおむね110 mg/dL以上)が診断の目安となる。治療は胸腔ドレナージで排液して肺を再膨張させ、同時に乳びの産生を減らすため脂肪を制限した食事(中鎖脂肪酸は胸管を経ずに門脈から吸収されるため利用される)や絶食・中心静脈栄養で管理する。オクトレオチドが用いられることもある。これらの保存的治療で改善しない場合は胸管結紮術などの外科的治療を行う。
- ○e. 肺水腫
適応でない(本問の正解)。肺水腫は、肺毛細血管から水分が漏れ出して肺の間質や肺胞内に溜まる病態であり、液体は肺の実質の中にあって胸腔内にはない。そのため胸腔にドレーンを入れても肺内の水分は除去できず、改善は得られない。治療は原因によって異なり、心原性(左心不全による肺静脈圧上昇)では酸素投与、非侵襲的陽圧換気(NPPV)や呼気終末陽圧(PEEP:呼気の終わりにも気道に陽圧をかけて肺胞の虚脱を防ぐ方法)を用いた呼吸管理、ループ利尿薬や硝酸薬などの血管拡張薬による前負荷・後負荷の軽減が中心となる。かつてはアミノフィリンやモルヒネもよく使われたが、現在は副作用への懸念から限定的な使用となっている。非心原性(急性呼吸窮迫症候群〈ARDS〉など)では原因疾患の治療と、PEEPを用いた人工呼吸管理が主体である。なお、心不全では胸水を合併することもあり、その場合に呼吸困難の軽減目的で胸腔穿刺を行うことはあるが、それは胸水に対する処置であり、肺水腫そのものの治療ではない。
胸腔ドレナージの概要
胸腔ドレナージは、胸壁(通常は中腋窩線付近の第4〜5肋間、いわゆる安全三角)からチューブを挿入し、排液バッグ(水封式の吸引システム)に接続して行う。水封(ウォーターシール)とは、チューブの先端を水中に沈めることで、胸腔から外への流れは許しつつ外気が胸腔へ逆流しないようにする一方向弁の仕組みである。必要に応じて弱い陰圧(例:−10〜−20 cmH2O程度)をかけて吸引する。
胸腔内の貯留物と病名
・空気 → 気胸 ・血液 → 血胸 ・膿 → 膿胸 ・乳び(脂肪を含むリンパ液) → 乳び胸 ・漿液性の胸水 → 胸水貯留(悪性胸水では、ドレナージ後に胸膜癒着術を行って再貯留を防ぐことがある)
肺水腫の分類と治療の方向性
・心原性肺水腫:左心不全などで肺静脈圧・肺毛細血管圧が上昇し、水分が押し出される。利尿薬・血管拡張薬、NPPVなどで治療する。 ・非心原性肺水腫:ARDSなどで肺毛細血管の透過性が亢進する。原因治療と、PEEPを用いた肺保護的な人工呼吸管理を行う。 ・再膨張性肺水腫:虚脱していた肺を急速に再膨張させた後に起こる。気胸や大量胸水のドレナージ時に、排出の速度や量を調節して予防する。
ドレナージの主な合併症
出血(肋間動静脈損傷。肋間動静脈は肋骨下縁を走行するため、チューブは肋骨の上縁に沿って挿入する)、肺・腹腔内臓器の損傷、感染(膿胸)、皮下気腫、再膨張性肺水腫などがある。
POINT
・胸腔ドレナージの適応は「胸腔内に空気や液体が溜まる病態」:気胸・血胸・膿胸・乳び胸・大量胸水 ・肺水腫は水分が肺の実質(間質・肺胞)内にあるため、胸腔ドレナージの適応にならない ・肺水腫の治療は酸素投与、陽圧換気(NPPV・PEEP)、利尿薬・血管拡張薬、原因疾患の治療 ・気胸のドレナージでは急速な再膨張による再膨張性肺水腫に注意する ・血胸で大量の初期排液や持続する出血があれば開胸止血を検討する
