検査は採る前から始まっている―「混ぜる・拭く・捨てる」で守る検体の質
第99回医師国家試験 B問題 第24問
国試問題にチャレンジ
検体採取法で正しいのはどれか。
- a.血算用採血では採血後,直ちに静置する。
- b.検尿用採尿では初尿を採る。
- c.女性の検尿では外陰部を清拭してから採尿する。
- d.採痰ではできるだけ多く唾をいれる。
- e.採便は便の表面をこすって採る。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
検体検査の結果は採取から測定までの検査前の過程に大きく左右されるため、「何を調べる検体か」「何が混入すると結果が損なわれるか」を考えて採取法を判断します。女性は尿道が短く外陰部の菌や分泌物が混入しやすいため、外陰部を前から後ろへ清拭してから中間尿を採るのが正しく、初尿はクラミジア・淋菌など尿道炎の検査に限って用います。血算用のEDTA-2K採血管は採血後すぐに転倒混和して凝固を防ぎ、喀痰はうがい後に深い咳で唾液を避けて下気道の痰を採り、一般的な便検査は表面だけでなく内部を含めて粘血部分を優先して採取します。駆血時間の延長や溶血によるカリウムなどの偽高値も含め、検査前の誤差を知っておくことは、臨床像と合わない検査値に気づき、誤った診断や治療を避けるための基本となります。
解答・解説
正解はcです
本問は、日常的な検体(血液・尿・痰・便)の正しい採取法を問う問題である。 検体検査の結果は、分析装置の精度だけでなく、採取から測定までの「検査前の過程」に大きく左右される。誤った採取は、凝固による血球数の偽低値、常在菌や他部位の細胞の混入(コンタミネーション)による偽陽性、目的物の採り損ないによる偽陰性などの原因となる。各検体について、①何を調べるための検体か、②何が混入すると結果が損なわれるか、を考えると正しい手順を導ける。 ・血液(血算):抗凝固薬と十分に混和して凝固を防ぐ。 ・尿:尿道口・外陰部や尿道の細菌・細胞の混入を避ける(清拭と中間尿)。 ・痰:口腔内の唾液の混入を避け、下気道由来の分泌物を採る。 ・便:外部からの汚染を避け、病変を反映する部分を採る。 この観点から、女性の採尿前に外陰部を清拭するという手順が正しい。
選択肢考察
- ×a. 血算用採血では採血後,直ちに静置する。
血算(血球数算定:赤血球・白血球・血小板数、ヘモグロビン、ヘマトクリットなど)用の採血管には、抗凝固薬としてEDTA-2K(エチレンジアミン四酢酸二カリウム塩)が入っている。EDTAはカルシウムイオンをキレート(結合)して凝固反応を止めるが、血液と混ざらなければ働かない。採血後すぐに静置すると一部が凝固し、微小なフィブリン塊や血小板凝集が生じて、血小板数や白血球数の偽低値、装置の吸引不良などを招く。採血後は直ちに、泡立てないように静かに数回転倒混和するのが正しい。
- ×b. 検尿用採尿では初尿を採る。
排尿の最初の部分(初尿)には、尿道や外尿道口周囲に存在する細菌、白血球、上皮細胞などが洗い流されて混入するため、膀胱内の尿の性状を正しく反映しない。一般的な尿検査(尿定性・尿沈渣)や尿培養では、出始めの尿を捨て、排尿の途中の尿(中間尿)を採取するのが原則である。なお、初尿は尿道炎の原因となるクラミジアや淋菌の核酸増幅検査など、尿道の病原体を目的とする場合に限って用いられる。また「初尿」(1回の排尿の出始め)と「早朝第一尿」(起床後最初の排尿)は別の概念であり、混同しないよう注意する。
- ○c. 女性の検尿では外陰部を清拭してから採尿する。
女性は尿道が短く(約3〜4 cm)、外尿道口が腟口や肛門に近いため、外陰部の常在菌や腟分泌物、上皮細胞が尿に混入しやすい。混入が起こると、尿沈渣での白血球・扁平上皮の増加や、尿培養での偽陽性(実際には尿路感染がないのに細菌が検出される)につながる。そのため、採尿前に清浄綿や石けん液を含ませたガーゼなどで、陰唇を広げて外陰部を前(尿道口側)から後ろ(肛門側)へ向かって拭き、肛門周囲の菌を尿道口へ運ばないようにする。そのうえで中間尿を採取するのが正しい手順である。
- ×d. 採痰ではできるだけ多く唾をいれる。
喀痰検査(細菌検査・抗酸菌検査・細胞診)の目的は、気管・気管支・肺胞など下気道の分泌物を調べることである。唾液は口腔内の常在菌と扁平上皮細胞を多く含むため、混入すると起炎菌の判定が困難になり、検体の品質が低下する。唾液はできるだけ入れず、起床直後に水でうがいをして口腔内をきれいにしたうえで、深く咳をして気道の奥から出る痰を採取するのが正しい。検体の品質は肉眼的にはMiller & Jones分類(唾液様・粘性・膿性の程度)、顕微鏡的にはGeckler分類(扁平上皮細胞と好中球の数)で評価され、扁平上皮細胞が多い検体は唾液の混入が多い不良検体と判断される。痰が出にくい場合は高張食塩水の吸入による誘発喀痰を用いる。
- ×e. 採便は便の表面をこすって採る。
便の表面は、便器内の水、尿、消毒薬、便器表面の菌などで汚染されやすい。細菌培養や寄生虫検査など一般的な便検査では、表面だけでなく内部を含めて複数の箇所から採取し、粘液や血液が付着した部分など病変を反映しやすい部分があれば、それを優先して採る。したがって「表面をこすって採る」というのは一般的な採便法として適切でない。なお、下痢が高度で自然排便による採取が難しい場合には、滅菌綿棒を肛門から挿入して直腸壁から採取する方法(直接採取法)もある。
主な採血管と注意点
・EDTA-2K(紫キャップが一般的):血算、血液像。採血後すぐに転倒混和する。 ・クエン酸ナトリウム(黒・水色など):凝固検査(PT、APTTなど)、赤沈。血液と抗凝固薬の比率(凝固検査で9:1、赤沈で4:1)が重要なので規定量まで採血する。 ・フッ化ナトリウム(灰色など):血糖。解糖阻止剤により、採血後に赤血球がブドウ糖を消費して値が下がるのを防ぐ。 ・凝固促進剤・血清分離剤入り(茶・赤など):生化学、免疫検査。 ※キャップの色は施設・メーカーにより異なることがある。
採血時のその他の注意
・駆血時間が長いと血液濃縮により蛋白やカリウムなどが高値になる。 ・細い針での強い吸引や激しい振盪は溶血を起こし、カリウム、LD(乳酸脱水素酵素)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)が偽高値となる。 ・輸液をしている腕からの採血は避ける。
尿検体の種類
・早朝第一尿:濃縮されており、尿蛋白・沈渣の評価に適する。 ・随時尿:外来で任意の時点に採る尿。 ・中間尿:一般的な尿検査・尿培養の基本。 ・初尿:尿道炎(クラミジア・淋菌)の検査に用いる。 ・カテーテル尿・膀胱穿刺尿:汚染を最小限にしたいとき。 ・採取後は速やかに検査する。室温放置で細菌が増殖し、円柱や細胞も崩壊する。
喀痰の採取
・起床直後が最もよい(夜間に気道に貯留した分泌物が得られる)。 ・水でうがいをして口腔内を清浄にしてから、深い咳で採取する。 ・抗酸菌検査は日を変えて3回提出するのが原則。
便の採取
・培養・寄生虫検査では複数箇所から、粘血部分を優先して採取する。 ・赤痢アメーバの栄養型の検出には、排便直後の新鮮便を冷やさずに速やかに検査する。 ・なお、大腸がん検診で行う便潜血検査(免疫法)のキットでは、便の表面の複数箇所を擦り取るよう指示されている。これは出血が便の表面に付着しやすいためであり、検査目的ごとに採取法が異なる例である。
POINT
・血算用の採血管(EDTA-2K入り)は採血後ただちに転倒混和して凝固を防ぐ。 ・一般尿検査・尿培養は中間尿で行う。初尿はクラミジア・淋菌など尿道炎の検査用。 ・女性は尿道が短く汚染されやすいため、外陰部を前から後ろへ清拭してから中間尿を採る。 ・喀痰は唾液の混入を避け、うがい後に深い咳で下気道の痰を採る。品質はMiller & Jones分類、Geckler分類で評価する。 ・一般的な便検査は表面だけでなく内部を含め複数箇所から、粘血部分を優先して採る。
