円の中に波打つ線―シェーマが語る肛門診察の記録術
第99回医師国家試験 B問題 第15問
国試問題にチャレンジ
診察所見の記録に使用する模式図(①~⑤)を示す。 肛門の診察時に使用するのはどれか。

- a.①
- b.②
- c.③
- d.④
- e.⑤
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生
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ドクターまとめ
診療録では、所見の部位や大きさを正確に伝えるため、臓器ごとに定型の模式図(シェーマ)が用いられます。肛門のシェーマは外側の円(肛門縁)と内側の花びら状の波線(歯状線)が特徴で、歯状線より口側に生じる痔核を内痔核、肛門側を外痔核として区別して記録できます。乳房は十字の4分割と腋窩突出部、眼は眼瞼・まつげと角膜、鼓膜はツチ骨柄の斜線、子宮腟部は中央の外子宮口で見分けます。肛門所見は砕石位で腹側12時・背側6時の時計表示で記載し、内痔核は3・7・11時、裂肛は6時方向に好発します。図の構造を解剖と結びつけて理解しておくことは、カルテを正しく書き、他者の記録を正確に読むための基本となります。
解答・解説
正解はcです
診療録(カルテ)には、所見の部位・大きさ・性状を正確に残すため、臓器ごとに決まった模式図(シェーマ)を描いて記録することが多い。本問は、図の形からどの部位の模式図かを見分ける問題である。
各図の見分け方
・①: 大きな円を点線で十字に4分割し、中央に小円、外上方に点線の突出部がある。中央の小円が乳頭・乳輪、点線の突出部が腋窩方向へ伸びる乳腺組織(腋窩突出部)であり、乳房の模式図である。 ・②: 上下にまつげのついた眼瞼があり、中央に円形の角膜(黒目)が描かれている。眼(前眼部)の模式図である。 ・③: 外側の円の内側に、花びら状に波打つ閉じた線がある。外側の円が肛門縁、内側の波状線が歯状線(直腸粘膜と肛門上皮の境界で、肛門柱の下端が波打って見える)に相当し、肛門の模式図である。 ・④: 楕円形の輪郭の中に、上方から下方へ斜めに伸びる線がある。この線はツチ骨柄(鼓膜の内側に付着するツチ骨の一部が透見されたもの)であり、鼓膜の模式図である。 ・⑤: 円の中央に横長の小さな楕円がある。円が子宮腟部、中央の楕円が外子宮口であり、腟鏡で観察した子宮頸部の模式図である。 したがって、肛門の診察に用いるのは③である。
選択肢考察
- ×a. ①
誤り。①は乳房の模式図である。乳頭を中心に乳房を十字線で内上・内下・外上・外下の4領域に分け、腋窩へ伸びる腋窩突出部を加えて描く。触診で触れた腫瘤の位置・大きさ・硬さ・可動性、皮膚のくぼみ(えくぼ徴候)、乳頭分泌物、腋窩リンパ節腫大などを記録する。
- ×b. ②
誤り。②は眼(前眼部)の模式図で、上下の眼瞼とまつげ、その間の眼球表面と角膜が描かれている。眼瞼の病変(麦粒腫、霰粒腫、眼瞼下垂など)、結膜・強膜の所見(充血、黄染など)、角膜・水晶体の混濁(白内障など)を書き込む。
- ○c. ③
正しい。③は肛門の模式図で、外側の円が肛門縁、内側の花びら状の波線が歯状線を表す。直腸肛門診(視診・直腸指診・肛門鏡検査)の所見を、時計の文字盤に見立てた位置(砕石位で腹側を12時、背側を6時とするのが一般的)で記録する。歯状線より口側(直腸側)に生じる痔核は内痔核、肛門側に生じる痔核は外痔核と区別でき、裂肛・痔瘻の開口部・腫瘤などの位置も書き込む。
- ×d. ④
誤り。④は鼓膜の模式図で、中央の斜めの線はツチ骨柄である。耳鏡で観察した鼓膜の発赤・膨隆(急性中耳炎)、陥凹や液面(滲出性中耳炎)、穿孔の位置と大きさ、白色の石灰化斑(鼓室硬化症)などを記録する。
- ×e. ⑤
誤り。⑤は子宮頸部(子宮腟部)の模式図で、中央の楕円が外子宮口である。腟鏡診で観察した腟部の色調(妊娠時には青紫色調を帯びる)、びらん様所見(円柱上皮の外反)、ポリープ・腫瘤・潰瘍、外子宮口からの分泌物や出血などを書き込む。外子宮口は未産婦では小さな円形、経産婦では横に裂けた形になる。
肛門部の解剖と歯状線
歯状線(櫛状線)は、肛門縁から約2cm口側にある波状の線で、発生学的に内胚葉由来の直腸粘膜(円柱上皮)と外胚葉由来の肛門上皮(重層扁平上皮)の境界にあたる。歯状線より口側は自律神経支配で痛覚に乏しく、肛門側は体性神経(陰部神経)支配で痛覚が鋭い。このため内痔核は痛みが少なく出血で気づかれやすいのに対し、外痔核(特に血栓性外痔核)や裂肛は強い痛みを伴う。
肛門所見の記載
・部位は時計の文字盤で示す。砕石位(仰向けで両脚を開いて挙上する体位)で腹側(陰嚢・腟側)を12時、背側(尾骨側)を6時とする表記が一般的である。実際の診察は左側臥位で膝を曲げるシムス位で行うことも多いが、記録は同じ時計表示に換算して書く。 ・内痔核は砕石位で3時・7時・11時方向に好発する。 ・裂肛は後方(6時)に最も多く、次いで前方(12時)に多い。
模式図(シェーマ)の意義
所見を文章だけで書くと位置関係があいまいになりやすい。臓器ごとの定型の図に書き込むことで、他の医療者にも正確に伝わり、経過の比較もしやすくなる。
POINT
・肛門の模式図: 外側の円(肛門縁)+内側の波状線(歯状線)。 ・肛門所見は時計表示で記載(砕石位で腹側12時・背側6時)。歯状線より口側が内痔核、肛門側が外痔核。 ・他の模式図の特徴: 乳房は4分割+腋窩突出部、鼓膜はツチ骨柄の線、子宮腟部は中央の外子宮口、眼は眼瞼・まつげと角膜。
