泣いても大丈夫―母親の膝の上で進める幼児の診察術
第99回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
泣きわめいて母親から離れない幼児の診察で適切な対応はどれか。
- a.母親に「泣き止ませてから連れて来るように」と言う。
- b.「しつけが悪い」と母親を叱る。
- c.母親に固定させて診察を進める。
- d.「泣けば注射するよ」と言って泣き止むのを待つ。
- e.お菓子を与えて泣き止むのを待つ。
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
泣きわめいて母親から離れない幼児は、恐怖や分離不安という正常な発達上の反応で泣いており、自分の意思で泣き止むことは困難です。そのため泣き止むのを待たず、母親の膝の上で抱っこして体を支えてもらい、手早く診察を進めるのが適切です。脅す、保護者を叱る、実行困難な要求をする、お菓子で釣るといった対応は、恐怖や不信を強めたり安全面の問題を生じたりするため避けます。診察は視診から始め、聴診・腹部触診を先に、咽頭や耳の診察など嫌がる手技は最後に回すのが基本です。子どもの不安に寄り添い、保護者を協力者として尊重する姿勢は、小児診療全体の信頼関係の基盤となります。
解答・解説
正解はcです
本問は、診察を怖がって泣き叫び、母親にしがみついて離れない幼児をどう診察するかという、小児診療の基本姿勢を問うている。
幼児が泣く理由
1〜5歳ごろの幼児は、知らない場所・白衣の大人・器具への恐怖や、以前に受けた注射・処置の記憶から、診察室で泣くことが多い。特に1歳前後から2歳ごろは人見知りや分離不安(養育者から離れることへの強い不安)が目立つ時期であり、泣くのは正常な発達の表れといえる。本人は恐怖と混乱の中にいて、自分の意思で泣き止むことは難しい。
対応の基本的な考え方
・泣いている子どもに「泣き止むこと」を診察の前提条件にしない。待っても泣き止むとは限らず、診察が遅れるだけである。 ・子どもにとって最も安心できる存在である母親(養育者)のそばで診察を行う。母親の膝の上で抱っこしてもらい、手足や頭を軽く押さえてもらう(保護者による抱っこでの固定)と、子どもの不安が和らぐうえ、診察を安全かつ短時間で終えられる。 ・脅す、叱る、物で釣るといった対応は、子どもの恐怖を強めたり、医療者と子ども・家族との信頼関係を損なったりするので避ける。 ・短時間で要領よく診察を終えることが、結果的に子どもを早く泣き止ませ、負担を最小にする。 したがって、母親に協力してもらって体を支え(固定し)ながら診察を進めるのが適切である。
選択肢考察
- ×a. 母親に「泣き止ませてから連れて来るように」と言う。
誤り。幼児が診察室で泣くのは恐怖や分離不安による自然な反応であり、母親の努力で簡単に泣き止ませられるものではない。家族に実行困難なことを求めても診察は進まず、受診そのものを遅らせることになる。泣いていても診察を行えるよう工夫するのは医療者側の役割である。
- ×b. 「しつけが悪い」と母親を叱る。
誤り。泣きわめくのは不安と混乱によるもので、しつけの問題ではない。母親を責めても事態は改善せず、母親を傷つけ、医師と家族の信頼関係を損なう。小児診療では保護者は診療の協力者であり、非難する対象ではない。
- ○c. 母親に固定させて診察を進める。
適切。子どもが最も安心できる母親の膝の上で抱っこしてもらい、体や手足を支えてもらいながら診察すれば、子どもの不安を和らげつつ、急な体動による事故も防げる。泣いている状態でも、視診・触診・聴診(泣いた後の吸気時を利用する)など必要な診察は行える。手早く診察を終えることが、子どもを最も早く泣き止ませ、心身の負担を減らす方法である。
- ×d. 「泣けば注射するよ」と言って泣き止むのを待つ。
誤り(避けるべき対応)。医療行為を罰として脅しに使うと、子どもの恐怖はさらに強まり、医療への不信や恐怖心が残る。次回以降の受診でさらに激しく泣く、本当に注射が必要なときに強く抵抗するなど、今後の診療にも悪影響が及ぶ。子どもを脅すことは医療者として許されない。
- ×e. お菓子を与えて泣き止むのを待つ。
誤り。泣き止むのを待っていては診察がいつ始められるか分からず、外来診療が滞る。また、医師が物で釣って子どもの行動を変えようとするのは適切な医療的対応とはいえない。さらに、泣いてしゃくり上げている子どもに食べ物を与えると誤嚥や窒息の危険があり、病状によっては(嘔吐がある、検査や鎮静・処置を控えているなど)飲食を控えるべき場合もある。
小児の診察の工夫
・順序: 泣くと得にくい所見から先にとる。まず離れた位置から顔色・呼吸の様子・活気などを視診し、呼吸音・心音の聴診や腹部の触診は比較的おとなしいうちに行う。口腔・咽頭の観察や耳鏡検査など子どもが嫌がる手技は最後に回す。 ・姿勢: 乳幼児は無理に診察台に寝かせず、保護者の膝の上で抱っこしたまま診察するとよい。耳や咽頭を診るときは、保護者に子どもの頭と腕を胸元でしっかり抱えてもらい固定する。 ・声かけ: 年齢に応じて、これから何をするかを簡単な言葉で説明する。聴診器をおもちゃのように触らせるなど、恐怖を和らげる工夫も有効である。うそ(「痛くないよ」と言って痛い処置をするなど)はつかない。 ・泣いていても得られる情報: 泣き声の強さ(元気さの指標)、顔色、胸郭の動き、腹部の筋性防御の有無(泣いた後の吸気時に触診する)などは評価できる。
保護者との関係
小児科では保護者が問診の情報源であり、治療の実施者でもある。保護者を責めずに協力を求め、不安に配慮した説明を行うことが、適切な診療と継続的な受診につながる。
POINT
・泣きわめく幼児は、泣き止むのを待たず、母親(保護者)に抱っこで固定してもらい手早く診察する。 ・脅す(「注射するよ」)、保護者を叱る、実行困難な要求をする、物で釣るのは不適切。 ・子どもが嫌がる手技(咽頭・耳の診察)は最後に回し、聴診・腹部触診を先に行う。
