StudyMed医師国家試験

その署名は誰のため?―インフォームドコンセントの主役は患者である

第99回医師国家試験 B問題 第1問

国試問題にチャレンジ

第99回 B問題 第1問

インフォームドコンセントとして適切でないのはどれか。

  1. a.治療処置の目的を説明する。
  2. b.治療処置の選択肢を説明する。
  3. c.治療処置のリスクを説明する。
  4. d.病院の免責文書に署名をもらう。
  5. e.納得のうえ同意文書に署名をもらう。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回はインフォームドコンセントの本質を問う問題だ。着眼点はシンプルで、「この手続きは誰の何を守るためのものか」を考えること。そこが分かれば、選択肢の中で1つだけ方向の違うものが見えてくるよ。
医学生医学生
インフォームドコンセントは「説明と同意」と訳されますよね。説明して署名をもらえば成立する、という理解でいいのでしょうか。
ドクタードクター
手続きの形としては近いけれど、大事なのは中身なんだ。インフォームドコンセントは、患者が自分の身体に何をされるかを自分で決める権利、つまり自己決定権を保障するための手続きだ。医師は病状、検査や治療の目的と内容、期待される効果、起こりうる危険性、ほかの選択肢を、患者が理解できる言葉で説明する。患者はそれを理解・納得したうえで、自由な意思で同意するか拒否するかを決める。
医学生医学生
主役は患者さんということですね。そうすると、治療の目的を説明するのは当然必要になりそうです。
ドクタードクター
その通り。なぜその治療をするのか、根治を目指すのか、症状の緩和なのか、診断の確定なのかが分からなければ、患者は受けるかどうか判断できない。目的の説明は中心的な要素だ。では、治療の選択肢を説明することは?
医学生医学生
医師が勧める方法だけ伝えるのでは、患者さんは比べようがないですよね。外科を回ったとき、乳癌の患者さんに手術と薬物療法の両方を説明している場面を見学しました。
ドクタードクター
いい経験をしたね。代替手段、それに治療を行わない場合の見通しまで示すことで、初めて患者は比較して自分で選べる。自己決定を実質的なものにするために欠かせないんだ。次はリスクの説明。
医学生医学生
合併症や副作用ですね。正直、リスクばかり話すと患者さんが怖がって治療を断ってしまわないか心配になります。
ドクタードクター
その気持ちは分かる。でも、効果だけ伝えてリスクを伏せたまま得た同意は、真の意味でのインフォームドコンセントとはいえない。合併症や副作用の可能性、その頻度や重さを誠実に伝え、不安には丁寧に答える。それが信頼関係の土台にもなるんだ。
医学生医学生
では、病院の免責文書に署名をもらうというのは……病院を守るという意味では必要そうにも思えますが。
ドクタードクター
そこがこの問題の答えだよ。インフォームドコンセントは患者の権利を守るための手続きで、病院や医師の責任を免除させることが目的ではない。手術承諾書に「結果について一切異議を申し立てない」といった文言が入っていることがあるけれど、医療者に過失があった場合の責任をこうした文書で免れることはできないと考えられている。しかも、免責を求める文書は患者の自由な意思決定を圧迫するおそれがあるから、趣旨に反するんだ。
医学生医学生
なるほど、守る対象が逆向きなんですね。納得のうえで同意文書に署名をもらうのは、同意の記録だから適切ということですか。
ドクタードクター
その通り。患者が理解・納得して同意したことを文書に残すのは、意思を確認・記録する方法として大切だ。ただし署名自体が目的ではなく、その前の説明と理解が本質。それから、同意はいつでも撤回できることも伝えておきたい。
医学生医学生
OSCEの医療面接でも、説明の後に「何か分からないことはありますか」と理解を確認するよう指導されました。
ドクタードクター
まさにそれが大事な一歩だ。発展的に整理すると、有効なインフォームドコンセントには、同意能力、十分な説明、理解、自発性、そして同意または拒否という要素が必要とされる。未成年や認知症などで判断能力が十分でない場合は、代諾者の同意を得つつ、本人にも理解に応じた説明を行う。
医学生医学生
意識のない救急患者さんで、家族とも連絡がつかない場合はどうなりますか。
ドクタードクター
生命に関わる緊急時で同意を得る時間がない場合は、同意なしに必要な処置を行うことが許容される。背景には、医師が一方的に決めるパターナリズムから患者の自己決定を尊重する考え方への転換があって、ニュルンベルク綱領、ヘルシンキ宣言、リスボン宣言がその流れを示している。日本の医療法でも、医療の担い手は適切な説明を行い、理解を得るよう努めるものとされているよ。

まとめ

インフォームドコンセントは、患者が説明を受け理解・納得したうえで自由意思により医療行為への同意または拒否を決める手続きであり、患者の自己決定権を保障するためのものです。説明すべき内容は、治療の目的、方法、期待される効果、リスク、代替手段、治療しない場合の見通しなどで、同意は文書で確認しつつ、いつでも撤回できることも伝えます。一方、病院の免責文書への署名は医療者側の責任回避を目的とするもので趣旨に反し、過失責任を免除する効力もないと考えられています。判断能力が不十分な場合の代諾や、生命に関わる緊急時の例外もあわせて押さえておくとよいでしょう。「誰のための手続きか」を意識することは、日々の説明や同意取得の質を高め、患者との信頼関係を築く基本となります。

解答・解説

正解はdです

インフォームドコンセント(informed consent:説明を受けたうえでの同意)の本質を問う基本問題である。 インフォームドコンセントは、患者の自己決定権(自分の身体に何をされるかを自分で決める権利)を保障するための手続きである。医師は、病名・病状、予定する検査や治療の目的と内容、期待される効果、起こりうる危険性(合併症・副作用)、ほかに取りうる選択肢(何もしない場合の見通しを含む)などを、患者が理解できる言葉で説明する。患者はそれを理解・納得したうえで、自由な意思に基づいて同意するか拒否するかを決める。 したがって、手続きの主役は患者であり、目的は患者の権利保護である。病院や医師の法的責任を免れるための手段ではない。この観点から各選択肢を見ると、「説明すべき内容」と「同意の確認方法」に当たるものは適切であり、医療者側の免責を目的とする行為は趣旨に反すると判断できる。

選択肢考察

  1. ×a.  治療処置の目的を説明する。

    適切である。なぜその治療や処置を行うのか、何を目指すのか(根治、症状の緩和、診断の確定など)を示さなければ、患者は受けるかどうかを判断できない。目的の説明は説明内容の中心となる要素の一つである。

  2. ×b.  治療処置の選択肢を説明する。

    適切である。医師が勧める方法だけでなく、ほかの治療法(例:手術か薬物療法か放射線療法か)や、治療を行わない場合の経過もあわせて示すことで、患者は比較したうえで自ら選ぶことができる。代替手段の提示は自己決定を実質的なものにするために欠かせない。

  3. ×c.  治療処置のリスクを説明する。

    適切である。効果だけでなく、合併症・副作用・後遺症の可能性やその頻度・重さを説明することは、同意が有効となるための条件である。リスクの説明が不十分なまま得た同意は、真の意味でのインフォームドコンセントとはいえない。

  4. ○d.  病院の免責文書に署名をもらう。

    適切でない(正解)。インフォームドコンセントは患者の権利を守るための手続きであり、病院や医師の責任を免除させることを目的とするものではない。手術承諾書などに「結果について一切異議を申し立てない」といった文言が含まれることがあるが、医療者に過失があった場合の責任をこうした文書で免れることはできず、法的に患者を拘束する効力はないと考えられている。免責を求める文書への署名は、患者の自由な意思決定を圧迫するおそれもあり、インフォームドコンセントの趣旨に反する。

  5. ×e.  納得のうえ同意文書に署名をもらう。

    適切である。十分な説明を受け、患者が理解・納得したうえで同意したことを文書に残すことは、同意の意思を確認・記録する方法として重要である。ただし、署名自体が目的ではなく、その前提となる説明と理解が本質である。また、同意はいつでも撤回できることもあわせて伝えるのが望ましい。

インフォームドコンセントの要素

有効なインフォームドコンセントには、一般に次の要素が必要とされる。 1. 同意能力:患者が説明を理解し、判断できる能力をもつこと。未成年や意識障害・認知症などで判断能力が不十分な場合は、代諾者(親権者・家族など)の同意を得つつ、本人にも理解に応じた説明を行う。 2. 十分な説明(情報開示):病名・病状、検査・治療の目的と内容、期待される効果、危険性、代替手段、治療しない場合の予後など。 3. 理解:専門用語を避け、患者が理解できる形で説明し、理解を確認する。 4. 自発性:強制や誘導がなく、患者が自由に決められること。 5. 同意(または拒否):患者が決定を示すこと。同意はいつでも撤回できる。

背景

医師が患者のためと考えて一方的に決める「パターナリズム」から、患者の自己決定を尊重する考え方へと医療倫理は移ってきた。ニュルンベルク綱領、ヘルシンキ宣言、リスボン宣言(患者の権利に関する世界医師会宣言)などがその流れを示している。日本でも医療法において、医療の担い手は適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めるものとされている。

例外

生命に関わる緊急時で本人・家族から同意を得る時間がない場合などは、同意なしに必要な処置を行うことが許容される。

POINT

・インフォームドコンセントは患者の自己決定権を守るための手続きであり、医療者の免責のためではない。 ・説明内容:目的、方法、効果、リスク、代替手段、治療しない場合の見通し。 ・患者が理解・納得したうえで自由意思で同意し、その同意は文書で確認する。同意は撤回可能である。 ・「結果に異議を申し立てない」旨の免責文言は、過失責任を免除する法的効力をもたない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。