唇のほくろはお腹からのサイン―Peutz-Jeghers症候群で見るべき臓器
第99回医師国家試験 A問題 第7問
国試問題にチャレンジ
23歳の男性。色素斑を気にして来院した。幼児期から口唇と掌蹠とに小色素斑が散在する。口唇の写真を別に示す。 この疾患で異常がみられるのはどれか。

- a.骨
- b.中枢神経
- c.心臓
- d.肝臓
- e.腸管
対話形式の解説
ドクター
医学生
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医学生まとめ
幼少期から口唇・口腔粘膜・掌蹠に小色素斑が散在する場合は、Peutz-Jeghers症候群を考えます。本症候群はSTK11(LKB1)遺伝子の異常による常染色体顕性遺伝疾患で、皮膚粘膜の色素沈着と、小腸(とくに空腸)に多い過誤腫性ポリポーシスが二大徴候です。ポリープは腸重積や出血の原因となり、さらに消化管癌に加えて膵癌・乳癌・卵巣や精巣の腫瘍などのリスクも上がるため、定期的なサーベイランスが欠かせません。骨腫・軟部腫瘍を伴うGardner症候群、中枢神経系腫瘍を伴うTurcot症候群、心臓粘液腫を伴うCarney複合など、類似の症候群は随伴病変とセットで整理しておくことが鑑別の近道です。皮膚粘膜の小さな所見から内臓疾患を推測する視点は、日常診療でも見逃しを防ぐ大切な技術です。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・23歳の男性で、主訴は色素斑である。 ・幼児期から、口唇と掌蹠(手のひら・足の裏)に小さな色素斑が散在している。 ・口唇の写真では、口唇とその周囲に黒褐色の小さな色素斑が多数点在している。
診断へのプロセス
幼少期から出現する、口唇・口腔粘膜・手掌・足底の多発性の小色素斑(黒子様の色素沈着)は、Peutz-Jeghers症候群に特徴的な皮膚粘膜所見である。とくに口唇や頬粘膜の色素斑は他疾患ではみられにくく、診断の手がかりとして重要である。そばかす(雀卵斑)は日光露光部の顔面に出て粘膜には生じない点で区別できる。
設問の考え方
Peutz-Jeghers症候群は、皮膚粘膜の色素沈着と消化管の過誤腫性ポリポーシスを二大徴候とする常染色体優性(顕性)遺伝疾患である。したがって、この疾患で異常がみられる臓器として問われているのは消化管(腸管)である。他の選択肢は、色素斑や消化管ポリポーシスに関連して名前が挙がる別の症候群(Gardner症候群、Turcot症候群、Carney複合など)を想起させる引っかけであり、それぞれの症候群の随伴病変と整理して区別する。
選択肢考察
- ×a. 骨
骨病変(下顎骨や頭蓋骨の骨腫)を伴う消化管ポリポーシスはGardner症候群である。Gardner症候群は家族性大腸腺腫症(FAP:familial adenomatous polyposis、APC遺伝子変異)の亜型で、大腸の多発腺腫に骨腫、軟部腫瘍(デスモイド腫瘍、類表皮嚢胞)、歯牙異常などを伴う。Peutz-Jeghers症候群では骨に特徴的な異常は生じない。
- ×b. 中枢神経
大腸ポリポーシスに中枢神経系腫瘍(膠芽腫や髄芽腫)を合併するのはTurcot症候群である。Turcot症候群はミスマッチ修復遺伝子やAPC遺伝子の異常と関連する。Peutz-Jeghers症候群では中枢神経の異常は特徴とされない。
- ×c. 心臓
Peutz-Jeghers症候群に心臓の異常は伴わない。多発性の色素斑と心病変の組み合わせでは、心臓粘液腫を合併するCarney複合や、多発性黒子に肺動脈弁狭窄や肥大型心筋症を伴うLEOPARD症候群(現在はNoonan症候群の類縁疾患)が知られており、これらとの混同に注意する。また若年性ポリポーシスでは先天性心疾患の合併が報告されている。
- ×d. 肝臓
Peutz-Jeghers症候群で肝臓に特徴的な病変は生じない。消化管ポリポーシスの症候群全般をみても、肝臓に病変をきたすものはまれである。なお本症候群では膵癌の発生リスクが上昇するが、これは肝臓の異常ではない。
- ○e. 腸管
Peutz-Jeghers症候群では、胃から大腸までの消化管に過誤腫性ポリープが多発し、とくに小腸(空腸)に多い。ポリープは平滑筋線維が樹枝状に入り込む特徴的な組織像を示す。大きなポリープは腸重積による腸閉塞、腹痛、消化管出血(貧血)の原因となり、小児期から若年期に発症することが多い。過誤腫自体の悪性化はまれとされるが、消化管癌の発生リスクは高く、定期的な内視鏡による経過観察が必要である。
Peutz-Jeghers症候群の概要
・遺伝形式:常染色体優性(顕性)遺伝。原因遺伝子は第19番染色体短腕(19p13.3)にあるSTK11(LKB1)遺伝子で、がん抑制遺伝子として働くセリン・スレオニンキナーゼをコードする。家族歴がなく新生変異で発症する例もある。 ・皮膚粘膜所見:口唇、口腔粘膜(頬粘膜・歯肉)、手指、手掌、足底、肛門周囲などに1〜5mm程度の黒褐色色素斑が乳幼児期から出現する。皮膚の色素斑は加齢とともに薄くなることがあるが、口腔粘膜の色素斑は残りやすい。 ・消化管所見:過誤腫性ポリープが小腸に最も多く、胃・大腸にもみられる。腸重積、腸閉塞、出血、貧血を起こす。治療は内視鏡的ポリープ切除(小腸はダブルバルーン内視鏡などを用いる)が基本で、腸重積には外科手術を行う。 ・悪性腫瘍:消化管癌(大腸、胃、小腸)に加えて、膵癌、乳癌、卵巣腫瘍(輪状細管を伴う性索腫瘍)、子宮頸部の最小偏倚腺癌、精巣のSertoli細胞腫など、消化管外の腫瘍のリスクも高い。
主な消化管ポリポーシスの整理
・家族性大腸腺腫症(FAP):APC遺伝子、常染色体優性。大腸に100個以上の腺腫が多発し、放置するとほぼ全例で大腸癌を発生する。予防的大腸全摘が検討される。 ・Gardner症候群:FAPに骨腫、軟部腫瘍(デスモイドなど)を伴う。 ・Turcot症候群:大腸ポリポーシスに中枢神経系腫瘍を伴う。 ・Peutz-Jeghers症候群:過誤腫性ポリープ(小腸に多い)と皮膚粘膜色素斑。 ・若年性ポリポーシス:過誤腫性(若年性)ポリープが多発。SMAD4、BMPR1A遺伝子。 ・Cowden病:PTEN遺伝子。消化管の過誤腫性ポリープに顔面の外毛根鞘腫、口腔粘膜の乳頭腫、乳癌・甲状腺癌のリスク上昇を伴う。 ・Cronkhite-Canada症候群:非遺伝性で中高年に発症。消化管ポリポーシスに脱毛、爪甲萎縮、皮膚色素沈着、蛋白漏出による低蛋白血症を伴う。
POINT
・口唇・口腔粘膜・掌蹠の小色素斑が幼児期から出現 → Peutz-Jeghers症候群。 ・Peutz-Jeghers症候群:常染色体優性、STK11(LKB1)遺伝子、消化管(とくに小腸)の過誤腫性ポリープ、腸重積が合併症として重要。 ・消化管以外の癌(膵、乳腺、卵巣、精巣など)のリスクも上昇する。 ・ポリポーシスの随伴病変:骨腫・軟部腫瘍 → Gardner症候群、中枢神経系腫瘍 → Turcot症候群、脱毛・爪甲萎縮 → Cronkhite-Canada症候群。
