3か月晴れない「赤い霧」―吸収されない硝子体出血に打つ手は硝子体手術
第99回医師国家試験 A問題 第10問
国試問題にチャレンジ
62歳の男性。3か月前から右眼が見えにくくなり改善しないため来院した。1年前に右眼の眼底出血を指摘され,内服薬で治療中である。視力は右手動弁(矯正不能),左0.4(1.2×-2.00D)。眼圧は右12mmHg,左12mmHg。角膜と水晶体とに異常を認めない。血圧144/72mmHg。HbA1c 6.5%(基準4.3~5.8)。右眼の眼底写真(A),左眼の眼底写真(B)および右眼の超音波写真(C)を別に示す。 右眼の視力回復のための治療として最も適切なのはどれか。

- a.血糖コントロール
- b.血圧コントロール
- c.止血薬投与
- d.レーザー光凝固
- e.硝子体手術
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
角膜・水晶体が透明なのに眼底が透見できない場合は硝子体混濁を考え、眼底出血の既往があれば硝子体出血が疑われます。眼底が見えないときは超音波Bモードで混濁の程度や網膜剝離の有無を評価します。少量の出血は自然吸収を待てますが、数か月吸収されない遷延例や網膜剝離合併例では、混濁した硝子体を除去する硝子体手術が視力回復の手段となり、術中に眼内光凝固や網膜復位も行えます。血糖・血圧管理は再出血予防のための全身管理、レーザー光凝固は新生血管と再出血の予防であり、いずれもたまった出血を除く治療ではありません。「予防のための治療」と「視力を取り戻す治療」を区別する考え方は、眼科に限らず治療選択の基本となります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・62歳の男性。3か月前から右眼の視力低下が続き、自然には改善していない。 ・1年前に右眼の眼底出血を指摘され、内服薬で治療を受けている。 ・視力:右は手動弁(眼前で手を振ると動きがわかる程度)で矯正しても改善しない。左は矯正で1.2と良好。 ・眼圧は両眼12mmHgで正常(基準はおおむね10〜21mmHg)。角膜と水晶体に異常はなく、白内障や角膜混濁による視力低下は否定される。 ・血圧144/72mmHgと収縮期血圧がやや高い。HbA1cは6.5%で軽度高値である。
画像所見
・右眼の眼底写真(A):全体が一様に混濁して赤っぽい黄色にぼやけ、視神経乳頭も網膜血管もまったく見えない。眼底が透見できない状態である。 ・左眼の眼底写真(B):視神経乳頭、網膜血管、黄斑ともに明らかな異常を認めない。出血や白斑はなく、糖尿病網膜症の所見は乏しい。 ・右眼の超音波Bモード写真(C):本来は無エコーである硝子体腔の中に、膜状・帯状の高エコーと混濁を認める。硝子体内の出血・混濁があり、網膜剝離を伴っている可能性も否定できない。
診断へのプロセス
角膜・水晶体が透明であるにもかかわらず眼底が透見できないのは、光の通り道のうち硝子体に混濁があるためである。眼底出血の既往があることから、網膜の出血、あるいは網膜の虚血によって生じた新生血管が破綻して硝子体腔に出血した硝子体出血と考えられる。左眼は正常で片眼性であることから、両眼に進行することの多い糖尿病網膜症よりも、高血圧・動脈硬化を背景とした網膜静脈閉塞症(とくに網膜静脈分枝閉塞症)などに続発した硝子体出血がまず考えられる。
設問の考え方
問われているのは「右眼の視力を回復させるための治療」である。硝子体出血は軽度なら数週〜数か月で自然吸収されるが、本例は3か月たっても手動弁のままで吸収が期待しにくい。さらに眼底が見えないため、網膜剝離の有無の確認やレーザー治療もできない。視力回復には、混濁した硝子体を物理的に除去する硝子体手術が必要である。全身の血糖・血圧管理は再出血予防や病態進行の抑制に重要だが、すでにたまった出血を取り除く効果はない。
選択肢考察
- ×a. 血糖コントロール
HbA1c 6.5%と軽度の高値があり、網膜血管病変の進行を抑えるためにも血糖管理は大切である。しかし血糖管理は長期的な病態の進行や再出血の予防を目的とするもので、すでに硝子体腔にたまった出血や混濁を取り除くことはできず、右眼の視力回復に直結する治療ではない。
- ×b. 血圧コントロール
収縮期血圧144mmHgとやや高く、高血圧は網膜静脈閉塞症の主要な危険因子であるため、全身管理としての降圧は必要である。ただし降圧療法も硝子体混濁そのものを除去する作用はなく、右眼の視力を回復させる手段にはならない。
- ×c. 止血薬投与
本例はすでに内服治療を受けながら3か月以上視力低下が続いており、問題は現在進行中の出血ではなく、硝子体腔に残った出血・混濁である。止血薬(カルバゾクロムなど)にはこれを吸収・除去させる効果はなく、視力回復は期待できない。
- ×d. レーザー光凝固
網膜光凝固は、虚血網膜を凝固して新生血管の発生・増殖を抑え、再出血や病態の進行を予防する治療である。視力を回復させる治療ではないうえ、本例は硝子体混濁のため眼底が透見できず、レーザー光が網膜に届かないので施行できない。網膜剝離の有無も評価できない状態である。なお光凝固は、硝子体手術の際に術中に併用されることが多い。
- ○e. 硝子体手術
自然吸収されない硝子体出血・混濁に対しては、毛様体扁平部から器具を挿入して混濁した硝子体を切除・吸引する硝子体手術(経毛様体扁平部硝子体切除術)を行う。混濁が除去されれば光が網膜に届くようになり、網膜の機能が保たれていれば視力の回復が期待できる。さらに手術中に眼底を直接観察し、出血源の新生血管や虚血網膜に対する眼内光凝固、増殖膜の処理、網膜剝離があれば復位(眼内ガスやシリコーンオイルによるタンポナーデ)まで同時に行える。
硝子体出血
硝子体出血は、網膜や視神経乳頭の血管から硝子体腔に血液が流入した状態である。突然の視力低下や飛蚊症で発症し、出血量が多いと眼底が透見できなくなる。 主な原因: ・増殖糖尿病網膜症(新生血管からの出血。わが国で最も多い原因の一つ) ・網膜静脈閉塞症(虚血網膜から生じる新生血管の破綻) ・網膜裂孔(後部硝子体剝離に伴い網膜血管が裂ける) ・網膜細動脈瘤の破裂、加齢黄斑変性 ・外傷、Terson症候群(くも膜下出血に伴う)
検査
眼底が見えない場合は、超音波Bモード検査で硝子体混濁の程度、網膜剝離や眼内腫瘍の有無を評価する。網膜剝離は視神経乳頭に付着する可動性の乏しい膜状エコーとして描出され、後部硝子体剝離の膜は可動性が大きい点で区別する。
治療方針
・出血が少量で網膜剝離がなければ、安静(頭部挙上)で自然吸収を待ち、眼底が見えるようになったら原因疾患に対して網膜光凝固や抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の硝子体内注射を行う。 ・自然吸収しない場合(目安として数か月)、網膜剝離を伴う場合、新生血管緑内障などの合併症がある場合は硝子体手術の適応となる。
網膜静脈閉塞症
高血圧や動脈硬化を背景に、動静脈交叉部で静脈が圧迫されて閉塞する。分枝閉塞症は火炎状出血が閉塞静脈の支配領域に扇状に広がり、黄斑浮腫による視力低下を起こす。広範囲の虚血網膜があると新生血管が生じ、硝子体出血の原因となるため、虚血領域に網膜光凝固を行う。黄斑浮腫には抗VEGF薬の硝子体内注射が第一選択となっている。
POINT
・角膜・水晶体が透明なのに眼底が透見できない → 硝子体混濁(硝子体出血)を考え、超音波Bモードで網膜剝離の有無を評価する。 ・遷延する硝子体出血(自然吸収しない)や網膜剝離合併例では硝子体手術を行う。 ・レーザー光凝固は新生血管・再出血の予防であり、眼底が透見できないと施行できない。 ・血糖・血圧管理は全身管理として重要だが、視力回復の直接的な治療ではない。
