StudyMed医師国家試験

涙にも母乳にも―粘膜の最前線を守る「分泌型IgA」のしくみ

第120回医師国家試験 F問題 第19問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第19問

免疫グロブリンのうち,分泌液中に豊富に存在し,粘膜免疫に重要なのはどれか。

  1. a.IgA
  2. b.IgD
  3. c.IgE
  4. d.IgG
  5. e.IgM

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は免疫グロブリンの5つのクラスのうち、どれが粘膜で働くかを問う問題だ。キーワードは「分泌液中に豊富」と「粘膜免疫」の2つ。抗体はクラスごとに居場所と得意技が違う、という視点で整理していこう。
医学生医学生
基礎の免疫学の講義で、血中に一番多いのはIgGと習いました。だから分泌液にも一番多いのかなと思ってしまいます。
ドクタードクター
そこが最初の落とし穴だね。血清中で最多なのは確かにIgGで、全体の7〜8割を占める。でも、血中に多いことと、粘膜の表面に多いことは別の話なんだ。腸管や気道の粘膜は外界と接する体内最大の面で、抗体がそこで働くには上皮細胞を通り抜けて管腔側に出て、しかも消化酵素に耐えなければならない。
医学生医学生
上皮を通り抜けるための専用の仕組みがある抗体、ということですか。
ドクタードクター
その通り。それを持っているのがIgAだ。粘膜固有層の形質細胞は、J鎖で2分子がつながった二量体のIgAを作る。これが上皮細胞の基底側にある多量体免疫グロブリン受容体、pIgRに結合して細胞内を運ばれ、管腔側で受容体の一部が切り離される。その切れ端が分泌成分としてIgAにくっついたまま放出されるんだ。
医学生医学生
分泌成分がついていると、何かいいことがあるんでしょうか。
ドクタードクター
タンパク分解酵素に分解されにくくなる。だから腸液のような過酷な環境でも働ける。分泌型IgAは病原体や毒素に結合して、上皮に付着・侵入するのを防ぐ。しかも補体を強く活性化しないので、炎症を起こさずに静かに守るのが特徴だ。唾液、涙、気道分泌液、腸液、そして母乳、特に初乳に豊富に含まれる。
医学生医学生
小児科の実習で、初乳は赤ちゃんの腸を守るから大事だと指導医の先生が話していました。あれはIgAのことだったんですね。
ドクタードクター
そう、母乳を介した受動免疫だね。では残りのクラスも居場所で整理しよう。IgGは胎盤を通過できる唯一のクラスで、再感染時の二次応答の主役。オプソニン化や補体活性化で全身の液性免疫を担うけれど、分泌液中の量はIgAに及ばない。
医学生医学生
IgMはJ鎖を持つ五量体でしたよね。J鎖があるならpIgRで運ばれることもあるのでは?
ドクタードクター
鋭いね。実際に分泌されることはあって、IgA欠損症では分泌型IgMが代償的に増える。ただ通常の粘膜免疫の主体はやはりIgAだ。IgMは一次応答で最初に作られる抗体で、特異的IgMの上昇は感染初期の指標になる。
医学生医学生
IgEは肥満細胞にくっついているアレルギーの抗体で、IgDはB細胞の表面にある、という理解で合っていますか。
ドクタードクター
合っているよ。IgEは血清中で最も少なく、肥満細胞や好塩基球の高親和性受容体に結合していて、抗原で架橋されると脱顆粒が起こる。I型アレルギーと寄生虫防御の担い手だ。IgDはナイーブB細胞の表面でIgMとともに抗原受容体として働き、血中にはごく微量しかない。どちらも分泌液の主役ではない。
医学生医学生
血中最多はIgG、初期応答はIgM、B細胞表面はIgD、アレルギーはIgE、粘膜はIgA。居場所で覚えると混乱しにくいですね。
ドクタードクター
その整理で十分戦える。発展として粘膜免疫の入り口も知っておこう。腸管のパイエル板では、上皮のM細胞が管腔内の抗原を取り込んで樹状細胞に渡し、B細胞がTGF-βなどの作用でIgAへクラススイッチする。そのB細胞は全身の粘膜に散らばってIgAを作るから、共通粘膜免疫機構と呼ばれる。
医学生医学生
臨床でIgAが関係する病気というと、腎臓内科で習ったIgA腎症が浮かびます。
ドクタードクター
いいね。IgA腎症は糖鎖異常のIgA1がメサンギウムに沈着する慢性糸球体腎炎で、上気道感染の後に肉眼的血尿が出ることがある。もう一つ、選択的IgA欠損症は頻度の高い原発性免疫不全症で、多くは無症状だが感染を繰り返すこともある。抗IgA抗体を持つ人ではIgAを含む血液製剤でアナフィラキシーを起こしうるので、輸血時には洗浄赤血球などを使う。
医学生医学生
輸血の前に既往を確認する理由がひとつ増えました。経鼻インフルエンザワクチンも、粘膜のIgAを狙っているんですか。
ドクタードクター
その通り。注射のワクチンが主に血中のIgGを誘導するのに対し、経鼻ワクチンは粘膜面の分泌型IgAの誘導を狙っている。抗体の居場所を理解しておくと、こうした臨床の工夫の意味も見えてくるよ。

まとめ

免疫グロブリンはIgG・IgA・IgM・IgD・IgEの5クラスに分かれ、それぞれ存在場所と役割が異なります。分泌液中に豊富で粘膜免疫の主役となるのはIgAで、J鎖でつながった二量体がpIgRを介して上皮を通過し、分泌成分を伴う分泌型IgAとして唾液・涙・腸液・母乳などに放出され、タンパク分解酵素に抵抗しながら病原体の付着・侵入を防ぎます。血清中最多で胎盤を通過するのはIgG、一次応答で最初に産生される五量体はIgM、ナイーブB細胞表面の受容体はIgD、I型アレルギーに関わるのはIgEと整理しておくと迷いません。IgA腎症や選択的IgA欠損症、輸血時の注意、粘膜ワクチンなど臨床とのつながりも多く、抗体の「居場所」を押さえることは免疫学全体の理解の土台になります。

解答・解説

正解はaです

免疫グロブリン(抗体)はH鎖(重鎖)の定常部の違いによりIgG、IgA、IgM、IgD、IgEの5つのクラス(アイソタイプ)に分けられる。クラスごとに、体内での分布する場所、分子の形(単量体・二量体・五量体)、得意とする働きが異なる。 本問は「分泌液中に豊富」「粘膜免疫に重要」という2つのキーワードからクラスを特定する問題である。消化管・気道・泌尿生殖器などの粘膜は、外界と接する体内最大の面であり、病原体や食物抗原に絶えずさらされている。この粘膜面で働く抗体は、上皮細胞を通り抜けて管腔側へ運ばれ、さらに消化酵素などの過酷な環境に耐える必要がある。この条件を満たす仕組みをもつのが分泌型IgAであり、唾液、涙液、気道分泌液、腸液、母乳(特に初乳)などに大量に含まれる。 各クラスの主な存在場所(IgG=血中で最多、IgM=血中で初期応答、IgD=B細胞表面、IgE=肥満細胞・好塩基球表面、IgA=分泌液・粘膜)を整理しておけば迷わず解ける。

選択肢考察

  1. ○a.  IgA

    IgAは分泌液中に最も多く含まれる抗体で、粘膜免疫の中心を担う。粘膜固有層の形質細胞はJ鎖で2分子がつながった二量体IgAを産生する。これが上皮細胞の基底側にある多量体免疫グロブリン受容体(pIgR)に結合して細胞内を輸送され(トランスサイトーシス)、管腔側で受容体の一部が切り離されて分泌成分(secretory component)として付着したまま放出される。こうしてできた分泌型IgAは、分泌成分のおかげでタンパク分解酵素に分解されにくい。分泌型IgAは病原体や毒素に結合して上皮への付着・侵入を妨げ(中和・免疫排除)、補体を強く活性化しないため炎症を起こしにくいという特徴をもつ。母乳中のIgAは乳児の腸管を守る受動免疫としても重要である。血清中ではIgGに次いで多い。

  2. ×b.  IgD

    IgDは主に成熟したナイーブB細胞の表面にIgMとともに発現し、抗原を認識するB細胞受容体として働く。血清中の濃度はごく低く、分泌液中にもほとんど存在しないため、粘膜免疫の主役ではない。

  3. ×c.  IgE

    IgEは血清中濃度が最も低いクラスである。肥満細胞や好塩基球の表面にある高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合しており、抗原がIgEを架橋すると脱顆粒が起こってヒスタミンなどが放出される。I型(即時型)アレルギーや寄生虫感染に対する防御に関与するが、分泌液中に豊富に存在する抗体ではない。

  4. ×d.  IgG

    IgGは血清中の免疫グロブリンの約70〜80%を占める最も多いクラスで、二次免疫応答(再感染時)の主体となる。オプソニン化、補体活性化、中和、抗体依存性細胞傷害(ADCC)など全身の液性免疫で幅広く働く。胎盤を通過できる唯一のクラスであり、胎児・新生児に母体由来の受動免疫を与える。しかし分泌液中での量はIgAに比べて少なく、粘膜免疫の主役ではない。

  5. ×e.  IgM

    IgMは抗原に初めて出会ったとき(一次免疫応答)に最初に産生される抗体で、血中ではJ鎖で結合した五量体として存在する。分子量が最も大きく、抗原結合部位が多いため凝集能や補体活性化能が高い。特異的IgMの上昇は感染初期(急性期)の指標となる。J鎖をもつためpIgRを介して分泌されることもあり、IgA欠損症では分泌型IgMが代償的に増えるが、通常の粘膜免疫の主体はIgAである。

免疫グロブリン5クラスの比較

・IgG:単量体。血清中で最多。胎盤通過性あり。二次応答の主体。補体活性化(古典経路)、オプソニン化。サブクラスIgG1〜4がある。 ・IgA:血中では主に単量体、分泌液中ではJ鎖と分泌成分をもつ二量体(分泌型IgA)。粘膜免疫の主役。母乳(初乳)に豊富。サブクラスIgA1・IgA2がある。 ・IgM:五量体(J鎖あり)。分子量最大。一次応答で最初に産生。補体活性化能が最も高い。単量体はB細胞受容体として膜表面に発現。 ・IgD:単量体。ナイーブB細胞表面で抗原受容体として働く。血清中では微量。 ・IgE:単量体。血清中で最少。肥満細胞・好塩基球のFcεRIに結合し、I型アレルギーや寄生虫防御に関与。

粘膜免疫の仕組み

腸管ではパイエル板などの粘膜関連リンパ組織(MALT)で抗原が取り込まれる。上皮に存在するM細胞が管腔内の抗原を取り込んで下の樹状細胞などに渡し、活性化したB細胞はTGF-βなどの作用でIgAへクラススイッチする。これらのB細胞は全身の粘膜へ移動して形質細胞となりIgAを産生する(共通粘膜免疫機構)。

臨床との関連

・選択的IgA欠損症:最も頻度の高い原発性免疫不全症。多くは無症状だが、気道・消化管感染の反復を起こすことがある。抗IgA抗体をもつ患者ではIgAを含む血液製剤の輸血でアナフィラキシーを起こしうるため、洗浄赤血球などを用いる。 ・IgA腎症:IgA(主に糖鎖異常のIgA1)がメサンギウム領域に沈着する慢性糸球体腎炎で、上気道感染後に肉眼的血尿をきたすことがある。 ・経鼻インフルエンザワクチンなどの粘膜ワクチンは、注射ワクチンと異なり粘膜面の分泌型IgAの誘導を狙ったものである。

POINT

・分泌液中に豊富で粘膜免疫の主役=分泌型IgA(J鎖でつながった二量体+分泌成分)。 ・分泌成分によりタンパク分解酵素への抵抗性をもつ。母乳を介した受動免疫にも関与。 ・血清中最多・胎盤通過=IgG、初期応答・五量体=IgM、B細胞表面=IgD、I型アレルギー=IgE。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。