StudyMed医師国家試験

診察室でDVに気づいたら―医療者が知っておくべき「通報先」と「できる」の意味

第120回医師国家試験 F問題 第20問

国試問題にチャレンジ

第120回 F問題 第20問

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律〈DV法〉に基づき,医療関係者が業務において被害者を発見したときに通報できるのはどれか。

  1. a.警察官
  2. b.保健所
  3. c.家庭裁判所
  4. d.福祉事務所
  5. e.市町村保健センター

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生分野から、DV防止法の通報の規定を問う問題だ。ポイントは2つ。医療関係者が通報する先はどこか、そしてその通報は義務なのか任意なのか。虐待関連の法律はよく似ているから、違いを意識して整理していこう。
医学生医学生
虐待の通報というと、CBTの勉強で児童相談所や市町村の名前ばかり覚えた気がします。DVも同じかと思っていました。
ドクタードクター
そう感じる人は多いね。でもDV防止法で定められた通報先は2つだけ、「配偶者暴力相談支援センター」と「警察官」だ。医師などの医療関係者が業務中に、配偶者からの暴力でけがをしたり病気になったと認められる人を見つけたときは、このどちらかに通報することができる、と書かれている。
医学生医学生
選択肢の中で該当するのは警察官だけですね。配偶者暴力相談支援センターは選択肢にありません。
ドクタードクター
その通り、正解は警察官だ。警察官は通報を受けると、暴力の制止や被害者の保護、被害の防止に必要な措置をとるよう努めるとされていて、身の危険が差し迫った場面で素早く介入できる。
医学生医学生
ところで、患者さんのことを通報したら守秘義務違反にならないんでしょうか。
ドクタードクター
大事な疑問だね。法律には、刑法の秘密漏示罪などの守秘義務の規定はこの通報を妨げるものと解釈してはならない、と明記されている。つまり通報しても守秘義務違反には問われない。ただし通報は義務ではなく「できる」規定で、被害者本人の意思を尊重するよう努めるとされている。
医学生医学生
児童虐待は通告義務なのに、DVは任意なんですね。どうして差があるんですか。
ドクタードクター
被害者が成人で、自分で判断できる立場にあるからだ。本人が望まないのに通報すると、かえって加害者を刺激して危険が増すこともある。だから自己決定を尊重する設計になっている。一方で医療関係者には、被害者に配偶者暴力相談支援センターなどの情報を提供するよう努める義務もある。通報しない場合でも、相談先を伝えることはできるんだ。
医学生医学生
では他の選択肢も確認させてください。保健所や市町村保健センターは、地域保健の講義で出てきた機関ですよね。
ドクタードクター
そう、どちらも地域保健法に基づく機関だ。保健所は感染症対策や食品衛生、精神保健などを担い、市町村保健センターは乳幼児健診や健康相談など住民に身近なサービスを行う。どちらもDV防止法上の通報先ではない。
医学生医学生
家庭裁判所は、夫婦の問題を扱うのでDVにも関わりそうな気がしました。
ドクタードクター
ひっかかりやすいところだね。家庭裁判所は離婚調停などの家事事件や少年事件を扱う機関で、通報先ではない。DV防止法で裁判所が出てくるのは、被害者の申立てによる保護命令だけど、これを出すのは地方裁判所なんだ。接近禁止命令や住居からの退去等命令などがある。
医学生医学生
福祉事務所はどうでしょう。児童虐待の通告先には入っていましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。福祉事務所は被害者の自立支援に努める機関で、自治体によっては配偶者暴力相談支援センターの機能を担っていることもある。でも法律上の通報先として「福祉事務所」そのものが書かれているわけではない。児童虐待防止法の通告先である市町村、福祉事務所、児童相談所と混同しないことが大切だ。
医学生医学生
DVはセンターと警察官で任意、児童虐待は市町村・福祉事務所・児童相談所で義務。対比で覚えると整理しやすいです。
ドクタードクター
いいまとめだ。少し補足すると、ここでいう配偶者には事実婚の相手も含まれ、離婚後も暴力が続く場合も対象になる。生活の本拠を共にする交際相手からの暴力にも準用される。また2024年4月施行の改正で、脅迫などの精神的暴力で心身に重大な危害を受けるおそれがある場合も、接近禁止命令の対象に広がった。
医学生医学生
救急外来の実習で、説明のつかない打撲を繰り返す患者さんがいたら気をつけるようにと言われたことがあります。
ドクタードクター
まさにそういう場面で役に立つ知識だ。受傷機転と傷の様子が合わない、同じような受診を繰り返す、パートナーが付き添って本人が話しにくそうにしている、といったサインに気づいたら、まず安全な環境で本人の話を聴くこと。そのうえで本人の意思を確認し、必要に応じて相談先の情報提供や通報につなげる。法律の枠組みを知っていれば、守秘義務を恐れて動けなくなることもないはずだよ。

まとめ

DV防止法では、医療関係者が業務中に配偶者からの暴力による傷病者を発見した場合、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報することができ、選択肢の中では警察官が該当します。この通報は義務ではなく任意の「できる」規定で、被害者本人の意思を尊重するよう努めるとされ、通報しても守秘義務違反には問われません。保健所・市町村保健センターは地域保健法の機関、家庭裁判所は家事事件を扱う機関で、保護命令を発令するのは地方裁判所であり、福祉事務所も法律上の通報先ではありません。児童虐待が市町村・福祉事務所・児童相談所への通告義務であるのに対し、成人の自己決定を尊重するDVは任意通報という違いを押さえることが重要です。診察室でDVのサインに気づいたとき、法の枠組みを理解していることが被害者を適切な支援につなげる第一歩になります。

解答・解説

正解はaです

配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)は、配偶者からの暴力(ドメスティック・バイオレンス:DV)を防ぎ、被害者を保護・支援するための法律である。ここでいう「配偶者」には婚姻届を出していない事実婚の相手も含まれ、離婚後も引き続き暴力を受ける場合も対象となる。また、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力にも本法の規定が準用される。 本問で問われているのは、医療関係者による通報の規定(第6条)である。要点は次のとおりである。 ・医師その他の医療関係者は、業務を行うにあたり、配偶者からの暴力によって負傷したり病気になったと認められる者を発見したときは、その旨を「配偶者暴力相談支援センター」または「警察官」に通報することができる。 ・この通報は義務ではなく「できる」規定であり、その際には被害者本人の意思を尊重するよう努めるものとされている。 ・刑法の秘密漏示罪などの守秘義務に関する規定は、この通報を妨げるものと解釈してはならないと明記されている。つまり通報しても守秘義務違反には問われない。 したがって、通報先として法に定められている2つ(配偶者暴力相談支援センター、警察官)のうち、選択肢にあるのは警察官のみである。

選択肢考察

  1. ○a.  警察官

    DV防止法第6条第2項は、医療関係者が業務中に配偶者からの暴力による傷病者を発見した場合の通報先を、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官と定めている。警察官は通報を受けると、暴力の制止、被害者の保護、被害の発生を防止するために必要な措置を講じるよう努めるとされており(第8条)、身体への差し迫った危険がある場面で迅速に介入できる。したがって本選択肢が正しい。

  2. ×b.  保健所

    保健所は地域保健法に基づく、感染症対策・食品衛生・精神保健などを担う行政機関であり、DV防止法における通報先には定められていない。

  3. ×c.  家庭裁判所

    家庭裁判所はDV防止法上の通報先ではない。DV防止法で裁判所が関わるのは被害者の申立てによる保護命令(接近禁止命令、退去等命令など)であるが、これを発令するのは家庭裁判所ではなく地方裁判所である。家庭裁判所は離婚調停などの家事事件や少年事件を扱う機関であり、医療関係者からの通報を受ける立場にはない。

  4. ×d.  福祉事務所

    福祉事務所は社会福祉法に基づく、生活保護などの福祉の窓口となる行政機関である。福祉事務所は被害者の自立支援のために必要な措置を講じるよう努めるとされ、自治体によっては配偶者暴力相談支援センターの機能を担っている場合もある。しかし、法律上の通報先として「福祉事務所」そのものが規定されているわけではないため、本問の正解にはならない。

  5. ×e.  市町村保健センター

    市町村保健センターは地域保健法に基づき、乳幼児健診や健康相談、保健指導など住民に身近な対人保健サービスを行う施設である。DV防止法における通報先には定められていない。

DV防止法における通報の規定の整理

・一般の人:配偶者からの身体に対する暴力を受けている者を発見した場合、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報するよう努めなければならない(努力義務)。 ・医療関係者:配偶者からの暴力による傷病者を業務中に発見した場合、配偶者暴力相談支援センターまたは警察官に通報することができる(任意)。本人の意思を尊重するよう努める。守秘義務違反には当たらない。 ・医療関係者はまた、被害者に対して配偶者暴力相談支援センターなどの利用について情報を提供するよう努めなければならない。

配偶者暴力相談支援センター

都道府県が設置する女性相談支援センター(旧称:婦人相談所)などがその機能を果たし、市町村も設置に努めるとされている。相談、カウンセリング、被害者と同伴家族の一時保護、自立生活支援のための情報提供、保護命令制度の利用についての援助などを行う。

保護命令

被害者の申立てにより地方裁判所が発令する。被害者への接近禁止命令、被害者と住む住居からの退去等命令、子や親族への接近禁止命令、電話等禁止命令などがある。2024年4月施行の改正で、身体に対する暴力だけでなく、生命・心身に対する重大な危害を受けるおそれがある精神的暴力(脅迫など)も接近禁止命令の対象に拡大された。

虐待関連法との比較

・児童虐待防止法:虐待を受けたと思われる児童を発見した者は市町村、福祉事務所、児童相談所に通告する義務がある。 ・高齢者虐待防止法:養護者による虐待で生命・身体に重大な危険が生じている場合は市町村への通報義務、それ以外は努力義務。 ・障害者虐待防止法:虐待を受けたと思われる障害者を発見した者は市町村などへの通報義務がある。 DV防止法は被害者が成人であり自己決定が尊重されるべきことから、医療関係者の通報は義務ではなく「できる」規定となっている点が、児童虐待との大きな違いである。

POINT

・DV防止法の通報先は「配偶者暴力相談支援センター」と「警察官」の2つ。 ・医療関係者の通報は義務ではなく「できる」規定。本人の意思を尊重するよう努める。 ・通報は守秘義務違反に当たらない。 ・保護命令を出すのは地方裁判所(家庭裁判所ではない)。 ・児童虐待は通告義務(市町村・福祉事務所・児童相談所)であり、DVとの違いを押さえる。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。