「人生最悪の頭痛」が軽くなっても油断禁物―項部硬直で見抜くくも膜下出血
第119回医師国家試験 E問題 第33問
国試問題にチャレンジ
50歳の男性。頭痛を主訴に救急外来を受診した。頭痛は6時間前に出現し現在は軽快している。これまでに経験したことのない激しい頭痛であったため来院した。来院時,意識は清明。身長162cm,体重55kg。体温36.9℃。脈拍84/分,整。血圧156/92mmHg。呼吸数18/分。 緊急性を判断するために確認すべき徴候はどれか。
- a.耳鳴
- b.結膜充血
- c.項部硬直
- d.閃輝暗点
- e.四肢のしびれ
対話形式の解説
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクター
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ドクター
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ドクター
医学生
ドクター
医学生
ドクターまとめ
突然発症の「経験したことのない激しい頭痛」は二次性頭痛の危険信号であり、まずくも膜下出血を疑います。少量出血による警告頭痛は自然に軽快することがあり、意識清明で神経症状がなくても否定はできず、見逃して再出血すると予後は大きく悪化します。緊急性の判断には髄膜刺激徴候である項部硬直の確認が重要ですが、発症早期や軽症例では出ないこともあるため、疑えば頭部CTを行い、所見がなければ腰椎穿刺やMRI FLAIR像で確認します。閃輝暗点は片頭痛、結膜充血は群発頭痛や急性緑内障発作を示唆する所見で、頭痛の性状から一次性と二次性を見分ける視点が大切です。この考え方は、救急外来で致死的な頭痛を見逃さないための基本となります。
解答・解説
正解はcです
所見の整理
・50歳の男性。6時間前に頭痛が出た。発症時刻がはっきりしており、突然発症したと考えられる。 ・本人がこれまでに経験したことのない激しい頭痛(人生最悪の頭痛)である。 ・現在は頭痛が軽くなっており、意識は清明である。体温は正常で、発熱はない。血圧156/92 mmHgとやや高い。ほかに神経症状の記載はない。
診断へのプロセス
頭痛は、ほかの病気が原因ではない一次性頭痛(片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛など)と、器質的な病気が原因で起こる二次性頭痛に分けられる。救急外来では、命に関わる二次性頭痛を見逃さないことが最も重要である。 二次性頭痛を疑う危険信号(red flags)には、突然発症、人生最悪の頭痛、50歳以降の初発、発熱、神経脱落症状、意識障害などがある。本例は「突然発症」「経験したことのない激しい頭痛」「50歳」と複数に当てはまる。まず疑うべきはくも膜下出血(SAH:subarachnoid hemorrhage)である。 SAHの多くは脳動脈瘤の破裂で起こる。少量の出血による頭痛(警告頭痛、sentinel headache)は、本例のように自然に軽くなることがある。また、意識が清明で神経脱落症状のない軽症例も少なくない。そのため、頭痛が軽快して全身状態が良好に見えても、SAHを否定してはならない。見逃して再出血すると、死亡率が大きく上がる。
設問の考え方
くも膜下腔に出た血液が髄膜を刺激すると、髄膜刺激徴候が現れる。代表的なものは項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候である。突然発症の激しい頭痛に項部硬直が加わっていれば、SAHの可能性が強く高まり、緊急の画像検査と専門的治療が必要と判断できる。したがって、緊急性を判断するために診察で確認すべき徴候は項部硬直である。 ただし、項部硬直は発症から数時間たって現れることが多く、発症早期や軽症例ではみられないこともある。項部硬直がなくてもSAHは否定できない。病歴からSAHを疑ったら、項部硬直の有無にかかわらず頭部CTを行う。CTで所見がなければ、腰椎穿刺(血性髄液・キサントクロミー)や頭部MRI(FLAIR像)で確認する。
選択肢考察
- ×a. 耳鳴
誤り。耳鳴は、内耳疾患、聴神経腫瘍(前庭神経鞘腫)、加齢性難聴など多くの原因で起こる非特異的な症状である。慢性に進む片側の耳鳴・難聴があれば聴神経腫瘍を疑うきっかけになるが、突然発症の激しい頭痛の緊急性(SAHかどうか)を判断する手がかりにはならない。
- ×b. 結膜充血
誤り。頭痛に伴う結膜充血は、群発頭痛でみられる。群発頭痛では、片側の眼の奥の激痛に、同じ側の結膜充血・流涙・鼻漏などの自律神経症状を伴う。ほかに、急性緑内障発作(眼痛・視力低下・高眼圧)や内頸動脈海綿静脈洞瘻(拍動性眼球突出・血管雑音)でもみられる。本例は眼の症状がなく、突然発症の激しい頭痛からSAHを疑う状況である。SAHの緊急性を判断する徴候としては、結膜充血は適切でない。
- ○c. 項部硬直
正しい。項部硬直は、くも膜下腔の血液や炎症が髄膜を刺激して起こる髄膜刺激徴候である。仰臥位で頭部を他動的に前屈させると抵抗があり、顎を胸に近づけることができない。突然発症の激しい頭痛に項部硬直を伴えば、SAHの可能性が高い。ただちに頭部CTを行い、脳神経外科の治療に結びつける必要がある。項部硬直は発症から数時間後に出ることが多いため、発症6時間の時点で確認する意義は大きい。ただし、項部硬直がないことだけでSAHを否定してはならない。発熱を伴う場合は髄膜炎の徴候としても重要である。
- ×d. 閃輝暗点
誤り。閃輝暗点は、視野の中にジグザグにきらめく光が現れ、その内側が暗点となって広がり、通常は60分以内に消える視覚症状である。前兆のある片頭痛の典型的な前兆で、一次性頭痛であることを示唆する。片頭痛では通常、同じような頭痛を繰り返した経過がある。本例のような「初めての」突然の激しい頭痛の緊急性を判断する徴候ではない。
- ×e. 四肢のしびれ
誤り。四肢のしびれは、末梢神経障害、頸椎・頸髄の病変、電解質異常(低カルシウム血症など)、過換気症候群など、さまざまな原因で起こる非特異的な症状である。SAHの典型的な所見ではなく、突然発症の激しい頭痛の緊急性を判断する目的で確認すべき徴候としては適切でない。なお、片麻痺や構音障害など片側の局所神経症状は脳出血・脳梗塞を示唆するので、神経診察そのものは欠かせない。
くも膜下出血(SAH)の概要
・原因:大部分は脳動脈瘤の破裂である。動脈瘤は主幹動脈の分岐部、とくにWillis動脈輪の前半部にできやすい(前交通動脈、内頸動脈-後交通動脈分岐部、中大脳動脈分岐部など)。ほかに脳動静脈奇形、外傷、脳動脈解離などがある。 ・危険因子:高血圧、喫煙、過度の飲酒、家族歴、多発性嚢胞腎など。 ・症状:「バットで殴られたような」突然の激しい頭痛、悪心・嘔吐、意識障害、髄膜刺激徴候(項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候)。網膜前出血や硝子体出血(Terson症候群)を伴うこともある。内頸動脈-後交通動脈分岐部の動脈瘤では、動眼神経麻痺(散瞳・眼瞼下垂)が前ぶれとなることがある。 ・警告頭痛:大出血の数日〜数週前に、少量の出血による頭痛が先に起こることがある。軽快するため見逃されやすい。 ・重症度分類:Hunt and Hess分類、WFNS分類(Glasgow Coma Scaleと局所神経症状で評価)。本例のように意識清明で神経症状のない例は軽症に当たる。 ・診断:まず頭部単純CTで、脳底槽などに鞍上部を中心とした高吸収域(ヒトデ型)を確認する。発症早期ほど検出率が高く、時間がたつと下がる。CTで所見がなくても疑いが残る場合は、腰椎穿刺(血性髄液、遠心後の上清が黄色調になるキサントクロミー)やMRI FLAIR像で確認する。出血源の検索にはCTアンギオグラフィ、MRアンギオグラフィ、脳血管造影を用いる。 ・治療:最大の課題は再出血の予防である(再出血は発症後早期、とくに24時間以内に多い)。安静・鎮痛・鎮静と降圧を行い、できるだけ早く開頭クリッピング術または血管内コイル塞栓術で動脈瘤の処置を行う。 ・発症後の合併症:再出血、遅発性脳虚血(脳血管攣縮、発症後4〜14日ごろに多い)、水頭症(急性期の閉塞性水頭症、慢性期の正常圧水頭症)、低ナトリウム血症(中枢性塩類喪失症候群など)。
頭痛の危険信号(二次性頭痛を疑う所見)
・突然発症(雷鳴頭痛:1分以内に痛みが最大に達する)、人生最悪の頭痛 ・50歳以降の初発、いつもと違う頭痛、だんだん悪くなる頭痛 ・発熱・項部硬直・意識障害・けいれん・局所神経症状 ・免疫不全やがんの既往、妊娠・産褥期、外傷後 ・咳・労作・体位で誘発・増悪する頭痛
一次性頭痛でみられる特徴的な所見
・片頭痛:閃輝暗点などの前兆、拍動性、悪心、光過敏・音過敏、体動で増悪 ・群発頭痛:片側の眼窩周囲の激痛、同側の結膜充血・流涙・鼻漏、一定期間に集中して起こる ・緊張型頭痛:両側性の締め付け感、日常動作で悪化しない
POINT
・突然発症の「経験したことのない激しい頭痛」では、まずくも膜下出血を疑う。 ・頭痛が軽快していても、意識が清明でも、くも膜下出血は否定できない(警告頭痛の可能性)。 ・緊急性の判断には、髄膜刺激徴候(項部硬直、Kernig徴候など)の確認が重要である。ただし、発症早期や軽症例では項部硬直がないこともある。 ・くも膜下出血を疑えば頭部CTを行い、CTで所見がなくても疑いが残れば腰椎穿刺やMRI(FLAIR)で確認する。 ・閃輝暗点は片頭痛、結膜充血は群発頭痛(ほかに急性緑内障発作など)を示唆する所見である。
