全開大から3時間、まだ生まれない―「急ぐ前に原因を正す」分娩第2期遷延の考え方
第119回医師国家試験 C問題 第38問
国試問題にチャレンジ
41歳の初産婦(1妊0産)。妊娠40週4日,陣痛発来のため入院した。陣痛発来から16時間後に子宮口が全開し,3時間経過した。身長160cm,体重65kg。体温36.9℃。血圧138/84mmHg。陣痛間欠時は閉眼し,陣痛発作時にのみ唸り声をあげる。神経診察で異常を認めない。陣痛周期は5~6分,持続時間は20秒であった。児頭下降度はSP±0cm,2時方向に小泉門を触知した。胎児心拍数陣痛図で,胎児心拍数基線は140bpm,基線細変動は中等度,徐脈はなく,一過性頻脈を認める。 次に行うのはどれか。
- a.吸引分娩
- b.経過観察
- c.帝王切開
- d.胎児圧出法
- e.子宮収縮薬投与
対話形式の解説
ドクター
医学生
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ドクターまとめ
分娩第2期が遷延したときは、娩出力・産道・娩出物の3要素から原因を整理し、母児に急速遂娩を要する異常があるかを判断します。初産婦の分娩第2期で陣痛周期4分以上・持続30秒以内は微弱陣痛であり、回旋が正常で児頭骨盤不均衡がなく、胎児心拍数陣痛図が良好なら、オキシトシンなどの子宮収縮薬で陣痛を促進するのが第一選択です。吸引・鉗子分娩は児頭が十分に下降している(SP+2cm以上が望ましい)ことが条件で、胎児圧出法は単独では用いず、帝王切開は促進しても分娩が進まない場合や胎児機能不全が生じた場合に検討します。子宮収縮薬の使用中は連続監視で過強陣痛や胎児心拍異常に注意する必要があり、「急ぐべきか・急げるか・原因を正せるか」という視点は、分娩管理全般の判断の土台になります。
解答・解説
正解はeです
所見の整理
・41歳の初産婦(高年初産)、妊娠40週4日(正期産)で陣痛発来し入院。 ・陣痛発来から子宮口全開大まで16時間、全開大後すでに3時間経過しているが児は娩出していない。 ・体温・血圧に大きな異常はない(感染徴候や重症の妊娠高血圧を示す所見はない)。 ・陣痛間欠時に閉眼し、発作時にのみ唸り声をあげる。神経診察は正常であり、意識障害ではなく、長時間の分娩による疲労で間欠時に休息し、発作時に努責(いきみ)をしている状態と解釈できる。 ・陣痛周期5〜6分、持続時間20秒:分娩第2期の初産婦では周期4分以上、持続30秒以内で微弱陣痛と定義されるため、これに該当する。 ・児頭下降度SP±0cm(児頭の最下端が坐骨棘の高さ)、小泉門は2時方向(母体の左前方):児頭は骨盤内に進入しつつあり、矢状縫合は斜径に一致し、後頭部が前方を向く正常な回旋の途中である。回旋異常はない。 ・胎児心拍数陣痛図(CTG):基線140bpm(正常110〜160bpm)、基線細変動中等度、一過性徐脈なし、一過性頻脈ありで、胎児の健常性は良好(reassuring)である。
診断へのプロセス
分娩第2期(子宮口全開大から児娩出まで)が初産婦で3時間に及び、分娩第2期の遷延に該当する。遷延の原因を「娩出力(陣痛・腹圧)」「産道」「娩出物(胎児)」の3要素で考えると、児頭の回旋は正常で、明らかな児頭骨盤不均衡を示す所見もない一方、陣痛は周期・持続時間とも微弱陣痛の基準を満たす。したがって、微弱陣痛による分娩第2期遷延と判断する。
設問の考え方
対応を決める鍵は「母児に急いで娩出させるべき異常があるか」と「経腟分娩が可能な条件がそろっているか」である。CTGは良好で胎児機能不全はなく、母体にも急速遂娩を要する状態はない。また児頭はSP±0cmとまだ高く、吸引・鉗子分娩を安全に行える位置まで下降していない。このため急速遂娩(吸引分娩・鉗子分娩・帝王切開)を急ぐ必要はなく、原因である微弱陣痛を是正する、すなわち子宮収縮薬(オキシトシン)で陣痛を強めて分娩の進行を図るのが次に行うべき対応である。投与中はCTGで連続的に監視し、過強陣痛や胎児心拍異常の出現に注意する。進行がみられない、あるいは胎児機能不全が生じた場合には、その時点の児頭の位置に応じて吸引・鉗子分娩や帝王切開を選択する。
選択肢考察
- ×a. 吸引分娩
吸引分娩は、子宮口全開大・破水・児頭の骨盤内への十分な嵌入などの条件を満たしたうえで、胎児機能不全や分娩第2期遷延などで急速遂娩が必要なときに行う。児頭下降度は一般にSP+2cm以上が望ましいとされ、本例のSP±0cmでは位置が高く、成功率が低いうえ、児の頭蓋内出血や帽状腱膜下血腫などの合併症リスクが高まる。母児の状態は良好で緊急性もないため、まず微弱陣痛を是正すべきであり、現時点で吸引分娩を行うのは適切でない。
- ×b. 経過観察
すでに分娩第2期が3時間に及んで遷延しており、その原因である微弱陣痛は自然に改善するとは限らない。分娩の遷延は母体の疲労を強め、弛緩出血や感染、胎児機能不全のリスクを高める。原因が明らかで是正可能である以上、何もせずに経過をみるのは適切でない。
- ×c. 帝王切開
胎児心拍数陣痛図は良好で胎児機能不全はなく、回旋異常や明らかな児頭骨盤不均衡もない。遷延の原因は微弱陣痛であり、陣痛促進により経腟分娩が期待できる段階である。陣痛促進を行っても分娩が進行しない(分娩停止)場合や、胎児機能不全が生じた場合に帝王切開を検討するが、現時点で選択するのは過剰な対応である。
- ×d. 胎児圧出法
胎児圧出法(クリステレル胎児圧出法)は、子宮底部を母体の腹壁上から押して娩出を助ける方法である。子宮破裂、胎盤早期剥離、母体の内臓損傷などの危険があるため、単独での使用は避け、主に吸引・鉗子分娩の補助として、児頭が十分下降した状態で限定的に用いられる。児頭がSP±0cmと高く、急速遂娩の必要もない本例では適応にならない。
- ○e. 子宮収縮薬投与
本例の分娩第2期遷延は、陣痛周期5〜6分・持続20秒という微弱陣痛によるものである。母児とも状態は良好で、回旋異常や児頭骨盤不均衡を示す所見もないため、オキシトシンなどの子宮収縮薬で陣痛を促進し、経腟分娩の進行を図るのが適切である。投与は十分な説明と同意のもと、少量から開始して段階的に増量し、分娩監視装置で子宮収縮と胎児心拍を連続監視しながら行う。
分娩の3要素
娩出力(陣痛・腹圧)、産道(骨産道・軟産道)、娩出物(胎児・付属物)。分娩が遷延したら、どの要素に問題があるかを整理して原因に応じた対応を選ぶ。
微弱陣痛の定義(日本産科婦人科学会)
陣痛周期(子宮口開大度別) ・4〜6cm:10分30秒以上 ・7〜8cm:6分以上 ・9cm〜分娩第2期:初産婦4分以上、経産婦3分30秒以上 陣痛持続時間 ・4〜8cm:40秒以内 ・9cm〜分娩第2期:30秒以内
分娩時間の異常
・遷延分娩:分娩開始(陣痛周期が10分以内になった時点)から、初産婦で30時間、経産婦で15時間を経過しても児が娩出しないもの。 ・分娩第2期の遷延:従来は初産婦で約2時間、経産婦で約1時間が目安とされてきたが、近年は初産婦で3時間、経産婦で2時間(硬膜外麻酔下ではそれぞれ約1時間延長)を超えて進行がみられないものを遷延とする考え方が一般的である。本例はいずれの基準でも遷延に該当する。
児頭の位置と回旋
・児頭下降度(station)は、児頭最下端と坐骨棘を結ぶ線との距離で表し、坐骨棘の高さをSP±0cmとする。 ・正常の第2回旋(内回旋)では、児頭の下降に伴い矢状縫合が横径→斜径→縦径へと変化し、小泉門が母体の前方(12時方向)へ回る。SP±0cm付近で小泉門が斜め前方(2時や10時方向)にあるのは、回旋途中として正常である。
吸引・鉗子分娩の主な条件
子宮口全開大、破水、児頭の骨盤内嵌入(SP+2cm以上が望ましい)、児頭骨盤不均衡がないこと、妊娠週数がおおむね34〜35週以上であること。吸引分娩は総牽引時間20分以内・牽引回数5回以内を目安とし、成功しなければ帝王切開に移行する。
子宮収縮薬使用時の注意
過強陣痛、子宮破裂、胎児機能不全、水中毒(オキシトシンの抗利尿作用)などに注意し、分娩監視装置で連続監視する。
POINT
・分娩第2期の初産婦で陣痛周期4分以上・持続30秒以内は微弱陣痛。 ・分娩遷延では原因を娩出力・産道・娩出物で整理する。 ・微弱陣痛による遷延で、胎児の状態が良好(CTGが正常)かつ児頭が高い(SP±0cm)なら、急速遂娩ではなく子宮収縮薬(オキシトシン)による陣痛促進を行う。 ・吸引・鉗子分娩はSP+2cm以上が望ましく、胎児圧出法は単独では用いない。
