「なぜ足りないのか」で薬が決まる―赤芽球癆にシクロスポリンが効く理由
第118回医師国家試験 F問題 第6問
国試問題にチャレンジ
疾患と治療薬の組合せで正しいのはどれか。
- a.腎性貧血 ―― グルココルチコイド
- b.赤芽球癆 ―― シクロスポリン
- c.巨赤芽球性貧血 ―― エリスロポエチン
- d.慢性炎症に伴う貧血 ―― 鉄剤
- e.自己免疫性溶血性貧血 ―― ガンマグロブリン
対話形式の解説
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ドクターまとめ
貧血の治療は「なぜ赤血球が足りないのか」という病態に合わせて選びます。腎性貧血はエリスロポエチン不足なので赤血球造血刺激因子製剤やHIF-PH阻害薬、巨赤芽球性貧血はビタミンB12・葉酸の補充、慢性炎症に伴う貧血はヘプシジン上昇による鉄利用障害なので原疾患の治療、温式自己免疫性溶血性貧血は副腎皮質ステロイドが基本です。赤芽球癆は赤血球系前駆細胞のみが選択的に減少し網赤血球が著減する疾患で、慢性型の多くは免疫学的機序によるため、シクロスポリンによる免疫抑制療法が第一選択となります。パルボウイルスB19感染による急性型や胸腺腫合併など原因の幅も押さえておくと、溶血性貧血の急な増悪などの臨床場面にも対応できます。病態と治療を対で整理する習慣は、貧血に限らず薬の選択全般の判断力を養う土台になります。
解答・解説
正解はbです
各種貧血の病態(なぜ赤血球が足りなくなるのか)と、それに対応する治療薬を結び付けられるかを問う問題である。治療は原因に向けて行うのが原則なので、病態ごとに整理すると覚えやすい。 ・産生の刺激が不足している:腎性貧血(腎臓から分泌されるエリスロポエチンの不足)→ 赤血球造血刺激因子製剤(ESA)、HIF-PH阻害薬 ・造血の材料が不足している:巨赤芽球性貧血(ビタミンB12・葉酸の欠乏)→ ビタミンB12・葉酸の補充、鉄欠乏性貧血 → 鉄剤 ・免疫が造血を障害している:赤芽球癆、再生不良性貧血 → シクロスポリンなどの免疫抑制療法 ・鉄の利用障害:慢性炎症に伴う貧血(ACD)→ 原疾患の治療 ・自己抗体による赤血球破壊:自己免疫性溶血性貧血(AIHA)→ 副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド) この対応に当てはめると、正しい組合せは赤芽球癆とシクロスポリンである。
選択肢考察
- ×a. 腎性貧血 ―― グルココルチコイド
腎性貧血は、慢性腎臓病により腎臓の間質細胞(尿細管周囲の線維芽細胞様細胞)からのエリスロポエチン産生が低下して起こる正球性正色素性貧血である。治療はダルベポエチンアルファやエポエチンベータペゴルなどのESAの投与、または低酸素誘導因子(HIF)を安定化させて内因性エリスロポエチン産生を促すHIF-PH阻害薬(ダプロデュスタット、ロキサデュスタットなど)の内服である。ESAの効果を保つため鉄欠乏があれば鉄補充も行う。グルココルチコイドには造血を回復させる作用はなく、腎性貧血の治療には用いない。
- ○b. 赤芽球癆 ―― シクロスポリン
赤芽球癆(pure red cell aplasia:PRCA)は、骨髄で赤血球系の前駆細胞だけが選択的に著減し、網赤血球の著減を伴う正球性貧血をきたす疾患である。白血球・血小板は通常保たれる。後天性の慢性型(特発性、胸腺腫合併、大顆粒リンパ球性白血病合併など)の多くはT細胞などによる免疫学的機序で赤芽球造血が抑えられているため、カルシニューリン阻害薬であるシクロスポリンによる免疫抑制療法が有効であり、日本では第一選択とされる。副腎皮質ステロイドも用いられる。胸腺腫合併例では胸腺腫摘出も行うが、摘出だけで貧血が改善する例は多くない。
- ×c. 巨赤芽球性貧血 ―― エリスロポエチン
巨赤芽球性貧血は、ビタミンB12または葉酸の欠乏によりDNA合成が障害され、骨髄で巨赤芽球が出現して無効造血をきたす大球性貧血である。エリスロポエチンはむしろ高値であり、材料が足りないのが本態なので、ESAを投与しても改善しない。治療は欠乏しているビタミンの補充で、ビタミンB12欠乏(悪性貧血、胃切除後など)では吸収障害があるためビタミンB12の筋肉内注射が基本、葉酸欠乏では葉酸の経口投与を行う。ビタミンB12欠乏に葉酸だけを投与すると、貧血は一時改善しても神経障害(亜急性連合性脊髄変性症など)が進行するおそれがあるため注意する。
- ×d. 慢性炎症に伴う貧血 ―― 鉄剤
慢性炎症に伴う貧血(anemia of chronic disease:ACD)は、関節リウマチや慢性感染症、悪性腫瘍などで炎症性サイトカイン(特にIL-6)が肝臓でのヘプシジン産生を増やすことにより起こる。ヘプシジンは腸管からの鉄吸収とマクロファージからの鉄放出を抑えるため、体内に鉄はあっても造血に使えない状態となる(血清鉄低値、総鉄結合能は低値〜正常、フェリチンは正常〜高値)。鉄の絶対的な不足ではないため、鉄剤を投与しても効果は乏しく、特に経口鉄剤は吸収されにくい。治療の基本は原疾患(炎症)のコントロールである。真の鉄欠乏を合併している場合に限り鉄補充を考慮する。
- ×e. 自己免疫性溶血性貧血 ―― ガンマグロブリン
自己免疫性溶血性貧血(AIHA)のうち最も多い温式AIHAの第一選択薬は副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)であり、無効・再発例ではリツキシマブ(抗CD20抗体)や摘脾、ほかの免疫抑制薬が検討される。免疫グロブリン大量静注療法(IVIG)は特発性血小板減少性紫斑病(ITP)や川崎病などでは標準治療だが、AIHAでの有効性は限られ、標準的な治療薬とはされていない。なお冷式の寒冷凝集素症では保温が基本で、ステロイドは効きにくい。
赤芽球癆の分類と原因
・先天性:Diamond-Blackfan貧血(リボソームタンパク遺伝子の異常。乳児期に発症) ・後天性・急性型:ヒトパルボウイルスB19感染(赤芽球前駆細胞に感染して増殖を止める。溶血性貧血患者では赤芽球癆発作〔aplastic crisis〕を起こす)、薬剤性(抗てんかん薬など)。原因の除去により1〜3週程度で網赤血球が回復することが多い。免疫不全患者での持続性パルボウイルスB19感染にはガンマグロブリン製剤が用いられる。 ・後天性・慢性型:特発性、胸腺腫合併、大顆粒リンパ球性白血病合併、自己免疫疾患合併、ESA投与中の抗エリスロポエチン抗体出現など。免疫抑制療法(シクロスポリン、副腎皮質ステロイド)を長期に行う。
検査所見の特徴
・網赤血球の著減(赤血球造血が止まっているため) ・骨髄で赤芽球が著減し、顆粒球系・巨核球系は保たれる ・血清鉄・フェリチンは高値となりやすい(鉄が利用されないため)。長期の輸血では鉄過剰症に注意する。
シクロスポリンが用いられる主な血液疾患
赤芽球癆、再生不良性貧血(抗胸腺細胞グロブリンと併用)など、T細胞を介した免疫学的機序で造血が障害される疾患。副作用として腎障害、高血圧、歯肉増殖、多毛などがあり、血中濃度のモニタリングが必要である。
POINT
・赤芽球癆:赤血球系のみの造血障害で網赤血球が著減。慢性型は免疫抑制療法(シクロスポリンが第一選択、ステロイド)。 ・腎性貧血:ESAまたはHIF-PH阻害薬。 ・巨赤芽球性貧血:ビタミンB12(筋注)・葉酸の補充。 ・慢性炎症に伴う貧血:ヘプシジン上昇による鉄利用障害。治療は原疾患のコントロールで、鉄剤は効きにくい。 ・温式AIHA:第一選択は副腎皮質ステロイド。
