StudyMed医師国家試験

臍を越える脾臓―巨脾が指し示す慢性骨髄性白血病

第118回医師国家試験 F問題 第17問

国試問題にチャレンジ

第118回 F問題 第17問

著明な脾腫をきたすのはどれか。

  1. a.多発性骨髄腫
  2. b.急性骨髄性白血病
  3. c.慢性骨髄性白血病
  4. d.急性リンパ性白血病
  5. e.成人T細胞白血病・リンパ腫

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、造血器腫瘍のなかで「脾臓がとびきり大きくなる」のはどれかを問う知識問題だ。ポイントは、脾腫が「あるかないか」ではなく「どこまで大きくなるか」。病気の進み方と、脾臓で何が起きているかを結びつけて考えるとすっきり解けるよ。まず、脾腫ってそもそもどう定義されていたかな。
医学生医学生
正常な脾臓は左の肋骨弓の下に触れないので、触れたら脾腫、でしたよね。
ドクタードクター
その通り。正常は100〜150g、長径10cmくらい。触知できれば脾腫で、臍の高さを越えたり正中線を越えて右下に伸びたりするものを著明な脾腫、いわゆる巨脾と呼ぶ。脾腫自体はありふれているけれど、巨脾まで行く病気はかなり限られているんだ。
医学生医学生
白血病ならどれも脾臓に浸潤しそうなので、急性白血病でも大きくなりそうに思えます。
ドクタードクター
その発想は自然だね。実際、急性骨髄性白血病でも急性リンパ性白血病でも脾腫はみられる。ただ、急性白血病は正常造血が急速に抑えられて、貧血・出血・発熱で早々に見つかることが多い。脾臓が臍を越えるほど育つ時間がないんだ。だから脾腫があっても軽度〜中等度にとどまるのが一般的だよ。
医学生医学生
なるほど、「時間」が大事なんですね。そうすると、ゆっくり進む慢性骨髄性白血病が怪しいです。
ドクタードクター
正解。慢性骨髄性白血病は慢性期に自覚症状が乏しいまま長く経過し、そのあいだに白血球が著増して脾臓も徐々に大きくなる。初診時に半数以上で脾腫を認め、未治療だと臍を越える巨脾になることも多い。腫瘍性の造血細胞が脾臓で増えたり、脾臓で血球が作られる髄外造血が起きたりするのが機序だ。
医学生医学生
基礎の講義で、Ph染色体のt(9;22)とBCR::ABL1を習ったのを思い出しました。
ドクタードクター
そう、BCR::ABL1が常に活性化したチロシンキナーゼをつくって、いろいろな成熟段階の顆粒球が増える。腹部膨満感や左上腹部痛、すぐお腹がいっぱいになる早期満腹感で受診する人もいる。では残りの選択肢。多発性骨髄腫はどうだろう。
医学生医学生
CRABが特徴で、病変は骨髄と骨が中心でした。脾臓のイメージはあまりありません。
ドクタードクター
そのイメージで合っている。形質細胞が骨髄内で増えてM蛋白を作る病気で、脾腫は一般にみられない。成人T細胞白血病・リンパ腫はどうかな。
医学生医学生
HTLV-1が原因で、flower cellと高カルシウム血症が有名ですよね。肝脾腫もあった気がします。
ドクタードクター
よく覚えているね。肝脾腫を伴うことはあるけれど、目立つのはリンパ節腫大や皮膚病変、日和見感染で、巨脾は典型ではない。
医学生医学生
急性白血病は大きくなる時間がなく、骨髄腫は骨が舞台、ATLはリンパ節や皮膚が前面に出る。巨脾は慢性骨髄性白血病、と整理できました。
ドクタードクター
いい整理だ。もう一つ、同じ骨髄増殖性腫瘍の原発性骨髄線維症も巨脾の代表だから必ずセットで覚えよう。骨髄が線維化して造血できなくなり、脾臓や肝臓で髄外造血が起こる。涙滴赤血球、白赤芽球症、骨髄穿刺でのdry tapが特徴だ。
医学生医学生
臨床実習の血液内科で、骨髄が引けなくて生検に切り替えた症例を見ました。あれがdry tapだったんですね。
ドクタードクター
まさにそれ。造血器以外では、マラリアやカラアザール、Gaucher病も巨脾をきたすので、鑑別の引き出しに入れておくといい。臨床面では、慢性骨髄性白血病はイマチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬で血液学的寛解が得られると脾腫が縮小する。逆に、治療中に脾腫が再び大きくなったり芽球が増えたりしたら、移行期や急性転化を疑うきっかけになるよ。
医学生医学生
脾臓の大きさが病勢を映す指標にもなるんですね。腹部診察で脾臓をしっかり触る意味がわかりました。

まとめ

脾腫は多くの疾患でみられますが、臍を越えるような著明な脾腫(巨脾)をきたす造血器腫瘍は限られ、その代表が慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症という骨髄増殖性腫瘍です。慢性骨髄性白血病はPh染色体上のBCR::ABL1が原因で、症状の乏しい慢性期を長く経るあいだに腫瘍性造血や髄外造血によって脾臓が徐々に大きくなります。急性白血病は骨髄不全で早期に見つかるため脾腫は軽度〜中等度にとどまることが多く、多発性骨髄腫では通常脾腫はなく、成人T細胞白血病・リンパ腫も巨脾は典型ではありません。造血器以外ではマラリア、カラアザール、Gaucher病なども巨脾の原因として押さえておきましょう。脾腫の「程度」と病気の「進み方」を結びつける視点は、腹部診察から鑑別を絞り込む臨床推論の基本になります。

解答・解説

正解はcです

問われていること

造血器腫瘍のうち、脾臓が非常に大きく腫れる(著明な脾腫・巨脾)ものはどれかを問う問題である。

脾腫の程度と原因の考え方

正常な脾臓は重さ約100〜150g、長径10cm程度で、通常は左肋骨弓の下に触れない。脾臓が腫大して触知できるようになった状態を脾腫といい、臍の高さを越える、あるいは正中線を越えて右下方へ伸びるほど大きいものを著明な脾腫(巨脾)と呼ぶ。 脾腫は、感染症・自己免疫疾患・門脈圧亢進症・溶血性貧血・造血器腫瘍など多くの原因で起こるが、巨脾まで至る疾患は限られている。造血器腫瘍で巨脾をきたす代表は、慢性骨髄性白血病(CML)と原発性骨髄線維症であり、この2つは骨髄増殖性腫瘍に属する。巨脾が起こる主な機序は、脾臓内での腫瘍性造血細胞の増殖・浸潤や、骨髄の代わりに脾臓で血球が作られる髄外造血である。

考え方

急性白血病(急性骨髄性白血病・急性リンパ性白血病)は経過が速く、脾臓が極端に大きくなる前に骨髄不全症状(貧血・出血・感染)で発見されることが多い。成人T細胞白血病・リンパ腫は肝脾腫やリンパ節腫大を伴うことがあるが、巨脾は特徴とならない。多発性骨髄腫は骨髄内で形質細胞が増殖する疾患で、脾腫はふつうみられない。一方、慢性骨髄性白血病は慢性期に自覚症状が乏しいまま長期間経過するあいだに白血球が著増し、脾臓も徐々に大きくなるため、巨脾を呈しやすい。

選択肢考察

  1. ×a.  多発性骨髄腫

    多発性骨髄腫は、骨髄内で単クローン性の形質細胞が増殖し、M蛋白(単クローン性免疫グロブリン)を産生する疾患である。主な臨床像は高カルシウム血症・腎障害・貧血・骨病変(打ち抜き像、病的骨折)で、頭文字をとってCRABと呼ばれる。病変の主座は骨髄と骨であり、脾腫は一般にみられず、著明な脾腫は特徴ではない。

  2. ×b.  急性骨髄性白血病

    急性骨髄性白血病は骨髄系の幼若な芽球が急速に増殖する疾患で、正常造血が抑えられることによる貧血・出血傾向・発熱(感染)で発症することが多い。白血病細胞の浸潤により軽度〜中等度の脾腫をみることはあるが、経過が急性であるため巨脾に至ることはまれである。

  3. ○c.  慢性骨髄性白血病

    慢性骨髄性白血病は、9番染色体と22番染色体の相互転座t(9;22)(q34;q11)によって生じるフィラデルフィア(Ph)染色体上のBCR::ABL1融合遺伝子が原因となる骨髄増殖性腫瘍である。BCR::ABL1がつくる常に活性化したチロシンキナーゼにより、成熟段階を含むさまざまな段階の顆粒球系細胞が増える。初診時には50〜90%の患者で脾腫を認め、未治療で進行すると臍を越えるような巨脾となることも多い。脾腫による腹部膨満感や左上腹部痛、早期満腹感を訴えることもある。チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブなど)による治療で血液学的寛解が得られると脾腫は縮小する。

  4. ×d.  急性リンパ性白血病

    急性リンパ性白血病はリンパ系の芽球が増殖する疾患で、小児の白血病で最も多い。骨髄不全症状のほか、骨痛、リンパ節腫大、肝脾腫、中枢神経浸潤、T細胞性では縦隔腫瘤を伴うことがある。脾腫を認めることは比較的多いが、その程度は軽度〜中等度にとどまるのが一般的であり、巨脾は特徴とならない。

  5. ×e.  成人T細胞白血病・リンパ腫

    成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)は、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染を背景に発症するT細胞腫瘍で、九州・沖縄地方に多い。末梢血の花弁状の核をもつ異常リンパ球(flower cell)、リンパ節腫大、皮膚病変、高カルシウム血症、日和見感染などが特徴である。肝脾腫を伴うことはあるが、著明な脾腫は典型的な所見ではない。

著明な脾腫(巨脾)をきたす主な疾患

・造血器疾患:慢性骨髄性白血病、原発性骨髄線維症、ヘアリー細胞白血病、脾辺縁帯リンパ腫、サラセミア(重症型) ・感染症:マラリア(特に慢性・反復感染)、内臓リーシュマニア症(カラアザール) ・蓄積症:Gaucher病

軽度〜中等度の脾腫をきたす主な疾患

・感染症:伝染性単核球症、感染性心内膜炎、敗血症、ウイルス性肝炎 ・門脈圧亢進症:肝硬変、特発性門脈圧亢進症、Budd-Chiari症候群 ・溶血性貧血:遺伝性球状赤血球症、自己免疫性溶血性貧血 ・自己免疫疾患:全身性エリテマトーデス、Felty症候群(関節リウマチ+脾腫+好中球減少) ・造血器腫瘍:急性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、真性赤血球増加症など

慢性骨髄性白血病の要点

・病態:Ph染色体(t(9;22))、BCR::ABL1融合遺伝子による恒常的なチロシンキナーゼ活性化 ・血液所見:白血球増加(骨髄球・後骨髄球など各成熟段階の顆粒球が出現)、好塩基球・好酸球の増加、血小板増加を伴うことがある。かつて診断の参考とされた好中球アルカリホスファターゼ(NAP)スコアは低値となる。 ・病期:慢性期 → 移行期 → 急性転化期。急性転化すると急性白血病と同様の病態となる。 ・治療:チロシンキナーゼ阻害薬(イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブなど)が第一選択。

原発性骨髄線維症の要点

骨髄の線維化により骨髄での造血が障害され、脾臓・肝臓で髄外造血が起こる。巨脾、末梢血の涙滴赤血球、白赤芽球症(幼若な白血球と赤芽球の出現)、骨髄穿刺でのdry tapが特徴である。JAK2・CALR・MPL遺伝子変異を伴うことが多い。

POINT

・巨脾をきたす造血器腫瘍の代表は、慢性骨髄性白血病と原発性骨髄線維症(いずれも骨髄増殖性腫瘍)である。 ・急性白血病やATLでも脾腫はみられるが、巨脾は特徴とならない。 ・多発性骨髄腫では脾腫は通常みられない(CRABが特徴)。 ・造血器以外ではマラリア、カラアザール、Gaucher病も巨脾をきたす。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。