StudyMed医師国家試験

鼻の穴は「上」ではなく「奥」へ―鼻咽頭ぬぐい液採取の落とし穴

第118回医師国家試験 E問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第7問

座位の患者からの鼻咽頭ぬぐい液の採取手順で誤っているのはどれか。

  1. a.個人防護具を着用する。
  2. b.患者の側方に立つ。
  3. c.患者の頭部が動かないよう支える。
  4. d.綿棒を患者の鼻孔から上方に向けて挿入する。
  5. e.咽頭後壁からぬぐい液を採取する。

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、鼻咽頭ぬぐい液の採取手順の問題だ。インフルエンザや新型コロナウイルスの検査で日常的に行う手技だけど、「自分を守る」「患者を守る」「正しい場所から取る」という3つの視点で整理すると迷わない。まずは手順全体を見て、どこかに違和感はあるかな。
医学生医学生
臨床実習の発熱外来で見学しましたが、正直どの手順ももっともらしく見えます。防護具も側方に立つのも、先生方がやっていたことです。
ドクタードクター
そうだね。まず感染防止の視点から確認しよう。綿棒が鼻の奥に触れると、くしゃみや咳が出やすい。採取者は飛沫やエアロゾルを至近距離で浴びる危険があるから、手袋、ガウン、ゴーグルやフェイスシールド、マスクといった個人防護具を着用する。想定される病原体によってはN95マスクを選ぶこともある。
医学生医学生
患者さんの正面ではなく横に立つのも、くしゃみを正面から浴びないためですね。
ドクタードクター
その通り。側方か、やや斜め後方に立つ。患者さんには直前までマスクをしてもらい、鼻だけ出してもらうのも有効な工夫だよ。次は患者の安全。頭部を支えるのはなぜだと思う?
医学生医学生
奥まで入れるとかなり痛そうなので、反射的に頭を引いてしまうからでしょうか。
ドクタードクター
そう。急に頭が動くと鼻出血や粘膜損傷を起こすし、狙った場所から検体が取れなくなる。空いている手で後頭部を支えたり、壁やヘッドレストに頭をつけてもらったりして固定するんだ。では、最大のポイント。綿棒はどの方向に進めるべきかな。
医学生医学生
鼻の穴は下を向いて開いているので、上に向かって入れていくイメージでした……。
ドクタードクター
実はそれが多くの人が陥る誤解で、今回問われている誤りなんだ。鼻腔は外鼻孔から後方へほぼ水平に伸びていて、その底、つまり鼻腔底は硬口蓋の上面にあたる。だから綿棒は鼻腔底に沿わせて、顔面に垂直に、耳の穴の方向へまっすぐ後ろに進めるのが正しい。
医学生医学生
解剖の実習で頭部の正中断を見たとき、確かに鼻腔は前後に長い通路でした。上に向けると、鼻甲介にぶつかってしまいますね。
ドクタードクター
よく思い出したね。上方に向けると中鼻甲介や篩骨洞のあたりに当たって奥まで届かず、強い痛みや出血を招く。さらに上には前頭蓋底の薄い骨である篩板があって、まれに損傷するおそれもある。だから「上方に向けて挿入する」が誤りだ。
医学生医学生
ということは、最後に綿棒が当たる「咽頭後壁」は、口から見える喉の奥ではなく、鼻の奥の上咽頭の後壁ということですか。
ドクタードクター
その理解で正しい。上咽頭はウイルスが増えやすい部位で、ここから取った検体は鼻の入口付近をぬぐう鼻腔ぬぐい液より感度が高い。成人では外鼻孔から8〜10cm程度で抵抗を感じたところが上咽頭後壁の目安だ。そこで数秒から10秒ほど保持して分泌物をしみこませ、回転させてから抜く。
医学生医学生
OSCEで練習するなら、防護具、立ち位置、頭部固定、水平に挿入、上咽頭後壁で保持、という順番で覚えておけばよさそうです。
ドクタードクター
いいまとめだね。臨床での注意点も加えておこう。鼻中隔弯曲などで抵抗が強いときは無理に押し込まず、反対側の鼻孔から試みる。抗凝固薬を飲んでいる人や出血傾向のある人、鼻の手術歴がある人では鼻出血に注意する。小児では介助者に体と頭をしっかり支えてもらい、挿入の長さを体格に合わせて調整するんだ。
医学生医学生
検体の種類による使い分けもありますよね。溶連菌の迅速検査は喉をぬぐっていました。
ドクタードクター
そう。A群溶血性レンサ球菌なら口から中咽頭後壁や口蓋扁桃をぬぐう咽頭ぬぐい液、自己採取ができる鼻腔ぬぐい液、採取者の曝露が少ない唾液と、目的に応じて使い分ける。採取後は輸送液に浸して容器をしっかり閉め、外側を汚染しないよう密閉して速やかに冷蔵で搬送することも忘れずに。

まとめ

鼻咽頭ぬぐい液は、インフルエンザや新型コロナウイルスなど呼吸器病原体の抗原検査・核酸増幅検査に用いる標準的な検体で、上咽頭(鼻咽頭)後壁から採取します。くしゃみや咳による曝露を防ぐため個人防護具を着用して患者の側方に立ち、頭部を支えて急な動きによる鼻出血や粘膜損傷を防ぎます。鼻腔は外鼻孔から後方へほぼ水平に伸びるため、綿棒は上方ではなく鼻腔底に沿って耳の方向へ水平に進め、成人では8〜10cm程度で抵抗を感じた位置で保持してから回転させて抜去します。上方へ向けると鼻甲介に当たって届かず、痛みや出血、まれに篩板損傷を招きます。鼻腔の解剖を踏まえた正しい手技は、検査の感度と患者の安全、そして医療者自身の感染防止に直結します。

解答・解説

正解はdです

問われているテーマ

鼻咽頭ぬぐい液は、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)、RSウイルス、百日咳菌などの病原体検査(抗原検査、PCR検査などの核酸増幅検査)に用いられる検体である。本問はその採取手順を、感染防止・安全確保・正確な採取の3つの観点から問う。

考え方

1. 感染防止:綿棒(スワブ)の刺激でくしゃみや咳が誘発されやすく、採取者は飛沫やエアロゾルを浴びる危険がある。そのため個人防護具を着用し、患者の正面を避けて側方(または斜め後方)に立つ。 2. 安全確保:痛みや不快感で患者が急に頭を引くと、鼻出血や鼻腔粘膜の損傷が起こり、正しい部位から採取できなくなる。そのため頭部を支えて固定する。 3. 正確な採取:採取の目標は鼻腔の奥にある上咽頭(鼻咽頭)の後壁である。鼻腔は顔面に対してほぼ水平に後方へ伸びており、その底(鼻腔底)は硬口蓋の上面にあたる。したがって綿棒は鼻腔底に沿わせて、外鼻孔と外耳孔を結ぶ線の方向へ、顔面に垂直にまっすぐ後方へ進める。 多くの人は「鼻の穴は上に向かって伸びている」と思いがちであるが、外鼻孔から上方へ綿棒を向けると、鼻腔の上部(中鼻甲介や篩骨洞の付近)にぶつかって鼻咽頭まで届かず、痛みや出血を招く。さらに上方の篩板(前頭蓋底の薄い骨)を損傷するおそれもある。したがって誤っているのは d である。

選択肢考察

  1. ×a.  個人防護具を着用する。

    正しい手順である。鼻咽頭へのスワブ挿入はくしゃみや咳を誘発しやすく、採取者は飛沫やエアロゾルに曝露する危険が高い。そのため手袋、ガウン、眼の防護具(ゴーグルまたはフェイスシールド)、マスク(想定される病原体に応じてサージカルマスクまたはN95マスク)などの個人防護具(personal protective equipment:PPE)を着用して行う。

  2. ×b.  患者の側方に立つ。

    正しい手順である。採取者が患者の正面に立つと、くしゃみや咳による飛沫を直接浴びやすい。正面を避けて患者の側方、またはやや斜め後方に立つことで曝露のリスクを減らすことができる。患者には採取直前までマスクを着用してもらい、鼻だけを出して行うといった工夫も有効である。

  3. ×c.  患者の頭部が動かないよう支える。

    正しい手順である。スワブを鼻腔の奥まで進めると痛みや不快感が強く、患者が反射的に頭を後ろへ反らしたり顔をそむけたりすることがある。頭が動くと鼻出血や粘膜損傷の原因となり、適切な部位から検体を取れなくなる。採取中は空いている手で患者の後頭部を支えるなどして頭部を固定する(壁やヘッドレストに頭をつけてもらうのもよい)。

  4. ○d.  綿棒を患者の鼻孔から上方に向けて挿入する。

    誤った手順であり、これが正解である。鼻腔は外鼻孔から後方へほぼ水平に伸びて上咽頭に至るため、綿棒は上方ではなく、鼻腔底に沿って顔面に垂直に、外耳孔(耳珠)の方向へ水平に進める。一般には外鼻孔から2〜3cm入れた後、鼻腔底に沿ってゆっくり進め、抵抗を感じたところ(成人では外鼻孔から8〜10cm程度で、上咽頭後壁に当たる)で止める。上方に向けると鼻腔上部の鼻甲介などに当たって奥まで届かず、強い痛みや鼻出血を起こすうえ、まれに篩板の損傷を招くおそれがある。

  5. ×e.  咽頭後壁からぬぐい液を採取する。

    正しい手順である。鼻咽頭ぬぐい液は、鼻腔の奥の上咽頭(鼻咽頭)後壁にスワブを当てて採取する。上咽頭はウイルスが増殖しやすい部位であり、ここから採取した検体は、鼻の入口付近をぬぐう鼻腔ぬぐい液よりも検出感度が高い。スワブが後壁に達したら数秒〜10秒程度そのまま保持して分泌物をしみこませ、回転させてから抜去する。なお、ここでいう咽頭後壁とは口から見える中咽頭の後壁ではなく、鼻腔から到達する上咽頭の後壁を指す。

鼻咽頭ぬぐい液の採取手順(一例)

1. 必要な個人防護具を着用し、スワブ、輸送用培地(ウイルス輸送液など)、検体容器を準備する。容器には患者氏名を記載しておく。 2. 患者の正面を避け、側方または斜め後方に立つ。 3. 患者のマスクを鼻の下まで下げ、口はマスクで覆ったままにするか、手で押さえてもらう。 4. 顎を軽く上げてもらい、頭部を支えて固定する。 5. スワブを外鼻孔から2〜3cm挿入し、鼻腔底に沿って耳の方向へ水平にゆっくり進める。 6. 抵抗を感じたところ(成人で8〜10cm程度)で止め、しばらく保持して分泌物をしみこませた後、回転させて抜去する。 7. スワブを輸送液に浸して検体を溶かし出し、容器の蓋をしっかり閉める。使用後のスワブは感染性廃棄物として処理する。 8. 容器の外側を汚染しないよう密閉袋に入れ、速やかに冷蔵(4℃前後)で保管・搬送する。検査開始まで長時間かかる場合は冷凍保存する。

採取時の注意

・鼻中隔の弯曲などで抵抗が強いときは無理に押し込まず、反対側の鼻孔から試みる。 ・抗凝固薬の内服中や出血傾向のある患者、鼻の手術歴のある患者では鼻出血に注意する。 ・小児では保護者や介助者に体と頭部をしっかり支えてもらい、挿入の長さを体格に合わせて調整する。

検体の種類と特徴

・鼻咽頭ぬぐい液:上咽頭後壁から採取。感度が高く、多くの呼吸器ウイルス検査の標準的な検体。 ・鼻腔ぬぐい液:鼻の入口から2cm程度の部位をぬぐう。患者本人による自己採取も可能だが、感度はやや劣る。 ・咽頭ぬぐい液:口から中咽頭後壁・口蓋扁桃をぬぐう。A群溶血性レンサ球菌の迅速検査などに用いる。 ・唾液:採取が容易で採取者の曝露も少ない。新型コロナウイルスのPCR検査などで用いられる。

POINT

・鼻咽頭ぬぐい液は上咽頭(鼻咽頭)後壁から採取する。 ・綿棒は上方ではなく、鼻腔底に沿って顔面に垂直(外耳孔の方向)に水平に進める。 ・成人では外鼻孔から8〜10cm程度で抵抗を感じたところが上咽頭後壁である。 ・個人防護具を着用し、患者の正面を避けて側方に立ち、頭部を固定する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。