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手袋がいらないのはどれ?―「汗を除く」が決め手の標準予防策

第118回医師国家試験 E問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第118回 E問題 第8問

標準予防策が適用されている患者に対し,医療従事者がディスポーザブル手袋を着用せずに取り扱えるのはどれか。

  1. a.患者の眼鏡
  2. b.創部にあてたガーゼ
  3. c.便が付着したオムツ
  4. d.口腔ケアに用いたブラシ
  5. e.喀痰が付着したティッシュペーパー

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は標準予防策の基本を問う問題だ。考え方はシンプルで、それぞれの物品に「何が付着しているか」を考えればいい。まず、標準予防策とはどういうものか説明できるかな。
医学生医学生
感染症があるかどうかに関係なく、すべての患者さんに共通して行う感染対策ですよね。
ドクタードクター
その通り。核心は「汗を除くすべての血液・体液・分泌物・排泄物、損傷のある皮膚、粘膜は、病原体を含みうるものとして扱う」という原則だ。診断がついていなくても感染している可能性はあるから、全員に同じ基準を当てはめるんだ。
医学生医学生
感染症の講義で、わざわざ「汗を除く」と強調されていたのを覚えています。でも汗も体液の一種じゃないんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。汗は一般に感染の伝播源とはならないと考えられているので、標準予防策の対象から除外されている。だから汗や健常な皮膚にしか触れない物品なら、手袋は必須ではない。では、選択肢を一つずつ見ていこう。創部にあてたガーゼはどうかな。
医学生医学生
傷は損傷のある皮膚ですし、ガーゼには血液や滲出液がついているので手袋が必要です。
ドクタードクター
正解。血液・体液は感染性ありとして扱い、手袋を着けて取り扱い、感染性廃棄物として処理する。次は便が付着したオムツ。
医学生医学生
便は排泄物なので当然手袋ですね。病棟実習でおむつ交換に入ったとき、看護師さんはエプロンも着けていました。
ドクタードクター
よく観察していたね。便にはノロウイルスやClostridioides difficile、薬剤耐性菌などが含まれうる。飛散のおそれがあれば手袋に加えてエプロンやガウンも使う。口腔ケアに用いたブラシは?
医学生医学生
歯ブラシなら唾液くらいかと思ったのですが、粘膜に触れたものなので手袋が必要でしょうか。
ドクタードクター
そう考えるのが正しい。唾液などの分泌物が付着しているし、口腔ケア中は歯肉から出血することも多い。分泌物と粘膜由来の物質は感染性ありとして扱う。飛沫も出るから、マスクやアイシールドの使用も考慮するといい。喀痰が付着したティッシュペーパーは?
医学生医学生
喀痰は気道分泌物なので、結核菌やインフルエンザウイルスを含んでいる可能性があります。手袋が必要です。
ドクタードクター
その通り。そうすると残るのは患者の眼鏡だ。眼鏡が接するのは顔の健常な皮膚で、付着しうるのは主に汗や皮脂。だから手袋なしで扱える、というのが正解になる。
医学生医学生
患者さんのものだから全部手袋、というわけではないんですね。何が付いているかで判断する、と。
ドクタードクター
まさにそれがこの問題の狙いだ。ただし注意点が2つある。眼鏡でも、目に見える血液や眼脂で汚れていれば手袋を着用する。そして手袋の有無にかかわらず、取り扱った後には手指衛生を行うことだ。
医学生医学生
手袋をしていれば手洗いはいらない、と思っている人もいそうです。
ドクタードクター
それは大きな誤解だね。手袋にはピンホールがあったり、外すときに手が汚染されたりするから、外した後にも必ず手指衛生を行う。WHOの「手指衛生の5つのタイミング」、つまり患者に触れる前、清潔・無菌操作の前、体液に曝露した可能性のある後、患者に触れた後、患者周辺の環境に触れた後も押さえておこう。目に見える汚れがなければアルコール手指消毒、汚れがあれば流水と石けんで洗う。
医学生医学生
標準予防策には手指衛生と個人防護具以外にも、咳エチケットや針刺し防止のリキャップ禁止も含まれていましたよね。
ドクタードクター
よく覚えているね。さらに、病原体によっては標準予防策に感染経路別予防策を上乗せする。MRSAやC. difficile、ノロウイルスなら接触予防策、インフルエンザや百日咳なら飛沫予防策でサージカルマスク、結核・麻疹・水痘なら空気予防策でN95マスクと陰圧個室だ。あくまで土台は標準予防策で、その上に追加するという関係を理解しておこう。

まとめ

標準予防策は、感染症の有無にかかわらずすべての患者に適用する感染対策の基本であり、「汗を除く」血液・体液・分泌物・排泄物、損傷のある皮膚、粘膜を病原体を含みうるものとして扱います。創部のガーゼ(血液・滲出液)、便が付着したオムツ(排泄物)、口腔ケア用ブラシ(唾液・粘膜由来物)、喀痰が付着したティッシュ(気道分泌物)は手袋を着用して扱う必要がありますが、健常皮膚に接し汗や皮脂が付く程度の眼鏡は手袋なしで取り扱えます。ただし目に見える血液や眼脂の汚染があれば手袋を使い、手袋の有無にかかわらず取り扱い後は手指衛生を行います。病原体に応じて接触・飛沫・空気予防策を標準予防策に上乗せする構造も重要です。「何が付着しているか」で防護具を判断する考え方は、臨床実習初日から求められる医療安全の基本です。

解答・解説

正解はaです

標準予防策(スタンダードプリコーション)とは、感染症の有無や診断にかかわらず、すべての患者に共通して適用する感染対策の基本である。その考え方の核心は「汗を除くすべての血液・体液・分泌物・排泄物、損傷のある皮膚、粘膜は、病原体を含みうるものとして扱う」という点にある。 したがって、これらに触れる可能性がある場面では、手指衛生に加えて手袋などの個人防護具(PPE:personal protective equipment)を使用する。逆に、汗や健常な皮膚にしか触れない物品であれば、手袋は必須ではない(取り扱った後の手指衛生は行う)。 本問では、各物品に何が付着しているかを考える。創部のガーゼには血液・滲出液、オムツには便(排泄物)、口腔ケア用ブラシには唾液・口腔粘膜由来の分泌物、ティッシュには喀痰(気道分泌物)が付着している。一方、眼鏡に付着しうるのは主に汗や皮脂であり、通常は血液・体液に汚染されていない。よって手袋なしで扱えるのは患者の眼鏡である。

選択肢考察

  1. ○a.  患者の眼鏡

    眼鏡が接するのは顔面の健常な皮膚であり、付着しうるのは汗や皮脂程度である。汗は標準予防策で感染性物質として扱う対象から除外されているため、手袋の着用は必須でない。ただし、目に見える血液や眼脂などの汚染があれば手袋を着用し、取り扱った後には手指衛生を行う。

  2. ×b.  創部にあてたガーゼ

    創部(損傷のある皮膚)にあてたガーゼには血液や滲出液が付着している。血液・体液は感染性があるものとして扱うため、手袋を着用して取り扱い、感染性廃棄物として処理する。

  3. ×c.  便が付着したオムツ

    便は排泄物であり、腸管感染症の病原体(ノロウイルス、Clostridioides difficile など)や薬剤耐性菌を含みうる。手袋を着用し、飛散のおそれがあればエプロン・ガウンも用いる。

  4. ×d.  口腔ケアに用いたブラシ

    口腔ケアに用いたブラシには唾液などの分泌物が付着し、口腔粘膜からの出血を伴うこともある。分泌物・粘膜由来の物質は感染性があるものとして扱うため、手袋が必要である。口腔ケア中は飛沫が生じうるのでマスクやアイシールドの使用も考慮する。

  5. ×e.  喀痰が付着したティッシュペーパー

    喀痰は気道分泌物であり、結核菌やインフルエンザウイルスなどの呼吸器病原体を含みうる。感染性があるものとして手袋を着用して取り扱う。

標準予防策の主な内容

・手指衛生:患者に触れる前後、清潔・無菌操作の前、体液に曝露した可能性のある後、患者周辺の環境に触れた後に行う(WHOの「手指衛生の5つのタイミング」)。目に見える汚れがなければアルコール手指消毒薬、汚れがあれば流水と石けんで手洗いする。 ・個人防護具:手袋(血液・体液・粘膜・損傷皮膚への接触時)、ガウン・エプロン(衣服の汚染が予想されるとき)、マスク・ゴーグル・フェイスシールド(飛沫・飛散が予想されるとき)。 ・呼吸器衛生/咳エチケット、適切な患者配置、器材・リネンの取り扱い、環境整備、鋭利器材による針刺し防止(リキャップ禁止など)、安全な注射手技。

感染経路別予防策(標準予防策に上乗せする)

・接触予防策:MRSA、C. difficile、ノロウイルスなど。手袋とガウンの着用、器材の患者専用化。 ・飛沫予防策:インフルエンザ、百日咳、風疹、ムンプスなど。サージカルマスクの着用、患者間隔の確保または個室。 ・空気予防策:結核、麻疹、水痘(播種性帯状疱疹を含む)。N95マスクの着用、陰圧個室への収容。

POINT

・標準予防策では「汗を除く」血液・体液・分泌物・排泄物、損傷皮膚、粘膜を感染性ありとみなす。 ・汗や健常皮膚のみに接する物品(眼鏡など)は手袋不要。ただし取り扱い後の手指衛生は必要。 ・手袋を着用していても、外した後には必ず手指衛生を行う。 ・感染経路別予防策は標準予防策に追加して行う。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。