冷やすべきか、冷やさざるべきか―血液培養ボトルを冷蔵庫に入れてはいけない理由
第120回医師国家試験 B問題 第14問
国試問題にチャレンジ
細菌検査の検体で原則として室温保存するのはどれか。
- a.尿
- b.便
- c.喀痰
- d.胸水
- e.血液
対話形式の解説
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ドクターまとめ
細菌検査の検体保存は、「常在菌や混入菌の増殖を抑えたいか」と「目的の菌が低温で死滅しないか」という2つの観点で判断します。尿・便・喀痰など常在菌が混じりやすい検体は、室温で雑菌が増えて原因菌が埋もれたり菌量を過大評価したりするため、すぐに提出できなければ冷蔵が原則です。一方、血液は本来無菌で抑えるべき常在菌がおらず、髄膜炎菌など低温に弱い菌の死滅や発育の遅れを避けるため、血液培養ボトルは冷蔵せず室温で保管し、速やかに培養を始めます。髄液も同じ理由で冷蔵禁止であり、嫌気性菌を狙う検体は空気を遮断して速やかに提出します。保存法の理屈と、抗菌薬投与前に2セット以上採るといった血液培養の基本を押さえることは、正確な感染症診断の土台になります。
解答・解説
正解はeです
細菌検査に出す検体を、すぐに検査室へ届けられないときにどう保存するかを問う問題である。 培養検査の目的は、患者の体内にいた菌を、採取時に近い種類と量のまま検出することである。保存の仕方を判断するときは、次の2つの観点から考える。 1. 常在菌や混入した菌が増えすぎないか:尿・便・喀痰のように、もともと常在菌がいる部位から採る検体や、採取時に皮膚・口腔などの菌が混じりやすい検体では、室温に置くと菌が増殖する。すると、原因菌が他の菌に埋もれたり、菌量が実際より多く見積もられたり(尿の定量培養で偽陽性になるなど)する。これを防ぐため、すぐに提出できなければ冷蔵(約4℃)で保存するのが原則である。 2. 目的とする菌が低温で死滅しないか:髄膜炎菌、淋菌、インフルエンザ菌など一部の菌は低温に弱く、冷蔵すると検出できなくなる。 血液はもともと無菌であり、増殖を抑えるべき常在菌はいない。また、採取した血液はすぐに培養ボトルに入れるため、冷蔵して菌を抑える利点がない。むしろ、低温に弱い菌の死滅や、ボトル内での菌の発育の遅れという不利益がある。したがって、血液培養ボトルは冷蔵せず、室温で保存する(あるいは速やかに自動培養装置や孵卵器で35〜37℃の培養を始める)。同じ理由で、髄液も冷蔵してはならない検体の代表である。
選択肢考察
- ×a. 尿
原則として冷蔵保存する。尿は採取の際に尿道や外陰部の常在菌が混入しやすく、尿自体が菌のよい培地にもなる。室温に置くと菌が短時間で増え、定量培養で菌数が多く出て、尿路感染症の過剰診断につながる。採取後はなるべく早く提出し、すぐに出せない場合は冷蔵する。
- ×b. 便
原則として冷蔵保存する。便には大量の腸内細菌がいるため、室温に置くと常在菌が増えて病原菌の検出を妨げる。ただし、目的とする病原体によっては扱いが異なる。赤痢菌のように環境の変化に弱い菌が疑われるときは、輸送培地(キャリー・ブレア培地など)を用いて速やかに提出する。また、赤痢アメーバの栄養型を観察するときは、冷やさず採取直後に鏡検する。
- ×c. 喀痰
原則として冷蔵保存する。喀痰は口腔や咽頭の常在菌が混じりやすい。室温で置くと、それらの菌が増えて肺炎の原因菌(肺炎球菌、インフルエンザ菌など)が見えにくくなる。肺炎球菌は時間がたつと自己融解しやすいので、保存方法にかかわらず、できるだけ早く塗抹・培養に回すことが最も重要である。
- ×d. 胸水
一般的な細菌検査では、すぐに提出できない場合は冷蔵保存が原則とされる。胸水は本来無菌の検体であるが、穿刺時に皮膚の常在菌が混入する可能性がある。冷蔵すると、混入菌の増殖を抑えられる。ただし、膿胸で嫌気性菌が疑われる場合は、嫌気ポーターなど専用の容器で空気に触れさせずに提出する。また、胸水の一部を血液培養ボトルに入れて提出した場合は、血液培養と同じく室温で扱う。
- ○e. 血液
原則として室温保存するので、本問の正解である。血液は本来無菌であり、冷蔵して抑えるべき常在菌がいない。採取後はすぐに血液培養ボトル(好気・嫌気の2本で1セット)に入れ、細菌が増えやすい条件で培養する。冷蔵すると、髄膜炎菌などの低温に弱い菌が死滅したり、菌の発育が遅れて検出が遅れたりするおそれがある。このため、すぐに培養装置に入れられないときは室温で保管し、できるだけ早く検査室へ届ける。
細菌検査検体の保存の原則
・冷蔵(約4℃):尿、便、喀痰、膿、カテーテル先端など。常在菌・混入菌の増殖を抑えるため。 ・室温(冷蔵禁止):血液培養ボトル、髄液。低温に弱い菌(髄膜炎菌、インフルエンザ菌、肺炎球菌など)が死滅するのを防ぐため。淋菌を目的とする検体も冷蔵を避ける。 ・嫌気性菌の検査:空気(酸素)に触れさせないように、嫌気用の輸送容器で室温で速やかに提出する。 ・どの検体でも、保存はあくまで次善の策である。採取後は速やかに提出することが最優先である。
血液培養の基本
・抗菌薬を投与する前に採取する。 ・2セット以上(別々の部位から)採取する。1セットだけでは、皮膚常在菌(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌など)の混入(コンタミネーション)と真の菌血症を区別しにくく、検出感度も下がる。 ・皮膚を十分に消毒し、汚染を防ぐ。 ・採取した血液は、指定された量をボトルに入れる(血液量が少ないと検出感度が下がる)。
POINT
・血液培養ボトルと髄液は冷蔵しない(室温保存、または速やかに培養を始める)。 ・理由:本来無菌で、抑えるべき常在菌がいない。かつ、髄膜炎菌などの低温に弱い菌が死滅するおそれがある。 ・尿・便・喀痰など常在菌が混じる検体は、すぐに提出できなければ冷蔵して雑菌の増殖を抑える。 ・嫌気性菌を目的とする検体は、空気を遮断して室温で速やかに提出する。
