腹腔動脈の三叉路と門脈の合流点―上腹部の脈管解剖を一本の地図にする
第118回医師国家試験 C問題 第6問
国試問題にチャレンジ
脈管の解剖で正しいのはどれか。
- a.総肝動脈と総胆管は伴走する。
- b.下腸間膜動脈は尿管に伴走する。
- c.脾動脈は腹腔動脈から分岐する。
- d.Glisson鞘には肝動脈,肝静脈および胆管が存在する。
- e.上腸間膜静脈と下腸間膜静脈が合流して門脈を形成する。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
腹腔動脈は第12胸椎〜第1腰椎の高さで腹部大動脈から出て、左胃動脈・総肝動脈・脾動脈の3本に分かれ、脾動脈はそのうち最も太く膵上縁に沿って脾臓へ向かいます。総肝動脈は胃十二指腸動脈を出したのち固有肝動脈となり、肝十二指腸間膜の中を門脈・総胆管とともに走ります。肝内ではこの3つがGlisson鞘に包まれて門脈三つ組をつくり、肝静脈はそれとは別の経路で下大静脈へ注ぎます。門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が膵頸部の後方で合流してでき、下腸間膜静脈は多くの場合脾静脈に注ぎます。これらの脈管解剖は、肝臓の二重血流や門脈圧亢進症の側副路、肝胆膵の手術を理解するための土台となります。
解答・解説
正解はcです
上腹部の消化器に分布する血管の解剖を問う問題である。押さえるべき枠組みは次の3つである。 (1) 動脈:腹部大動脈から前方に向かって、消化管を栄養する3本の無対(左右1対ではなく1本だけ)の枝が出る。上から順に腹腔動脈、上腸間膜動脈(SMA)、下腸間膜動脈(IMA)である。腹腔動脈は左胃動脈・総肝動脈・脾動脈の3本に分かれる。総肝動脈は胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれ、肝臓へ向かうのは固有肝動脈である。 (2) 門脈系:上腸間膜静脈(SMV)と脾静脈が膵頸部の後方で合流して門脈になる。下腸間膜静脈(IMV)はふつう脾静脈に注ぐ。 (3) 肝門部と肝内:肝十二指腸間膜の中を固有肝動脈・門脈・総胆管の3つが一緒に走る。肝内ではこの3本がGlisson鞘という結合組織の鞘にまとめて包まれて枝分かれしていく。一方、肝静脈はGlisson鞘とは別の経路をとり、下大静脈へ注ぐ。 この枠組みにあてはめると、正しいのは「脾動脈は腹腔動脈から分岐する」である。
選択肢考察
- ×a. 総肝動脈と総胆管は伴走する。
誤り。総胆管と一緒に肝十二指腸間膜の中を走るのは、総肝動脈の枝である固有肝動脈と門脈である。総肝動脈は腹腔動脈から出たあと、膵臓の上縁に沿って右へ向かい、胃十二指腸動脈を分岐した時点で固有肝動脈に名前が変わる。したがって総肝動脈そのものは総胆管とは伴走しない。肝十二指腸間膜の中では、総胆管が右前方、固有肝動脈が左前方、門脈がその後方に位置するのが基本的な配置である。
- ×b. 下腸間膜動脈は尿管に伴走する。
誤り。下腸間膜動脈は第3腰椎の高さで腹部大動脈の前面から出る1本の血管である。左結腸動脈、S状結腸動脈を出して上直腸動脈に続き、横行結腸の左1/3から直腸上部までを栄養する。一方、尿管は左右1対の構造で、後腹膜の大腰筋の前面を下って膀胱へ向かう。下腸間膜動脈の枝が左尿管の前を横切ることはあるが、両者は伴走しない。尿管とともに後腹膜を下行し、尿管の前を交差するのは性腺動静脈(精巣動静脈・卵巣動静脈)である。
- ○c. 脾動脈は腹腔動脈から分岐する。
正しい。腹腔動脈は第12胸椎〜第1腰椎の高さで腹部大動脈から出る短い幹で、すぐに左胃動脈・総肝動脈・脾動脈の3本に分かれる。脾動脈は3本のうち最も太く、膵臓の上縁に沿って蛇行しながら左へ向かい、脾門に達する。途中で膵枝、短胃動脈、左胃大網動脈を出す。
- ×d. Glisson鞘には肝動脈,肝静脈および胆管が存在する。
誤り。Glisson鞘に包まれているのは肝動脈・門脈・胆管の3つで、これを門脈三つ組(portal triad)とよぶ。肝静脈はここに含まれない。肝小葉の中心静脈から始まる血液が集まって肝静脈(右・中・左)となり、Glisson鞘とは別の経路をとって肝区域の境界付近を走り、下大静脈へ注ぐ。
- ×e. 上腸間膜静脈と下腸間膜静脈が合流して門脈を形成する。
誤り。門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が膵頸部の後方で合流してできる。下腸間膜静脈は多くの場合脾静脈に注ぎ、上腸間膜静脈や両者の合流部に注ぐ例もあるが、門脈をつくる2本の主な静脈には数えない。
腹部大動脈の消化管枝と支配域
・腹腔動脈(第12胸椎〜第1腰椎の高さ):前腸に由来する臓器を栄養する(食道下部、胃、十二指腸の上部、肝臓、胆道、膵臓の一部、脾臓)。 左胃動脈:胃の小弯側に分布し、食道枝を出す。 総肝動脈:胃十二指腸動脈と固有肝動脈に分かれる。固有肝動脈からは右胃動脈が出て、肝門で左右の肝動脈に分かれる。胆嚢動脈は通常右肝動脈から出る。 脾動脈:膵枝、短胃動脈、左胃大網動脈を出して脾臓に至る。 ・上腸間膜動脈(第1腰椎の高さ):中腸に由来する臓器を栄養する(十二指腸の下部〜横行結腸の右2/3)。 ・下腸間膜動脈(第3腰椎の高さ):後腸に由来する臓器を栄養する(横行結腸の左1/3〜直腸上部)。
肝臓の血流
・肝臓には二重の血流がある。流入する血液の約70〜80%は門脈から、約20〜30%は肝動脈から来る。門脈は消化管で吸収した栄養素を含む血液を運び、肝動脈は酸素に富む血液を運ぶ。 ・門脈と肝動脈の血液は類洞(肝細胞の間の毛細血管)で混ざり、中心静脈、肝静脈を経て下大静脈へ流れる。 ・胆汁は血液と逆向きに、肝細胞から毛細胆管、小葉間胆管へと流れ、門脈・肝動脈と並んで肝門へ向かう。
門脈系の臨床的意義
門脈圧が上がると、門脈と大静脈の間の側副路(食道・胃静脈瘤、腹壁の静脈が拡張したメズサの頭、直腸静脈叢など)が発達する。
POINT
・腹腔動脈の3本の枝は左胃動脈・総肝動脈・脾動脈である。 ・門脈は上腸間膜静脈と脾静脈が合流してできる。下腸間膜静脈はふつう脾静脈に注ぐ。 ・肝十二指腸間膜の中を走るのは固有肝動脈・門脈・総胆管である(総肝動脈ではない)。 ・Glisson鞘に入っているのは肝動脈・門脈・胆管(門脈三つ組)で、肝静脈は含まれない。
