StudyMed医師国家試験

揺らすと痛む腹膜、痛まない胆嚢―腹膜刺激徴候とCourvoisier徴候を見分ける

第118回医師国家試験 B問題 第4問

国試問題にチャレンジ

第118回 B問題 第4問

腹膜炎の所見でないのはどれか。

  1. a.反跳痛
  2. b.筋性防御
  3. c.打診による圧痛
  4. d.踵下ろし試験陽性
  5. e.Courvoisier徴候陽性

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、腹膜炎を示す身体所見を問う問題だ。「でないのはどれか」型なので、腹膜炎の所見をきちんと理解して、仲間外れを見つけることになる。カギは、腹膜炎の所見が「なぜ痛むのか」という仕組みだよ。
医学生医学生
腹膜刺激徴候として、反跳痛や筋性防御を丸暗記していました。仕組みまでは考えたことがなかったです。
ドクタードクター
仕組みが分かると応用が利くよ。腹膜には、臓器の表面を覆う臓側腹膜と、腹壁の内側を覆う壁側腹膜がある。臓側腹膜は自律神経支配で、痛みの場所がはっきりしない内臓痛になる。一方、壁側腹膜は体性神経に支配されていて、炎症が及ぶと鋭く場所のはっきりした体性痛が出るんだ。
医学生医学生
解剖学や生理学の講義でやった内臓痛と体性痛の違いですね。虫垂炎で心窩部痛から右下腹部痛に移るのもそれでしたっけ。
ドクタードクター
その通り。そして炎症を起こした壁側腹膜は、少し揺らされたり伸ばされたりするだけで強く痛む。この性質を利用した診察法が腹膜刺激徴候なんだ。まず反跳痛はどうかな。
医学生医学生
押した手を急に離したときに痛む所見で、Blumberg徴候ですよね。離した瞬間に腹壁が戻って腹膜が揺れるから痛む、ということですか。
ドクタードクター
完璧だ。ただ反跳痛は患者さんにかなり苦痛を与えるから、指先で軽く叩くだけの打診痛、いわゆるtapping painで先に確認することも多い。小さな振動でも響いて痛むなら、炎症が壁側腹膜まで及んでいると考えられる。
医学生医学生
踵下ろし試験もよく分からなかったんですが、同じ理屈ですか。
ドクタードクター
そう。つま先立ちから踵をストンと下ろしてもらい、その衝撃で腹腔内全体を揺らす。炎症のある腹膜が刺激されれば腹部に痛みが響く。消化器外科の外来では「車の振動や咳でお腹に響きますか」と聞くのも同じ発想だよ。
医学生医学生
筋性防御は、痛みから腹膜を守るために腹筋が反射的に硬くなる、という理解でいいですか。
ドクタードクター
いいね。ポイントは不随意的な緊張であること。くすぐったさや緊張による力みとは区別する。汎発性腹膜炎に進むと腹壁全体が板のように硬い板状硬になり、消化管穿孔などで緊急手術を考える所見になる。
医学生医学生
となると、残るCourvoisier徴候が仲間外れですね。でも胆嚢の所見なので、胆嚢炎と結びついて迷いそうです。
ドクタードクター
そこが落とし穴だね。Courvoisier徴候は、黄疸のある患者さんで「痛みのない」腫大した胆嚢を触れる所見だ。三管合流部より下流で胆管がゆっくり閉塞すると、胆汁がうっ滞して胆嚢が緊満して腫れる。炎症ではなく閉塞の所見で、しかも無痛性。腹膜刺激とは本質的に違うから、これが正解だ。
医学生医学生
原因は膵頭部癌や下部胆管癌でしたよね。胆石だと腫れにくいのはなぜですか。
ドクタードクター
胆石の場合は、胆嚢が慢性炎症で線維化・萎縮していることが多くて、腫大しにくいからなんだ。だから無痛性の胆嚢腫大+黄疸は、膵頭部癌、下部胆管癌、十二指腸乳頭部癌などの悪性閉塞を強く疑うサインになる。
医学生医学生
胆嚢炎の炎症所見のほうはMurphy徴候でしたね。右季肋部を押さえて深呼吸させると、痛みで息が止まる。
ドクタードクター
その通り。同じ胆嚢でも、Murphy徴候は炎症、Courvoisier徴候は閉塞と意味がまったく違う。セットで区別しておこう。発展として、虫垂炎の診察ではMcBurney点やLanz点の圧痛、Rovsing徴候、腸腰筋徴候なども腹膜刺激徴候と一緒に問われやすい。それから、腹膜炎の患者さんは動くと痛いのでじっと横になっていることが多く、尿管結石の疝痛のように転げ回るのとは対照的だよ。
医学生医学生
救急外来で患者さんの姿勢を見るだけでもヒントになるんですね。OSCEの腹部診察でも、痛みの少ない方法から順に確認するようにします。
ドクタードクター
それが大事。身体所見は「何が起きているからその所見が出るのか」まで理解すれば、選択肢の言葉に惑わされなくなるよ。

まとめ

腹膜刺激徴候は、体性神経支配の壁側腹膜に炎症が及び、揺れ・振動・伸展で強い痛みが生じる性質を利用した所見で、反跳痛(Blumberg徴候)、打診痛(tapping pain)、踵下ろし試験陽性、筋性防御(進行すると板状硬)が代表です。これに対しCourvoisier徴候は、黄疸を伴う無痛性の胆嚢腫大で、三管合流部より下流の閉塞、特に膵頭部癌・下部胆管癌・十二指腸乳頭部癌などの悪性閉塞を示唆する所見であり、腹膜炎の所見ではありません。胆石による閉塞では胆嚢が線維化・萎縮して腫大しにくく、急性胆嚢炎の炎症所見はMurphy徴候として区別します。各所見がなぜ生じるのかという病態生理を押さえておくと、似た名前の徴候に惑わされず、急性腹症の診察で重症度や緊急手術の必要性を的確に判断できるようになります。

解答・解説

正解はeです

問われていること

腹部の身体所見のうち、腹膜炎を示さないものを一つ選ぶ問題である(「でないのはどれか」型であることに注意)。

腹膜刺激徴候の考え方

腹膜は、腹壁の内側を覆う壁側腹膜と、臓器の表面を覆う臓側腹膜からなる。臓側腹膜は自律神経支配で痛みの場所がはっきりしない(内臓痛)が、壁側腹膜は体性神経(脊髄神経)に支配されており、炎症が及ぶと鋭く、場所がはっきりした痛み(体性痛)を生じる。炎症を起こした壁側腹膜は、わずかに揺らされたり伸ばされたりするだけで強く痛む。この性質を利用して腹膜炎の存在を推定するのが腹膜刺激徴候である。 ・押した手を急に離して腹膜を揺らす → 反跳痛(Blumberg徴候) ・指先で軽く叩いて腹膜に振動を与える → 打診による圧痛(tapping pain) ・踵を床に落として体ごと腹腔内を揺らす → 踵下ろし試験(heel drop test) ・痛みから腹膜を守ろうと腹壁筋が反射的に緊張する → 筋性防御、さらに進めば板状硬 これに対し、Courvoisier徴候は「痛みのない胆嚢の腫大を触れる」所見であり、胆管の下流側が閉塞して胆汁がうっ滞したことを示す。炎症ではなく閉塞を示す所見で、しかも「無痛性」であることが特徴であるから、腹膜炎の所見ではない。

選択肢考察

  1. ×a.  反跳痛

    腹膜炎の所見である。圧痛のある部位を指でゆっくり深く押し込み、急に手を離したときに、押していたとき以上の痛みが生じる現象で、Blumberg徴候ともよばれる。手を離した瞬間に腹壁が元に戻り、炎症のある壁側腹膜が揺さぶられるために痛む。腹腔内の炎症が壁側腹膜まで及んでいることを示す。ただし患者に強い苦痛を与えるため、まずは打診痛など負担の少ない方法で確認することも多い。

  2. ×b.  筋性防御

    腹膜炎の所見である。腹膜の炎症に対し、腹壁の筋肉が反射的(不随意的)に緊張して硬くなる現象である。患者の緊張やくすぐったさによる随意的な力みとは区別する必要がある。炎症が広がり汎発性腹膜炎に進行すると、軽く触れただけで腹壁全体が板のように硬い「板状硬」となり、消化管穿孔などで緊急手術を考慮すべき所見となる。

  3. ×c.  打診による圧痛

    腹膜炎の所見である。腹部を指先で軽く叩くだけで痛みが生じる所見で、tapping pain(打診痛)ともいう。打診の小さな振動でも炎症のある壁側腹膜が刺激されて痛むことを示し、壁側腹膜まで炎症が及んでいることを意味する。反跳痛より患者への負担が小さく、腹膜刺激徴候を確認する方法として有用である。

  4. ×d.  踵下ろし試験陽性

    腹膜炎の所見である。踵下ろし試験(heel drop test)は、患者につま先立ちをさせてから勢いよく踵を床に下ろさせ、その衝撃が腹部に響いて痛むかをみる検査である。体全体の振動で腹腔内が揺さぶられ、炎症のある腹膜が刺激されると陽性となる。急性虫垂炎などで腹膜刺激の有無を評価する際に用いられる。同様の原理で、車の振動や咳・歩行で腹痛が響くことも腹膜刺激を示唆する。

  5. ○e.  Courvoisier徴候陽性

    腹膜炎の所見ではないため、これが正解である。Courvoisier徴候は、黄疸のある患者で、痛みを伴わない腫大した胆嚢を体表から触れる所見である。胆嚢管が総胆管に合流する部位(三管合流部)より下流で胆管が徐々に閉塞すると、胆汁がうっ滞して胆嚢が緊満し腫大する。原因は膵頭部癌、下部胆管癌、十二指腸乳頭部癌などの悪性腫瘍が代表的である。一方、胆石による閉塞では、胆嚢が慢性炎症で線維化・萎縮していることが多いため腫大しにくい。炎症ではなく閉塞による所見であり、しかも無痛性である点が、腹膜刺激徴候とは本質的に異なる。

腹膜刺激徴候のまとめ

・反跳痛(Blumberg徴候):圧迫した手を急に離すと痛む。 ・筋性防御:腹壁筋の反射的な緊張。進行すると板状硬。 ・打診痛(tapping pain):軽い打診で痛む。 ・踵下ろし試験(heel drop test):踵を落とした衝撃で腹部に痛みが響く。 ・咳嗽試験:咳をすると腹部に痛みが響く。 腹膜炎の患者は体を動かすと痛みが増すため、じっと動かずに横たわっていることが多い(これに対し、尿管結石などの疝痛では痛みで落ち着きなく動き回る)。

急性虫垂炎でみられる圧痛点と徴候

腹膜刺激徴候は急性虫垂炎の診察と結びつけて出題されることが多い。 ・McBurney点:臍と右上前腸骨棘を結ぶ線の外側1/3の点。 ・Lanz点:左右の上前腸骨棘を結ぶ線の右側1/3の点。 ・Kümmell点:臍の右下1〜2cm付近。 ・Rovsing徴候:左下腹部を圧迫すると右下腹部に痛みを生じる。 ・Rosenstein徴候:左側臥位にするとMcBurney点の圧痛が増強する。 ・腸腰筋徴候(psoas sign):右股関節を伸展させると右下腹部痛が増強する(後腹膜側の虫垂炎で陽性になりやすい)。 ・閉鎖筋徴候(obturator sign):右股関節を屈曲・内旋すると痛みが出る(骨盤内の虫垂炎で陽性になりやすい)。 ・炎症が骨盤腔に及ぶと、直腸診で直腸の右側に圧痛を認めることがある。

胆嚢・胆道に関する身体所見の整理

・Courvoisier徴候:無痛性の胆嚢腫大。三管合流部より下流の閉塞(膵頭部癌、下部胆管癌、乳頭部癌など)を示唆する。 ・Murphy徴候:右季肋部を圧迫したまま深吸気させると、痛みで吸気が途中で止まる。急性胆嚢炎を示唆する炎症の所見である。 両者はいずれも胆嚢の所見だが、意味がまったく異なる点を区別しておく。

POINT

・腹膜刺激徴候:反跳痛(Blumberg徴候)、筋性防御(板状硬)、打診痛、踵下ろし試験陽性。 ・いずれも炎症のある壁側腹膜が揺れ・振動・伸展で痛むことを利用した所見である。 ・Courvoisier徴候=黄疸+無痛性胆嚢腫大で、三管合流部より下流の悪性閉塞(膵頭部癌、下部胆管癌、乳頭部癌)を疑う。腹膜炎の所見ではない。 ・急性胆嚢炎の炎症所見はMurphy徴候であり、Courvoisier徴候と混同しない。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。