最下位から3位へ―女性のがん死亡グラフで急上昇する「静かながん」の正体
第117回医師国家試験 F問題 第33問
国試問題にチャレンジ
女性における肺,胃,膵,大腸および子宮の悪性新生物死亡数の推移を示す。 ⑤はどれか。

- a.肺(気管,気管支および肺)
- b.胃
- c.膵
- d.大腸(結腸,直腸S状結腸移行部および直腸)
- e.子宮
対話形式の解説
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医学生まとめ
日本の女性のがん死亡数は、かつて最多だった胃癌がピロリ菌感染率の低下や食生活の変化で長期的に減少する一方、大腸癌と肺癌が増え続けて近年は1位・2位を占めています。子宮癌は低い水準で推移し、いったん減った後に若年の子宮頸癌や子宮体癌の増加で微増に転じています。膵癌は最も少ない水準から急増し、子宮癌、さらに胃癌を抜いて3位となっており、早期発見が難しく予後不良であるため、高齢化による罹患増加がそのまま死亡増加に表れています。統計グラフの問題では各疾患の増減の方向と水準を押さえ、縦軸が死亡数か年齢調整死亡率かを必ず確認することが重要です。こうした動向の理解は、検診や予防対策の優先順位を考えるうえでの基礎になります。
解答・解説
正解はcです
人口動態統計に基づく、女性の部位別悪性新生物(がん)死亡数の年次推移(1980年=昭和55年~2018年=平成30年)を読み取る問題である。
グラフの読み取り
・①:1980年に約2万人と最多だが、その後は横ばいから緩やかな減少を続け、2018年には約1.5万人まで減っている。 ・②:1980年は約7千人だが一貫して増え続け、2010年以降は最多となり、2018年には約2.3万人に達している。 ・③:②とほぼ並行して増加し、2018年には約2.2万人で②に次ぐ。 ・④:約5千人前後で推移し、1990年ごろにいったん底を打った後、ゆるやかに増加している(2018年で約7千人弱)。 ・⑤:1980年は約3千人台と5つの中で最も少ないが、一貫して急増し、1990年には④を、2018年には①を上回って約1.7万人となり、5つの中で3番目に多くなっている。
考え方
日本の女性のがん死亡の動向として、次の4点を知っていれば各線を同定できる。 ①胃癌はかつて最多であったが、ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下や食生活の変化(塩分摂取量の減少、冷蔵庫の普及など)により年齢調整死亡率は大きく低下し、死亡数も減少傾向にある。 ②大腸癌と肺癌は人口の高齢化や生活習慣の変化を背景に増え続け、現在は女性のがん死亡数の1位・2位を占める。 ③子宮癌は死亡数が少なく、子宮頸癌の減少によりいったん減ったが、近年は若年層の子宮頸癌や子宮体癌の増加により微増している。 ④膵癌は早期発見が難しく予後不良であり、高齢化とともに死亡数が急増している。 このうち⑤は「最も少ない水準から最も急な勢いで増加し、近年は3位まで順位を上げた」線であり、これに当てはまるのは膵癌である。膵癌の急増を直接知らなくても、他の4つを先に同定すれば消去法でも正解にたどり着ける。
選択肢考察
- ×a. 肺(気管,気管支および肺)
肺癌は③に当たる。1980年には約6千人であったが、その後一貫して増加し、2018年には約2.2万人となっている。1980年当時は胃癌・大腸癌に次ぐ3位であったが、胃癌の減少に伴って順位を上げ、近年は大腸癌に次いで女性のがん死亡数の2位である。女性の肺癌は喫煙との関連が比較的弱い腺癌の割合が高いことも特徴である。死亡数は多いが、⑤ほどの低い水準からの急増ではなく、②とほぼ並んで推移している点で区別できる。
- ×b. 胃
胃癌は①に当たる。1980年には約2万人と5つの中で最多であったが、その後は減少傾向にあり、2010年には大腸癌・肺癌に抜かれて3位、2018年には膵癌にも抜かれて4位となっている。ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下、塩分摂取量の減少などの食生活の変化、内視鏡検査による早期発見と治療の進歩が減少の要因と考えられている。グラフの中で唯一、長期的に減少している線であることから同定できる。
- ○c. 膵
膵癌が⑤に当たり、これが正解である。1980年の死亡数は約3千人台と5つの部位の中で最も少なく順位も5位であったが、その後一貫して急速に増え、1990年には子宮癌を上回って4位、2018年には胃癌も上回って3位(約1.7万人)となった。1980年から2018年までに約5倍に増えており、増加率は5つの中で最大である。膵癌は自覚症状に乏しく、早期発見が難しいうえに、発見時には局所進行や遠隔転移を伴うことが多いため、5年生存率は10%前後と主要ながんの中で最も低い部類に属する。罹患数の増加がほぼそのまま死亡数の増加に反映されており、高齢化の影響を強く受けている。
- ×d. 大腸(結腸,直腸S状結腸移行部および直腸)
大腸癌は②に当たる。1980年には約7千人で胃癌に次ぐ2位であったが、その後一貫して増加し、2000年代に胃癌を抜いて女性のがん死亡数の1位となり、2018年には約2.3万人に達している。高齢化に加え、食生活の欧米化(高脂肪・低食物繊維の食事、赤肉・加工肉の摂取)や運動不足、肥満などが背景にあると考えられている。2018年時点で5つの中の最上位にある線であることから同定できる。
- ×e. 子宮
子宮癌は④に当たる。5つの中で死亡数の水準が最も低く、約5千人前後で推移している。子宮癌はかつて女性の主要ながん死亡の一つであったが、子宮頸癌の減少(検診の普及や衛生環境の改善など)によって死亡数は減少し、1990年には膵癌に抜かれて5位となった。その後は、性行動の変化に伴うヒトパピローマウイルス(HPV)感染を背景とした若年女性の子宮頸癌の増加や、肥満・少子化などを背景とする子宮体癌の増加により、緩やかな増加に転じている。グラフの中で増減の幅が最も小さく、低い水準で推移している線であることから同定できる。
女性の部位別がん死亡数の順位(近年)
近年の女性のがん死亡数は、大腸癌が1位、肺癌が2位で、膵癌が3位、乳癌・胃癌がこれに続く。本問の選択肢には含まれていないが、女性では乳癌も死亡数の多い重要ながんであり、2018年時点で胃癌とほぼ同じ水準(約1.5万人)にある。
男性との比較
男性のがん死亡数は肺癌が1位で、大腸癌・胃癌・膵癌・肝癌などが続く。男女計では肺癌が1位、大腸癌が2位である。性別によって1位の部位が異なる点は頻出事項である。
死亡数と年齢調整死亡率
死亡数は人口の高齢化の影響を直接受けるため、高齢者に多いがんでは、年齢調整死亡率が横ばい・低下していても死亡数は増加することがある。実際、がん全体の年齢調整死亡率は1990年代後半以降低下傾向にあるが、死亡数は高齢化により増え続けている。胃癌は死亡数・年齢調整死亡率ともに低下しているのに対し、膵癌は死亡数が急増し、年齢調整死亡率も横ばいから微増で推移している。統計問題では、グラフの縦軸が「死亡数」なのか「年齢調整死亡率」なのかを必ず確認する。
膵癌の概要
膵癌の大部分は膵管上皮から発生する浸潤性膵管癌である。危険因子として、喫煙、糖尿病、慢性膵炎、肥満、膵癌の家族歴、膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)などが知られる。初期には症状が乏しく、膵頭部癌では閉塞性黄疸、膵体尾部癌では腹痛・背部痛で発見されることが多い。切除できる段階で見つかる割合は少なく、予後は極めて不良である。
POINT
・女性のがん死亡数(近年):大腸1位、肺2位、膵3位。 ・胃癌は長期的に減少(ピロリ菌感染率の低下、食生活の変化など)。 ・膵癌は低い水準から急増しており、増加の勢いは主要ながんの中で最大級。予後は極めて不良。 ・子宮癌は低い水準で推移し、いったん減少した後、近年は微増(若年の子宮頸癌、子宮体癌の増加)。 ・統計グラフでは、縦軸が死亡数か年齢調整死亡率かを確認する(死亡数は高齢化の影響を受ける)。
