StudyMed医師国家試験

「すべての人々に健康を」はどこで生まれた?―国際宣言の名前と中身を結びつける

第117回医師国家試験 C問題 第6問

国試問題にチャレンジ

第117回 C問題 第6問

プライマリヘルスケアについて述べられているのはどれか。

  1. a.オタワ憲章
  2. b.アデレード宣言
  3. c.ジュネーブ宣言
  4. d.ヘルシンキ宣言
  5. e.アルマ・アタ宣言

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は公衆衛生の国際文書の問題だ。どれも名前は聞いたことがあると思うけれど、大事なのは「地名」と「テーマ」をきちんと結びつけられるかどうか。まずはプライマリヘルスケアという言葉の意味から確認しよう。
医学生医学生
プライマリヘルスケアって、かかりつけ医のような最初に受診する医療のことですよね。
ドクタードクター
よくある誤解だね。それは「プライマリケア」で、住民が最初にかかる身近な医療のこと。プライマリヘルスケアはもっと広い概念で、住民が主体的に参加し、農業や教育、水道など保健医療以外の分野とも協力しながら、誰もが基本的な保健医療サービスを受けられるようにする公衆衛生の戦略・理念を指すんだ。
医学生医学生
「ヘルス」が入るだけで、医療から社会全体の取り組みに広がるんですね。
ドクタードクター
その通り。この理念を初めて国際的に打ち出したのが、1978年にWHOとUNICEFが旧ソ連のアルマ・アタ、現在のカザフスタンのアルマトイで開いた会議で採択されたアルマ・アタ宣言だ。健康を基本的人権と位置づけ、国の間や国内の健康格差は許されないとして、「西暦2000年までにすべての人々に健康を」という目標を掲げた。だから正解はアルマ・アタ宣言になる。
医学生医学生
公衆衛生の講義で「Health for All」というフレーズを聞いた記憶があります。具体的には何をするんでしょう。
ドクタードクター
宣言では、健康教育、食料と栄養、安全な水と基本的な衛生、家族計画を含む母子保健、主要な感染症の予防接種、地方病の対策、よくある病気やけがの適切な治療、必須医薬品の供給といった基本的な活動が挙げられている。途上国を強く意識した、生活の土台から健康を支える発想だね。
医学生医学生
オタワ憲章もよく似た文脈で出てきた気がして、正直迷いました。
ドクタードクター
迷いやすいところだね。オタワ憲章は1986年の第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択されたもので、テーマはヘルスプロモーション、つまり「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」だ。健康的な公共政策づくり、健康を支える環境づくり、地域活動の強化、個人の技術の開発、保健医療サービスの方向転換という5つの活動が示された。アルマ・アタ宣言の理念を受け継いで発展させたものだけど、プライマリヘルスケアそのものを提唱した文書ではないんだ。
医学生医学生
アデレードもヘルスプロモーションの流れですか。
ドクタードクター
そう。オーストラリアのアデレードでは、1988年の第2回ヘルスプロモーション国際会議で「健康的な公共政策」に関する勧告がまとめられ、2010年には「すべての政策において健康を考慮する(Health in All Policies)」という声明が出された。保健部門以外の政策も健康に影響するから、あらゆる分野で健康を考えようという発想だね。
医学生医学生
残りのジュネーブ宣言とヘルシンキ宣言は、医の倫理の講義で出てきました。
ドクタードクター
そこは系統が違うと整理しておこう。ジュネーブ宣言は1948年に世界医師会が採択した医師の職業倫理の宣言で、「現代版ヒポクラテスの誓い」と呼ばれる。患者の健康を第一に考えること、守秘義務、差別しないことなどを誓う内容だ。捕虜や傷病者を守るジュネーブ条約とは別物だから注意してね。
医学生医学生
ヘルシンキ宣言は研究倫理ですよね。臨床研究の講義でインフォームド・コンセントの根拠として習いました。
ドクタードクター
正解。1964年に世界医師会が採択した、人を対象とする医学研究の倫理原則だ。被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、インフォームド・コンセント、倫理委員会での審査などを定めている。ナチスの人体実験を受けたニュルンベルク綱領の流れをくむ文書だね。
医学生医学生
つまり、公衆衛生の戦略がアルマ・アタ、オタワ、アデレード、医師の倫理がジュネーブ、研究倫理がヘルシンキ、という3系統に分ければいいんですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。周辺知識として、患者の権利を定めたリスボン宣言、健康を「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態」と定義したWHO憲章、2018年にプライマリヘルスケアの重要性を再確認したアスタナ宣言も一緒に押さえておこう。アスタナもカザフスタンの都市で、40年ぶりにアルマ・アタの理念が見直されたわけだ。
医学生医学生
地域医療実習で保健師さんと住民健診を手伝ったとき、住民の方が自分たちで健康づくりの会を運営していました。あれもプライマリヘルスケアの考え方なんですね。
ドクタードクター
まさにそうだね。住民参加、地域資源の活用、他分野との協調、公平性の重視というプライマリヘルスケアの原則は、日本の地域保健や地域包括ケアにも通じている。宣言の名前は暗記項目に見えるけれど、医師として地域や社会とどう関わるかを考える土台になるんだ。

まとめ

プライマリヘルスケアは、1978年にWHOとUNICEFが採択したアルマ・アタ宣言で提唱された理念で、健康を基本的人権とし「2000年までにすべての人々に健康を」を目標に、住民参加・地域資源の活用・他分野との協調・公平性を重視します。かかりつけ医機能を指すプライマリケアとは異なり、より広い公衆衛生の戦略である点に注意が必要です。国際文書は、公衆衛生の戦略(アルマ・アタ宣言=プライマリヘルスケア、オタワ憲章=ヘルスプロモーション、アデレード=健康的な公共政策・Health in All Policies)、医師の職業倫理(ジュネーブ宣言)、医学研究の倫理(ヘルシンキ宣言)の3系統に分けて整理すると混同しにくくなります。2018年のアスタナ宣言による再確認も含め、これらの理念は日本の地域保健や地域包括ケアを理解する基盤にもなります。

解答・解説

正解はeです

公衆衛生と医の倫理に関する代表的な国際文書を、名称と内容で対応づける問題である。

プライマリヘルスケアとは

プライマリヘルスケア(primary health care: PHC)は、1978年にアルマ・アタ(当時はソビエト連邦、現在のカザフスタン共和国のアルマトイ)で開かれたWHO(世界保健機関)とUNICEF(国連児童基金)の合同国際会議で、アルマ・アタ宣言として示された理念である。 ・健康を基本的人権と位置づける。 ・「西暦2000年までにすべての人々に健康を(Health for All by the year 2000)」を目標とする。 ・地域住民が主体的に参加し、自分たちで決めることを重視する。 ・地域の実情に合い、住民が負担できる方法で、基本的な保健医療サービスを誰もが受けられるようにする。

他の文書との区別

問題の選択肢は大きく3つの系統に分けられる。 (1) 公衆衛生の戦略: アルマ・アタ宣言(プライマリヘルスケア)、オタワ憲章(ヘルスプロモーション)、アデレード(健康的な公共政策、すべての政策に健康を)。 (2) 医師の職業倫理: ジュネーブ宣言。 (3) 医学研究の倫理: ヘルシンキ宣言。 それぞれの文書が何をテーマにしているかを覚えていれば、迷わず解ける。

選択肢考察

  1. ×a.  オタワ憲章

    誤り。オタワ憲章は、1986年にカナダのオタワで開かれた第1回ヘルスプロモーション国際会議で採択された。テーマはプライマリヘルスケアではなく、ヘルスプロモーションである。ヘルスプロモーションは「人々が自らの健康をコントロールし、改善できるようにするプロセス」と定義される。そのための活動として、健康的な公共政策づくり、健康を支える環境づくり、地域活動の強化、個人の技術の開発、保健医療サービスの方向転換の5つが示された。オタワ憲章はアルマ・アタ宣言の理念を受け継いで発展させたものだが、プライマリヘルスケアそのものを提唱した文書ではない。のちのバンコク憲章(2005年、第6回会議)もヘルスプロモーションをテーマにしている。

  2. ×b.  アデレード宣言

    誤り。アデレード(オーストラリア)の名を冠する文書は、ヘルスプロモーションと健康政策をテーマにしている。1988年には、同地で開かれた第2回ヘルスプロモーション国際会議で、「健康的な公共政策(Healthy Public Policy)」に関する勧告がまとめられた。2010年には、同地で開かれた国際会議で「すべての政策において健康を考慮すること(Health in All Policies)」に関する声明が出された。保健部門以外の政策も健康に影響するので、あらゆる分野の政策決定で健康を考慮すべきだという考え方である。どちらもプライマリヘルスケアを提唱した文書ではない。

  3. ×c.  ジュネーブ宣言

    誤り。ジュネーブ宣言は、1948年に世界医師会(WMA)がジュネーブの総会で採択した、医師の倫理に関する宣言である。古代ギリシャの「ヒポクラテスの誓い」を現代向けに言い直したものとされる。患者の健康と安寧を第一に考えること、患者の秘密を守ること、人種や宗教などで差別しないことなどを誓う内容で、その後も改訂が続いている(2017年の改訂では患者の自律性の尊重も加えられた)。戦時の傷病者や捕虜を保護する国際条約であるジュネーブ条約とは別のものである。

  4. ×d.  ヘルシンキ宣言

    誤り。ヘルシンキ宣言は、1964年にフィンランドのヘルシンキで開かれた世界医師会総会で採択された。人を対象とする医学研究の倫理原則を定めている。被験者の福利を科学や社会の利益より優先すること、説明に基づく自由意思による同意(インフォームド・コンセント)を得ること、研究倫理委員会で審査を受けること、プラセボの使用を制限することなどが定められている。ナチス・ドイツの人体実験を受けて作られたニュルンベルク綱領(1947年)の流れをくむ文書であり、プライマリヘルスケアとは関係がない。

  5. ○e.  アルマ・アタ宣言

    正しい。アルマ・アタ宣言は、1978年にWHOとUNICEFがアルマ・アタで開いた国際会議で採択された。プライマリヘルスケアの理念を初めて国際的に打ち出した文書である。健康は基本的人権であり、国の間や国の中にある健康の格差は許されないとした。そのうえで「2000年までにすべての人々に健康を」という目標を掲げた。宣言では、健康教育、食料と栄養、安全な水と基本的な衛生、家族計画を含む母子保健、主要な感染症の予防接種、地方病の予防と対策、よくある疾病や外傷の適切な治療、必須医薬品の供給といった基本的な活動が挙げられた。2018年には、アスタナ(カザフスタン)でプライマリヘルスケアの重要性を改めて確認するアスタナ宣言が採択された。

プライマリヘルスケアの5原則(よく整理される形)

1. 住民のニーズに基づくこと 2. 地域の資源を有効に活用すること(適正技術の利用) 3. 住民が主体的に参加すること 4. 保健医療以外の分野(農業、教育、水道など)と協調・統合すること 5. 公平性を重視すること(地域や人々の間で格差をなくす)

公衆衛生・医療倫理に関する主な国際文書

・WHO憲章(1946年採択、1948年発効): 健康を「身体的・精神的・社会的に完全に良好な状態であり、単に病気や虚弱がないことではない」と定義した。健康を基本的人権の一つとした。 ・ニュルンベルク綱領(1947年): 人体実験に関する倫理原則。被験者の自発的同意が絶対に必要だとした。 ・ジュネーブ宣言(1948年、世界医師会): 医師の職業倫理。 ・ヘルシンキ宣言(1964年、世界医師会): 人を対象とする医学研究の倫理。 ・リスボン宣言(1981年、世界医師会): 患者の権利。 ・アルマ・アタ宣言(1978年、WHOとUNICEF): プライマリヘルスケア。 ・オタワ憲章(1986年): ヘルスプロモーション。 ・アデレード勧告(1988年)と声明(2010年): 健康的な公共政策、すべての政策に健康を(Health in All Policies)。 ・バンコク憲章(2005年): グローバル化の中でのヘルスプロモーション。 ・アスタナ宣言(2018年): プライマリヘルスケアの再確認。

プライマリヘルスケアとプライマリケアの違い

プライマリケアは、住民が最初に受診する身近な医療(かかりつけ医機能など)を指す。プライマリヘルスケアは、それより広く、住民参加や保健医療以外の分野との協力も含めた公衆衛生の戦略・理念を指す。

POINT

・アルマ・アタ宣言(1978年、WHOとUNICEF): プライマリヘルスケア、「すべての人々に健康を」。 ・オタワ憲章(1986年): ヘルスプロモーション。 ・アデレード: 健康的な公共政策、すべての政策に健康を(Health in All Policies)。 ・ジュネーブ宣言(1948年): 医師の倫理(現代版ヒポクラテスの誓い)。 ・ヘルシンキ宣言(1964年): 人を対象とする医学研究の倫理。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。