「障害」を環境から捉え直す―ICIDHからICFへ、相互作用モデルの考え方
第117回医師国家試験 C問題 第20問
国試問題にチャレンジ
国際生活機能分類〈ICF〉について正しいのはどれか。
- a.障害者を対象とした分類である。
- b.参加制約は生活環境に起因する。
- c.障害程度を基準にした分類である。
- d.機能障害のために活動制限が生じる。
- e.参加制約と社会的不利は同義語である。
対話形式の解説
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ドクターまとめ
国際生活機能分類(ICF)は、2001年にWHOで採択された、すべての人の健康状態と生活機能を記述する国際的な枠組みです。前身の国際障害分類(ICIDH)が「機能・形態障害→能力障害→社会的不利」という一方向の因果で障害者のマイナス面を捉えていたのに対し、ICFは「心身機能・身体構造」「活動」「参加」という生活機能を軸に、環境因子・個人因子を含めた双方向の相互作用モデルを採用しました。そのため参加制約は生活環境など環境因子の影響を強く受けるものと位置づけられ、機能障害が必ず活動制限につながるという考え方はとりません。社会的不利はICIDHの用語で、ICFの参加制約と位置は対応しても同義ではない点にも注意が必要です。ICFはリハビリテーションやケアプランで多職種が共有する共通言語であり、患者の生活全体を捉える視点を身につけるうえで重要な概念です。
解答・解説
正解はbです
テーマ
国際生活機能分類〈International Classification of Functioning, Disability and Health:ICF〉は、2001年に世界保健機関〈WHO〉総会で採択された、人の「生活機能」と「障害」を記述するための国際的な枠組みである。前身は1980年にWHOが発表した国際障害分類〈International Classification of Impairments, Disabilities and Handicaps:ICIDH〉である。
ICIDHからICFへの転換点
ICIDHは「疾病 → 機能・形態障害 → 能力障害 → 社会的不利」という一方向の因果の流れで障害を捉え、対象は障害のある人、視点は否定的側面(マイナス面)に限られていた。これに対しICFは次の点で考え方を大きく変えた。 ・対象:障害者に限らず、すべての人の健康状態と生活機能を記述する。 ・視点:「心身機能・身体構造」「活動」「参加」という肯定的(中立的)な生活機能をまず設定し、それが損なわれた状態を「機能障害」「活動制限」「参加制約」と呼ぶ。 ・背景因子の導入:「環境因子」(物的環境、人的環境、社会の制度・態度など)と「個人因子」(年齢、性別、価値観など)を加えた。 ・相互作用モデル:各要素は双方向の矢印で結ばれ、一方向の因果関係を前提としない。
正解を導く考え方
ICFでは、参加制約は本人の心身の状態だけで決まるのではなく、環境因子との相互作用の結果として生じるとされる。段差の多い駅や障害者雇用に消極的な職場といった生活環境は、そのまま就労や社会参加の制約になる。したがって「参加制約は生活環境に起因する」はICFの考え方に合致する記述である。逆に「機能障害があれば必ず活動制限が起こる」とする一方向の因果は、ICIDH的な発想であり、ICFの考え方とは相容れない。
選択肢考察
- ×a. 障害者を対象とした分類である。
誤り。障害のある人を対象としていたのは前身のICIDHである。ICFは健康状態と生活機能を記述する分類であり、障害の有無にかかわらずすべての人に適用できる(普遍的モデル)。高齢者の生活支援、慢性疾患患者の就労、健常者の健康状態の記述などにも用いられる。
- ○b. 参加制約は生活環境に起因する。
正しい。ICFでは「参加」(生活・人生場面へのかかわり)が損なわれた状態を参加制約と呼び、これは健康状態・心身機能・活動と並んで、背景因子とくに環境因子との相互作用で決まるとされる。例えば車椅子使用者の就労は、バリアフリー化された通勤経路や職場の受け入れ体制があれば実現しうるが、それらがなければ参加制約となる。生活環境はICFの環境因子に含まれるため、参加制約が生活環境に起因するという記述はICFの考え方に沿う。ただし、参加制約には個人因子(意欲や価値観など)も関与しうるため、厳密には「生活環境のみが原因」という意味ではなく、生活環境が主要な要因になりうるという趣旨で理解するとよい。
- ×c. 障害程度を基準にした分類である。
誤り。障害の程度で人を分類するのではなく、「心身機能・身体構造」「活動と参加」「環境因子」といった構成要素ごとに、生活機能の状態を記述する分類である。障害(マイナス面)だけでなく、できていること(プラス面)も含めて全体像を捉える点がICFの特徴である。なお、ICFには各項目の問題の程度を表す評価点(qualifier)があるが、それは各生活機能の状態を記述するためのものであり、分類の基準そのものではない。
- ×d. 機能障害のために活動制限が生じる。
誤り。「機能・形態障害 → 能力障害 → 社会的不利」という一方向の因果関係で捉えるのはICIDHの考え方である。ICFでは各構成要素が相互に影響し合うとされ、機能障害があっても福祉用具・住環境の整備・人的支援などの環境因子を整えれば活動制限を生じさせない(あるいは軽減できる)と考える。逆に、機能障害がなくても環境によって活動制限が生じることもある。
- ×e. 参加制約と社会的不利は同義語である。
誤り。ICIDHの「社会的不利」はICFの「参加制約」に対応する位置にある概念だが、同義ではない。社会的不利は障害の結果として生じる不利益という否定的側面だけを表し、対になる肯定的概念をもたなかった。ICFでは肯定的な「参加」をまず定義し、それが損なわれた状態を「参加制約」としたうえで、環境因子との相互作用で生じるものと位置づけ直している。そもそもICFには「社会的不利」という用語は用いられておらず、ICFの説明として両者を同義とするのは不適切である。
ICIDHとICFの用語対応
・ICIDH「機能・形態障害(impairment)」 ↔ ICF「心身機能・身体構造」が損なわれた状態=「機能障害(構造障害を含む)」 ・ICIDH「能力障害(disability)」 ↔ ICF「活動」が損なわれた状態=「活動制限」 ・ICIDH「社会的不利(handicap)」 ↔ ICF「参加」が損なわれた状態=「参加制約」 ICFでは、これら否定的側面の総称を「障害(disability)」、肯定的側面の総称を「生活機能(functioning)」と呼ぶ。
ICFの構成要素
・健康状態:疾病、変調、外傷、妊娠、加齢など ・生活機能:心身機能・身体構造、活動(課題や行為の個人による遂行)、参加(生活・人生場面へのかかわり) ・背景因子:環境因子(物的・人的・社会的環境。促進因子にも阻害因子にもなる)、個人因子(年齢、性別、生活歴、価値観など) これらが双方向の矢印でつながる「相互作用モデル」として図示される。
医学モデルと社会モデルの統合
障害を個人の病気・外傷の問題とみる医学モデルと、社会環境がつくり出す問題とみる社会モデルを統合した「生物・心理・社会モデル」に立脚している点もICFの特徴である。リハビリテーションや介護保険のケアプラン作成など、多職種で利用者の生活全体を捉える共通言語として用いられている。
POINT
・ICF(2001年WHO採択)は、ICIDH(1980年)の改訂版である。 ・対象はすべての人であり、障害者に限らない。 ・生活機能(心身機能・身体構造、活動、参加)というプラス面を軸に記述し、その損なわれた状態を機能障害・活動制限・参加制約と呼ぶ。 ・環境因子・個人因子という背景因子を導入し、各要素の相互作用で生活機能を捉える(一方向の因果ではない)。 ・参加制約は環境因子(生活環境)の影響を強く受ける。 ・「社会的不利」はICIDHの用語であり、ICFの「参加制約」とは位置づけは対応するが同義ではない。
