「家族にも同じ病気の人は?」―その一言が決め手になる肥大型心筋症
第117回医師国家試験 B問題 第13問
国試問題にチャレンジ
病歴聴取で,家族内に同じ疾患の患者が存在することが,診断に最も有用な疾患はどれか。
- a.心房細動
- b.肥大型心筋症
- c.冠攣縮性狭心症
- d.大動脈弁狭窄症
- e.心サルコイドーシス
対話形式の解説
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医学生
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ドクターまとめ
家族歴が診断に大きく役立つのは、単一遺伝子の変異により明確な遺伝形式で家系内に集積する疾患であり、本問では肥大型心筋症がこれに当たります。肥大型心筋症はサルコメアタンパク遺伝子の変異が主な原因で、約半数が家族性、常染色体顕性遺伝を示し、若年での突然死の家族歴は診断の手がかりであると同時に突然死の危険因子でもあります。心房細動、冠攣縮性狭心症、心サルコイドーシスにも遺伝的素因は報告されていますが多因子的で、大動脈弁狭窄症は主に加齢による弁の変性が原因のため、家族歴は決め手になりません。患者が見つかった際の第一度近親者のスクリーニングや、QT延長症候群・Marfan症候群など家族歴が重要な疾患群の理解は、問診の質を高め、家族を含めた突然死予防につながります。
解答・解説
正解はbです
本問は、「家族内に同じ病気の人がいる」という病歴が、どの循環器疾患の診断を最も強く後押しするかを問うている。 家族歴が診断上大きな意味をもつのは、単一の遺伝子変異が原因となり、明確な遺伝形式(常染色体顕性〈優性〉遺伝など)で家系内に集積する疾患である。選択肢のなかでこれに当てはまるのは肥大型心筋症である。肥大型心筋症は心筋の収縮単位であるサルコメアを構成するタンパク質の遺伝子変異で生じることが多く、約半数(報告により50〜60%程度)に家族内発症がみられ、常染色体顕性遺伝の形式をとる。 一方、心房細動、冠攣縮性狭心症、心サルコイドーシスにも遺伝的素因の関与や家族集積性は報告されているが、いずれも多因子的で、加齢・生活習慣・環境要因などの影響が大きく、家族歴の有無が診断の決め手になるほどではない。大動脈弁狭窄症は主に加齢に伴う弁の変性によって生じる。 したがって、家族歴の聴取が診断に最も有用なのは肥大型心筋症である。
選択肢考察
- ×a. 心房細動
誤り。心房細動の主な危険因子は加齢、男性、高血圧、糖尿病、肥満、睡眠時無呼吸、飲酒、心不全、心臓弁膜症、冠動脈疾患、慢性腎臓病、甲状腺機能亢進症などである。家族歴も危険因子の一つとして知られており、Framingham Heart Studyでは親に心房細動がある人は心房細動の発症リスクが高い(オッズ比約1.85)ことが示され、基礎疾患のない若年発症の孤立性心房細動ではとくに家族歴を有する割合が高い。しかし、心房細動は多因子的に発症するありふれた不整脈であり、診断は心電図で行う。家族歴は発症リスクの評価に用いる程度で、診断に最も有用な情報とはいえない。
- ○b. 肥大型心筋症
正しい。肥大型心筋症は、高血圧や大動脈弁狭窄症など肥大を説明できる負荷がないにもかかわらず左室心筋が肥大する疾患である。β-ミオシン重鎖(MYH7)やミオシン結合タンパクC(MYBPC3)など、心筋サルコメアを構成するタンパク質の遺伝子変異が主な原因で、約半数〜6割に家族歴を認め、常染色体顕性(優性)遺伝の形式をとる。そのため病歴聴取で家族内の肥大型心筋症や若年での突然死を確認することは、診断の有力な手がかりとなる。さらに、若年者の突然死の家族歴は本症における突然死の危険因子でもあり、植込み型除細動器(ICD)の適応判断など予後評価にも重要である。患者が見つかった場合には、第一度近親者に対する心電図・心エコーによるスクリーニングも推奨される。
- ×c. 冠攣縮性狭心症
誤り。冠攣縮性狭心症は、冠動脈が一過性に強く収縮(攣縮)することで心筋虚血を生じる病態で、夜間から早朝の安静時に発作が起こりやすい。発症には血管内皮機能の障害が関与し、喫煙(一酸化窒素〈NO〉の不活化などによる内皮障害)、飲酒(低マグネシウム血症などを介して血管平滑筋の緊張が高まる)、精神的ストレス(ノルアドレナリンなど血管収縮物質の放出)などが危険因子である。日本人を含む東アジア人に多く、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子などの遺伝子多型の関与も指摘されているが、明確な遺伝形式で家族内に発症する疾患ではない。診断には発作時心電図やアセチルコリン・エルゴノビンによる冠攣縮誘発試験が用いられる。
- ×d. 大動脈弁狭窄症
誤り。現在の日本など先進国では、大動脈弁狭窄症の主な原因は加齢に伴う弁尖の変性・石灰化(動脈硬化に類似した過程)である。かつて多かったリウマチ性は、リウマチ熱(A群溶血性レンサ球菌感染後の免疫反応)が早期に抗菌薬治療されるようになって激減した。比較的若い年齢で発症する例では先天性の大動脈二尖弁が原因となることがあり、二尖弁には家族内発生の報告もあるが、大動脈弁狭窄症全体としては家族歴が診断に役立つ疾患ではない。診断は聴診(収縮期駆出性雑音)と心エコーで行う。
- ×e. 心サルコイドーシス
誤り。サルコイドーシスは、乾酪壊死を伴わない類上皮細胞肉芽腫が肺、眼、皮膚、心臓など全身の臓器に形成される原因不明の疾患である。家族内発生の報告があり、HLAとの関連のほか、BTNL2、ANXA11などの遺伝子との関連も指摘されているが、多因子的な疾患であり、家族歴が診断の決め手になることはない。心サルコイドーシスでは房室ブロックなどの伝導障害、心室頻拍、心機能低下がみられ、診断は心電図、心エコー、FDG-PET、心臓MRI、組織生検などを総合して行う。
肥大型心筋症(HCM)の概要
・定義:明らかな原因(高血圧、大動脈弁狭窄症など)がないのに左室(ときに右室)の心筋が肥大する疾患。多くは非対称性中隔肥大を呈する。 ・病因:心筋サルコメアタンパク遺伝子(MYH7、MYBPC3など)の変異。家族性が約半数で、常染色体顕性遺伝。 ・分類:左室流出路に圧較差がある閉塞性(HOCM)と非閉塞性。拡張相肥大型心筋症(収縮能が低下し拡張型心筋症に似た状態に移行したもの)もある。 ・症状:無症状のことも多い。労作時の息切れ、胸痛、失神、動悸。若年者の突然死の主要な原因の一つ。 ・診断:心エコー、心臓MRIで心筋肥大を確認。閉塞性では収縮期雑音がバルサルバ手技や立位で増強する。 ・突然死の危険因子:若年での突然死の家族歴、原因不明の失神、著明な左室壁肥厚、非持続性心室頻拍、運動時の血圧反応異常など。 ・鑑別:ファブリー病(α-ガラクトシダーゼAをコードするGLA遺伝子の異常によるX連鎖性疾患)、心アミロイドーシスなどのHCM類似の心肥大をきたす疾患。ファブリー病では酵素補充療法や、特定のGLA変異に有効なシャペロン療法(ミガーラスタット)があり、原因遺伝子に応じて治療を選ぶ時代になっている。
家族歴が重要な循環器疾患の例
肥大型心筋症、家族性拡張型心筋症、不整脈原性右室心筋症、QT延長症候群、Brugada症候群、Marfan症候群(大動脈解離)、家族性高コレステロール血症(早発性冠動脈疾患)など。
POINT
・肥大型心筋症は約半数が家族性で、常染色体顕性(優性)遺伝。原因はサルコメアタンパクの遺伝子変異(MYH7、MYBPC3など)。 ・家族歴(とくに若年での突然死)は肥大型心筋症の診断の手がかりであり、突然死のリスク評価にも用いる。 ・心房細動、冠攣縮性狭心症、サルコイドーシスにも遺伝的素因は報告されているが多因子的で、家族歴が診断の決め手にはならない。 ・大動脈弁狭窄症の主な原因は加齢による弁の変性・石灰化(若年では二尖弁)。
