StudyMed医師国家試験

その消毒薬、傷口に使える?―作用の強さと組織毒性で選ぶ消毒薬の基本

第116回医師国家試験 F問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第116回 F問題 第38問

25歳の男性。耳介からの出血が止まらないため救急車で搬送された。喧嘩の際に避けた刃物が右耳をかすめて出血し,圧迫しても止血しないという。創部の写真を下に示す。  創の縫合前に用いることができる消毒薬はどれか。

第116回 F問題 第38問の問題画像
  1. a.過酢酸
  2. b.エタノール
  3. c.塩化ベンザルコニウム
  4. d.グルタールアルデヒド
  5. e.次亜塩素酸ナトリウム

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は耳介の切創を縫合する前に、どの消毒薬なら傷口に使えるかを問う問題だ。写真から受傷の状況はつかめるけれど、問われているのは診断ではなく薬剤の選択。カギは「消毒薬の水準分類」と「人体、とくに損傷組織への刺激性」の2つだよ。
医学生医学生
傷口の消毒というと、子どもの頃は消毒用アルコールを使っていた気がします。エタノールではだめなんでしょうか。
ドクタードクター
多くの人がそう思うところだね。まず整理しよう。消毒薬は効く微生物の範囲によって、高水準・中水準・低水準に分けられる。高水準は芽胞まで殺せるもの、中水準は芽胞以外なら結核菌まで、低水準は一般細菌や酵母様真菌が中心で、結核菌や芽胞には効かない。
医学生医学生
微生物学の講義でSpauldingの分類を習いました。強い消毒薬ほど器具向け、という話だった気がします。
ドクタードクター
その通り。作用が強い消毒薬は、細菌だけでなく人の細胞にも強いダメージを与える。だから「強ければ良い」ではなく、何に使うかで選ぶのが基本だ。では高水準の過酢酸とグルタールアルデヒドはどうかな。
医学生医学生
芽胞まで殺せる高水準なので、内視鏡の消毒に使うものですよね。人の皮膚に塗るイメージはありません。
ドクタードクター
正解。どちらも組織毒性や刺激性が非常に強く、人体には使えない器具専用の薬剤だ。グルタールアルデヒドは蒸気を吸い込むと気道刺激や喘息様症状を起こすので、扱う医療者側の曝露対策まで必要になる。
医学生医学生
次亜塩素酸ナトリウムは、感染制御の講義でノロウイルス対策に使うと習いました。
ドクタードクター
よく覚えているね。エンベロープのないウイルスにも効く中水準の塩素系消毒薬で、食器・リネン・環境の消毒に使う。ただ強アルカリ性で酸化力が強く、金属を腐食させるし組織への刺激もあるから、通常は皮膚や創部には使わない。
医学生医学生
そうするとエタノールも中水準ですよね。採血前の皮膚消毒には毎日のように使っていますが……。
ドクタードクター
そこがポイントなんだ。エタノールは正常な皮膚には使えるけれど、損傷した皮膚や粘膜にはしみて強い痛みを生じるうえ、組織も傷める。だから傷口そのものには適さない。残る塩化ベンザルコニウムは第四級アンモニウム塩、つまり陽イオン界面活性剤の低水準消毒薬で、刺激性や毒性が低いため、低濃度なら粘膜や創傷部位にも使える。これが正解だ。
医学生医学生
効く範囲は狭いけれど、そのぶん体にやさしいということですね。産婦人科の実習で外陰部の洗浄にも使っていたのを思い出しました。
ドクタードクター
まさにそういう使い方だね。注意点として、石けんなどの陰イオン界面活性剤と混ざると効果が落ちること、血液や滲出液などの有機物があっても効果が下がることも覚えておこう。
医学生医学生
でも救急外来の実習では、傷はまず水でジャブジャブ洗っていて、消毒薬をあまり使っていなかった印象です。
ドクタードクター
鋭い観察だね。実は現在の創傷管理では、創面そのものに消毒薬を使うことは推奨されていないんだ。消毒薬は創傷治癒に必要な線維芽細胞や表皮細胞まで傷害してしまうし、血液が混じれば効果自体も落ちる。感染予防の中心は、十分な量の水道水や生理食塩水による洗浄と、異物や壊死組織の除去だ。この問題はあくまで、選択肢の中で創部に使える薬剤はどれかという薬理学的な知識の確認と捉えるといい。
医学生医学生
なるほど。汚染のある傷なら破傷風の予防も考えるんでしたね。
ドクタードクター
その通り。汚染創では破傷風トキソイド、必要に応じて抗破傷風ヒト免疫グロブリンの投与を検討する。それから耳介の外傷ならではの注意もある。耳介は薄い皮膚が軟骨を覆う構造で、軟骨は軟骨膜から栄養を受けている。打撲などで軟骨膜の下に血腫ができると軟骨が壊死して、カリフラワー耳と呼ばれる変形を残すことがあるから、血腫は穿刺や切開で除いて圧迫固定するんだ。
医学生医学生
消毒薬の選び方だけでなく、傷の部位ごとの落とし穴も押さえておく必要があるんですね。

まとめ

消毒薬は、芽胞まで殺せる高水準(過酢酸、グルタールアルデヒドなど)、結核菌まで有効な中水準(エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨードなど)、一般細菌が中心の低水準(塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジンなど)に分けられ、作用が強いものほど組織毒性も強くなります。高水準消毒薬は器具専用で人体には使えず、次亜塩素酸ナトリウムは主に環境・リネン用、エタノールは正常皮膚には使えても損傷皮膚や粘膜には適しません。刺激性の低い塩化ベンザルコニウムは、低濃度であれば粘膜や創傷部位にも使用できます。ただし現在の創傷処置では、創面への消毒よりも十分な量の水や生理食塩水による洗浄と異物除去が感染予防の基本であり、汚染創では破傷風予防も検討します。消毒薬を「効く範囲」と「体へのやさしさ」の両面から理解することは、救急外来から感染対策まで幅広い場面で役立ちます。

解答・解説

正解はcです

所見の整理

・25歳男性。喧嘩の際、刃物が右耳をかすめて受傷した。 ・圧迫しても出血が止まらず救急搬送された。 ・写真では耳介に線状の鋭的な創が認められる。

診断

鋭利な刃物による受傷機転と線状の創形態から、右耳介の切創である。圧迫で止血が得られず、創が真皮より深く及んでいると考えられるため、縫合による創閉鎖が必要となる。

設問の考え方

問われているのは「縫合前の創(傷ついた皮膚・組織)に使用してよい消毒薬」である。消毒薬は、作用の強さ(抗微生物スペクトル)と、人体組織への毒性・刺激性によって使える対象が決まる。 ・芽胞まで殺せる高水準消毒薬(過酢酸、グルタールアルデヒドなど)は組織毒性が強く、器具専用で人体には使えない。 ・中水準消毒薬のうち、エタノールは正常皮膚には使えるが、損傷皮膚や粘膜には刺激が強く使えない。次亜塩素酸ナトリウムは腐食性が強く、主に器具・環境・リネン用である。 ・低水準消毒薬である第四級アンモニウム塩(塩化ベンザルコニウム)は刺激性が低く、正常皮膚のほか粘膜や創傷部位にも使用できる。 したがって、選択肢の中で創部に用いることができるのは塩化ベンザルコニウムである。 なお、現在の創傷管理では、創面そのものに消毒薬を用いることは推奨されず、十分な量の水道水または生理食塩水による洗浄と異物除去が感染予防の中心である。本問はあくまで「選択肢の中で創部に使用可能な薬剤」を問う薬理学的知識の確認と捉えるとよい。

選択肢考察

  1. ×a.  過酢酸

    高水準消毒薬で、細菌・真菌・ウイルスに加え芽胞にも有効であり、内視鏡などの医療器具の消毒に用いられる。強い酸化作用により皮膚・粘膜への刺激性・腐食性が高く、人体への使用はできない。創部に用いることは誤りである。

  2. ×b.  エタノール

    中水準消毒薬で、一般細菌・結核菌・真菌・多くのウイルスに有効だが、芽胞には無効である。速乾性があり、正常皮膚(手指衛生、注射・採血部位)や器具・環境の消毒に広く用いられる。しかし損傷皮膚や粘膜には強い刺激・疼痛を生じ、組織も傷害するため、創部への使用は適さない。

  3. ○c.  塩化ベンザルコニウム

    第四級アンモニウム塩(陽イオン界面活性剤)に属する低水準消毒薬である。一般細菌や酵母様真菌には有効だが、結核菌・芽胞・多くのウイルスには効果が乏しい。一方で刺激性・毒性が低いため、正常皮膚、手術野の皮膚、器具・環境に加えて、粘膜や創傷部位にも低濃度で使用できる(外陰部・膣の洗浄などにも用いられる)。したがって選択肢の中で縫合前の創部に用いることができるのはこれである。なお、石けんなどの陰イオン界面活性剤と混ざると効果が減弱する点、血液や滲出液などの有機物でも効果が落ちる点に注意が必要である。

  4. ×d.  グルタールアルデヒド

    高水準消毒薬で、芽胞を含むほぼすべての微生物に有効であり、内視鏡など熱に弱い医療器具の消毒に用いられる。タンパク質を架橋・変性させる作用が強く、皮膚炎や気道刺激(蒸気吸入による喘息様症状など)を起こすため、人体への使用はできない。取り扱う医療従事者の曝露対策も必要な薬剤である。

  5. ×e.  次亜塩素酸ナトリウム

    塩素系の中水準消毒薬で、ノロウイルスなどのエンベロープをもたないウイルスにも有効である。残留性が低いため、哺乳瓶・食器・リネン・環境や一部の器具の消毒に用いられる。強アルカリ性で酸化力が強く、金属腐食性や組織刺激性があるため、通常は皮膚・粘膜・創部には使用しない。

消毒薬の水準分類(Spauldingの考え方に基づく)

・高水準:芽胞を含むすべての微生物に有効(大量の芽胞では長時間の接触が必要)。過酢酸、グルタールアルデヒド、フタラール。人体には使用不可で、主に内視鏡などのセミクリティカル器具に用いる。 ・中水準:芽胞以外の微生物(結核菌を含む)に有効。アルコール(エタノール、イソプロパノール)、次亜塩素酸ナトリウム、ポビドンヨード(ヨウ素系)など。 ・低水準:一般細菌や酵母様真菌など、多くの栄養型細菌に有効だが、結核菌・芽胞には無効。塩化ベンザルコニウム・塩化ベンゼトニウム(第四級アンモニウム塩)、クロルヘキシジン、両性界面活性剤(アルキルジアミノエチルグリシン)など。

人体への使用可否の目安

・正常皮膚:アルコール、ポビドンヨード、クロルヘキシジン、ベンザルコニウムなど。 ・粘膜・創傷部位:ポビドンヨード、ベンザルコニウム(低濃度)など。アルコールは刺激が強く不可。クロルヘキシジンは粘膜への使用でショック(アナフィラキシー)の報告があり、粘膜には禁忌とされる。 ・人体不可:過酢酸、グルタールアルデヒド、フタラール、次亜塩素酸ナトリウム(通常)。

現在の創傷処置の考え方

消毒薬は細菌だけでなく線維芽細胞や表皮細胞などの創傷治癒に必要な細胞も傷害するため、創面への消毒薬の使用は創傷治癒を遅らせうる。また血液や滲出液などの有機物があると消毒薬の効果自体も低下する。創感染の予防で最も重要なのは、十分な量の水道水や生理食塩水による洗浄と、異物・壊死組織の除去(デブリドマン)である。創周囲の皮膚消毒の有効性も限定的と考えられている。汚染創では破傷風の予防(破傷風トキソイド、必要に応じて抗破傷風ヒト免疫グロブリン)も検討する。

耳介外傷の注意点

耳介は軟骨を皮膚が薄く覆う構造で、軟骨は軟骨膜からの栄養に依存する。打撲などで軟骨膜下に血腫が生じると軟骨壊死を来し、変形(カリフラワー耳)を残すことがあるため、血腫は穿刺・切開で排除し圧迫固定する。

POINT

・高水準消毒薬(過酢酸、グルタールアルデヒド、フタラール)は器具専用で、人体には使えない。 ・エタノールは正常皮膚には使えるが、粘膜・損傷皮膚には使えない。 ・次亜塩素酸ナトリウムは器具・環境・リネン用で、通常人体には用いない。 ・塩化ベンザルコニウム(低水準)は刺激性が低く、粘膜・創傷部位にも使用できる。 ・現在の創傷管理の基本は、消毒よりも十分な洗浄と異物除去である。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。