StudyMed医師国家試験

息を吸うと痛む若者の胸―「全誘導のST上昇」が語る急性心膜炎

第116回医師国家試験 E問題 第38問

国試問題にチャレンジ

第116回 E問題 第38問

A 21-year-old previously healthy man presented to the emergency room with chest pain, which was worse on breathing, lasting for two days.  Lung and heart examinations were unremarkable. Chest X-ray(A)and ECG(B)are shown in the figure.  What is the most likely diagnosis?

第116回 E問題 第38問の問題画像
  1. a.Herpes zoster
  2. b.Myocardial infarction
  3. c.Pericarditis
  4. d.Pneumothorax
  5. e.Pulmonary embolism

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は英語で出題された胸痛の問題だ。着眼点は2つ。「呼吸で増悪する胸痛」という痛みの性質と、心電図のST上昇がどの誘導に、どんな形で出ているか。胸部エックス線写真は鑑別疾患をふるい落とすのに使おう。まず、pleuritic chest painと聞いて何を思い浮かべるかな。
医学生医学生
呼吸で痛みが変わるので、胸膜の病気でしょうか。気胸や胸膜炎がまず浮かびます。
ドクタードクター
いい出発点だね。呼吸運動に合わせて動き、しかも痛覚を伝える神経をもつのは壁側胸膜と心膜なんだ。肺実質や臓側胸膜には痛覚がほとんどない。だから呼吸性に変化する痛みでは、胸膜だけでなく心膜の病変も候補に入れる必要がある。
医学生医学生
心膜も入るんですね。生理学の講義で心膜は横隔神経支配と習いましたが、そこまで結びついていませんでした。
ドクタードクター
そう、心膜炎の痛みは肩や僧帽筋のあたりに放散することもあって、それも横隔神経で説明できる。では心電図を見よう。aVRとV1を除くほぼすべての誘導で、上に凹、つまり下に凸のST上昇がみられ、異常Q波はない。
医学生医学生
ST上昇と聞くと、まず心筋梗塞を考えてしまいます。循環器内科の実習でもSTEMIはとにかく急げと言われました。
ドクタードクター
その反射は大切だよ。ただ、心筋梗塞のST上昇は閉塞した冠動脈の灌流域に一致する誘導に限られる。下壁ならII・III・aVFという具合だ。そして対側の誘導に鏡像的なST低下、reciprocal changeを伴うことが多く、STの形は上に凸になりやすい。さらに数時間から1日ほどで異常Q波が出てくる。
医学生医学生
この症例は冠動脈1本では説明できないほど広い範囲で上がっていて、鏡像変化もない。発症から2日たってもQ波がないのも合わないですね。
ドクタードクター
その通り。心臓の表面、つまり心外膜下の心筋全体に炎症が及ぶから、灌流域に関係なく広範にSTが上がる。これが急性心膜炎の典型的なパターンだ。PR部分の低下、aVRではPR上昇を伴うことも多いから、あわせて探す癖をつけておこう。生来健康な21歳で冠危険因子がないという背景もよく合う。
医学生医学生
正解は心膜炎ですね。気胸も若い男性に多いので、最初はかなり疑いました。
ドクタードクター
年齢・性別・呼吸性の胸痛という点では立派な鑑別だね。でも胸部エックス線写真では、肺血管影が胸壁まで追えて、臓側胸膜線や血管影を欠く透亮域がない。呼吸音の左右差もない。そもそも気胸で広範なST上昇は起きない。
医学生医学生
肺血栓塞栓症も胸痛と呼吸の症状が出ますよね。CBTでSIQIIITIIIを覚えた記憶があります。
ドクタードクター
よく覚えているね。肺塞栓でも末梢で肺梗塞を起こすと胸膜に炎症が及び、呼吸で増悪する胸痛になりうる。ただし心電図は洞性頻脈、右脚ブロック、右側胸部誘導の陰性T波、SIQIIITIIIといった右心負荷所見が中心で、広範なST上昇にはならない。長期臥床や手術、経口避妊薬といった危険因子の記載もない。
医学生医学生
帯状疱疹は皮疹が出る前に痛みだけ先行することがあると皮膚科で聞きました。それで紛らわしいのかと思いました。
ドクタードクター
鋭い指摘だね。確かに皮疹に先行する痛みは診断を難しくする。ただ帯状疱疹の痛みは片側のデルマトームに沿った表在性の痛みで、呼吸で増悪するのが主体ではない。何より心電図変化の説明がつかない。
医学生医学生
痛みの性質で胸膜・心膜を疑って、心電図のST上昇の分布と形で梗塞と区別する、という流れですね。
ドクタードクター
そう。では臨床のポイントもまとめておこう。心膜炎の胸痛は吸気・咳・臥位で増悪し、前傾座位で楽になるのが特徴だ。診断は、特徴的な胸痛、心膜摩擦音、広範なST上昇またはPR低下、心嚢液貯留の4項目のうち2つ以上を満たすことでつける。摩擦音は出たり消えたりするから、聞こえないからといって否定はできない。
医学生医学生
原因はウイルスが多いんでしたっけ。微生物学でコクサッキーB群ウイルスが心膜炎・心筋炎の原因と習いました。
ドクタードクター
そうだね。特発性が最多で、その多くはウイルス性と考えられている。ほかに結核、SLEなどの膠原病、尿毒症、悪性腫瘍、心筋梗塞後のDressler症候群なども覚えておこう。心エコーで心嚢液を確認し、頸静脈怒張・低血圧・奇脈があれば心タンポナーデを疑う。トロポニンが上がっていれば心筋炎の合併、つまり心筋心膜炎を考える。
医学生医学生
治療はNSAIDsでしょうか。
ドクタードクター
アスピリンかNSAIDsに、再発予防としてコルヒチンを併用するのが標準だ。ステロイドは再発を増やすことがあるので、NSAIDsが使えない場合などに限って使う。心電図はSTが基線に戻ってからT波が陰転化し、やがて正常化していく。梗塞と違ってQ波は出ない、という経時変化も一緒に押さえておくといい。

まとめ

呼吸・咳・臥位で増悪し前傾座位で軽減する胸痛は、痛覚をもつ壁側胸膜や心膜の病変を示唆し、若年健常者では急性心膜炎を考えます。心電図ではaVR(とV1)を除く広範な誘導で上に凹のST上昇やPR低下がみられ、冠動脈の灌流域に一致したST上昇・鏡像変化・異常Q波を伴う心筋梗塞と区別できます。気胸は胸部エックス線写真の所見、肺血栓塞栓症は右心負荷を示す心電図所見、帯状疱疹はデルマトームに沿った痛みと皮疹という点で異なります。原因は特発性・ウイルス性が多く、治療はアスピリンまたはNSAIDsとコルヒチンが基本で、心エコーで心嚢液と心タンポナーデの有無を確認します。「ST上昇=心筋梗塞」と短絡せず、分布と形から病態を読み分ける力は救急の胸痛診療で欠かせません。

解答・解説

正解はcです

問題文の要旨

生来健康な21歳男性が、2日前から続く、呼吸で増悪する胸痛を主訴に救急外来を受診した。肺と心臓の診察では異常がない。胸部エックス線写真(A)と心電図(B)が示され、最も考えられる診断を問う英語問題である。

所見の整理

1. 若年・生来健康:動脈硬化性の冠動脈疾患の可能性は低い背景である。 2. 呼吸で増悪する胸痛(pleuritic chest pain):呼吸運動に伴って動き、痛覚を伝える知覚神経をもつのは壁側胸膜と心膜(壁側心膜)である。肺実質や臓側胸膜には痛覚がほとんどない。したがって、呼吸性に変化する痛みはまず胸膜や心膜の病変(胸膜炎・心膜炎・気胸など)を想起させる。 3. 心肺の身体所見に異常なし:心膜摩擦音は聴取されていないが、摩擦音は出没しやすく、聴取されないことで心膜炎は否定できない。 4. 胸部エックス線写真(A):肺野の血管影が末梢まで追え、虚脱肺や肺血管影の消失した透亮域(気胸の所見)はない。胸水や浸潤影もみられず、心陰影の拡大も目立たない。 5. 心電図(B):aVR(およびV1)を除くほぼ全誘導で、上に凹(下に凸、saddle-back〜concave型)のST上昇がみられ、異常Q波はない。

診断へのプロセス

ST上昇をきたす主な病態には、急性心筋梗塞(STEMI)、冠攣縮性狭心症、急性心膜炎、心室瘤、早期再分極、Brugada症候群などがある。本例ではST上昇が特定の冠動脈の灌流域に限局せず広範な誘導に及び、対側誘導の鏡像的ST低下(reciprocal change)を伴わない。さらに発症から2日経過しても異常Q波が出現していない。これらは心筋梗塞では説明しにくく、心外膜下の心筋全体に及ぶ炎症、すなわち急性心膜炎に典型的なパターンである。急性心膜炎ではPR部分の低下(aVRではPR上昇)を伴うことも多い。 呼吸で増悪する胸痛という症状と、広範な誘導のST上昇という心電図所見を合わせると、最も考えられる診断は急性心膜炎(pericarditis)である。若年男性で、先行するウイルス感染(上気道炎や消化器症状)を伴うことの多い特発性・ウイルス性心膜炎として矛盾しない。

選択肢考察

  1. ×a.  Herpes zoster

    誤り。帯状疱疹は水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が神経節で再活性化して生じ、片側の皮膚分節(デルマトーム)に沿った痛みと、紅斑・小水疱の帯状の皮疹を呈する。皮疹出現前に疼痛が先行することはあるが、痛みは片側性・皮膚表在性で、呼吸による増悪が主体ではない。本例では皮疹の記載がなく、何より帯状疱疹で心電図に広範なST上昇が生じることはない。

  2. ×b.  Myocardial infarction

    誤り。心筋梗塞もST上昇をきたすが、上昇は閉塞した冠動脈の灌流域に対応する誘導(例:下壁ならII・III・aVF)に限局し、対側の誘導には鏡像的なST低下(reciprocal change)を伴うことが多い。ST部分は上に凸(convex)の形をとりやすく、発症後数時間〜1日程度で異常Q波が出現する。本例はST上昇が冠動脈の支配領域を越えてaVR以外のほぼ全誘導に及び、発症2日でも異常Q波がない。加えて、危険因子のない生来健康な21歳であり、痛みが呼吸で変動する点も虚血性胸痛(圧迫感・絞扼感で呼吸性変動に乏しい)とは異なる。

  3. ○c.  Pericarditis

    正しい。急性心膜炎の胸痛は鋭く、吸気・咳・臥位で増悪し、前傾座位で軽減するのが特徴である。心電図では心外膜下心筋の炎症を反映して、aVR(とV1)を除く広範な誘導で上に凹のST上昇がみられ、reciprocal changeや異常Q波を伴わない。PR部分の低下も参考所見となる。本例の呼吸性に増悪する胸痛、広範なST上昇、異常Q波の欠如、若年健常者という背景はすべて急性心膜炎に合致する。

  4. ×d.  Pneumothorax

    誤り。気胸は若年のやせ型男性に好発し、突然の胸痛と呼吸困難を呈するため、年齢・性別や呼吸性の胸痛という点では鑑別に挙がる。しかし胸部エックス線写真で、肺の外縁(臓側胸膜線)やその外側の肺血管影を欠く透亮域がみられず、肺血管影が胸壁まで追えるため否定的である。また、身体診察でも患側の呼吸音減弱などの異常がない。気胸自体は心電図で広範なST上昇をきたす病態ではない。

  5. ×e.  Pulmonary embolism

    誤り。肺血栓塞栓症は胸痛と呼吸困難の重要な鑑別疾患であり、末梢の塞栓で肺梗塞を生じると胸膜に炎症が及び、呼吸で増悪する胸痛を呈することもある。しかし心電図所見は洞性頻脈、右脚ブロック、右側胸部誘導の陰性T波、SIQIIITIII(I誘導の深いS波、III誘導のQ波と陰性T波)など右心負荷を反映するものが中心で、本例のような広範なST上昇はきたさない。長期臥床・手術・経口避妊薬などの危険因子の記載もなく、可能性は低い。

急性心膜炎の概要

心膜(心臓を包む二重の膜)の急性炎症である。原因は特発性(多くは診断がつかないウイルス性と考えられる)が最多で、ウイルスではコクサッキーB群ウイルスやエコーウイルスなどのエンテロウイルスが代表的である。そのほか細菌性・結核性、膠原病(SLEなど)、尿毒症、悪性腫瘍の心膜転移、心筋梗塞後(早期の梗塞後心膜炎、数週後のDressler症候群)、心臓手術後、放射線照射後などがある。若年〜中年男性に多い。

診断

欧州心臓病学会(ESC)のガイドラインでは、次の4項目のうち2項目以上で診断する。 1. 心膜炎に特徴的な胸痛(鋭い痛み、吸気や臥位で増悪、前傾座位で軽減) 2. 心膜摩擦音 3. 心電図の広範なST上昇またはPR低下 4. 心嚢液貯留(新規または増加) 補助所見としてCRPなどの炎症マーカー上昇、CTやMRIでの心膜の炎症所見がある。心筋炎を合併しない限り、心筋トロポニンやCK-MBといった心筋逸脱酵素は上昇しない(上昇すれば心筋心膜炎を考える)。

心電図の経時変化(典型例)

Stage I:広範な誘導で上に凹のST上昇、PR低下(aVRではST低下・PR上昇) Stage II:STが基線に戻り、T波が平低化 Stage III:T波の陰転化 Stage IV:心電図が正常化 心筋梗塞と異なり、T波の陰転はSTが基線に戻ってから生じ、異常Q波は出現しない。

検査と合併症

心エコーで心嚢液(エコーフリースペース)の有無を確認する。大量の心嚢液や急速な貯留では心タンポナーデ(頸静脈怒張、低血圧、奇脈、心音減弱)を生じうる。胸部エックス線写真では大量の心嚢液で心陰影が拡大する(いわゆる水瓶状)。

治療

アスピリンまたは非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)に、再発予防目的でコルヒチンを併用するのが標準である。副腎皮質ステロイドは再発を増やすため、NSAIDsが使えない場合などに限られる。運動は症状と炎症所見が消失するまで制限する。

POINT

・呼吸・咳・臥位で増悪し、前傾座位で軽減する胸痛は急性心膜炎を疑う。 ・心電図ではaVR(とV1)を除く広範な誘導で上に凹のST上昇、PR低下がみられ、reciprocal changeや異常Q波を伴わない。 ・心筋梗塞のST上昇は冠動脈の灌流域に限局し、鏡像変化と異常Q波を伴う点で区別する。 ・原因は特発性・ウイルス性(コクサッキーB群など)が多い。 ・治療はNSAIDs(アスピリン)+コルヒチン。心嚢液貯留と心タンポナーデの有無を心エコーで確認する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。