StudyMed医師国家試験

上限を決めるのは「病名」ではなく「年齢と所得」―高額療養費制度のしくみを読み解く

第116回医師国家試験 C問題 第9問

国試問題にチャレンジ

第116回 C問題 第9問

高額療養費制度において,患者の年齢に加えて月の自己負担限度額を規定する条件はどれか。

  1. a.疾患の種類
  2. b.治療の種類
  3. c.疾患の罹病期間
  4. d.受診医療機関の規模
  5. e.患者世帯の標準報酬月額

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は社会保障制度の問題で、テーマは高額療養費制度だ。医療費の自己負担に月ごとの上限を設ける制度だけれど、その上限額が何で決まるのかを問われている。年齢以外にもう一つ、何が上限額を左右するのかを考えてみよう。
医学生医学生
公衆衛生の講義で習った気はするんですが……。重い病気ほど医療費がかさむので、疾患の種類で上限が変わるのかなと一瞬思いました。
ドクタードクター
直感的にはそう考えたくなるよね。でも、この制度の目的を思い出してほしい。医療費が高額になっても、家計が破綻せずに必要な医療を受けられるようにするための制度なんだ。だから上限額は「その人がどれだけ負担できるか」、つまり経済力に応じて決まる。これを応能負担という。
医学生医学生
なるほど、負担能力が基準なら所得ですね。選択肢の中では患者世帯の標準報酬月額がそれにあたりますか。
ドクタードクター
その通り、それが正解だ。標準報酬月額は、会社員などが入る被用者保険で、毎月の給与を一定の幅の等級に当てはめて決める金額で、健康保険料や厚生年金保険料の計算にも使われる。高額療養費では、これで所得区分を分けて、所得が高い区分ほど上限額が高く設定されている。
医学生医学生
国民健康保険の人は給与明細のような標準報酬月額がないですよね。どうなるんですか。
ドクタードクター
いい疑問だね。国民健康保険では世帯の所得、住民税の課税状況などで所得区分を判定する。指標は違っても「所得で区分する」という考え方は同じだよ。もう一つの軸である年齢については、70歳未満と70歳以上で区分や計算方法が異なり、70歳以上では外来だけの個人単位の上限も設けられている。
医学生医学生
具体的な金額のイメージがつかめないのですが、どのくらいなんでしょう。
ドクタードクター
例えば70歳未満で標準報酬月額28万〜50万円の人なら、上限はおおよそ8万円に、総医療費のうち一定額を超えた分の1%を足した額になる。上位の区分では医療費総額も計算式に入るけれど、それはあくまで所得区分ごとの式の一部であって、上限を規定する条件は年齢と所得なんだ。一方、住民税非課税世帯なら3万5千円ほどと、かなり低く抑えられている。
医学生医学生
では疾患の種類は全く関係ないんですか。透析の患者さんは自己負担が少ないと聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。人工透析が必要な慢性腎不全、血友病、血液製剤に起因するHIV感染症は、長期高額疾病の特例で上限が原則月1万円に軽減される。ただしこれは例外的な特例で、一般的な限度額の決め方ではない。がんでも骨折でも、同じ年齢・所得区分なら上限は同じだよ。
医学生医学生
治療の種類も同じ考え方ですね。手術でも抗がん薬でも、保険診療の自己負担を合算して上限と比べるだけ、と。
ドクタードクター
そう。ただ、入院中の食事代の自己負担、差額ベッド代、先進医療の技術料といった保険外の費用はそもそも対象外だから、患者さんに説明するときは注意が必要だ。
医学生医学生
罹病期間はどうでしょう。長く患っている人ほど上限が下がる、ということはないんですか。
ドクタードクター
罹病期間そのものでは決まらない。ただ紛らわしいのが「多数回該当」で、直近12か月に3回以上高額療養費の支給を受けると、4回目からは上限がさらに下がる。これは高額な負担が続いた回数に基づく仕組みで、病気の期間とは別物だ。受診する医療機関の規模も関係なく、大学病院でも診療所でも上限は同じだよ。紹介状なしで大病院を受診したときの特別の料金は保険外負担で、上限の決め方とは無関係だ。
医学生医学生
整理すると、上限は年齢と所得の2軸で決まり、病名・治療・期間・病院の規模は関係ない、ということですね。
ドクタードクター
完璧だ。臨床で役立つ知識も足しておこう。限度額適用認定証、今はマイナ保険証でもいいけれど、事前に提示すれば窓口での支払いが最初から上限までで済む。後から払い戻しを待たなくていいから、高額な入院や化学療法の前には案内してあげたいね。それから、同じ医療保険に入っている同一世帯の自己負担は合算できる世帯合算、医療と介護の自己負担を年単位で合算して軽減する高額医療・高額介護合算療養費制度もある。
医学生医学生
臨床実習で外科を回ったとき、手術前に医療ソーシャルワーカーさんが患者さんにお金の説明をしていたのを思い出しました。あれはこの制度の話だったんですね。
ドクタードクター
きっとそうだね。治療費への不安は治療の継続にも関わる。医師自身が細かい計算をする必要はないけれど、「上限がある制度があるので相談窓口へ」と声をかけられるだけで、患者さんの安心は大きく違う。なお、限度額の具体的な金額は制度の見直しで変わることがあるから、最新の情報を確認する習慣も大切だよ。

まとめ

高額療養費制度は、1か月(暦月)の医療費の自己負担が上限額を超えた場合に、その超過分を医療保険者が支給する制度です。上限額は年齢(70歳未満か70歳以上か)と所得水準で決まり、被用者保険では標準報酬月額、国民健康保険では世帯の所得で区分され、所得が高いほど上限が高くなる応能負担の考え方に基づいています。疾患の種類、治療の種類、罹病期間、受診医療機関の規模は上限を規定しませんが、透析や血友病などの特定疾病の特例、多数回該当による引き下げ、世帯合算、限度額適用認定証といった関連の仕組みも押さえておく必要があります。食事代や差額ベッド代などの保険外費用は対象外である点も含め、制度を正しく理解しておくことは、患者の経済的不安に寄り添い、必要な医療を継続してもらうための大切な土台になります。

解答・解説

正解はeです

高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払った自己負担額が1か月(暦月の1日から末日まで)で一定の上限(自己負担限度額)を超えた場合に、超えた分が医療保険者から支給される公的医療保険の仕組みである。患者の経済的負担が過大にならないようにし、必要な医療を受けられるようにすることが目的である。 自己負担限度額を決める要素は、大きく「年齢」と「所得水準」の二つである。 ・年齢:70歳未満と70歳以上とで区分や計算方法が異なる(70歳以上では外来のみの個人単位の上限も設けられている)。 ・所得:被用者保険(健康保険組合、協会けんぽなど)では被保険者の標準報酬月額、国民健康保険では世帯の所得(住民税の課税状況を含む)によって所得区分が決まり、所得が高いほど限度額が高くなる。 上位の所得区分では「定額+(総医療費−一定額)×1%」という式で計算されるため、実際にかかった医療費の総額も限度額に影響するが、これは所得区分ごとに決められた計算式の一部である。一方、病名、治療内容、病気にかかっている期間、受診した病院の規模によって限度額が変わることはない。 したがって、年齢に加えて限度額を規定する条件は、所得の指標である患者世帯の標準報酬月額である。

選択肢考察

  1. ×a.  疾患の種類

    高額療養費の自己負担限度額は、病名にかかわらず年齢と所得区分によって決まる。がんであっても骨折であっても、同じ年齢・所得区分であれば限度額は同じである。なお、血友病、人工透析を要する慢性腎不全、血液凝固因子製剤の投与に起因するHIV感染症については、長期高額疾病(特定疾病)の特例として自己負担の上限が原則月1万円に軽減される仕組みが別に設けられているが、これは例外的な特例であり、一般的な限度額の規定条件ではない。

  2. ×b.  治療の種類

    手術、化学療法、入院、外来など治療の内容や方法によって限度額が変わることはない。どのような治療であっても、保険診療の自己負担分を合算して、年齢と所得区分から決まる限度額と比較する。なお、入院時の食事療養費の自己負担分、差額ベッド代(特別療養環境室料)、先進医療の技術料などの保険外の費用は、高額療養費の対象外である。

  3. ×c.  疾患の罹病期間

    病気にかかっている期間の長さは限度額の決定条件ではない。ただし、直近12か月以内にすでに3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目からは限度額がさらに引き下げられる「多数回該当」の仕組みがある。これは高額な負担が続いた回数に基づくものであり、罹病期間そのものによって限度額が決まるわけではない。

  4. ×d.  受診医療機関の規模

    大学病院などの大病院でも診療所でも、限度額は同じである。なお、紹介状なしで一定規模以上の病院を受診した場合の選定療養費(特別の料金)は保険外の負担であり、高額療養費の対象にならないが、これは限度額そのものを規定する条件ではない。

  5. ○e.  患者世帯の標準報酬月額

    標準報酬月額は、被用者保険において社会保険料の計算のために、実際の報酬月額を一定の幅で区切った等級に当てはめて定める金額であり、所得水準の指標となる。高額療養費の自己負担限度額は、この標準報酬月額(国民健康保険では世帯の所得)によって所得区分が分けられ、所得が高い区分ほど限度額が高く設定される(応能負担)。例えば70歳未満では、標準報酬月額28万〜50万円の区分の限度額は「80,100円+(総医療費−267,000円)×1%」である。年齢とともに限度額を規定する主要な条件である。

70歳未満の自己負担限度額(月額)

・標準報酬月額83万円以上:252,600円+(総医療費−842,000円)×1% ・標準報酬月額53万〜79万円:167,400円+(総医療費−558,000円)×1% ・標準報酬月額28万〜50万円:80,100円+(総医療費−267,000円)×1% ・標準報酬月額26万円以下:57,600円 ・住民税非課税世帯:35,400円

70歳以上の自己負担限度額の概要

・現役並み所得者は、70歳未満の上位3区分と同じ計算式(標準報酬月額による区分)。 ・一般所得者は、外来(個人ごと)18,000円(年間上限144,000円)、外来+入院(世帯ごと)57,600円。 ・住民税非課税世帯などの低所得者は、外来8,000円、世帯ごとの上限はさらに低く設定されている。 70歳以上では外来のみの個人単位の上限が設けられている点が70歳未満との大きな違いである。75歳以上は後期高齢者医療制度に加入するが、限度額の考え方は70〜74歳と同様である。

関連する仕組み

・世帯合算:同じ医療保険に加入する同一世帯の自己負担を合算できる(70歳未満では1件あたり21,000円以上の自己負担のみ合算対象)。 ・多数回該当:直近12か月で3回以上支給を受けた場合、4回目から限度額が引き下げられる。 ・限度額適用認定証(またはマイナ保険証による情報提供):事前に提示すれば、窓口での支払いが最初から限度額までにとどまる(現物給付化)。 ・高額医療・高額介護合算療養費制度:1年間の医療保険と介護保険の自己負担の合計が高額になった場合に、さらに負担を軽減する制度。 ・対象外の費用:入院時の食事・生活療養の自己負担、差額ベッド代、先進医療の技術料、選定療養費などの保険外負担。

標準報酬月額とは

被用者保険で、毎月の給与などの報酬を一定の幅で区分した等級に当てはめて決める金額である。健康保険料や厚生年金保険料の算定基準となり、高額療養費では所得区分の判定に用いられる。

POINT

・高額療養費制度の自己負担限度額は「年齢(70歳未満か以上か)」と「所得(標準報酬月額など)」で決まる。 ・疾患の種類、治療の種類、罹病期間、受診医療機関の規模は限度額を規定しない。 ・暦月単位で計算し、所得が高いほど限度額が高い(上位区分は医療費総額の1%加算あり)。 ・多数回該当、世帯合算、限度額適用認定証などの負担軽減策がある。 ・例外として、血友病・人工透析を要する慢性腎不全・血液製剤由来のHIV感染症は特定疾病の特例で上限が原則月1万円。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。