StudyMed医師国家試験

年を重ねた腎臓は「薄い尿」で語る―腎老化の全体像と高齢者診療の落とし穴

第116回医師国家試験 B問題 第8問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第8問

加齢に伴う変化について正しいのはどれか。

  1. a.腎血流量増加
  2. b.尿濃縮力低下
  3. c.糸球体ろ過値上昇
  4. d.硬化糸球体数減少
  5. e.機能ネフロン数増加

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、加齢によって腎臓がどう変わるかを問う問題だ。個々の数値を丸暗記するより、「老化とは予備能が減っていく方向の変化」という大原則から考えると、選択肢はすっきり整理できるよ。まず、年をとると腎臓の血管には何が起きると思う?
医学生医学生
全身の動脈硬化と同じように、腎臓の血管も硬く狭くなるのでしょうか。
ドクタードクター
その通り。腎動脈から糸球体の輸入細動脈に至るまで、動脈硬化や細動脈の硝子化が進んで血管抵抗が上がる。その結果、腎血流量は減っていくんだ。だから腎血流量が増えるという選択肢は逆向きだね。
医学生医学生
血流が減ると、その先の糸球体はどうなるんですか。
ドクタードクター
血流の乏しくなった糸球体は虚血で硬化・硝子化して、働かなくなる。つまり硬化糸球体は年齢とともに増える。減るという選択肢は誤りだ。
医学生医学生
病理実習で高齢の方の剖検腎を見たとき、硝子化した糸球体がぽつぽつ混じっていたのを思い出しました。あれは病気というより年齢相応の変化だったんですね。
ドクタードクター
いい観察だったね。高血圧が加わるとさらに目立つ。そして硬化した糸球体に属するネフロンは失われる。ネフロンは生まれた後に新しく作られないから、機能ネフロン数は減る一方なんだ。
医学生医学生
ネフロンが減って血流も減るなら、糸球体ろ過値も下がりますよね。上昇はありえない、と。
ドクタードクター
そう。GFRは中年期以降、おおむね年に1 mL/分/1.73m²程度のペースで低下するとされる。残ったネフロンは1個あたりのろ過量を増やして代償しようとするけれど、その過剰ろ過がさらなる糸球体障害につながりうる。
医学生医学生
そうすると、残る尿濃縮力低下が正解ですね。でも、尿細管の機能まで落ちるのは少し意外でした。
ドクタードクター
尿を濃くするには、ヘンレループで溶質を再吸収して髄質に浸透圧勾配を作り、集合管がADH、つまりバソプレシンに反応して水を再吸収する必要がある。高齢者ではこの勾配が維持しにくくなるうえ、ADHへの反応も鈍くなる。だから最大尿濃縮能が下がって、薄い尿が多く出やすくなるんだ。
医学生医学生
臨床実習で老年内科を回ったとき、夜間頻尿で何度も起きる患者さんが多かったのですが、それとも関係しますか。
ドクタードクター
関係するよ。尿濃縮力低下は夜間多尿の一因で、夜間頻尿、睡眠障害、さらには夜中にトイレへ向かう途中の転倒にもつながる。しかも高齢者は口渇感も鈍くなるから、水分摂取が足りないと脱水に陥りやすい。
医学生医学生
つまり、選択肢のうち加齢の方向に合っているのは尿濃縮力低下だけで、ほかは全部「若返る方向」に書かれているということですね。
ドクタードクター
その整理で完璧だ。では臨床での注意点。高齢者は筋肉量が少ないから、血清クレアチニンが見かけ上正常範囲でも、実際にはGFRがかなり落ちていることがある。
医学生医学生
CBTの勉強でクレアチニンは筋肉量に左右されると習いました。だからeGFRやクレアチニンクリアランスで評価するんですね。
ドクタードクター
そう。特にアミノグリコシド系抗菌薬やジゴキシン、多くのDOACのような腎排泄型の薬剤は血中濃度が上がりやすいから、投与量の調節が欠かせない。NSAIDsや造影剤による急性腎障害も起こしやすい。加えて、ナトリウム保持能や酸排泄能、レニン・アルドステロン分泌も落ちるので、低Na血症や高Na血症、高K血症といった電解質異常にも注意が必要だ。
医学生医学生
見た目の数値が正常でも、予備能はぎりぎりだと思って診る必要があるわけですね。
ドクタードクター
まさにそれが高齢者診療の基本姿勢だよ。ちなみに老化では多くの臓器が萎縮して重量が減るけれど、心臓や前立腺は例外的に加齢で重くなることが多い、というのも合わせて覚えておくといい。

まとめ

加齢に伴い腎臓では動脈硬化や細動脈の硝子化によって腎血流量が減少し、虚血に陥った糸球体が硬化して機能ネフロン数が減るため、GFRは年々低下します。尿細管機能も衰え、髄質の浸透圧勾配の維持やADHへの反応性が低下することで尿濃縮力が下がり、夜間多尿・夜間頻尿や、口渇感の低下と相まった脱水の原因となります。高齢者は筋肉量が少なく血清クレアチニンが腎機能低下を過小評価しやすいため、eGFRやクレアチニンクリアランスで評価し、腎排泄型薬剤の投与量を調節することが重要です。「老化は予備能が低下する方向の変化」という原則を押さえておけば、腎臓に限らず加齢変化の問題を論理的に解くことができ、安全な高齢者診療にも直結します。

解答・解説

正解はbです

加齢に伴う腎臓の変化(腎老化)を問う問題である。 加齢とともに全身の動脈・細動脈には硬化性変化が進み、腎臓では腎動脈から糸球体輸入細動脈に至る血管の内腔が狭くなる。その結果、腎血流量が減り、血流の乏しくなった領域の糸球体は虚血によって硬化・硝子化して働かなくなる。こうして硬化糸球体が増え、機能するネフロンの数が減るため、糸球体ろ過量(GFR)は低下する。腎臓自体も皮質を中心に萎縮し、重量が減少する。 残ったネフロンでも尿細管の機能が衰え、特に尿を濃縮する能力(髄質の浸透圧勾配の形成能や、抗利尿ホルモン〈ADH、バソプレシン〉に対する集合管の反応性)が低下する。 選択肢を見ると、腎血流量・GFR・機能ネフロン数の「増加」や、硬化糸球体数の「減少」は、いずれも腎機能が若返る方向の変化であり、加齢の実際とは逆である。老化に伴う臓器の変化は、基本的に予備能の低下・機能低下の方向に働くと考えれば判断は容易である。

選択肢考察

  1. ×a.  腎血流量増加

    加齢により腎動脈や腎内の小動脈・細動脈に動脈硬化や細動脈硬化(硝子化)が生じ、血管抵抗が増大するため、腎血流量は減少する。心拍出量の低下傾向も腎血流の減少に寄与する。腎血流量の減少は皮質で目立つ。

  2. ○b.  尿濃縮力低下

    高齢者では、ネフロン数の減少に加えて尿細管機能が衰え、ヘンレループでの溶質再吸収によって作られる髄質の浸透圧勾配が維持しにくくなるうえ、ADHに対する集合管の反応も鈍くなる。そのため最大尿濃縮能が低下し、薄い尿が多く出やすくなる。これは夜間多尿・夜間頻尿の一因となり、睡眠の妨げにもなる。また口渇感も加齢で鈍くなるため、水分摂取不足が重なると脱水に陥りやすい。

  3. ×c.  糸球体ろ過値上昇

    機能する糸球体の数の減少と腎血流量の減少により、GFRは加齢とともに低下する。中年期以降、おおむね年に約1 mL/分/1.73m²のペースで低下するとされる。高齢者では筋肉量が少ないため血清クレアチニン値が見かけ上正常範囲にとどまることがあり、GFRの低下を見逃さないようeGFRやクレアチニンクリアランスで評価し、腎排泄性の薬剤は投与量を調節する必要がある。

  4. ×d.  硬化糸球体数減少

    加齢や高血圧に伴う動脈硬化性の変化により、灌流の乏しくなった糸球体が硬化・硝子化し、間質の線維化や尿細管の萎縮も進む(腎硬化)。そのため硬化糸球体の数は加齢とともに増加する。

  5. ×e.  機能ネフロン数増加

    ネフロンは出生後に新たに作られることがなく、硬化糸球体が増えると、それに属するネフロンは失われる。さらに残存ネフロンも機能が低下するため、有効に働くネフロンの数は加齢とともに減少する。残ったネフロンは1個あたりのろ過量を増やして代償しようとする(過剰ろ過)が、これがさらなる糸球体障害につながりうる。

腎老化の主な変化

・形態:腎重量・皮質の厚さの減少、硬化糸球体の増加、間質線維化、尿細管萎縮、細動脈の硝子化 ・血流:腎血流量の減少 ・糸球体機能:GFRの低下、機能ネフロン数の減少 ・尿細管機能:尿濃縮能・希釈能の低下、ナトリウム保持能の低下(減塩時に尿中Na排泄を十分に減らせない)、酸排泄能の低下 ・内分泌:レニン・アルドステロン分泌の低下、活性型ビタミンD産生の低下、エリスロポエチン反応の低下傾向

臨床的な意味

・脱水や電解質異常(低Na血症・高Na血症、高K血症)を起こしやすい。 ・夜間多尿により夜間頻尿・睡眠障害・夜間の転倒の危険が増える。 ・腎排泄型薬剤(例:アミノグリコシド系抗菌薬、ジゴキシン、多くのDOAC〈直接経口抗凝固薬〉など)の血中濃度が上がりやすく、投与量調節が必要となる。 ・NSAIDsや造影剤などによる急性腎障害を起こしやすい。

老化一般の考え方

加齢による臓器変化は、多くの臓器で実質細胞の減少による萎縮(重量の減少)と予備能の低下としてあらわれる。心臓や前立腺は例外的に加齢で重量が増えることが多い。機能低下が特に目立つ臓器として腎臓と肺が挙げられる。

POINT

・加齢で腎血流量、GFR、機能ネフロン数、尿濃縮力はいずれも低下し、硬化糸球体は増加する。 ・尿濃縮力の低下は夜間多尿・夜間頻尿や脱水の原因となる。 ・高齢者は筋肉量が少なく血清クレアチニンが腎機能低下を過小評価しやすいため、薬剤投与量の調節に注意する。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。