StudyMed医師国家試験

初期に山を迎えるただ一つのホルモン―hCGと黄体‐胎盤シフト

第116回医師国家試験 B問題 第7問

国試問題にチャレンジ

第116回 B問題 第7問

妊娠後期に比べ妊娠初期に高値を示すのはどれか。

  1. a.エストロゲン
  2. b.プロラクチン
  3. c.プロゲステロン
  4. d.ヒト胎盤性ラクトーゲン〈hPL〉
  5. e.ヒト絨毛性ゴナドトロピン〈hCG〉

対話形式の解説

ドクタードクター
今回は、妊娠中のホルモンの推移を問う問題だ。整理のコツは「妊娠が進むにつれて増え続けるもの」と「妊娠初期にピークを迎えて下がるもの」の2グループに分けること。その違いを生む背景として、黄体から胎盤への役割交代を理解しておくと忘れにくいよ。
医学生医学生
妊娠中はどのホルモンもとにかく増えているイメージで、正直ピンときていません。
ドクタードクター
多くのホルモンは確かに増え続ける。でも一つだけ例外がある。それを理解するために、妊娠初期に何が起きているかを順に考えよう。受精卵が着床すると、まず何が妊娠を支えると思う?
医学生医学生
卵巣の黄体がプロゲステロンを出して子宮内膜を維持する、と生理学で習いました。
ドクタードクター
その通り。ただ、本来の月経周期なら黄体は2週間ほどで退縮してしまう。それを防いでいるのが、絨毛の合胞体栄養膜細胞が分泌するhCGなんだ。hCGはLHとα鎖が共通で、LH受容体を介して妊娠黄体を刺激し続け、プロゲステロンとエストロゲンの分泌を保たせる。
医学生医学生
hCGは黄体の延命係ということですね。でも、胎盤ができてきたらどうなるんですか。
ドクタードクター
いい質問だ。妊娠7〜9週ごろになると、ステロイドホルモンを作る主役が黄体から胎盤へ移る。これを黄体‐胎盤シフトと呼ぶ。胎盤が自前で十分なホルモンを作れるようになると、黄体を刺激する役割のhCGは必要性が下がり、妊娠8〜12週ごろのピークを過ぎると低下して、中期以降は低いレベルでほぼ一定になる。
医学生医学生
だから妊娠後期より初期に高いのはhCGなんですね。妊娠反応の検査もhCGを見ていると産婦人科の講義で聞きました。
ドクタードクター
そう、市販の妊娠検査薬も尿中hCGを検出していて、妊娠4週ごろから陽性になる。では、ほかのホルモンも確認しておこう。エストロゲンはどうかな。
医学生医学生
黄体から胎盤に移ったあとも作られ続けるので、増えていく側でしょうか。
ドクタードクター
正解。妊娠中のエストロゲン、特にエストリオールは、胎児副腎で作られるDHEA-Sを材料に胎盤で合成される。胎児と胎盤が協同するので胎児胎盤系と呼ばれ、妊娠末期に最大となる。プロゲステロンも同様で、初期は黄体、シフト後は胎盤が産生し、胎盤の増大とともに末期まで上昇し続ける。子宮筋の収縮を抑えて妊娠を維持する役割があるね。
医学生医学生
hPLは名前に胎盤と入っているので、胎盤が大きくなるほど増えそうです。
ドクタードクター
その推論で合っている。hPLは胎盤重量に比例して妊娠末期まで上昇する。母体のインスリン抵抗性を高めて、胎児へブドウ糖を優先的に回す方向に働くから、妊娠糖尿病の背景の一つにもなっているんだ。
医学生医学生
プロラクチンは産後に母乳を出すホルモンなので、妊娠中はまだ低いのかと思っていました。
ドクタードクター
そこは引っかかりやすいところだね。実は高濃度のエストロゲンが下垂体のプロラクチン産生細胞を刺激するので、プロラクチンは妊娠経過とともに上昇し、末期には非妊時の10倍前後にもなる。それでも妊娠中に乳汁が出ないのは、高エストロゲン・高プロゲステロンが乳汁分泌を抑えているから。分娩で胎盤が出てこれらが急減すると、乳汁分泌が始まるんだ。
医学生医学生
つまり、hCG以外の4つは胎盤の成長や高エストロゲン状態とともに増え続けて、末期にピークを迎えるわけですね。
ドクタードクター
その理解で完璧だ。最後に臨床的な話をしておこう。hCGが異常に高い、あるいは下がらない場合は、多胎妊娠や胞状奇胎、絨毛癌などの絨毛性疾患を考える。胞状奇胎の除去後は、hCGの推移を追って侵入奇胎や絨毛癌の続発を監視するんだ。
医学生医学生
hCGはTSHとも構造が似ていると聞いたことがあります。
ドクタードクター
よく知っているね。hCGはTSHともα鎖が共通なので、hCGがピークになる妊娠初期には甲状腺が刺激され、一時的にFT4が上がりTSHが下がることがある。妊娠性一過性甲状腺機能亢進症と呼ばれ、つわりの強い時期と重なることも多い。Basedow病との区別が問題になるから、hCGの推移と結びつけて覚えておくと臨床でも役立つよ。

まとめ

妊娠中のホルモンは、妊娠初期にピークを迎えて低下するhCGと、妊娠末期に向かって増え続けるエストロゲン・プロゲステロン・hPL・プロラクチンに分けて整理できます。hCGは絨毛から分泌され妊娠黄体を維持しますが、妊娠7〜9週ごろの黄体‐胎盤シフトで胎盤がホルモン産生の主役になると需要が減り、妊娠8〜12週ごろのピーク後は低下します。一方、エストロゲンやプロゲステロン、hPLは胎盤の発育に伴って増加し、プロラクチンも高エストロゲン状態により上昇しますが、乳汁分泌は分娩後に始まります。hCGは妊娠反応の原理であり、絨毛性疾患の診断・経過観察や妊娠初期の一過性甲状腺機能亢進症とも関連します。ホルモンの推移を「誰が作り、何のために必要か」から理解することは、妊娠の生理と産科疾患を学ぶうえでの土台となります。

解答・解説

正解はeです

妊娠中のホルモン動態は「妊娠の進行とともに増え続けるもの」と「妊娠初期にピークを迎えて以後低下するもの」に分けて整理するとよい。 妊娠初期には、受精卵由来の絨毛(トロホブラスト)が分泌するヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)が卵巣の妊娠黄体を刺激し、黄体からのプロゲステロン・エストロゲン分泌を維持させて妊娠を支える。妊娠7〜9週ごろを境に、ステロイドホルモン産生の主役は黄体から胎盤へ移る(黄体−胎盤シフト、luteo-placental shift)。胎盤が自前で十分なホルモンを作れるようになると、黄体を刺激する役割を担うhCGの需要は減り、血中濃度は妊娠8〜12週ごろのピークを過ぎると低下する。 一方、エストロゲン、プロゲステロン、ヒト胎盤性ラクトーゲン(hPL)は胎盤の発育(重量の増大)に比例して増加し、プロラクチンもエストロゲンの作用などにより妊娠経過とともに上昇する。これらはいずれも妊娠末期に最も高値となるため、妊娠後期より初期に高いものはhCGだけである。

選択肢考察

  1. ×a.  エストロゲン

    妊娠中のエストロゲンは、胎児副腎・胎児肝臓と胎盤が協同して合成する(胎児胎盤系、feto-placental unit)。特にエストリオール(E3)が大量に産生され、妊娠週数とともに増加して妊娠末期に最大となり、分娩で胎盤が娩出されると急速に低下する。妊娠初期のほうが高いということはない。

  2. ×b.  プロラクチン

    妊娠中は高濃度のエストロゲンが下垂体前葉のプロラクチン産生細胞を増殖・刺激するため、血中プロラクチンは妊娠の進行とともに上昇し、妊娠末期には非妊時の10倍前後に達する。また脱落膜化した子宮内膜もプロラクチンを産生し、羊水中のプロラクチンの主な供給源となる。妊娠中は高エストロゲン・高プロゲステロンが乳汁分泌を抑えているが、分娩後これらが急減すると乳汁分泌が始まる。分娩後、授乳しなければプロラクチンは非妊時レベルへ低下し、授乳中は吸啜刺激のたびに分泌が増える。

  3. ×c.  プロゲステロン

    妊娠初期は妊娠黄体が、妊娠7〜9週以降は胎盤(合胞体栄養膜細胞)が主な産生源となる。胎盤の増大に伴い血中濃度は妊娠末期まで上昇し続け、胎盤娩出後に急速に低下する。子宮筋の収縮を抑えて妊娠を維持する役割をもつ。

  4. ×d.  ヒト胎盤性ラクトーゲン〈hPL〉

    合胞体栄養膜細胞から分泌されるペプチドホルモンで、妊娠6〜8週ごろから血中に検出されるようになり、胎盤重量の増加に比例して妊娠末期まで上昇し続ける。分娩後は半減期が短いため速やかに消失する。母体のインスリン抵抗性を高め、脂肪分解を促進することで胎児へブドウ糖を優先的に供給する方向に働き、妊娠糖尿病の発症にも関与する。かつては胎盤機能の指標として測定された。

  5. ○e.  ヒト絨毛性ゴナドトロピン〈hCG〉

    合胞体栄養膜細胞が産生する糖蛋白ホルモンで、LHと共通のα鎖と特異的なβ鎖からなり、LH受容体を介して妊娠黄体を刺激し続ける。着床直後から急速に上昇して妊娠8〜12週ごろ(10週前後)にピークに達し、その後は低下して、妊娠20週ごろ以降は分娩まで低いレベルでほぼ一定に保たれる。したがって妊娠後期より初期のほうが明らかに高値であり、本問の条件に合うのはhCGである。

妊娠中の主なホルモン動態のまとめ

・hCG:妊娠8〜12週にピーク、以後低下し中期以降は低値で一定。妊娠反応(尿中hCG検出)の原理であり、妊娠4週ごろから陽性となる。 ・エストロゲン(特にエストリオール):妊娠末期まで増加。胎児副腎で作られるDHEA-S(デヒドロエピアンドロステロン硫酸)を材料に胎盤で合成されるため、胎児の状態も反映する。 ・プロゲステロン:妊娠末期まで増加。初期は黄体、7〜9週以降は胎盤が主産生源。 ・hPL:妊娠末期まで増加。胎盤重量と相関する。 ・プロラクチン:妊娠末期まで増加。

黄体−胎盤シフト

妊娠7〜9週ごろにプロゲステロン産生の主体が黄体から胎盤へ移行する。この時期より前に黄体が失われるとプロゲステロンが不足して流産に至りうるが、移行後は黄体が除去されても妊娠は維持される。

hCGが異常高値・持続を示す病態

多胎妊娠、胞状奇胎、絨毛癌などの絨毛性疾患ではhCGが高値となる。胞状奇胎除去後のhCG値の推移は、侵入奇胎や絨毛癌の続発を監視する指標として用いられる。またhCGはTSHとα鎖が共通で構造が似ているため、hCGが高い妊娠初期には甲状腺が刺激されて一過性にFT4が上昇しTSHが低下することがある(妊娠性一過性甲状腺機能亢進症)。

POINT

・妊娠初期にピークを迎えて低下するホルモンはhCG(妊娠8〜12週頃がピーク)。 ・エストロゲン、プロゲステロン、hPL、プロラクチンは妊娠末期に向かって増加し続ける。 ・妊娠7〜9週頃に黄体から胎盤へホルモン産生の主体が移る(黄体−胎盤シフト)。

※問題・正答は厚生労働省の公開資料をもとに掲載しています。